司冬ワンライ/ボカロ曲(アイノウタ/墨汁P)

司は走り出す。
高鳴る鼓動に、息を弾ませて。

「冬弥!」
「…司先輩」
ぶんぶんと手を振れば彼はふわりと目を細めた。
やはり、彼は笑っている方が良い。
その方がずっと似合っている。
「すまない、遅くなってしまった」
「いえ、大丈夫です。…あの、それは…?」
「え?…あ」
冬弥の指摘に司は手元を見た。
小道具で使ったナイフを持ってきてしまったらしい。
よくまあ通報されなかったものだと苦笑した。
「今度のショーの小道具だな。…ちゃんと、偽物だぞ?」
「そこは信じていますが…。…よく、通報されませんでしたね」
「それはオレも同意だな」
顔を見合わせてふは、と笑う。
まあ笑顔で駆けている青年が、ナイフを持っているとは人々も思うまい。
ふと彼がどんな表情をするのか見てみたくて、す、とナイフを突きつけて見せた。
冬弥は一瞬驚いた顔をしたが、柔らかく微笑んで見せる。
「どうかしましたか?先輩」
「…いや…驚かないんだな」
「そうですね。…先輩だから、でしょうか」
予想外の反応にこちらが驚いていれば冬弥がそんな事を言った。
「オレ、だから?」
「はい。…先輩ならば、例え本物のナイフを突きつけられても首を絞められても、何か理由があるんだろうな、と思います」
「それは…オレを過信しすぎじゃないか?」
冬弥の言葉に思わず呆れてしまう。
いくら好きな人とはいえ、殺されかけても理由がある、なんて。
「そんなことはないですよ。…きっと、俺にとっても良い世界に連れて行って下さる気がするので」
「例え良い世界だったとしても、今の生活から切り離すような行為だ、お前の仲間たちが許すとは思えん。それに、オレが良いと思う世界が冬弥にとっても良い訳ではないからなぁ」
「…!」
司のそれに冬弥は目を見開いた。
どうかしたのだろうか?
「先輩は何故、そう…?」
「当たり前だろう?オレにとっての愛の歌が、冬弥にとって呪い歌になるやもしれん。幸あれと願うのは一種の呪いなのだぞ?幸福的価値観を押し付けるんだからな」
「…押し付けられた人にとっても幸せかもしれません」
「それはそう思い込もうとしているだけに過ぎん。まあ、オレのこの考えも押し付けといえばそうだが…」
何故だか泣きそうな冬弥に司は優しく笑いかける。
きっと冬弥は父親のことを思い出しているのだろう。
少し聞いただけだが、自分の【幸せ】を提示するのは決して悪いことではないのだ。
だから、大丈夫だ、というように司は笑う。
「人には人それぞれの意見や考えがある。それをどう取捨選択していくかはお前が決めると良い。正解は、自分しか分からんのだから」
「…はい」
「もし迷ったなら、オレの愛の歌で良ければ歌ってやるぞ!いつだって、どんな時だって、な」
そう言ってやれば、涙を浮かべたまま彼は微笑んだ。
「…ねぇ、あれ修羅場かなぁ…」
聞こえてきた声に司はふと我に返る。
そう言えばナイフを持ったままだった。
「まずい!逃げるぞ、冬弥!」
「え、あ、はい!」
ナイフを慌ててカバンに突っ込み、司は冬弥の手を引き走り出す。
まるで騒がしいパレードのように、景色は目まぐるしく移り変わった。
「ふふ、…」
「あ、笑っているな?!お前、割と大変な時にー!」
「すみません、でも…何だか楽しくて…」
彼の笑う声が空に還る。
きっと、きっと幸せだけではない日々だとしても。
それでも、こんなドタバタで騒がしい歌を、それを幸福とする冬弥を、司は一番に愛してる。


(お前とオレの音を連れて、さてどこに行こう?)



