|
司冬ワンライ・魂のつながり/最高潮
毎回妙な場所に飛ばされ、歌を披露しているな、とは思っていた。 何故だか今日に限って初音ミクも誰もいないが、まあそんなものは誤差の範囲なのだろう。 セカイとはまた違う空間、その中で。 「…ふむ」 司は少し考えた後に、すぅ、と息を吸った。 セカイで生まれた歌を歌えば誰かが来るだろうと踏んだのだが、誰も現れない。 ならば想いが違う、ということだろうか。 少し座って触れてみれば何だか暖かい気がした。 その感覚はもっともっと昔、司が幼少期に感じたことがあった気がして。 自然に口が開く。 紡ぐのはよく歌っていた童謡。 よくピアノで弾いていたメロディ。 音数も歌詞も簡単なものだけれど司にとっては大切な曲。 「…!司先輩?」 歌の途中で聞きなれた声がする。 驚くだろうと思っていたのに、まるでそれが当たり前かのように司は微笑んだ。 「冬弥!!…やはり、来てくれたんだな」 「…ええと、此処は…」 「なぁに、気にするな!夢の中だとでも思えば良い!…きっと、魂が惹かれ合ったが故の夢、だとな」 「…。…そう、ですね」 ふわ、と冬弥が笑む。 彼は隣に座り、先程まで司が歌っていた歌を奏で出した。 司も重ねるように歌を紡ぐ。 ライブのような、ショーのような、最高潮の盛り上がりはないけれど、ただゆっくり過ぎるそれは暖かく幸せなものだなと、そう思った。
(きっとそれは、魂のつながりが生み出す奇跡の場所)
「ところで司先輩は何故ここで歌を?」 「ああ。花里や一歌たちと会うときは歌を歌っていたからな。きっと、歌を歌えば出会えると思ったんだ。…オレの、暖かい場所にいる…お前に」
とーやの日
「おはよう、冬弥!!良い朝だな!!!」 司は登校途中に、冬弥を見かけて大声で呼びかけた。 くるりと振り返った冬弥が柔らかく笑む。 「おはよう御座います、司先輩。良い朝ですね」 その表情に司はうんうんと頷き、そっと彼の頭に手を伸ばした。 意外に柔らかい髪に指を絡ませる。 「…司先輩?」 「いや?…その言葉には嘘がなさそうだと安心した」 「…え……」 「昔は少し無理をしていただろう?だから、本音の言葉が聞けて、オレは嬉しいぞ」 「…!」 司の言葉に目を見開いた冬弥がふにゃりと笑った。 嬉しそうなそれに司の心は跳ね上がる。 「ありがとうございます。…でも、今日良い朝になったのは…司先輩に出会えたからです」 「…冬弥…!」 嬉しい言葉に思わずわしゃわしゃとその髪を撫でた。 全く、いつだって彼は可愛いのだから! 「オレも、冬弥に出会えて最高の朝だぞ、冬弥!!」
「相変わらず愛されてるよねー?」 「?!白石?!!」 「ああ、何せオレの大切な冬弥だからな!愛さずにはいられないというものだろう?!」 「はいはぁい、イチャイチャするのは良いけど、さっさと入ってくださーい?」
「…よお、冬弥」 「…彰人?」 彼の教室に行くと本を読んでいたらしい冬弥がキョトンとした顔をしてからすぐ駆け寄ってきた。 「今日の昼はサッカー部の助っ人だと…」 「あー、後は部内のミーティングだけっつーから抜けてきた」 言いながらタオルを差し出して来る冬弥からそれを受け取り答える。 そうか、なんて笑う冬弥の頭に彰人は手を伸ばした。 「…彰人?」 「…後、お前に早く会いたかったしな」 「…!」 くしゃりと髪を撫でると冬弥は目を丸くしてくすくすと笑う。 「んだよ」 「…いや……」 「誤魔化すなっつー…」 楽しそうな冬弥に詰め寄りながら、可愛い顔しやがって、と彰人は心の中で毒づいた。 それでもまあ良いかなんて思ってしまうのは絆されすぎなのだろうか。 「…練習で毎日会っているのに、まだ会いたいと思ってくれているんだな」 「はぁ?当たり前だろ」 笑う彼に彰人は頭を撫でてやりながら言った。 「オレは、いつだって冬弥の隣にいたいって思ってるよ」
