天使の日としほはる

「ねーねー、志歩ちゃん!天使って見たことある?」
「…。…なんて??」
わくわくしたえむ…ニ年生になって同じクラスになった…が突然にそんなことを聞いてきて志歩は思わず面食らってしまった。
何だってまた急に。
「あ、アタシも聞きたーい!」
「…咲希まで」
はいはぁい!と元気に手を挙げる幼馴染兼バンドメンバーの咲希に志歩は少し眉をひそめる。
咲希が楽しそうなことに全力で乗っかってくるのはいつものことだけれど…何か事情がありそうな気がした。
「天使は物語の中だけの存在でしょ」
「えー、そんなことないよっ!天使さんは外国ではすっごくふつーなんだよ??」
「うんうん!日本で言う座敷わらし?と同じだってお兄ちゃんも言ってたし!」
「はいはい。…それで、なんで天使なわけ?」
力説する二人にそう返せば、えむがあのね!と訳を話しだした。
どうやら毎年行っている天使の日限定ショーが好評で、今年も行う予定らしい。
去年は悪魔と天使のショー、一昨年は魔法使いと天使のショー、そしてその前は天使の日合わせではなかったが騎士と天使のショーを行った為、今年は誰と天使のショーにしようか迷っているようだ。
その為、色々と情報収集をしているのだ、とえむは教えてくれた。
「…ああ。あのショーまたやってくれるんだ。実は楽しみにしてたんだよね」
「本当っ?!ありがとう!!…天使さんだから、妖精さんとか、お姫様とかかなぁって思ったんだけど、司くんはしっくりこないんだって!」
「えー?アタシは見てみたいけどなぁ、天使と妖精!」
「…そういうことなら、私は役に立たないと思うよ」
そう言えばきゃっきゃと元気だった咲希とえむは急にきょとんとする。
「えー?どうして?」
「どうしてなの、しほちゃん!」
そんな二人に、だって、と志歩は笑った。
「私は、天使、見たことないからね」


「…もう、お姉ちゃんったら」
ふう、と志歩はため息を吐く。
母と姉とで出かけに来ていたのだが、姉である雫が迷子になったのだ。
それは割と志歩にとっても母にとっても日常茶飯事で、探してくるから、と言った母を志歩は手を振って見送った。
それからベンチにちょこんと腰掛ける。
買ってもらったばかりの絵本を取り出して思わず笑みを浮かべた。
「…かわいいな」
嬉しくなってそれを開こうとした時である。
「…あのっ」
「…!!何」
急に声をかけられ、志歩はびっくりして絵本を隠した。
「ごっ、ごめんなさい!…しってるえほんだったからうれしくなっちゃったの」
「…!これ、しってるの?」
おどおどと目を伏せる少女に、どこかで見たかもしれない、と思ったがそれよりその発言に驚いて聞き返してしまう。
「うん!ほしのしょうじょとペンギンおうじ!てんしの女の子といっしょにたびにでるんだよ。そこにでてくるペンギンおうじがかっこうよくて…!」
ワクワクしながら話す彼女に、志歩は可愛いな、と目を細めた。
それと同時に、この子と一緒にこの本を読んだらもっと楽しいだろうなと思う。
「…ごめんね?ネタバレしちゃって…」
そんな事を思っていたら少女が申し訳なさそうに謝ってきた。
どうやら怒っていると思ったらしい。
「ううん。…ねえ、いっしょによまない?」
「…!いいの?!」
「もちろん。…おとなりどうぞ」
「…ありがとう…!…ふふ、ペンギンおうじみたいね」
僅かに、本当に僅かに笑った少女に胸が高鳴った。
それが何かも分からないままに志歩は買ってもらったばかりの絵本を開く。
彼女に感じたドキドキを、物語に向かうわくわくに、置き換えて。