ありふれた毎日を超えて、聞こえる音はアイノウタ!
……


高鳴る鼓動に 息弾ませて
進め足音 行く先知れず


好き・嫌い 君と僕あいこ
ナイフ突きつけ 泣き笑ったら
壊れた音で耳ふさいで
空にこぼせ愛の歌



今日もありがと 明日はさよなら
語れ言の葉 聞く人知れず


今・昔 始まりと最後
首に手をかけ ほほ笑んだら
祝福の音で口ふさいで
空にまいた愛の歌



偽りと本当のパレード
終わりない終末のループに
飽いた 飽いたなら
何処に行こうかな



夢・現 おぼろげな回路
幸あれと 呪いをかけたら
誓いの音で目をふさいで
空にとかせ愛の歌


いつか君と僕のパレード
ありふれた 毎日越えたら
始まりの音で身を包んで
空にとんだ愛の歌

司冬ワンライ・きらきらひかる/ピアノ

久しぶりにピアノを人前で弾いた。
手のひらを見つめてグッと握り込む。
息を吐いた瞬間、色んな思いが流れ込んできた。
別に大層緊張したというわけでもない(そも、司は緊張も楽しむタイプだ)
ただ、誘ったとはいえ冬弥がピアノメインのショーを見に来てくれるとは思わなかった。
一時期は、ピアノを見るのすら嫌がっていたほどなのに。
良い仲間に恵まれたのだなぁと思う。
「…司先輩」
「冬弥!すまんなぁ、呼び立ててしまって」
「いえ。…それで、何かあったんですか?」
こてりと首を傾げる冬弥に、実は、と切り出した。
「この前、トルペのショーをやっただろう。久しぶりにピアノを弾いたのだが楽しくてなぁ。それで、咲希と共に家で発表会をしようと思うのだが…どうだろう、聴きに来ないか?」
恐る恐るそう言えば冬弥は、ぱあっと表情を輝かせる。
その顔に、ほんの少しだけホッとした。
「是非!先輩と咲希さんのピアノ、とても楽しみです」
「そうか!冬弥が来るならきっと咲希も喜ぶぞ!」
心底嬉しそうな彼に、司もそう言う。
無理をしているなら止めようかとも思うがどうもそういう感じでもないようだ。
「…あの、司先輩」
「ん?どうした?」
「…。…その発表会には他の人たちも呼ぶんですよね?」
そっと聞いてくる冬弥に、司は素直に答えた。
咲希も一歌たちバンドメンバーを呼ぶようだし、司もえむや寧々、類を呼ぶつもりでいる。
そう言えば、「そう、ですか…」と冬弥は曖昧に言った。
「?どうかしたのか?」
「…あ…いえ、大したことでは…」
「何か言いたいことがあるなら言ったほうが良い。…溜め込んでいても良いことはないからな!」
自信満々にそう言えば、冬弥は少し目を見開いた後柔らかく微笑む。
「…司先輩のピアノは、俺にとってきらきらと輝いていて…聴いていてとても心地が良いので、他の人にも聞いてもらえるととても嬉しいです。…だからこそ、少し寂しいと思いました」
「…ほう?」
「昔、俺の為にリサイタルを開いてくださったのが嬉しかったんです。あの頃からピアノは苦痛でしたが、先輩のピアノはいつでも蜂蜜のように甘くて星のように煌めいていましたから」
「…。…なるほど」
冬弥のそれに司は頷き、ニッと笑った。
「よし。冬弥、今から時間はあるか?」
「え?あ、はい」
「そうと決まれば音楽室だ!一曲、可愛い冬弥のために演奏しよう!!」
笑いかけ、司は冬弥の手を引く。
彼がそこまで好いてくれるなら、彼の為だけに演奏しよう。


夜の星より煌めく演奏を、冬弥に!


きらきらひかる

おそらのほしよ

まばたきしては

(お前だけを見ている)

Peacemekar

忘れない。
きっと、何時までも覚えている。
あの日…小さな墓の前で抱いた悲しみを。
散った戦友の願いも護れなかった大切な人も、その彼女が歌に込めた祈りも…全て。


小さな洞穴の前で志歩はそっと息を吐く。
隣国との戦争が始まってから幾日。
もう何日こうしているだろう。
いつまでこんなことをしなければならないのだろう。
考えたって分からないから気分転換に泉へと足を向けた。
と、ビクッとして歩みを止める。
そんな、なんで、どうして。
彼女は洞穴の中にいるはずなのに。
慌てて駆け寄ると、彼女は歌をやめてふわ、と笑った。
「…!志歩!」
「…っ!遥!」
無邪気に手を振る彼女…遥を静止する。
びっくりした表情の遥の腕を掴んだまま志歩は声を荒げた。
「わかってる?!遥は、水の歌姫で、だから……」
「…大丈夫。分かってる」
言葉を詰まらせる志歩に、遥が頷く。
…水の歌姫。
隣国から狙われる、この国最後の砦。
この国には4人の歌姫がいる。
いや、正確には4人の歌姫が【いた】。
花の歌姫、みのり。
風の歌姫、愛莉。
日の歌姫、雫。
そして水の歌姫、遥。
4人の歌姫により、この国は護られてきたのだ。
みのりを守護する一歌、愛莉を守護する咲希、雫を守護する穂波と、遥を守護する志歩は友人同士だった。
平和な頃は街に出て一歌たちと買い物をしたり、姉である雫やみのりに愛莉とも食事をしたりしていたのだ。
…それが、突如として始まった戦争によって全てが奪い尽くされた。
志歩も戦いに身を投じるしかなく、何時の間にか手は血で汚れていて。
誰のものかもわからないそれで汚れた手で遥に触りたくなくて掴んでいた手を離す。
「…お姉ちゃんも!みのりも、愛莉さんも…殺されたんだよ?一歌も穂波も咲希だって、必死に護ってた、でも駄目だった!」
「…」
「咲希は遺体すら見つかってないの。こんな思いもう二度としたくない。…お願い、命を投げ捨てたりしないで」
拳を握り締めて志歩は訥々と訴えた。
遥だけは、失いたくなかった、から。
それがどういう感情かも知らないで。
「歌なんか歌って、敵にバレたらどうするつもり??」
「…私は、歌でセカイが繋がってくれたら良いなって、思うの」
問い詰める志歩に遥は僅かにそう笑う。
何を、と乾いた声で言う志歩に、遥は水の色をしたユリによく似たスカートを閃かせた。
「平和とか愛は永遠じゃない。忘れてはすぐ失くしてしまうでしょう?」
「…っ」
「だからね、志歩。私は歌い続けるの」
ぎゅっと遥が手を握る。
温かい、手。
「…貴方が、どんな時も迷わないように。私は、歌うことしか出来ないから」
志歩が好きな笑みで。
そう、言ってくれたのに。
遥は死んだ。
誰かに殺されたのだ。
彼女を小さな穴に閉じ込めてまで守っていたはずなのに。
気づいた時には失くしていた。
もう、何が正しいかなんてわからない。
そんな感覚も麻痺していた…ある日のこと。