「…相変わらず愛されてるよね」 「?!草薙?!」 「おお、オレの大切な相棒だからな。これくらいフツーだろ」 「…まあ普通かどうかは置いといて。…授業、始まるよ」
「やあ、青柳くん」 「…神代先輩」 放課後。 図書室の扉を開け、挨拶をすれば、ふわ、と冬弥が微笑む。 「また来てくださったんですね」 「ああ。…この間君が教えてくれた本が面白くてねぇ。特に踊るたぬきが良い所良い所に出てくるのが不意を突かれてとても良かったよ。続きはあるかい?」 「はい。確かこっちの棚に…」 嬉しそうな冬弥がカウンターの中から出て棚に案内してくれた。 数冊手に取って類に渡してくれた。 「ありがとう、青柳くん」 「いえ。…また読んだら感想教えてくださいね」 「勿論だとも」 柔らかく微笑む冬弥が可愛らしく見えて類は小さく笑いながら彼の頭に手を伸ばす。 「…えっと、神代先輩…?」 「いや。君のことが愛おしくなってしまった。すまない」 さらりとした髪に指を通し、類は微笑んだ。 「俺のことが、ですか?」 「ああ」 首を傾げる冬弥に迷い無く頷けば、彼は可笑しそうに肩を揺らす。 同時にきれいな髪がさらさら揺れた。 「どうしたんだい?青柳くん」 「…いえ。神代先輩にそう思っていただけるのは少し嬉しいな、と…」 へにゃ、と笑う冬弥に、やはり可愛いな、と類は頭を撫でる。 何だか心が暖かくなった気がして、類は目を細めた。
「…相変わらず愛されてるよねぇ」 「?!!暁山?!」 「やあ、僕も青柳くんのことは大切だからねぇ。愛したって構わないだろう?」 「ボクは別に良いけどさぁ。先生が早く帰れってー」
「お、冬弥!やっときたか!」 「…うわ、神代センパイもいんのかよ」 「おや、いてはいけなかったかな?東雲くん」 「…べぇつにぃ?司センパイだけでも面倒だと思っただけッスよ」 「よし。彰人と類は置いて先に行くか!」 「ふふ、抜け駆けする気かな?司くん」
微笑む冬弥を囲んでわちゃわちゃと過ごす放課後の通学路。
だって今日は10月8日。
本人も気がついていない、彼を甘やかして良い日。
(本日、10月8日とうやの日!!)
遥バースデー
「えっ、私の誕生日?」 「そう。桐谷さんは何がしたい?」 きょとんと言う遥に、志歩は頷く。 もうすぐ遥の誕生日だ。 サプライズよりも、直接聞いたほうが良いのでは、と何故だか本人よりも楽しみにしているらしい咲希から言われ、放課後たまたま予定がなかった志歩が聞いておくことになったのだ。 「咲希がどうしても桐谷さんの誕生日パーティーをしたいんだって」 「そうなんだ。ふふ、嬉しいな」 「まあそんな訳で、何がしたいか教えてくれる?」 心底嬉しそうな遥に目を細めつつ、志歩は聞く。 少し上を向いた遥が、にこりと笑った。 「うーん、そうだなぁ。…あ、私、お菓子パーティーとかしてみたいかも」 「…お菓子パーティー?」 「うん!天馬さんたちが言っててちょっと気になったんだ。私、普段は糖質制限をしているからって、みんなも気を遣ってくれててね。所謂、スナック菓子っていう類いのお菓子をたくさん食べることなくて…。今からならチートデーに合わせられると思うから、やってみたいの」 照れたように笑う遥に、彼女が良いなら、と頷く。 「じゃあ、お菓子パーティーって、咲希たちに伝えておくね」 「…!ありがとう、日野森さん!」 ぱあ、と表情を明るくさせる遥に、可愛いな、と思いながら志歩は、あ、と一つ良い考えを思い付いた。 「?どうかしたの?」 「ああ、えっと…」 首を傾げる遥に、志歩は手を差し出す。 びっくりしたような彼女に向かって微笑んだ。 「…良ければ、一緒に買いに行かない?」