話し終わり、志歩はぽかんとする二人を見る。
「だから言ったでしょ、天使は見たことな…何その顔」
「…うーうん。しほちゃんって案外ロマンチストだったなぁって」
「えへへ、わくわくにこにこわんだほいって感じだね!」
「…何それ……」
少し眉をひそめる志歩に咲希もえむも嬉しそうだ。
何だってそんな顔をしているのだか。
「…おはよう。ずいぶん楽しそうだね?」
「…桐谷さん」
くすくす笑う声にそちらを見れば遥が手を振っていた。
手には志歩が貸したノートがある。
忙しい中わざわざ返しに来てくれたようだ。
「遥ちゃん!おはようわんだほーい!!」
「おはよう!今ね今ね!しほちゃんが……」
「…桐谷さん、ちょっと来てくれる?」
「え?え??」
手を取った瞬間だった。
「王子様は小さな頃に出会った天使さんに再び出会いました。ですが、天使さんの周りには楽しいことが大好きな妖精さんがたくさんいます。天使さんにも話を聞こうとする妖精さんたちに、王子様は天使さんの手を取って逃げてしまいました」
すらすらとえむが言う。
「お、鳳さん?」
目を白黒させる遥は可哀想だが志歩だって根掘り葉掘り聞き出されるわけにはいかないのだ。
幸い足には…咲希よりは、だが……自信がある。
「あー!逃げたぞー!」
「出合え出合えー!!」
「…妖精さんだって言ったのに何で時代劇風になっちゃうの…。…ごめん、走るよ、桐谷さん!」
「え、あ、待って、日野森さん!!」
教室を出て二人、パタパタと廊下を走った。
聞こえてくる声を耳に感じながら、志歩は可笑しくなって笑う。
いつか読んだ絵本のようだな、と思った。



その後、様々な噂になるのを二人はまだ知らない。


(王子様は、笑顔が上手になった天使と共に冒険譚に想い巡らせながら穏やかな時間を過ごしたかっただけなのです!!)

しほはるワンドロワンライ・お揃い/コーディネート

「…あ」
バイト帰り、ふと見かけたセレクトショップで惹かれる服を見つけた。
ただ、自分が着るならばこれではないと思う。
自分には似合わない気もするし、それ以前に誰かが着ているのを見たい、と言ったほうが気持ち的には正しいだろうか。
誰か、というか…志歩的には…。
「あれ?日野森さん?」
よく聞き慣れた声に志歩は振り返る。
そこには首を傾げた遥がいた。
「…桐谷さん」
「こんばんは。もしかして今練習帰り?」
「今日はバイト。そっちは仕事?」
「うん。今日は雑誌の仕事だったんだ」
ニコニコと遥が笑む。
仕事は大変だと思うのだが彼女自身が楽しそうなので大丈夫なのだろう。
そこは志歩が口を出すところではない。
「ところで、こんなところで何を…?」
「えっ、あっ」
不思議そうな遥に少しだけ動揺した。
別に悪いことをしていた訳ではないのだけれど。
「?日野森さん?」
「別に何でもないよ。…ただ、この服…桐谷さんに似合いそうだなって」
そう、志歩は素直に告げた。
志歩が見ていた服はきっと遥に似合うと思ったのだ。
「え?あ、この服?」
目線の先を見た遥は、にこりと笑った。
「うん、良いね。もうすぐ新学期になるし、丁度良いから買おうかな」
「え、良いの?」
「だって日野森さんが選んでくれたし。私も好きなタイプの服だしね」
にこにこと遥が言う。
実に楽しそうで嬉しそうで…その顔を見ているだけでまあ良いかと思うのだ。
「なら折角だし全身コーディネートしてあげる。だから桐谷さんも私を全身コーディネートしてよ」
「えっ、私も?」
「嫌なら良いけど…」
びっくりしていたが、ううん、と嬉しそうに笑った。
「日野森さんがそう言ってくれるなら、やりたいな」
「…じゃあ、宜しくね」
「任せて。…あ、お揃いっぽくするのはどうかな?」
「お揃いか…。うん、良いね」
わくわくしている遥に志歩も頷く。
咲希やみのり、雫が羨ましがりそうだと頭を過ぎったが首を振って打ち消した。
後から何か言われるのを悩むより、今この時を楽しむ方が先決だ。
「じゃあお揃いコーディネート、しようか」
「うん!ふふ、何だか嬉しいな」
遥が笑う。
それに志歩もそうだねと同意し、遥の手を取る。
「じゃ、行こうか」 
軽く微笑み、店の扉に手をかけた。