「こんにちは、お姉ちゃん!」
「…っ!」
その、穴の近くで少女に話しかけられた。
「あたしはえむ!今ねぇ、探検ごっこをしてるんだぁ!」
「…そう」
素っ気ない返事にもにこっと少女が笑う。
愛莉に似た髪、咲希に似た笑顔。
何も知らない、無垢な少女。
…この場所を誰かに知られるのは嫌だな、と思った。
「あのね!あたし、夢があるの!…でも、絶対に叶わないってお兄ちゃんには言われてて…」
「…そんなことないと思うよ」
しゅんとする少女にそう言えば、ホント?!と顔を輝かせる。
表情がくるくる変わる子だなと笑んだ。
「…その夢、もっと近くで聞かせて?」
「…!うん!」
嬉しそうに近付いてきた少女に手を伸ばし…小さなその首を絞める。
「…お、ねぇ……ちゃん?」
「…ごめんね、この場所を誰かに知られると困るの」
目を見開く少女に志歩は無感情にそう言った。
…命の灯火が消える。
あの子の夢は、もう二度と分からない。

「作戦14 水の歌姫の報復に、碧の王子の抹殺」
「…っ」
淡々と告げられる作戦名。
上司が告げる。
「スパイとして君を送り込む。失敗は許されない。良いね?」
「Yes, sir」
志歩は義務のように敬礼をした。
きっと、これが最後の作戦だと信じて。
…これが、最期だと、信じて。
「私はっ!遥の仇を獲るんだ、絶対に!!」

敵国に入り込むなんて無茶だと思っていたのに拍子抜けするほどあっさり入り込めてしまった。
それだけ、人の入れ替わりが激しいのだろう。
同じ身長くらいの少女を殺して騎士服を奪った。
城の中を歩くのも堂々としていればバレないものだ。
だが。
「…あっれぇ?見ない顔だね?」
「…っ!!」
突然そう声を掛けられて志歩はびくりと肩を揺らす。
薄いピンクのポニーテールを揺らし、ジロジロとこちらを見つめていたその人は、まあいっか!と笑った。
「ボクは瑞希!君は?」
「…。…志歩」
「志歩ちゃんだね!よろしく。…お互い、死なないように頑張ろうね」
にっこりとその人、瑞希が手を差し出す。
戸惑っていれば瑞希はへにゃりと笑いながら手を下ろした。
怪しまれてはいないだろうか。
「あ、えっと…ごめん」
「あはは、大丈夫だよ!…ま、仕方ないよね。二度と会えないかもだし」
「…そんなに、兵は入れ替わるの?」
「まあねー。でも、しょうがないかな。戦争ってそんなもんじゃん?」
「…」
「これでも司隊長は頑張って犠牲者を出さないようにはしてるみたいなんだけど。…けど、相手も必死だし。あ、後噂だと相手国の歌姫が死んだって話でさ。これを機に一気に攻め込むって話があったんだけど、それに待ったをかけてるみたいだね」
「…。…それは何故?」
志歩の問いに瑞希は肩を竦めた。
「さあ?一介の騎士に分かるわけないよー。…冬弥王子が生きてる間に攻め込んじゃえば良いのにね」
「冬弥、王子」
「そう。…うちの切り札。碧の王子」
瑞希がポニーテールの先を指でくるくる弄びながら言う。
「ココだけの話、司隊長には妹さんがいたらしいんだけど、行方不明になっちゃってね。代わりに、と言ったらあれなんだけど幼馴染の冬弥王子を弟みたいに可愛がってるんだって。…そんな冬弥王子に何かあったらって思うんじゃないかな」
「…。…冬弥王子はこの現状を…」
「…流石に知ってるんじゃないかな。騎士団や兵士を動かしてるのは王子じゃないけどね。そうそう、最近新しい子が入ってきたんだけどさぁ!その子がすごく強くて!…その子も冬弥王子を護るって…」
瑞希が話し続けるのを志歩はぼんやり聞いていた。
冬弥王子には彼を護る騎士団がいること。
瑞希もその騎士団の一人であること。
司隊長が率いる団に、最近強い新人が入ってきたこと。
色んな話の中で。
…志歩はある情報を、知った。