「…ふふ、たくさん買っちゃった」 誕生日当日、遥と共に買い物に来た志歩は、嬉しそうな彼女を見ながら、そうだね、と頷いた。 初めてのことにテンションが上がったらしい遥に、志歩も嬉しくなる。 存外甘いものが大好きな彼女は、チートデーだと際限がなくなるようで止めるのに必死だったが…まあこれも一興だろう。 そも、遥の誕生日なのだし。 「塩っぱい系が少なくなっちゃった…何だか申し訳ないな」 「別にいいんじゃない?桐谷さんの誕生日なんだし。…ポリポリチップスがあるから主催は満足でしょ」 「…そっか」 志歩の言葉に遥はまた笑う。 どうやら、浮かれているようで普段よりニコニコしていた。 普段は志歩の姉よりしっかりしているがこうして見れば志歩たちと何ら変わりがないのだな、と思う。 「…あ、紙コップ買うの忘れた」 「大丈夫だよ。確かその辺りに百均が…」 はたと思い出した志歩に遥が言うが、志歩は首を振った。 「私、ささっと行ってくるから待ってて」 「え、でも」 「良いから。主役にそこまでついて来させる訳にはいかないでしょ」 何か言いたげな遥を置き、志歩は近くの百均に走る。 すぐに商品は見つかり、短時間で店を出た…つもりだったのだけど。 「…あれって…」 彼女の元に戻ろうとした矢先に見つけた光景に思わず顔を顰めた。 遥の近くに男が群がっていて、志歩は息を吐く。 ファンや友人なら良いかと思ったのだけれど。 「ねぇ君何してるの?可愛いね。もしかして、元ASRUNの桐谷遥だったりする?」 「あ、えっと、その…」 「ちょっと」 珍しくしどろもどろな遥に手が伸ばされる刹那、志歩が割って入った。 「…えっ」 「私の大切な人に何してるんですか?」 「…な、何だよ」 睨み、行こう、と手を引くが怯んだかと思った男は志歩が女と知るや調子を取り戻したように話しかけてくる。 「っていうか君もよく見たら可愛いじゃん、ねぇ、一緒に…」 「…一緒に、なんだろうか?」 低い声に、え、と遥と共に振り仰いだ。 そこには咲希と同じ髪色の…。 「…つ、司さん?!」 「え、あ、フェニックスワンダーランドの…」 「ああ、すまん!随分と楽しそうだったからつい話しかけてしまった!」 「おや、楽しいことなら僕も混ぜてほしいものだねぇ」 「センパイ方は遠慮っつーのを知らないんスか?…タイマンのが良いって奴もいるでしょ」 高らかに笑う司に、奥から出てきた同じフェニックスワンダーランドのキャストである類と、オレンジ髪の…確かこはねが東雲くん、と呼んでいた彼がにやにやと笑いつつ男に詰め寄る。 ぽかんとする志歩と遥を、「こっちだ」と呼ぶ声がした。 「…桐谷さん、こっち」 「…え、あ、うん」 小さな声に我に返った志歩は遥を呼び手を引く。 青い髪の…咲希が「とーやくん」、こはねが「青柳くん」と呼んでいた彼がそっと路地を抜け大通りまで案内してくれた。 「…ここまで来れば大丈夫だと思います。怪我はありませんでしたか?」 「はい。ありがとうございます」 「迷惑かけてしまってすみません。本当にありがとうございます」 「いえ、俺は何も。…それでは」 ぺこ、と会釈をし、彼は元の道を引き返す。 おそらく、司達のもとに帰るのだろう。 改めてお礼を言わなければな、と思った。 「…日野森さんもありがとう。ごめんね」 「桐谷さんが謝ることじゃないよ。大丈夫だった?」 「私は何もされてないよ。…あのね、日野森さんが来てくれて、すごく、嬉しかった」 ふわ、と遥が笑う。 その顔がとても美しくて。 「…そっか、良かった」 それだけを伝え、志歩はきゅっと手をつないだ。 少し目を丸くした遥が微笑む。 今はまあ、それだけで良いかと思った。
