アカカイ

「カイコクさん、おはよう御座います!」
「…」
にこにこと近づく俺にカイコクさんはじろりと睨んだ。
あら、随分ご挨拶ですねぇ?
そんな睨まれるような生活を提供しているわけではないんですけど…やっぱり、この生活も3日目ともなってくると飽きてくるんでしょうか。
「朝ご飯にしましょう!その前に着替えを…」
「…。…良い。一人で出来るから放っといてくんなァ」
手を伸ばす俺からカイコクさんはするりと逃げる。
つれないなぁと笑って、俺は近くに座った。
…実は今、カイコクさんは俺に『監禁されて』いる。
俺が頼んで、彼が許可を出した。
だから無理矢理でもないし、期限も決まっている。
…そう、思っていたんですけど。
どうやら彼はそうではなかったようです。
「一人で出来るんですか?」
「あァ。そう言って…」
「…そんな重い手枷が着いてるのに?」
「…っ!!」
カイコクさんが俺の言葉にまた睨んできた。
一応監禁なのだからと着けた、彼を傷つけない仕様の手枷。
ジャラリと重い音を鳴らす鎖はカイコクさんが逃げられないことを示していて。
「…早く着替えて朝ごはんにしましょう?カイコクさん」
にこり、と俺は笑う。
無邪気に、笑う。
彼にとっては恐ろしい笑みで。
「…今日は朝ごはん、食べてくれますよね?」
そう言えばカイコクさんはびくりと僅かに体を震わせた。
「…わ、かっ…た…」
「なら早く着替えてしまいましょう!手伝いますね」
そう言って彼の手枷を外す。
ガシャン、と重い音が響いた、その時だった。
「…っ!」
「わっ」
カイコクさんがパッと走り出す。
…あーあー、まだ監禁期間は終わってないのに。
「…嘘、だろぅ、なんで…開かねぇんでェ…?!」
「…そりゃあ、監禁ですから。逃げられても困りますし」
扉の前で呆然とするカイコクさんの腕を引いた。
「それより、逃げるのは契約違反じゃないですか?」
「…逃げるな、なんて契約をした覚えはないねぇ?」
「普通は監禁したら逃げないものですよ?カイコクさん」
「…入出」
睨むカイコクさんに俺は笑いかける。
持ってきていたお茶碗いっぱいのご飯を見せた。
「先にご飯にしましょうか」
「…」
「…ああ、昨日みたいな食事が良ければそっちにしますよ?」
その提案にカイコクさんは僅かながら目を見開いてからすぐ普段通りの表情を見せる。
彼は敏い人だ。
何が有益で何が不利かをちゃあんと知っている。
…だからこそ。
「…分かった。食やぁいいんだろう?」
「はい!」
諦めたようなカイコクさんに笑顔を見せて、俺はご飯をお箸で掬った。
「はい、どうぞ!」
「…。…流石に一人で食えらァ」
「勿論知っていますよ?…ただ、食べてるフリをされると困ってしまうので」
ね、と笑いかけるとカイコクさんは驚きの表情を見せる。
警戒心の強い彼だ、きっと後で吐き出すつもりだったのだろう。
…媚薬入りの食事、なんて…ね。
「食べさせてあげます。一口残らず、全部!」
優しいですよね、なんて嘯いて俺は無言の圧力をかけた。
「…」
カイコクさんが小さく口を開ける。
何かを諦めたように。
彼の目からハイライトが、消えた。