話に聞いた、誰もいない森の中。
綺麗な歌声が響く。
シン、とした空間に、彼の歌だけが。
しばらく聞いていたが、ふとその音が止んだ。
きっと、バレているのだろう。
志歩は彼の前に姿を現した。
特に驚きもしない王子に、口を開く。
「…何を」
「…。…歌を、歌っているんだ」
「…呑気ですね。敵に狙われても知りませんよ」
志歩のそれに王子…冬弥が僅かに微笑んだ。
随分と迂闊な人だと思う。
誰かも分からない人間に、警戒心もなく応えるだなんて。
「…敵」
「そうです。歌なんて歌って、居場所がバレてしまう。城で大人しくしておけば良いのに」
「…君は、彰人と同じことを言うんだな」
肩を揺らしながら冬弥が言う。
彰人…確か瑞希から紹介された騎士の中にいたような。
「そりゃあ、普通の考えでは…」
「俺は、歌でセカイが繋がってくれたら良いと思う」
「…っ!」
「もちろん、簡単なことではない。だが、この世はチェス盤上でもない。人と人の間に線を引くのは人間だ。…きっと、大地には線なんかはなくて、花が咲いているんだろうな」
冬弥が寂しく笑う。
…遥と同じ様なことを言って。
「…俺は、この綺麗な花が咲く、大地を守るために歌を歌いたいんだ」
ふわりと冬弥の髪が風に揺れる。
彼を抹殺することが正義だと、ずっと思っていた。
遥を、水の歌姫を殺された報復だと。
けれど。
志歩は思う。
気付いてはいけなかった思いに、気付いてしまったから。
どうした、と優しい声が耳に届く。
ああ、なんで、どうして。
擡げてしまった疑問は引っ込めることは出来なくて。
「…本当に…」
志歩は呟く。
…本当にそれは正義だった?
殺されたと一方的に被害者ぶって、正義だと銃を撃つ。
…相手だって、自らの正義のためにそうしたのに。
冬弥は大地には線がなくて花が咲いていると言った。
花が咲く、美しい大地のために歌うのだと。
遥は平和や愛は永遠ではなく、すぐ忘れては失くしてしまうと言った。
だから歌い続けるのだと。
歌で、セカイを繋ぎたいと。
二人は…そう言った。
セカイの、平和のために。
この争いは無意味だ。
そんなのはとっくに気付いていた。
だが、それを認めて何になる?
認めてしまったら、志歩の正義は?
正義だと、言い聞かせて行っていた殺人は?
多くの夢を、命を奪った自分はどうなる?
…彼女を守りたい、ただそれだけだった。
振り向けば骨の山が出来ていた。
殺した人の骨、殺された人の骨。
もう、誤魔化されるものじゃない。
どうしたって戻れない。
…戻ることは、出来なかった。
「…ごめんなさい」
「…」
「…私は、こうするしか、方法を知らない」
小さく謝り、志歩は銃を向ける。
僅かに目を見開いた冬弥は、「そうか」と綺麗なそれを閉じた。
遥もこんな風に殺されたのだろうか。
抵抗もせずに、ただ淡々と。
そうであれば良いと思う。
大切な人に苦しんで欲しくは、ないから。
「…彰人に、怒られてしまうな」
自嘲したような声は抜けるような青空に溶けて消えた。
これは正義の鉄槌なんかじゃない。
エゴと欲で塗れた自己満足の復讐劇。
碧の王子はきっと関係ない。
水の歌姫もきっと望んでない。
銃声が響く。
…碧い花が、揺れた。

冬弥の身体が倒れる。
花が赤く染まった。
これで終わったんだ。
ホッとして力が抜けそうになる。
自国に帰らなければ。
遥が、待っている。
「…冬弥!!!」
倒れる碧の王子に、駆け寄るオレンジ髪の少年。
確か、彰人とか言ったろうか。
一介の兵士と一国の王子、というだけの関係ではないように思った。
まるで、愛し合った恋人のような。
そういえば、冬弥王子を護る騎士団があるのだっけ。
きっと彼は噂の新人なのだろう。
そうして、彼を護るために…。
少し、羨ましいなと思う。
…志歩にはもう、どうだって良いことだけれど。
「テメェえええ!!!!」
少年の咆哮が聞こえる。
緩慢に振り返る志歩に突き刺さるは冬弥の亡骸を抱いていたはずの、涙に濡れた彰人の剣。
強い衝撃に蹈鞴を踏んだ。
痛みはない。
温かい赤が流れた。
目の前が霞む。
…遥の歌が、聞こえた気が、した。
……