司冬ワンライ・三周年/新学年

今日から新学年だ。
何だか気分まで違ってくる気がして司は空を見る。
いや、学生生活最後の年になったのだ、気分が変わるのは当然だろう。
「…司先輩!」
と、聞こえてきた愛しい声に司は振り返った。
ふわりと微笑んだ冬弥がこちらにかけてくる。
「おお、冬弥!おはよう!今日から新学年だな!!」
「おはようございます。…俺も二年生になったのだな、と実感していたところです」
「そうだなぁ。…ふむ、冬弥も今年は先輩と呼ばれる学年になったのだな!」
「…そう、ですね」
明るく笑い掛ければ彼は若干眉を下げた。
何か困らせるようなことを言ってしまったろうか。
「どうしたんだ?」
「いえ。…皆にとって…司先輩のように良い先輩でいられるかと少し不安で…」
そんな事を言う冬弥に目を丸くしてから、冬弥は真面目だなぁと頷く。
それから、そうだな、と少し上を見た。
「冬弥なら大丈夫じゃないか?…図書委員をしている友人たちがしっかりしているからつい頼ってしまうと言っていたぞ。後輩が出来ても大丈夫だろう」
「先輩方が…。そうでしたか」
司のそれに冬弥がホッとしたように笑う。
そういえば、中学の時もそんな悩みを口にしていたか。
「冬弥の、先輩になれるかどうかの悩みも三周年だなぁ」
「三周年…。言われてみればそうですね」
くすりと冬弥が微笑む。
きっと彼も思い出したのだろう。
確かその時は冬弥には冬弥の良さがあるのだから、それを見た後輩がきちんと判断して付いてきてくれる、と言った気がする。
だが今は。
「まあ冬弥なら大丈夫だろう。冬弥にも目標が出来た。目標に向かって直向きな先輩を、後輩はきっと見ていてくれるだろうからな。…それに」
「…!」
「オレも、良い先輩、とは限らないだろう?」
綺麗な指に口付けて司は笑った。
後輩を誑かすなんて先輩としては悪い方に入るだろうが何せ司のそれは純愛だ。
それくらいは赦してほしい。
「…司先輩は、俺にとっては最高の先輩で…」


最高の恋人です、なんて言う、冬弥の声。




溶けた空は青く突き抜けていて、新学年が始まるに相応しい色を、していた。

司冬ワンライ/月夜の晩に・十五夜

そういえばそろそろ十五夜だった。
思い出したのは、お月見子供会のお知らせを近所の掲示板で見かけたからだ。
確か、小学校の体育館で団子を作ったり折り紙でうさぎを作ったりするのだっけ。
もうすぐ十五夜、月がきれいに見えるんだと楽しそうに言っていたのは誰だったろう。
「…そうだ」
ふと思いつき、司は自宅に帰る為に向けていた足をスーパーに変えた。
忘れない内にスマホを取り出し、メッセージアプリで素早く文章を打ち込んで送信する。
楽しみだと司は笑みを浮かべた。