「…はぁ、ぁぅ…」
ぽや、とカイコクさんの口から熱い吐息が聞こえる。
ご飯を食べ終わって数時間。
きっと彼の中では快楽が燻っているのにも関わらず、カイコクさんは首を振って耐えていた。
楽になれば気持ちよくなれると思うんですけどね?
まあ逃げようとしたお仕置きもあるので、そう簡単に気持ちよくなられても困るんですが…。
「…あ、そうだ」
「…い、りで…?」
熱を帯びた声に俺はにこっと笑って押し倒した。
普通サイズのバイブを手に取ってつぷりと割り開く。
「ひっ、や゛、まっ…!」
「沢山、気持ちよくなりましょうね?…『カイ』」
「…?!!や゛ぁああっ?!!」
ごちゅんっ!と突き入れた瞬間、嬌声を上げてカイコクさんはイッた。
本人も何が何だかよくわからない顔をして目を白黒させている。
「…なん、で…?」
「どんどんいきますよ?」
「…まっ…やぁっ!!イった、ばっか…だか…ふぁあ゛?!ぃぎっ、ひっ、ぅぁあ゛ぁあっ!?」
嬌声を上げ続けながら彼はぎゅぅうとシーツを掴んだ。
躰を丸めようとして失敗し、無意識に逃げようとする躰を抑え込む。
「…イッてください、『カイ』」
「~っ!!!イ、…っ!」
「ちゃぁんとイけたんですね、良い子」
強制的に絶頂に導かれて、自分の意志を振り切った躰にカイコクさんはきっと困惑しているんだろう。
「…ひっ、…ふ、ぅう…!」
「ありゃ、泣いちゃいました?」
ポロポロと涙を流すカイコクさんは幼い子どものようで。
元々精神的に達観しているような人だ、自分の思い通りにならない躰は不安でしかないんでしょう。
「大丈夫ですよ。カイはとても良い子です」
「…っ」
頭を撫で俺は言う。
大丈夫だ、と。
「だから、次もいきますよ!」
「?!や、だ…入んない、入んないか、らぁあァ…?!」
「おっと、まだイッちゃだめですよ?」
二本目の少し太いバイブを追加してスイッチを入れた。
ぎゅっと彼の陰茎を握り込む。
「ぁあ゛ぅ?!やめ、ぃやだっ、気ぃ、狂う…っ!!!」
ぐちゃぐちゃと二本のバイブで掻き回せば彼はいやいやと首を振りながら泣きじゃくった。
「…イきたくね、ぁや、だぁああああっ!!」
「カイ」
「…~~っ!!!」
びくんっ!と大きく躰を震わせ、ぎゅっと躰を縮こませる度に『カイ』と囁く。
この名で読んだ時は気持ち良いことが起きると洗脳するために。
媚薬と洗脳で、彼は快楽に堕ちてくる…その日のために。
「ぅぁぁあ゛ああぁっ!ぃ、たい…ぃだい…っ!!」
「大丈夫ですよ」
「も、やめてくんなぁ…っ!」
三本目を追加した途端、カイコクさんは痛いと泣いた。
「まだ、イけますよね?…カイ?」
「イ…っ!!」
ガシャガシャと響く機械音。
ぷしゅ、と潮のようなものを吹き出し、荒い息を吐きながらカイコクさんは布団に身を沈ませる。
そろそろ媚薬の効果も切れてきたでしょうか。
虚ろな目の彼からバイブを引き抜く。
ぽっかり空いた場所に自身を埋め込んだ。
「一緒に気持ちよくなりましょうね…カイ」
囁いて俺は口付ける。
何度目かも分からない絶頂を無理やり迎えさせられたカイコクさんの躰は。
もう戻れないところまできてしまった。


名前を呼ばれただけで発情する躰へと変貌するまで後少し。

それまでたくさん遊んであげます。

食事をしっかり取らせて、快楽を躰に叩き込んであげます。


ねぇ、俺の愛しい『カイ』。


「…カイ。愛してます」

俺は囁く。

痛い程の快楽に抗えない、彼に向かって。

…今日はまだ始まったばかりだ。

ザクカイ

「なあ、鬼ヶ崎」
「…なんでェ……」
「トリック・オア・トリート」
ザクロの声に胡乱げに振り向いたカイコクが、その言葉を聞き、ものすごく嫌そうな顔をした。
「…。…お前さん、今何月か知ってるかい?」
「11月だな」
「ハロウィンがあるのは?」
「10月だろう」
「…じゃあなんで今なんでェ…」
幼児がするようなやり取りに、はぁあ、とカイコクが大きく息を吐き出す。
「今年はハロウィンをやっている暇がなかっただろう?」
「あ?ああ、まあなァ…?」
「ならば遅れてでも行うべきではないか?鬼ヶ崎」
「…。…遅れたらもうやらない、っつうのが普通じゃねぇかと、俺は思うが…?」
ザクロのそれにずっと疑問符を浮かべていたカイコクがついにこてりと首を傾げた。
「季節行事なのだから行うべきだろう」
「…忍霧、お前さん、存外行事好きだろ」
「好きとかではなく…」
呆れたようなカイコクにザクロは否定しようとし、埒が明かないので諦める。
そも、そんな話をしたいわけではなかった。
「…いや、良い。それで、トリック・オア・トリートと俺は言ったのだが」
「トリック・オア・トリートはいいが、お前さん、仮装してなくねェか?」
迫るザクロにカイコクは逃げもせず疑問をぶつけて来る。
「そんな事はない」
「ん?」
「…マスクが、変わっているだろう?」
「……は…」
ちょい、といつもとは違う白いマスクを指差し、「地味ハロウィンというやつだな」と言った。
「…ふ、ふふ…」
ぽかんとしていたカイコクがくすくすと笑う。
いつものような胡散臭いようなそれではなく心底楽しそうな彼に少しどきりとした。
「うんまあ…いいぜ?」
散々笑っておいて何故だか上から目線のカイコクが、それで?と目を細める。
「『ザクロくん』はどっちがお望みでェ?」
「…そうだな」
振り回す気満々な…普段は呼ばない名前で呼ぶのが良い例だろう…カイコクが首に手を回してきた。
しかし、ザクロだって振り回されるばかりではない。
「ならば、両方貰おうか?」