「日野森さん!」
「…桐谷さん」
「おはよう、良い朝だね」
ぼうっとしているところに遥から声をかけられ、志歩は曖昧に返事をする。
何だか妙な夢を見た気がしたのだ。
…何も覚えていないから、良い夢かも悪い夢かも分からないけれど。
「?どうかしたの?」
「ああ、何もないよ。ちょっと目覚めがスッキリしなくて…」
首を傾げる遥にそう言いかけたところで明るい声が聞こえた。
「志歩ちゃん、遥ちゃんっ、おはようわんだほーい!」
「っと、鳳さん。…おはよ」
「おはよう、鳳さん。今日も元気だね」
「うんっ!元気があたしの取り柄でっす!!」
えへん!と挨拶をしてきたえむが胸を張る。
そうだね、と二人で笑顔になった。
「あっ、しほちゃん、はるかちゃん、えむちゃん!おっはよー!」
「おはよ、咲希」
「おはよう、天馬さん」
「咲希ちゃん!おはようわんだほーい!」
元気な咲希に挨拶を返せば他の二人も続く。
志歩と違って何だか嬉しそうだ。
それは遥にも分かったようで小さく笑いながら問いかける。
「天馬さん、何だか嬉しそうだね」
「あ、わかる?!実は、今日の星占いで1位だったの!」
遥のそれに目を輝かせながら言うから、思わず笑ってしまった。
「えー…なんか単純…」
「もー、しほちゃんは分かってないんだから!そういう単純なのが一番嬉しくって…」
ちっちっち、と人差し指を振り解説しようとした咲希の声をそれより大きな声のえむが遮る。
「あー!愛莉ちゃんセンパイだぁ!」
「えっ?!あっホントだ!…あいり先輩ー!」
「ちょ、ちょっと、咲希?!」
「…ふふっ、二人とも元気だね」
慌てて声をかけるも二人とも走って行ってしまった。
くすくすと遥が笑う。
その向こうでは愛莉が対応してくれていて、まあ良いかと伸ばした手を下ろした。
愛莉になら任せていても何とかなるだろう。
「…本当、朝から元気なんだから」
「でも、そこが天馬さんと鳳さんの良いところだよね」
「まあね。…ん?」
遥のそれに同意し…ふと聞こえた声に首を傾げた。
「咲希ぃい!!!」
「げっ、この声…」
よく知った声に志歩は思わず顔を顰める。
…本当に朝から元気なのだから。
妹も…兄も。
「…司さん」
大きな声の司に声をかけると彼はこちらを見止め、手を振ってこちらにやってきた。
「…おお、志歩ではないか!…と…」
「お久しぶりです。チョコレートファクトリーでは素敵なショーをありがとうございました」
「やはり君か!こちらこそ、見てくれて感謝するぞ!!」
「…それで、どうしたんですか?司さん」
綺麗なお辞儀をする遥に明るく笑う司。
それに何か用事があったんだろうと聞けば彼は、思い出したように小さなバッグを持ち上げる。
「おお、そうだった!咲希が弁当を忘れたから届けようと思ったんだ」
「…ああ、なるほど」
司の言葉に志歩は納得した。
大凡、占いの結果にテンションが上がってそのまま弁当を忘れたのだろう。
全く持って咲希らしい。
「良ければ渡しておきますよ。私、クラスメイトなんです」
「本当か!」
同じことを思ったらしい遥が微笑みながら手を差し出した。
司もホッとしたようにバッグを手渡す。
「いえ。…では、天馬さんに渡しておきますね」
「すまない、助かる!この礼は、いつか必ずするからな!!」
「そんな!私は…」
「そうだ、フェニックスワンダーランドにも来てくれ!最高のショーをご覧にいれよう!もちろん、志歩もな!!」
「いや、私は別に…」
司の勢いに飲まれ、では!と手を振られるまで二人はぽかんとしてしまった。
元気な人だね、とようやっと戻ってきたらしい遥の言葉に頷くしかなくて。
司に比べれば咲希は落ち着いているのかも、なんて思ってしまった。
…全然全く、そんなことはないのだけれど。
「…おお!おはよう、彰人に冬弥!!」
「…げぇっ…」
「…彰人。…おはよう御座います、司先輩。良い朝ですね」
視界の端で挨拶をする彼らに賑やかだなぁと思いながら前を向いた。
「ねぇ、桐谷さん」
「?なぁに、日野森さん」
隣にいる遥が首を傾げる。
青い花が揺れた。
「良い、朝だね」



「やあ。おはよう、東雲くん」
「…うわ、神代センパイ」
「ふふっ、ごあいさつだねぇ。…なにか嬉しそうだけど、良いことでもあったのかな?」
「別に。…ただ」
(不思議そうな類に対して彰人は笑う

楽しそうな相棒を見つめながら)

「良い朝だと思っただけッスよ」


………
☆3衣装志歩(一歌イベの)と遥(雫イベの)の話。
ミクオが志歩で、ミクが遥で、リンが冬弥で、レンが彰人。
KAITOが雫でMEIKOが一歌。
がくぽ(と、いうか小さい子)はえむ。
上司は類かな…。
敵国(司や彰人、瑞希がいる騎士団、冬弥はその国の王子)に遥を殺され、スパイとして潜り込み、冬弥を殺す志歩の話。
最終的に彰人に殺されるから救いがない(原作遵守)
両想いの彰冬と両片想いのしほはる。

「忘れない・・・ あの日小さな墓の前で 
 抱いた悲しみを・・・
 キミが歌に込めた あの祈りを
 散った 戦友の願いを・・・」
閉じこめた 小さな穴の中で
何が正しいか 分からず
この場所が 知られると困るから
小さな その首を絞めた・・・
大切なものを 守るはずなのに
気づいたときには 失くしてた
この手は 汚れてしまった
キミの手を 握った手は
真っ赤に 染まってしまった
誰のかも 分からない血で・・・
本当は 誰もが知っていた
チェスの盤上じゃないこと
大地には 線は引かれてなくて
そこに 花が咲いてると・・・
キミを守りたい ただそれだけだった
振り向けば 骨の山があった
正義と 言い聞かせてきた
もう ごまかせなくなってた
多くの 夢を奪ってた
どんな夢かも 知らないで・・・
「作戦14 緑の歌姫の報復に、
 黄色の歌姫の抹殺」
「Yes, sir」
(平和とか愛は永遠じゃない
忘れてはすぐ失くすでしょう
だから私は歌い続ける
貴方が迷わないように)
「僕は、キミの仇をとるんだ・・・」
僕らは 気づいていたんだ
無意味に争ってると
生まれた 土地が違っても
血は 同じ色をしてると・・・
少女の 亡骸を抱いた
涙に濡れる 少年の
剣が 僕に突き刺さり
温かい 赤が流れた
キミの歌が 聞こえるんだ・・・