「…すみません、遅くなってしまって…」
「大丈夫だ!…こっちこそ、急に呼び立ててしまってすまないな」
「いえ。…実は楽しみにしてきました」
ふわりと冬弥が笑う。
それに、そうか!と司も笑い返した。
あまりやった事がないことでも今年は挑戦していきたい、と言う冬弥に、司は団子づくりを提案してみたのである。
「オレも団子づくりは久しぶりだな!上手く出来るかは分からんが…まあやってみることに価値があるな」
「そうですね」
冬弥にエプロンを渡し、キッチンへと案内した。
ちなみに母には了承を得ていて…寧ろ母は司がやることには肯定的だ…何でも好きに使って良いと言われている。
「そうだ、今日はもう遅いから泊まっていくと良い」
「…しかし、それはご迷惑では…」
「なぁに、月見は満月の晩と相場が決まっているだろう?」
少し焦ったような冬弥に司は笑った。
「月見は、月が綺麗な日に行わなくてはな」
「…それは……」
「オレはな、冬弥。月が綺麗ですね、なんて当たり前の事を言いたいのではなく…ただ…そうだな、お前と見るから綺麗なのだと…そう思うんだ」
だから団子を作って共に月を見たいと言うと、冬弥は目を丸くしてふわりと笑んだ。
月並みな言葉だが…この瞬間がとても愛おしいと…司は目を細める。
月に住むうさぎのように、心が弾むのを感じた。


月夜の晩に、

いや、そうでなくても

お前と共にいたいんだ。


「…俺は、月も綺麗ですが星も綺麗だとずっと昔から知っていましたよ」

しほはるワンドロワンライ、絆/思い出を重ねて

こんにちは!と言ったのはよく知っているようで良く知らない【存在】。
「…え、え?初音ミク??」
「うん!!そうだよ。私は初音ミク!」
にこ、と笑う彼女は確かによく知った存在ではあったけれど、志歩はよく知らなかった。
…一歌なら喜んだかも知れない、と息を吐く。
志歩たちのセカイにいるミクとは違う、一般的な初音ミク。
その彼女がにこにこと微笑んでいる。
「あっ、ごめんね?!驚かせちゃって!」
「…いや、いいよ。…それで、君は何をしに来たの?」
慌てる初音ミクに志歩は首を振って聞いた。
セカイのミクとは違う彼女がいるということは、何か重要なことがあるのだろう。
それこそ、セカイが変わるような…。
「そうそう!えっとね、キズナランクが追加されたよって教えに来たんだ!」
「…は、え、なんて??」
思い出した、と手を叩く初音ミクに志歩はぽかんとしてしまった。
何を言っているのだろうか、このバーチャルシンガー様は。
「キズナランクは仲良く歌ったり踊ったりすると増えていくんだよ。今回追加されたのはこの子で…」
ふわ、と彼女の手の中に何かが生まれる。
もうそれだけでパニックなのに、何を聞けば良いのだろうか。
「いや、ちょっとまっ…」
「これからもたくさん歌ったり踊ったりして、キズナランクを上げていってね!」
「いや、だから…っ!!」
ロクな説明がないまま初音ミクは話を終わらそうとする。
そんな理不尽があって溜まるか、と思わず手を伸ばした。
「キズナランクって何…っ?!!!」



「…日野森さん?」
「…っ…え?」
きょとりと首を傾げるのはバーチャルシンガーの初音ミクではなく、大切な恋人でもある桐谷遥だった。
どうやら夢を見ていたらしい。
「…ごめん、寝ぼけてた」
「ふふ、珍しいね」
疲れてる?と聞く遥の、青い髪が揺れる。
「そうかもね」
何の言い訳もせず、志歩は座り直した。
遥には小手先のウソは通じないと重々承知している。
だったら甘えてしまおうと開き直った。
「ねぇ、桐谷さん。眠気覚ましに一緒に歌わない?」
「…!…ふふ、いいよ」
目を丸くした彼女はふわりと笑う。
ああ、可愛いなぁと思いながら大切なベースを取り出した。
遥の柔らかな声が音に乗る。
秋風に舞う二人の歌声は、とても穏やかで愛しいそれをしていた。