「…ん、ふ…」
鼻から抜ける甘い声が部屋に響く。
ぷは、と口を離せば彼もとろんとした顔をしていた。
カイコクは存外キスに弱いのである。
…指摘すればすぐ不機嫌になるから言わないが。
「…なんでェ」
「いや、何でもない」
少しブスくれたような彼にそう言って軽くキスを落とした。
不機嫌になるだけならともかく、やっぱり止めるなんて言われては堪らない。
「…ふ、ん…ぁ……」 
「可愛いな、鬼ヶ崎」
「…る、せ…」
ザクロの愛撫を具に感じているカイコクにそう言えば彼はふいと横に向いた。
素直で良いと言っているのに、と残念に思いながら、宝物に触れるみたいに指や唇を滑らせていく。
躰中にキスの雨を降らせ、弱い快楽から身を捩って逃げようとする彼を抑えつけた。
「まだ愛撫の途中だ。逃げないでくれ」
「んぁ、そんな、トコ…舐め……!ひ、ぅっ!」
足を持ち上げながら彼の足の裏に舌を這わせる。
幼子のように首を振るカイコクに、「まずは
TRICKからだな」とザクロは涼しげに告げた。
「…良い趣味して、る……ぅく…んぁ…!」
「良い趣味、にしっかり感じてくれているのは誰だ?」
少し意地悪く言いながらザクロはローションで濡らした指を彼の後孔につぷりと埋め込む。
くるりと中で円を描き、ゆっくりゆっくり解していった。
その間も胸や腹、太ももを舐め、キスをし、昂ぶらせていく。
「忍、霧ぃ…!も、良いから…!!」
「駄目だ。…痛いのは貴様も本意ではないだろう?」
「ぅううっ!!…ゃ、だ…おかし、くなる…!」
顔を自身の腕で隠しながらカイコクは喉を戦慄かせた。
それを退ければ彼は快楽を瞳に滲ませ、「甘いのは苦手なのに」と泣きじゃくる。
「…お前が好きだから優しくしたいんだ。…分かってくれ、鬼ヶ崎」
「…ん…」
頬に手をやればカイコクは無意識に擦り寄ってこくりと頷いた。 
ふかふかになったアナルには既に指が3本、バラバラで動かしても大丈夫そうで、ザクロは一旦引き抜く。
「…挿れても、良いか?」
「…良いって、さっきから言って…!ふぁ、あ…~~っ!!」
少し目尻を釣り上げながら言うカイコクにゆっくり挿入すれば、彼は途端に喉を詰まらせた。
「や、ァ…っ、待て、まっ……!忍霧ぃ!!」
「挿入れろと言ったのはお前の方、だろう!」
「ちが、ぃや、だ…イ……っ!!」
制す彼を無視してごちゅん、と突き上げた途端、カイコクは喉を反らしてびくんっ!と大きく跳ねる。
ホロホロと涙を零す彼は何が起きたか分かっていない様子だ。
「今日は随分速いな?」
「…っ!だからっ!待てって言った…!!」
怒鳴るカイコクに、口づけし、ザクロは腰を動かす。
余裕ぶっているだけでザクロの方もそろそろ限界が近いのだ。
年上の可愛い恋人に振り回されたくない、立派な青少年である。
「?!ゃ、今、イった、ばっか…!!」
「残念だが俺の方も余裕がない。…だから」
必死に止めようとするカイコクを無視し、ザクロは動かすスピードを増した。
「ゃ、あ゛、まっで、やだぁ!忍霧、忍霧ぃ!!」 
「待てと言われて待てるわけがない、だろう?!」
「は、ぅ…ん゛んぅ…!!」
口づけをしながらザクロはカイコクのナカで果てる。
同時に彼もイったらしく、大きく揺れたカイコクの躰が一瞬にして溶けた。
だが、余韻に浸らせる隙は与えられない。
緩まった瞬間にごつ、と突き上げ、結腸を開いた。
「ぉ、ゔ?!」 
「…すまないな、鬼ヶ崎」
目をチカチカさせるカイコクにザクロは少し、ほんの少しだけ申し訳ない顔を浮かべた。
「もう少し、俺のハロウィンに付き合ってくれ」
そう告げ、ザクロは彼に口づける。
抗議の声は甘いキスに溶けて消えた。