大切な人の誕生日だから、嫌な日で終わってほしくなくて。
幸せでいてほしいな、と志歩は手のひらに想いを込めた。
「ああ、そうそう。週末はお菓子パーティーじゃ終わらないから。覚悟してて」 「えっ、なんだろう。…楽しみだな」
天使の日と彰冬
「東雲くんは、天使を見たことはあるかい?」 「…はぁ?」 類の唐突なそれに彰人は嫌そうな顔をする。 大体彰人の場合、相棒以外に対しては大体こんな反応だが。 「おっ、それはオレも興味があるな!」 「興味って…。…天使なんざ、空想上の生き物だろ」 わくわくする司に渋い顔をしつつ…そも、1年の教室に何故2年の彼らがいるのがおかしいのだが…そう答えた。 「比喩、というのもあるよ?」 「そーだとしても…大体なんで天使なんスか」 類のそれに聞いてみれば、どうやら毎年行っている天使のショーが好評で、今年も行う予定らしい。 去年は魔法使いと天使のショー、その前は騎士と天使のショーを行った為、今年は悪魔と天使のショーをするのだという。 「それで、君が知っている天使の話を聞かせてもらおうと思ってね」 「なんだそれ。…つうか、シブフェスで悪魔のショーやってましたよね?」 笑う類に彰人は首を傾げた。 と、司が嬉しそうに身を乗り出してくる。 「おっ、覚えてくれていたのか!」 「嬉しいねぇ。…少し現実から離れた題材の方が、入り込みやすいこともあるのさ」 「…はあ。…そういう事なら、期待しても無駄ッスよ」 笑顔の司と得意げな類に、曖昧な返事をした彰人はそう言った。 不思議そうな先輩二人に彰人はにやりと笑って。 「…オレは、天使なんざ見たことねぇからな」
それは今から1年ほど前の話。 ストリート音楽に魅了されて暫く。 彰人はがむしゃらに歌を練習し、様々な場所で歌っていた。 RADWEEKENDを超えたい、いや、超えてみせると歌うが、1人ではなかなか結果も出せずにいた、そんな頃。 「~♪」 美しい歌声が聞こえる。 ふらふらと足が勝手にそちらに向き、引き寄せられた。 ビビッドストリートの真ん中、天使の羽が描かれたその場所で。 青い髪の少年が歌っていた。 歌っていた、と軽く言って良いものだろうか。 ブレのない歌声、正確な音程で紡がれるリリックは彰人の心を震わせる。 今まで聴いた中では群を抜いて素晴らしく、欲しい、と思った。 共に、あの夜を超えたい、と。 彼と一緒なら彰人の夢に大きく近付くと確信が持てた。 目を閉じればビジョンが見える。 歌が終わり、彰人は迷い無く近づいた。 にこり、と笑みを浮かべる。 その目の奥に熱いものを秘め、彰人は声をかけた。 彼が欲しい。 きっと素晴らしい世界が見えるに…違いないのだから。 「ねぇ、君…」
「…と、まあこんな感じで…。…なんスか」 話し終えれば司と類が目を合わせて苦笑いしていて思わず嫌な顔をする。 「…無自覚が一番怖いとよく分かったところだ」 「僕もだよ。リアリストは夢がないなんて誰が言い出したんだろうねぇ」 「はぁ?」 うんうんと頷く司と小難しい事を言い出す類に彰人は眉を顰めた。 全く意味がわからない。 「彰人。すまない、待たせ…。…司先輩?!神代先輩も」 「お、冬弥!!久しぶりだな!」 「やあ、青柳くん。お邪魔しているよ」 「本当に邪魔だっつー…」 「彰人」 小さな声は冬弥に聞こえていたらしく、彼に窘められてしまった。 