こうやって、一つ一つ思い出を重ねていこう。


二人にとって、未来に於いても忘れがたく大切なものになりますように。





「…ところで日野森さん、キズナランクってなぁに?」
「…。…それは私が一番聞きたいかな……」

シンヤ誕生日

こんな月の日は思い出す


大切な人の、大切な日を




「シンヤ」
「…ケン兄」
よ、とケンヤは窓の外を見ていたシンヤに笑いかける。
夏の終わった夜、少し涼しくなった日。
…今日は、シンヤの誕生日、だ。
「誕生日おめでとう、シンヤ」
「…ありがとう」
ふわりと彼が笑う。
優しい時間だ。
ケンヤにとっても…シンヤにとっても。
「プレゼントは朝にな」
言いながらシンヤのおでこにキスを落とす。
くすぐったそうに目を細めた彼は不思議そうな顔をした。
「んっ…。別に良いけど…。…なんで?」
「…アンヤが怒るだろ……」
きょとりと首を傾げるシンヤに言い訳がましくそう言う。
途端に目を丸くしてからクスクスと笑った。
「ならこんな秘密ごっこやめたら良いのに」
揺れる肩をぐいと引き寄せる。
わ、という彼の小さな声が届いた。
「それは、出来ねぇな」
「…。…どうして?」
あっさりと告げるケンヤに、シンヤは小さく微笑みながら聞いてくる。
分かっているくせに、とケンヤは笑った。
どうも最近意地悪なところがケンヤに似てきている気がする。
そんなところ、似なくて良かったのになぁ、なんて思いながら、ケンヤは彼の綺麗な瞳にとびきりの笑みを向けた。
きっと、彼が大好きだと自負する笑顔を。
「特権だからに決まってるだろ」
そう言って、そっとキスをする。
シンヤが、愛しい弟が、そうして…愛する彼が、いつまでも幸せでいられますように、と。
「…知らないよ、アンヤに怒られても」
「同罪だろ?一緒に怒られてくれよ」
「嫌。俺、お誕生日様だし」
「なんだそれ」
ふは、と笑えばシンヤも小さく笑う。
深夜の風に乗り、星の瞬きのように響き溶けていった。



「愛してるよ、シンヤ」
「…俺もだよ、ケン兄」


(夜がふける


騒がしい朝はもうすぐ)

しほはるワンドロワンライ・夏の終わり/始業式

夏の終わり、ふと彼女に会いたくなった。


「…桐谷さん」
「!日野森さん!」
軽く手を上げる志歩を見止めた遥が嬉しそうに微笑んで駆け寄ってくる。
「急にメッセージ送ってごめん、大丈夫だった?」
「うん、平気だよ。明日から学校だから、早めに配信も切り上げたの」
「そっか、なら良かった」
ふわりと笑う彼女に志歩もホッとした。
せっかく夢に向かって頑張っているのに、邪魔をしたくない。
「ふふ。でも日野森さんが誘ってくれるの珍しいね。何かあった?」
「…何か、ではないんだけど…」
首を傾げる遥。
キレイな髪が揺れて、夕日に光った。
「…強いて言えば…そうだな」
そんな彼女を見て目を細めながら志歩は言う。
遥に遠回りな言葉を伝えるのは無意味だ。
隠した言葉は伝わらない、ということを志歩はよく知っていたから。
「…桐谷さんに、会いたくなったんだ」
「…!!」
素直な気持ちを伝えれば彼女は目を丸くさせる。
それから楽しそうに笑った。
「明日は始業式なのに」
「だからこそでしょ。…二人きりでゆっくり話せるのは今日しかないかもしれないし」
「…そうだね」
微笑む遥に、志歩は手を伸ばす。
夏の、最後のデートに誘うために。


風が吹く。

夏が、終わりに近づいていた。



(明日は始業式!)