イースター取り止め計画

「…なぁ、忍霧」
「?どうした、鬼ヶ崎」
そろそろカイコクが自分のベッドにいても違和感がなくなってきたある日のことだった。
何やら真剣な声音の彼女にザクロも首を傾げながら読んでいた本をぱたんと閉じる。
先程まで寝転んでいたカイコクがベッドの上で正座をしながら思い詰めたようにこちらを見つめていた。
彼女がそんな顔をするなんて珍しい。
「…あの、提案が…あんだけども」
「…何があった」
「…。…笑うなよ?」
「笑ったりはしない。…なんだ」
念を押してきたカイコクに頷けば彼女はすうと息を吸った。
「…イースターを、取りやめねぇか」
「……は?」
笑わないと言ったが思った以上に突飛もない話に、ザクロはぽかんとする。
何だってそんな急に。
「イースター…確か外国の、春を祝う行事だろう。うさぎがイースターエッグを隠す、とかいうあの」
「そうでぇ。…お前さんも何だかんだ託つけてやっていたよな?」
「…それは否めないが」
カイコクの探るようなそれに思わず素直に頷く。
確かに、ザクロもイースターに託つけて彼女にうさ耳を着けたりなんだりかんだりしていたが。
「…で、それを今年は廃止する、と」
「ああ」
「何故だ?」
こくりと頷くカイコクに素朴な疑問をぶつける。
別に行事は嫌いではなかったはずだが。
少し言い淀んだ彼女は枕を盾に何やらゴニョゴニョと言い訳した。
「…鬼ヶ崎、もっとはっきり…」
「…だからっ!いい加減、恥ずかしいだろぅ…」
「……はぁ??」
耳まで紅く染めて言い訳する彼女にザクロは呆けた顔をしてしまう。
まさか、カイコクから恥ずかしいが出るなんて。
笑わないと言った手前ニヤけることしか出来ず、ザクロはマスクを着けていて良かったと心底思った。
「…お前さん、笑ってんだろ…っ!」
「笑っていない、笑っていない…っ」
だがカイコクにはバレていたらしく、詰め寄ってくる。
思わず顔を背けた。
「わかった。イースターは俺達の間では廃止だ」
「!本当かい?!」
「ああ。…別にイースターをしなくても春は訪れるからな」
ぱあ、と表情を明るくするカイコクに頷いてやる。
そう、春は来るのだ。
別にイースターには関係なく。


季節は巡る。
一緒にいれば何度だって。

イースター以外にもうさぎに関係する日にうさぎになってもらえば良いし、というザクロの邪な思いをカイコクはまだ、知らない。

「…鬼ヶ崎はうさぎより猫の方が似ているからな」
「んー?なんか言ったか?」
「いや、何も」

司冬ワンライ/祝春ウサギ・幸福を君に

今日はイースターだ。
フェニックスワンダーランドでも今日限りのイベントが行われている。
そのため数日前から準備、当日はそれに掛かりきりで、休憩する暇もなかった。
「…何とか無事、今年も終えることが出来たな」
ふぅ、と息を吐き司は空を見る。
入念な準備のお陰でイベントは大成功、来てくれたお客は皆良い笑顔をしていた。
それを思い出して司は小さく笑う。
「…司先輩」
「おお、冬弥!すまない、待たせてしまったな」
待ち合わせをしていた冬弥に大きく手を振れば、小さく微笑んだ彼は首を傾げた。
「先輩、まだ着替えていないんですか?」
「む、準備万端で来たぞ!何かおかしい所があったか?」
「…いえ、おかしい所と言いますか…頭にうさ耳が」
「うさ耳?…あ」
言葉を濁す彼に己の頭上に手をやればまだうさ耳が揺れていて。
そう言えば外すのを忘れていたかもしれない。
今日のイベントはキャスト扮するうさぎにイースターエッグを渡すことでグッズ付きお菓子と交換出来る、というものだったのだ。
ショーキャストである司達も例外ではなく、また、ただ交換するのも面白くないので逃げ回っていたのだ。
そのせいで疲れ過ぎてそちらに気が回っていなかったのだろう。
外そうとして、ふとまだ回収出来ていなかったイースターエッグが目に入る。
明日には従業員によって回収されてしまうそれ。
「なぁ、冬弥!知っているか?イースターエッグを見つければ幸せになれるんだぞ」
「?そうですね」
「しかもだ!今年はこのオレ!春を告げる幸せのうさぎが隠したイースターエッグだぞ!見つけてみたいとは思わないか?」
「…それは素敵ですが…イベントは終わっていますし…俺は、こうして司先輩といられることが幸せですから」
「…冬弥……」
柔らかく微笑んだ冬弥に、思わずぽかんとしてしまった。
まさか冬弥からそんな幸せなことを言われてしまうなんて。
「オレも冬弥といられて幸せだ。だが、もっと幸せになってほしいと願うのは悪いことではないだろう?」
見つけたイースターエッグを手に取り、す、と跪いた。
イースターエッグを差し出され一瞬びっくりしたような顔をした冬弥がふわりと微笑む。
「…うさぎさんから直接イースターエッグを受け取った俺はすごく幸せ者ですね」



柔らかく微笑んだ冬弥に、司も幸せになる。

今日はイースター。
春を祝ううさぎが、大切な人に幸福を届ける日。

(うさぎさんは、そんな彼から幸せをたくさんもらっているのです!)