「へーへー」 「…。…悪魔は天使が欲しくて仕方がありませんでした。騎士が愛し、魔術師が恋した天使を」 適当な返事をする彰人に冬弥が口を開くその前に類が語り出す。 「は?」 「え?」 ぽかんとする二人に司も笑い、朗々と続きを紡ぎ出した。 「悪魔は天使に声をかけます。共に世界を見ないかと。…天使は頷き、二人は飛び出しました」 ほら、と言わんばかりと司にようやっと理解し、彰人は嫌な顔をしながら冬弥の手を取る。 「悪りぃッスけど、センパイ方の思い通りにゃならないつもりなんで」 べ、と舌を出しつつ、行くぞ、と手を引いた。 「え、あ、待ってくれ、彰人!…すみません、司先輩、神代先輩!」 謝る冬弥の手をしっかりと握り、彰人は歩き出す。 「おや、随分堂々と連れ去られてしまったねぇ?」 「そうだな。…だが、そこからの奪還劇もまた乙なものだろう?」 不穏な事を言う先輩たちに、させねぇよ、と彰人は笑った。
今日は天使の日。
手を繋いだ相棒を巡る大騒動が巻き起こる、そんな日。
神高生にとっては恒例行事であるなんて、一体誰が想像できただろうね!
(悪魔は、ただ愛だの恋だのを超えた天使と共に永久に歌っていたかっただけなんです!)
司冬ワンライ/2周年・この先も手を
「冬弥!!!」 自分の教室の窓から愛しの彼が見えて司はぶんぶんと手を振った。 それに気づいたらしい冬弥が振り返り、少し探すような素振りをした後手を振り返してくれる。 「ふふっ、愛されているねぇ、司くん」 「おわっ、いたのか、類!」 「いた、というか司くんの声が聞こえたから寄った、という方が近いかな」 驚く司にくすくす笑った類が肩を竦めた。 特に用はなかったらしい。 「…なぁ、類」 「?どうかしたかな」 未だ手を振る可愛い恋人を見ながら隣に立つ類に司は問うた。 類が首を傾げる。 「…ここから飛び降りるのは理論上可能か?」 司のそれに類が目を丸くした。 ちなみにここ、とは2階の教室である。 「…。…まあ、可能ではない、と言い切るのは嘘になるね。そのまま飛び降りるのは危ないけれど、君の身体能力と昔作ったシューズがあれば、或いは…」 「そうか!大丈夫なんだな!」 その言葉に司は大きく頷き、窓枠に足をかけた。 勿論その足には以前作ってもらったシューズを装着済みだ。 「では、後はよろしく頼む!」 「…?!司くん?!」 珍しく焦った様子の彼をおいて司は窓の外に飛び出した。 「はーっ、はっはっは!」 「つ、司先輩…?!」 それは冬弥も同じだったらしく綺麗な目を真ん丸くしてこちらを見ていて。 「…っと、着地成功だな」 「な、何故…」 すたん、と降りる司に冬弥は驚いたように聞いてくる。 愚問だなぁ、と司は笑い、胸を張った。 「冬弥の姿を見て、共に帰りたくなった。たったそれだけだが?」 「…!」 「それに、少し寂しそうにしていたからな。愛する冬弥に1秒だってそんな顔もさせられんだろう?」 「…司先輩…」 ぽかんとしていた冬弥がややあって微笑む。 「…。…司先輩は、変わりませんね」 「む?」 「いえ、2年程前でしょうか。あの時も司先輩は同じことを言ってくださったので」 柔らかい表情の冬弥に司はそんなこともあったなぁと笑った。 「もう2年か、早いものだ」 「そうですね」
「なあ、冬弥」 「…はい」 「今までも、この先も、この手を繋いで共に歩んでくれるか?」
司は手を差し出す。
真っ直ぐに、2周年なんて通り越したその先のミライを見据えるように伸ばして。
はい、と冬弥がその手を取った。
二人の関係は、これまでもこのときもこれからも、ゆるゆる続く!