ハロウィンハロウィン。
さて、今宵のお菓子はどんな味?

(ちょっぴりビターで、甘い甘い蜜の味!)

司冬ワンライ/文化祭・浮きたつ気持ち

日差しが気持ち良い季節。

みんなの笑顔がきらきらと輝く。


今日は待ちに待った文化祭、だ。



「…司先輩!」
「ん?おお!冬弥!」
劇の最終確認をしていた司はふと窓際から呼ばれ顔を上げる。
嬉しそうな顔をしてこちらを見ていたのは冬弥だ。
クラスで作ったらしいTシャツを身にまとう様子はいつもとは違うのに何だかとてもしっくりきた。
「クラスTシャツか?似合うな」
「ありがとうございます。司先輩は…」
「ああ、オレの方は劇の衣装だ!格好良いだろう?!」
「はい、とても」
冬弥がにこにこと褒めてくれる。
いつも素直に言葉をくれるが、どうも今日は特に浮き足立っているらしい。
きっと中学などでは経験してこなかったのだろう。
みんなで作り上げる行事の楽しさ、の前に冬弥は普段より感情が分かりやすかった。
「冬弥のところは綿飴屋だったか?」
「はい。くまさんがうまく作れるようになったんです」
「そうか!!冬弥は器用だからなぁ」
優しく笑う冬弥は、何だか綿飴よりふわふわしていて、司も嬉しくなる。
きっと、この瞬間がとても楽しいのだろうと。
学校生活を楽しめなかった冬弥だからこそ、沢山楽しんでほしいと、純粋にそう思った。
「そうでしょうか…」
「もちろんだとも!そういうのも才能だぞ?」
「…!ありがとうございます」
「劇が始まるまで時間があるから、後で買いに行くな」
「はい、お待ちしています」
頷いた冬弥を引き寄せ、周りにバレないようにキスをする。
少し驚いた表情をした冬弥がほんのり頬を赤く染めた。
「…青柳ー!ちょっとー!」
「っ!あ、ああ!…では、司先輩。また後程」
「ああ、またな!」
クラスメイトから呼ばれた冬弥が慌てたようにパタパタと去っていく。
それを手を振って見送っていた司は小さく息を吐いた。
楽しみにしてます、と言ってくれた冬弥の為にも頑張らなくては、と。
(…それにしても)
独りごち、司は思わず笑ってしまった。
あんなことをしてしまうくらいには、司も文化祭に浮き立っているらしい!!


(文化祭マジックは本当にあるのかもしれないね?)



「…司、これ青柳くんから…」
「こっ、これは…!フォレスタンベアー1世ではないか!!とてつもない愛を感じるぞ、冬弥!!」

ハロウィンしほはる

ハロウィンハロウィン、素敵なパーティ。


1年に1度の大騒ぎ!