ミクルカ ミク誕生日

こんばんはー、初音ミクです☆
実は今日、私は16回目の16歳のお誕生日様なんだよねー!
今年は特別な年だからってすっごぉく忙しかったんだけど、当日はレンくんの計らいで(巻き込ミクルカされなくないって言ってた。しつれーしちゃう!)ルカちゃんと過ごしてるんだ!
私の先天性男体亜種、初音ミクオくんもお兄ちゃんことKAITO型の先天性女体亜種KAIKOちゃんと二人っきりでデートだし。
どうも、今年はプレゼントより思い出が良いってゴネたらしい…あんまりバラすとあとが怖いからやめよ。
そんなこんなで私はルカちゃんの膝枕で、ルカちゃんが入れてくれた紅茶を飲んでるんだけど…。
「?どうかされましたか?ミク姉様」
「ううんー、なんだか平和だなぁって思って!!」
首を傾げるルカちゃんに、私はにこっと笑ってみせる。
ここ最近の忙しさに比べたら、随分とのんびりしていた。
まあこれが、普通なんだけど…16歳の誕生日なんだよね……16回目の。
なんかちょっと変な感じ。
「…ミクさぁ、16回目の16歳なんだよねー…?足したら32だよ??ルカちゃんより年上になっちゃうよ?」
「…そんなことを言えば私は20歳に稼働年の14を足すのでまだ少しお姉さんですが…。それより、歳の話をしたらメイコ姉様に怒られてしまいますわよ…?」
「よしっ、この話やめよっか!!」
くすくす笑うルカちゃんに、私は言う。
せっかくの誕生日にお姉ちゃんの怒りを買うことないもんね!!
「それに、16歳が16回目だとしても、この年は1回きりで、特別ですわ」
「……!!」
「ミク姉様には、1年1年を幸せで生きてほしいと、そう思っていますのよ?」
ルカちゃんが笑う。
私の大好きな微笑みを浮かべて。
「確かに、私は年上の設定で稼働年はミク姉様より短いですが…妹として、後輩として…そして、その、恋人としても、ミク姉様には幸福でいてほしいんです」
「ルカちゃん…」
微笑むルカちゃんが眩しくて。
嗚呼、なんて素敵な誕生日なんだろう!!
「私が幸福でいるために、隣でずっと一緒に歌ってくれる?」
「勿論。いままでも、このときも、そして…これからも――ずっと」
ピンクの綺麗な髪に口付ける私に、ルカちゃんが優しく笑んだ。
それだけで、最高の誕生日だ、なんて思いながらルカちゃんを引き寄せる。


年齢なんて関係ない。




私が一番好きな貴女が隣で歌を共に紡いでくれるだけで、私は最高に幸せ!

しほはるワンドロワンライ/もしものセカイ・祈り

「…っ、遥!」
「あ、志歩!おかえ…っ」
明るく笑う水の歌姫、遥に志歩は大きく息を吐いてから抱きしめた。
「…わっ」
「…外で歌うのはやめて。…何度も言ってるのに」
「…うん」
志歩のそれに腕の中で小さく笑う彼女の声。
少し離して、本当にわかってる?と志歩は改めて問うた。
「遥は水の歌姫なんだからね?…この国の、切り札でもあるし…」
「…。…大丈夫、ちゃんとわかってるよ、志歩」
遥が少し悲しそうな顔で笑う。
そんな顔をしてほしいわけではないのにな、と思った。
平和だったこの国で、外で歌を歌えなくなったのは、隣国との戦争のせいだ。
誰が始めたかなんて知らない。
志歩には何の興味もなかったが、遥が危険に晒されるなら話は別だった。
彼女は、志歩が守護をする歌姫なのだから。
「…でも、皆に会えないのは辛いな」
「…遥」 
「あっ、ちゃんと、分かってるよ!私達が一同に会せば切り札である歌姫たちが一気にやられてしまうリスクが高くなる。それは…理解してるの」
遥が慌てて言う。
だからこそ、なのだろう。
彼女が、危険を犯してまで外で歌を歌うのは。
かつての仲間たちに届いてほしいのだと…。
「…。…大丈夫。遥の気持ちは理解してる。…だから、今は我慢してほしい」
「…志歩」
「平和になったら、いつだって歌えるでしょ。…私は遥のために、この国の平和のために引き金を引くよ」
志歩は抱きしめる。
大切な、歌姫を。
彼女を喪うなんて考えられない。
お願い、と乞うそれは祈りにも似ていた。