「さて、手を取ったということはオレと逃げてくれるな?」 「…え?わ、先生方が、あんなに…!」 「走るぞ、冬弥!」
司冬ワンライ/秋の味覚・両手いっぱい
収穫の秋という言葉がある。 ぶどうや梨、栗、さつまいも、もう少しすれば林檎に蜜柑も採れる、そんな季節。
「なぁ、冬弥。果物で好き嫌いはあるか?」 「…いえ、特には。あまり甘過ぎるものでなければ食べられると思いますが…」 「…!そうか!なら良かった!」 不思議そうな冬弥に、司は大きく頷いた。 苦手なものがあるならば聞いておこうと思ったが…それならば良かったと読んでいた記事を冬弥にも見せる。 「…『秋の、味覚狩りツアー』、ですか」 「ああ!せっかくだから、共に行かないか?!」 「はい、是非ご一緒したいです」 誘う司にふわふわと冬弥が同意を示した。 良かった、と笑えばその彼がこてりと首を傾げる。 「?どうした、冬弥」 「いえ…何故司先輩が俺を味覚狩りツアーに誘ってくださったのか不思議になって…」 素直に疑問を口にする冬弥に、司は明後日を向きながら頭を掻いた。 こんな恥ずかしい理由は内緒にしておこうと思ったが…まあ良いかと口を開く。 「…以前、冬弥はチームの皆でキャンプに行ったと話していただろう?」 「はい、共通のイメージを持つために、と」 「それだ」 「…それ、とは…」 まだピンと来ていない冬弥に司は苦笑いを浮かべた。 「チームの皆とは共通イメージを持つことが出来ているのに、恋人であるオレだけが思い出を聞くだけだなんて悔しいだろう?」 「…!」 「まあ、そんな小っ恥ずかしい理由だ。冬弥と共に、オレと冬弥、二人初めての思い出を作りたい」 司の言葉に冬弥が綺麗な目を見開く。 それからややあってふわりと笑った。 「…俺もです、先輩」 ぎゅ、と手を握ってきてくれる冬弥に司はそうか!とそのまま引っ張って抱きしめる。 「わ!」 「二人で良い思い出を作ろう!秋の味覚を沢山沢山採ろう!なぁ、冬弥!」 「はい」 嬉しそうな冬弥の声が腕の中で聞こえた。 季節は秋。 美味しいものがたくさんたくさん採れる季節!
「あははっ、おにーちゃんってば、もう秋の味覚が持てないくらい両手いっぱいに溢れてるよ?」 「…!咲希さん!」 「何を言う。両手いっぱいの愛、も、両手いっぱいの秋の味覚も、全て持ってみせるぞ!!」
司冬カレンダー
カランカラン、という軽い音がする。 真っ直ぐに伸ばされた彼の背が軽く曲がったのを見、司も同じ様に一礼をした。 二拍手の後、綺麗な目が伏せられる。 何を願っているのだろう、なんて聞くのも野暮な気がして司は新年の挨拶のみを済ませた。 願いは神に聞いてもらうばかりでなく自分で叶えるものだ。 「…司先輩」 「…うん、行くか」 お参りも済み、司は冬弥と共に境内を歩き出す。 風も通り抜けられないくらい、ぴったりと二人並んで。 新しい年が、始まる。
今宵はクリスマス。 人々がわくわくする、そんな夜。 けれど司がクリスマスを実感するのは、煌めくイルミネーションよりも、街に流れるクリスマスソングよりもなによりも。 「!冬弥、メリークリスマス!」 「…メリークリスマス、です。司先輩」 赤い頬に白い息で柔らかく微笑む冬弥の表情に、嗚呼、クリスマスが今年もやって来た、と思うのだ。
司冬ワンライ・鼻歌/ハーモニー