「…桐谷さん」
「…!日野森さん!!」
ひょこ、と教室へ顔を覗かせれば遥が嬉しそうにこちらに来た。
「もしかして、文化祭に使う狼さんって、それ?」
「そう。意外と本格的でしょ」
小さく笑いながらそれを渡すと遥も嬉しそうに受け取る。
「うん。…みのりからは聞いてたけど…凄いなぁ。本物みたい」
「私も最初見た時びっくりした」
楽しそうな遥に志歩も苦笑しつつそう答えた。
制作チームが頑張った狼の被り物はなかなか本格的になっている。
中身は普通のヘルメットと段ボールだし作ったのは志歩ではないが、彼女から素直に褒められるともちろん嬉しいのだ。
「日野森さん、狼似合うね?」
「そう?…桐谷さんは猫なんだっけ」
「そうだけど…。…随分情報早いね」
志歩のそれに、遥が小さく首を傾げる。
まだ言ってなかったのに、という表情だ。
「…うちにはおしゃべりがたくさんいるから」
「…ああ、なるほど?」
含んだような言い方に遥が肩を揺らす。
おしゃべり、だけで誰と誰を指すのか分かったようだ。
「…情報ついでに」
遥から狼を返してもらい、志歩は自分で被る。
「そういえば桐谷さん、お菓子持ってないんだってね」
「…もしかして、みのりに聞いた?」
「まあね。…それで…」
ありゃ、という顔をする遥に志歩は近づいた。
くす、と笑い、トリックオアトリート、と囁く。
「いたずらは、私もして良いわけ??」
「…!」
驚いたように目を見開いた遥が、もう、と笑った。
「その聞き方はずるいよ…」
「ま、狼だからね」
柔らかく笑む遥に意味深に返して、志歩は遥の手を取りそこに口付ける。
「っ」 
「童話の狼はずる賢いものでしょ」
「…ふふ」
遥の綺麗な髪が揺れた。
「…いたずらは程々にしてね?…狼さん」
「…さあ?…それは猫さん次第じゃない?」
二人で小さく笑い合い、触れるだけのキスをする。

人目に付かない秘密のそれは


甘い甘い、魔法の味。




今日はハッピーハロウィン!!

(これは、素直じゃない狼さんと猫さんの物語)


「あー!しほちゃんとはるかちゃんがまたイチャイチャしてるー!!」
「…えっ、どこどこ?!!」
「げっ、おしゃべりが来ちゃった」
「ふふ。…逃げよっか、日野森さん」
「…そうだね、桐谷さん」

司冬ワンライ・仮装/ハロウィンイブ

「…よし、こんなものだな!」
司は机の上を眺め、こくりと頷いた。
明日はハロウィンである。
司がショーキャストを勤めるフェニックスワンダーランドではキャストが仮装して子どもたちにお菓子を配る、というイベントがあるのだ。
せっかくのハロウィンだ、準備は万端にして当日は楽しんでほしいと最後まで確認していたのである。
「…司先輩」
「…ん、おお、冬弥!」
ひょこ、と顔を見せたのは後輩であり恋人でもある冬弥だった。
何故こんなところに、と駆け寄ると「…入り口近くにいたところを、鳳さんが入れてくれたんです」と少し困ったように笑む。
「ああ、なるほど…。…で、そのえむはどこに行ったんだ?」
「神代先輩と草薙に呼ばれてそちらに」
「そうだったのか、振り回してすまないな」
「いえ。俺の方こそお仕事中にすみません」
「何をいう!オレと一緒に帰りたかったのだろう?嬉しいぞ!」
高らかに笑い、司はそう言った。
実は少し前に『今日お時間ありますか?一緒に帰りたいのですが…』とメッセージが来たのである。
「着替えたらもう帰ることが出来るから、少し待っていてくれ」
「わかりました」
頷いた冬弥が少し目を細めた。
「…司先輩のそれは…」
「ん?ああ、騎士だ!格好良いだろう?!」
冬弥のそれに司は胸を張り、衣装を見せる。
ひらりと揺れる白のケープとコートテール。
腰辺りの百合の花は流石にやり過ぎではと思うがこれが着てみればあまり気にならないから不思議だ。
「はい、とても」
「そうだろうそうだろう!…冬弥はこれなど似合うのではないか?」
柔らかい笑みの冬弥に頷いた司は箱の中に入れていた衣装から猫耳を取り出しつけてみる。
思ったより似合っていて少しどきりとしてしまった。
「…似合いますか?」
小さく微笑んだ冬弥に少し言葉が詰まる。
「あの、先輩?」
「…ああ、似合い過ぎて誰にも見せたくなくなってしまったな」
「…!」
冬弥が驚いたように目を丸くしてからふにゃりと笑った。

明日はハロウィン。

イブの今日は、可愛い彼を独り占めできる…そんな日。


「冬弥くん、一人にしてごめんねー!…あー!猫さんだぁ!凄く可愛いね!ねぇ、明日一緒にハロウィンやらない?」
「…え?」
「こら、えむ!!」

甘えたい貴女にアドバイスを!(しほはる)