「…あ、えむ。司いた?」
「うん!うさぎさんの仕事をしてたから、そのままにしてきちゃった!!」
「…ああ、なるほど。…いやぁ、春だねぇ」

貴女がくれたファンサービスに

「…はぁ」
遥は小さく溜息を吐く。
それは少し前から悩んでいることについてだった。
こんなにも悩むのは久しぶりである。
だって、それは。
「…あれ?遥じゃん!久しぶり!」
「…杏?」
明るい声に顔を上げると幼なじみである杏がいた。
にこにことする杏は幼い頃から変わっていなくて、自然と笑顔になる。
「どうしたの?なんか悩んでる?」
ひょいと覗き込む杏にズバリを当てられて目を見開いた。
やはり幼馴染には隠せないらしい。
仕方がないので素直に打ち明けることにした。
…聞いてもらうことで別の視点からの気付きもあるかもしれないし。
「うん、ちょっと聞いてくれる?」
「もっちろん!じゃあ何処か座って話そ。あそこの店とかどう?」
杏に手を引っ張られ、連れて来られたのは有名なファーストフード店だった。
「いらっしゃいま…あれ?桐谷さん?白石さんも」
「…星乃さん?」
「わっ、一歌ちゃん!制服可愛いねー!」
カウンターにいたのは一歌である。
そういえば彼女はファーストフード店でバイトをしていると言っていたっけ。
「ありがとう。…ご注文は?」
「あ、えっとねー」
小さく笑った一歌に注文を伝え、席を選んで座る。
「それで?どうかしたの?」
「うん。…みのりの誕生日があるんだけど、プレゼントを何にしようか悩んでて」
首を傾げる杏にそう打ち明ければ、きょとんとした彼女は、何だそんな事、と笑った。
「…そんな事って」
「ふふ、ごめんごめん。んー、何もらっても喜びそうだけどなぁ」
ムス、とすれば軽く笑った後、ほんの少し上を向く。
「…そうなの。だから困ってるんだけど…」
ふう、と息を吐き、そう言った。
きっとみのりは何をあげたって喜んでくれるだろう。
でもそれでは駄目なのだ。
みのりは、特別だから。
一番喜んで貰えるものを渡したい、そう思う。
「まあ気持ちは分かるけどさぁ」
「…杏はこはねに何をあげたの?」
「私?私は、こはねからオリジナルカスタマイズの飲み物を考えてもらって凄く嬉しかったから、同じようにこはねイメージのオリジナルの飲み物を考えて出したんだ」
「へぇ。杏らしいね」
「でしょー??」
えへへ、と笑う杏に愛されてるんだなぁと遥も微笑んだ。
「おまたせしました」
一歌が注文したそれを持ってやってくる。
その姿はもう制服姿ではなかった。
「あれ?もう終わったの?」
「うん、ちょっと早いんだけど、お友だち来てるなら上がって良いって」
ふわ、と微笑み、「お邪魔して良いかな?」と言う。
「もちろん!」
「ありがとう。…何の話してたの?」
席に着いた一歌が首を傾げた。
その内容を説明すれば、杏と同じように笑う。
「…星乃さんまで…」
「ごっ、ごめん!みのりなら何でも喜んでくれそうだなって思って…」
「だよねぇ!!」
謝る一歌に、杏がけらけらと笑った。
「…星乃さんは、日野森さんに何をあげた?」
「私?…えっと、志歩からオリジナルのピックをもらって、すごく特別感があったから、私もそうしたよ。持ちやすさとか、模様とか、拘れたから」
「へぇー!良いじゃん!やっぱり、自分がもらって嬉しかったものは相手にも渡したくなるよね!」
杏の言葉に、そうか、と思う。
みのりから、もらって嬉しかったもの。
それは…。



『今日はありがとう!みんな、まったねー!』
4人笑顔で手を振り、配信を終える。
今日はみのりのバースデー配信だった。
「…みのり」
「遥ちゃん!お疲れ様!今日は本当にありがとう!」
「うん。…あのね、みのりに渡したいものがあるの」
「え?皆からプレゼントはもうもらったよ?」
きょとんとするみのりに、遥は「あれは3人で、だよ」と笑う。
「これは私個人から。…受け取ってくれる?」
「えぇっ?!もっ、もちろんだよー!凄く嬉しい!!ありがとう、遥ちゃん!」
満天の笑顔で差し出したそれを受け取ったみのりは中をそっと見て固まってしまった。
「…あ、あの、遥ちゃん、これ…」
「…みのり、私の誕生日にファンサをくれたでしょう?だから、私も返したいな、と思って」
あわあわするみのりの手を両手でぎゅっと握る。
遥が贈ったのは、握手券付きのオリジナルCD。
「みのりのために歌った曲ばかりなんだ。後で聴いてね?」
「もちろん、絶対に聴くよ!それから家宝にする!」
「あはは、ありがとう。…あのね、みのり」
「はっはい!」
「一人で歌うと凄く寂しかったし、物足りなかったんだ。だから…これからも、一緒に歌ってくれる?」
にこ、と微笑む。
みのりに、大切な人に向けて。


一生傍にいるね!なんて、返されてしまうまで、あと数秒。

今日はみのりの誕生日!


「相変わらずプロポーズしてるわね、二人は…」
「あら、仲が良いって素敵じゃないー」

司冬ワンライ/デュエット・舞台(ステージ)