「だから、私のためにどうか……」




「…さん、日野森さん!」
「…。…桐谷、さん?」
呼びかけに目を開けると彼女はホッとした表情をしていた。
「大丈夫?日野森さん。なんだか魘されてたから」
「…。そう、なんだ。大丈夫だよ、ありがとう」
そう言ってふとスマホを見る。
少し目を瞑っただけのつもりが軽く仮眠を取ってしまったようだ。
「…もしかして、寝れてない?」
「…そんな事ないけど…」
心配そうな遥に苦笑しながら、先程の夢はどんな夢だっけ、と思いを馳せた。
あまり良い夢ではなかった気がするのだけれど。
「…えいっ」
「うわっ、桐谷さん?!」
と、彼女が急に抱きついてくる。
驚いたがその体温は心地良かった。
「どうしたの、急に…」
「…ハグは、気持ちが落ち着くって聞いたことがあるの」
「…!」
遥のそれに、目を見開き、思わず笑ってしまう。
「え、えっと…日野森さん?」
「…ううん、大丈夫だよ。ありがとう、桐谷さん。少し、楽になったから」
「…そっか、なら良かった」
ふわふわと笑う彼女をもっと、と引き寄せた。
夢で見た二人が叶わなかった…セカイ。
今はちゃんと平和だよ、なんて思ってみたりして。


穏やかな祈りが届いたセカイを、貴女と。



「…そろそろ行かないと、平和じゃなくなっちゃうかな」
「…?何の話?」
「ううん。…こっちの話」

ケン兄バースデー

夏が来れば思い出す

あの、温かく柔らかな彼の味を



「…ケン兄」
「?どした、シンヤ」
ひょこりと顔を出した弟に、ケンヤは首を傾げる。
もうとっくに寝ていても良い時間なのに、彼は何故か黒いエプロンをしていたからだ。
「今良い?」
「おう。可愛い弟の頼みなら、何でもするぜ?」
「…いや、何もしなくて良いんだけど…」
くすくすとシンヤは笑う。
何だかとても楽しそうだ。
それだけでもなんだか嬉しくて、ケンヤはシンヤが向かった方に足を向ける。
何だか良い匂いが、した。
「…って、ラーメン?」
「あ、もう来ちゃったの」
「今良い?って聞いたのはシンヤだろー。で?なんでラーメン?」
笑いながら椅子を引いて座る。
冷たい麦茶を出してくれた可愛い弟は、だって、と微笑んだ。
「今日はケン兄の誕生日だし」
シンヤの言葉に、そういえばそうだった、とケンヤは思い出す。
流石に誕生日を楽しみにする年齢はとうに超えてしまった。
だとしても、祝ってもらえるのは素直に嬉しい。
「誕生日おめでとう、ケン兄」
「…ありがとな、シンヤ」
彼の言葉に、ケンヤはニッと笑ってみせた。
シンヤが一番に祝ってくれる、その事実が嬉しくて。
「…なあ、作るトコ見てて良いか?」
「いいけど…そんな面白いものでもないよ」
「いんだよ」
不思議そうなシンヤにケンヤはそう言って目を閉じる。
静かな夜にラーメンを作る、柔らかな音は。
何だかバースデーソングのようにも思えた。


(この幸せが、何年でも続きますように)


「ケン兄、チャーシュー何枚にする?」
「え、チャーシューあんの?」
「あるよ、作ったし」
「チャーシュー作れんの?!シンヤが?!!」
「…何歳だと思ってんの…。…作れるよ、ケン兄が好きなものだし」