機嫌が良いと歌が出てくるのは当然の現象らしい。 何故か、なんてそんなものは分からないが…とにかく、図書室で本の整理をしているらしい彼の機嫌が良いのは明らかだ。 「…~♪」 彼の綺麗な高音がメロディだけ聞こえてくる。 そういえばまだ練習途中だと言っていたっけ。 歌詞はまだ曖昧なのかもしれないと思った。 何はともあれ、せっかく機嫌良く本の整理をしている彼の邪魔をするのもなぁ、と司は本棚に背を預ける。 待ち合わせをしていたわけではないから、しばらく待ってみることにした。 彼の歌詞のない歌が耳に心地良い。 何だか懐かしい気もして、司は無意識に口角を緩ませた。 司は、冬弥の歌が好きだ。 昔聴いた優しい歌声も、今の彼が仲間と歌っているそれも。 全てが彼の歌だし、唯一無二だと思う。 哀歌も、祝歌も、子守歌すらも。 司にとっては愛おしい冬弥の歌、だ。 「…~♪」 サビは聴いたことがある、と司はそっとメロディを風に乗せる。 流れる歌声は、冬弥のそれと相まって思ったより響いた。 「…っ、司先輩?!」 「しまった、バレてしまった」 驚いたような彼に苦笑しつつ司は手を小さく挙げる。 「作業が終わるまで待っているつもりだったんだが…冬弥の歌を聴いたら我慢できなくなってしまった」 「…司先輩…」 「共に歌って構わないだろうか」 「…ぜひ」 優しく微笑む冬弥に司も笑みを浮かべた。 冬弥の奏でるメロディに司も音を乗せる。 歌詞のないハーモニーは、秋の空に柔らかく響いた。
「…しかし…鼻歌を聴かれていたのは、少し恥ずかしいですね」 「そうか?冬弥の良い感情が手に取るように分かるから、オレは好きだぞ」
貴方と二人、愛の味。
「ケン兄、ラーメンの作り方教えて」 「?別にいいけど…」 可愛い弟が急にそんなことを言ってきて、ケンヤは頷きつつ首を傾げた。 ラーメンの作り方くらい、シンヤはお手の物だろうに。 「言っとくけど、普通のインスタントだぞ?チャーシューも出来合いだし」 「良いよ」 真面目に、エプロンとメモ帳を持って真剣に頷くからケンヤは可笑しくなってしまった。 何をそんなに真面目なのだか。 ケンヤも、それからアンヤだってそんなに真面目ではないのになぁ、と思いながらケンヤは立ち上がり、キッチンに行く。 「シンヤ、鍋出して」 「え?」 「え、じゃねぇよ。お前も手伝うの」 きょとんとするシンヤに、ケンヤは笑いかけた。 こういうのは実践が一番良い。 「…!うん!」 慌てたようにメモ帳を置き、こちらにやってきたシンヤは片手鍋を取り出した。 「まず、水を張って湯を沸かしてる間に袋麺を開けるだろ。…シンヤ、がっつり食う?」 「うん、食べる」 「おっけ、じゃあ2袋な。お湯が沸く前に野菜切っとくか」 「…俺、白菜が良い」 「んー」 サクサクと準備を済ませ、沸いたお湯に白菜と麺を入れる。 「解れたら麺は取り出す。シンヤ、お椀」 「はい、ケン兄」 端的な支持にもさっと応えるシンヤにケンヤはニッと笑った。 麺と白菜を茹でたお湯にスープの元、生卵、チャーシューを入れ、生卵がポーチドエッグ状になれば完成である。 「…ほい、お待ち」 「…!」 トン、とお椀を置いてやればシンヤは凄く嬉しそうな顔をした。 食べて良いかと表情で聞くから苦笑しつつ促す。 「いただきます…!」 「ん、どーぞ」 はふ、と小さな口で頬張る彼を見つつ、ケンヤも箸を持ち麺を啜った。 「…不思議」 「んあ?何が」 小さな声に首を傾げれば、シンヤも首を傾げる。 「同じように作ってるのにケン兄に作ってもらった方が美味しい、から」 心底不思議そうな彼に思わずふは、と笑った。 まったく、可愛いことを言うのだから! 「そりゃあ、まあ、お前」 チャーシューをシンヤのお椀に入れてやりながらケンヤは笑う。 愛しき、弟に向かって。
「お兄様の愛情を舐めんなよ?」
(可愛い可愛いシンヤに、愛情という名のスパイスを!)