「……やっぱり私には向いてないのかな…」
小さく息を吐く目の前の後輩に、「何がよ?」と愛莉は一応聞いてみる。
何でも完璧に出来てしまう後輩、遥がこんな風に弱音を吐くのは珍しいからだ。
「…ええと、何というか、ね…」
「あら、遥にしては歯切れが悪いじゃないの」
モゴモゴと言う遥に愛莉は笑う。
こんなに迷っているということは、アイドルに関する事ではないのだろう。
多分、それは…。
「相談したいことがあるなら聞くわよ。今日はみのりも雫もいないしね」
「…愛莉…」
からからと笑う愛莉に遥は少し目を細め、息を吐きだしてから「あのね」と切り出した。
「…愛莉は、甘えられるのってどう思う?」
「…うん?!」
思ったより直球なそれに愛莉は思わず裏返った声で返事をしてしまう。
遥のことだ、恋愛関係かとは思ったのだけれど…。
「…あ、愛莉?」
「っと、ごめんなさいね。まさかアンタがそんな直球に聞いてくるとは思わなかったのよ。…で?甘えられるのがどうかって?」
質問には驚いたが彼女にとっては深刻なのだ。
なら応えなければ。
小さく頷いた遥に、そうねぇ、と愛莉は上を向く。
「わたしは嬉しいと思うわよ。だって、それだけ心を許してくれてるってことじゃない?」
「そうだけど…。私が天馬さんや雫みたいに抱き着いたりしたらやっぱりびっくりしてしまうかなって」
「そりゃあ急にやれば誰だって驚くわよ。それに、アンタは咲希ちゃんや雫、それに杏ちゃんもそのタイプよね…まあその三人じゃないんだから、そこを無理する必要はないんじゃない?」
「…そう、かな」
首を小さく傾ける遥に、そうよ、と愛莉は笑った。
「ペンギンのぬいぐるみに『志歩チャン、ギュッテシテー』って喋らせるくらいなら自分の言葉でおねだりしてみなさいな」
「…!み、見てたの…」
顔を赤くする遥を可愛いわねぇ、と撫でてやろうとし…自分の仕事ではないなと愛莉はやめる。
代わりに、「そう思うでしょ?」と背後に語りかけた。
「…えっ」
「…やっぱり、バレてましたか」
「あら、バラしちゃ不味かったかしら?」
驚く遥に、気まずそうに出てくる志歩。
そんな彼女たちに愛莉は茶目っ気たっぷりにウインクした。
「ひ、日野森さん?!」
「盗み聞きするつもりはなかったんだけど…ごめん、桐谷さん」
素直に謝った志歩がこちらを見る。
「…いつから気付いてたんです?」
「ま、それは言わないでおくわね。…っと、わたしはそろそろ行くわ。ちょっと約束してるから」
怒りではなく純粋な疑問をぶつける志歩に愛莉は曖昧に返し、女子更衣室を出た。
それから、音楽プレーヤーを手に取り、くすりと笑う。
色んな意味で真面目な彼女は、少しでも甘え気を抜くことが出来たかしら、と。
その先の物語は彼女たちだけが知っている。



「…いらっしゃい、愛莉ちゃん。なんだか楽しそうだね」
「あら、レン。…ちょっと甘酸っぱい体験のお裾分けを貰ってきただけよ」

司冬ワンライ/衣装パロディ(エクラエトワール×ノーティス・ブレイシーズ)

「そういえば、トルペくんは何故楽団に入りたいと思ったんだい?」
「え?」
そう、いくつかの公演の後で聞いてきたのは団長だった。
トルペの才能を見出してくれたのは確かに彼だけれども、そう言えば楽団に入りたいと思ったきっかけが別にあったように思う。
生まれたときからピアノは身近にあったけれど…。
「…そう、ですね」
トルペは笑う。
昔出会って恋をした…彼を思い出しながら。
「星が、眩しかったからでしょうか」