司冬ワンドロ/10回ゲーム・遊びの本気(本気の遊び)
10回ゲームとやらをご存知だろうか。 例えばピザと10回言わせ、「じゃあここは?」とひじを見せて「ひざ!」と言わせることができれば勝ちという、なんとも子どもらしいゲームだ。 最近なぜだか宮益坂女子学園で流行っているらしく、咲希やえむが教えてくれたのだ。 司も知ってはいたが、実際にやったことはないな、と思う。 単純な言葉遊びで、そこまで大盛り上がりするようなゲーム…でもないはず、なのだけれど。 「…司先輩、10回ゲームはご存知ですか?」 「…。…まさか神山高校でも流行っていたとは…」 冬弥のそれに思わずそう言えば、彼はきょとんとした。 何でもない、と返してから司はニッと笑う。 「ああ、知っているぞ!…そうだな、10回好きと言ってみてくれ」 「はい。…ええと、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き」 「オレのことは?」 「…!愛してます!」 「…!!オレも冬弥を愛しているぞ!!」 嬉しい言葉に思わず冬弥を抱きしめた。 まさか冬弥がそんな事を言ってくれるなんて! 「…。…司さん、公衆の面前で何やってるんです?」 「…おぅわっ?!志歩?!!」 嫌そうな声にバッと身体を離せば、じっとりと司をよく知る少女がこちらを見ていて。 「な、何故こんなところに…」 「友だちと限定フェニーくんを買いに。司さんこそ、こんなところでイチャついてたらまた草薙さんに怒られますよ」 さら、と志歩が言う。 以前、「別に司が青柳くんのこと好きなのは全ッ然構わないけど、公衆の面前でイチャイチャしないで。司だって、例えば他の知り合いだったら複雑な気持ちになるでしょ」と怒られたのだ。 確かにそうだな、とは思ったのだが…好きなものは好きなのだから、その気持ちを止めることは出来ないのである。 それはもはや仕方がないと言えよう。 「私は忠告しましたから」 「…あ、ああ」 それだけ言ってさっさと待ち合わせ場所なのだろうベンチに戻って行く志歩に頷く。 怒られてしまったな、と頭を掻けば冬弥がしゅんとしていた。 「すみません、俺のせいで…」 「何を言う!勝手にゲームを始めたオレのせいだろう!…ところで、オレにやってほしいのではなかったか?」 優しく聞けば、少しだけ目を逸らした。 「?冬弥?」 「…今言われたばかりですが…分かりました。俺のは暁山から教えてもらったものなんです。…先輩、好きと10回言ってください」 「分かった。好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き!」 10回言い終え冬弥を見る。 さて、何と言ってくるのだろう? 「では、好きの反対は?」 「…なっ」 首を傾げる冬弥に、思わず言葉を詰まらせる。 ゲームとは言え、そんな、とも思ったが。 「…先ぱ…っ?!」 ぐいっと引き寄せ、キスをする。 触れるだけの軽いものだが、冬弥にとっては充分だったようだ。 「遊びとはいえ本気にするぞ?」 「…すみません」 顔を近づけ囁やけば、彼はふにゃりと笑った。 …途端。 「…つーかーさー?!」 「げっ、この声は…寧々?!不味い、逃げるぞ、冬弥!」 「えっ、はい!」 「あっ、こら!逃げるなー!」 寧々の怒鳴り声が響き渡る。 しっかり手を繋ぎ、二人は逃避行へと駆け出した。
子どもの遊びでも、二人にとっては本気の愛言葉!
(例え誰かに怒られたのだとしても、なんてね!)
「…あーあ、忠告したのに」 「おまたせ、日野森さん!…どうかした?」 「…何でもないよ、桐谷さん」
|