初めまして、と言うそれは高音程の鍵盤から紡がれる音に似ていた。
「トルペ、と言います。ええと」
「…ノーティス、です」
おず、と彼はそう名乗る。
「よろしく、ノーティス。…君は、その…」
「…ごめんなさい」
「え?」
急に謝罪され、トルペは少し面食らった。
自分は何かされただろうか。
「…何かを謝られることは、されていませんよ」
「…僕は、その……」
優しく言うが彼は何かを言い淀んでいるようだった。
「…言いたくなければ大丈夫ですよ。僕も人前でピアノを弾けと言われると難しいですから」
「…!」
「難しいことを無理にやれ、とは言いません。…まあ僕は漠然と楽団に入りたいので、直さなければならないとは思っていますがね」
「…僕も、です」
力なく笑うトルペに、ノーティスが言う。
不思議に思い首を傾げれば彼は寂しそうに笑った。
「僕は、父からずっとピアノを教えられてきました。小さい時からずっとです。それが…最近苦しくなってしまって……」
「…そう、でしたか」
カタカタと震える彼の手をトルペは優しく握る。
「…トルペ、さん?」
「君がどんな感情でピアノを弾いているかは分からない。だからこそ、僕は君のためにピアノを弾こう」
「…!!」
「ピアノは、苦しいものではない。悲しいものでもない。美しかったり、楽しいだけのものでもない。…君の感情がどうあれ、ピアノは変わらない。それを、証明してみせます」
トルペは微笑んだ。
深い、夜空のようなノーティスの瞳に、トルペの星のような瞳が写り混む。
「僕は必ず楽団に入ります。そうして、君のために演奏してみせますよ」
「トルペさん…」
「時間はかかるかもしれないが…見ていてください」
「…はい、必ず」
ノーティスが涙を浮かべて頷いた。
その時からだ。
楽団に入りたいと強く思うようになったのは。


星降る綺麗な夜に


トルペは夢と恋を…旋律に乗せた

夕暮れのしほはる

夕暮れの教室

近くの小学校から下校を促す放送が小さく聞こえる

運動部が部活を頑張る声も少なくなってきた

少しノスタルジックに感じるシチュエーション

そんな、中で



天使が、寝ていた




「…びっくりした」
忘れ物をした、とセカイに行ってから気づいた志歩は、練習が一段落した後、一旦学校に戻った。
まだ部活の生徒も残っているし、教室にいたって大丈夫だろう…そう思っていたのだけれど。
忘れ物を取り、戻ろうとした志歩は通り過ぎようとした一歌たちの教室に人影を見つけた。
それはまあいるだろうな、と思いながら横目で見た確認すれば見たことある青髪が夕陽にキラキラと反射していて。
思わず教室に入ってしまった志歩は、窓際の席、壁にもたれ掛かるように座りうつらうつらしていたのが遥だとしっかり確認できたのである。
珍しいな、と思いながら志歩は座り込んだ。
いつもの綺麗な青い瞳は伏せられ、胸が小さく上下している。
夕陽に照らされた彼女は有り体に言うなら、綺麗だなと思った。
体感にして何分経ったのだろう、しばらく眺めていたが、流石に戻らなければと立ち上がろうとし…遥を起こした方が良いだろうかと止まる。
彼女にも練習があるだろう。
遅くなればメンバーの誰かが迎えに来るだろうが…疲れているかもしれないのにわざわざ起こすのは忍びないな、とも思う。
さてどうしようかと少し上を向き、志歩は改めて立ち上がった。
窓を開けると秋風がふわりと志歩の髪を撫でる。
夕陽は僅かに夜に溶け、その静かで柔らかい青は彼女の瞳によく似ていた。
「…ん…」
「…。…あ、起きた」
小さな声に振り向けば遥が僅かに目を開けこちらをぼんやり見つめていて。
「おはよ、桐谷さん」
「…。…日野森、さん…?」
ぽや、とした声はいつもの完璧な彼女からは想像が出来なくて少し笑ってしまう。
「うん、日野森さんだよ」
「…うん?え、あれ…?」
答えてあげたのに遥は困惑したように志歩を見つめ…数秒も経たぬうちに驚いた様に目を丸くさせた。
「…日野森さん!」
「だからそうだってば」
くすくす笑いながら志歩は夕陽に照らされていた髪を一房手に取る。
「流石に起きた?桐谷さん」
「…うん、ばっちり」
恥ずかしそうに笑う遥に、それは良かったと志歩も笑った。
「今日練習ないの?」
「…みんな部活や委員会があるから、少し練習時間を遅らせたの。宿題は終わらせちゃったし…まだ時間があると思っていたら、つい…」
「…なるほどね。珍しい所を見ちゃった訳だ」
「そうなるかな。…みのり達には内緒にしてくれる?」
微笑む彼女を見、そうだなぁ、と志歩は考える振りをする。
何だか遥と秘密が出来たようで嬉しかった。
「…じゃあ、今度の放課後、限定フェニーくんのキーホルダーを一緒に買いに行ってくれるなら」
「…!…分かった。約束ね」
夕陽が見劣りするくらいの柔らかい笑みで遥が微笑む。


放課後、昼と夜が交差する教室で


志歩は天使と秘密の約束を交した



「じゃあ私はそろそろ行くね。…また次の放課後に」
「うん。…また次の放課後に」

司冬ワンライ・だんじり/鐘の音

朝から聞こえる笛太鼓


村の鎮守の神様の




「…今日は休日だったか?」
楽しそうな子どもたちを見かけ、司は首を傾げる。
今は登校の時間帯、普段ならばランドセルを背負った子どもたちがいるはずだ。
だが、今日はランドセルの代わりに法被を着て駆けていく様子が多く見られたのである。
ああ、と答えてくれたのは久しぶりに登校時間が重なった冬弥だった。
「今日は秋祭りなのだそうです。3年ぶりのお祭りなので…近隣の小学校が休みなのだとか」
「そう言えば咲希も今日は祭りだと言っていたが…休校だったのか」
冬弥のそれにふむ、と司は目線を落とす。
祭りに力を入れているのは知っていたが…まさか休みにしてしまうとは。
きっと3年ぶりの祭りを思う存分楽しんでほしいのだろう。
「と、いうことは授業中に神輿を引っ張る姿が見られるかもしれんなぁ!」
「そうですね。…俺は、今まで見たことがないのでとても楽しみです」
ふわ、と冬弥が微笑んだ。
土日はピアノかヴァイオリンの練習に明け暮れていた冬弥である。
遠くから聞こえる鐘の音は、幼い心にどう響いていたのだろうか。
「…なぁ、冬弥」
「はい」
「学校が終わったら見に行ってみないか?」
司は笑う。
思い出を、憧れで終わらせたりはしない、と。
目を丸くしていた冬弥が嬉しそうに頷いた。
「…是非」

秋風が吹く。
二人の間に、わくわくする鐘の音を乗せて。


今日はめでたいお祭り日!

アンカイ アンヤバースデー

誕生日プレゼントは何が良い、なんて。
思ってもいないことを言われてアンヤは眉を顰めた。
どうせいつもの気まぐれだ。
黒猫みたいだと彼を評したのは誰だったろう。
「んじゃーオメーが良い」
「へーへー俺な…。…へ?」
軽く言えばいつもの感じで適当に返事したらしいカイコクがきょとんとした。
なるほど彼もそんな顔をするのか、なんて思いながらその手を引っ張る。
「…ちょ?!駆堂?!」
「あ?オメーをくれんだろ」
いつも飄々としている彼はすっかりいなくなっていて、これはこれで面白いなと思った。
だが、そんな表情だけでは満足できない。
人間、欲望には貪欲であれというのは亡くなった兄の教えだ。
混乱しているらしい彼に、アンヤはニッと笑う。
「プレゼントはプレゼントらしく…。…いいから黙って着いてこいや」


「…展望デッキ?」
二人で登ったそれは、今行ける範囲で1番高い場所だった。
ゲノムタワーの49階。
パカからは別に面白みはないですよ、と言われたが別に面白みを求めているわけではないから何でも良かった。
「おう。…月がよく見えんだろ」
デッキの手すりに手をかけ、アンヤは言う。
月が綺麗ですね、なんて言うつもりはさらさらないし、そんな関係ではないのだ。
ただ、隣にいれば良いと思う。
「…月、ねぇ」
くすくすとカイコクが笑った。
ふわりと彼の綺麗な黒髪が揺れる。
「まあいいんじゃねェか?月光の誕生日会ってのも乙だろうしねェ」
楽しそうにカイコクが言った。
どうやらお気に召したらしい。

「んじゃ、改めて。…誕生日おめっとさん、駆堂」
「…ん、どーも」


優しい彼の笑みが月光に照らされる。
悪くない誕生日だな、と、そう…思った。



醒めぬ夢を追っていったその先に、貴方が今みたいに微笑んでいてくれたら、幸いだと…そう、思うのです。