よく分からない夢をみた。
「…うーん、さっぱり分からん」
朝起きてから家を出るまで考えていたがついぞ答えが出ず、司は考えることをやめる。
夢とはそういうものだと言われてしまえばそれまでだ。
「何故、ストリート音楽だったんだろうなぁ」
疑問は言葉となって口から出る。
夢の中で司は可愛い幼馴染兼後輩であり恋人の冬弥とその相棒でもある彰人、それから同じショーキャストの類と共にストリート音楽でユニットを組んでいたのだ。
彰人や冬弥とは文化祭で共に歌ったこともあるしストリート音楽での実力があるのも知っている。
類は歌も上手いし、ユニットを組むのも分からないわけではなかった。
司が分からなかったのは自分が触れた事もないストリート音楽でユニットを組んでいたことである。
もちろん、冬弥の影響が色濃く出たのだろうけど。
「…司、先輩?」
「…ん、おお、おはよう冬弥!」
「…おはよう御座います。どうかされましたか?」
首を傾げる冬弥に、顔に出ていただろうかと、司は心配させないように笑う。
「いや、大したことではない!実はな、今日夢で冬弥とストリート音楽ユニットを組んでいたのだ!あと、彰人や類も一緒にな!」
「…!そうでしたか」
司のそれに、冬弥がホッとしたように微笑んだ。
「夢とはいえ、冬弥と共にステージに立つのは嬉しかったのだが…何故ストリート音楽だったのかが疑問でなぁ…」
「…。…俺が、ミュージカルのイメージがないからでしょうか」
「そうかもしれんが…いや、結婚式でショーキャストを務め上げたのだろう?なら、夢の中のオレはオレがやったことのない音楽に触れてみたかったのかもしれんな!」
「…司先輩」
「実際、ストリート音楽は冬弥が触れてくれるまで知らなかった。新たな世界に触れる事が出来たのは冬弥のお陰だな!」
司はそう言ってぴょいとコンクリートブロックの上に飛び乗る。
それから冬弥に向かって手を差し出した。
「これからも、共に色んな音楽に触れていってくれないか?」
「…!はい!」
冬弥が嬉しそうに微笑み、その手を取る。
「実は、俺も司先輩と同じ夢をみたんです」
「何ぃ?!そうなのか?!」
「はい。…夢の中とはいえ、司先輩と共に歌える自分は羨ましいと思いました。なので」
冬弥が美しい笑みを浮かべた。
桜の花びらがふわりと舞う。
「…現実の俺とも、歌ってくれますか?」



キラキラ光る微笑みは、いつか魅た夢と同じ。
「もちろんだ!さあ歌うぞ、冬弥!」
「…っ!」


歌声が響く。
司の声と冬弥の声が溶け合って、春の空に染み渡る。


(君がいれば、どんな場所だってステージに早変わり!)


司と冬弥の即席舞台は大勢の観客を呼び、流石に注意されてしまった(主に彰人に)のはまた別の話。

夢で逢えたら(しほはる、エイプリルフールネタ)

よく分からない夢をみた。
怒涛のような展開に、志歩は目覚めてからも暫く呆然としていて。
姉の声にようやっと体を起こす。
「おはよう、しぃちゃん!…あら?何だか疲れてない?大丈夫?」
「大丈夫だよ、お姉ちゃん」
出会い頭、心配そうにする雫に志歩はそう返して食卓についた。
まさかよく分からない夢のせいで疲れたのだ、とも言い辛い。
美化委員があるから、と先に出た姉にひらひらと手を振り、志歩は夢の内容を思い出していた。
「…なんで私がアイドル…?」
朝食を食べ終わり、身支度を済ませ、家を出てからも志歩は疑問が止まらず、遂に首を傾げる。
雫に、クラスメイトのみのり、姉の友人である愛莉…と現役アイドルである彼女たちと最近よく話をするからだろうか、夢の中の志歩は何故だかアイドルをやっていた。
それも、雫はともかく、バンドメンバーの一歌や咲希、穂波、それからクラスメイトのこはねではなく、こはねの相棒である杏と、顔は覚えていないが銀髪の綺麗な人(一歌や穂波が話していた宵崎さん、かもしれないと思った)がメンバーだったのも不可解なことの一つだ。
まあ夢というのはそういうものなのかもしれないけれど。
「…あれ」
「……どうして…」
少し前を歩く、青い髪の少女に志歩は首を傾げる。
何か悩んでいそうな彼女に、志歩はとん、と肩を叩いた。
「どうかしたの、桐谷さん」
「…!日野森さん!おはよう」
驚いた顔の遥がややあって微笑む。
相変わらず綺麗に笑う人だな、と思いつつ志歩はおはようを返した。
「それで?何か悩み?」
「…あ…悩み、というか…大したことじゃないんだけど…」
「…。…まあ、いいけど。そんな顔してたら、一歌や咲希、みのりがすごく聞いてくるよ。後、お姉ちゃんも」
「…!そっか、そうだよね」
志歩の言葉に、遥は目を見開いた後、僅かに笑う。
それから、聞いてくれる?と首を傾げた。
別に問題もなかったから躊躇いもなく頷く。
「ありがとう。…えっと、今日みた夢の話なんだけどね、アイドルを辞めた後、ショーキャストをしてたんだ」
「…え…」
「鳳さんやこはねが一緒なのはわかるんだけど、何故かその夢に朝比奈先輩もいてね、イメージがなさ過ぎて凄く不思議になっちゃって…」
照れたように言う遥に、一緒だと思わず声が出てしまった。
「え?」
「あー…。…私も、アイドルになる夢をみたんだ。お姉ちゃんや、白石さん、後多分穂波の知り合いの人と一緒に」
「杏も?ふふ、イメージないなぁ」
驚いた遥がくすくすと笑う。
確かにストリート音楽をやっているらしい杏にアイドルのイメージはないかもしれないけれど。
「逆にこはねはショーのイメージ出来るかもね。ほら、臨海学校で劇してたし」 
「あ、確かに。そのイメージだったのかな?だったら朝比奈先輩じゃなくて、天馬さんか望月さんになりそうだけど…」
「二人とも演奏担当だったからじゃない?」
「それもそっか。…聞いてくれてありがとう、日野森さん」 
遥がふわりと微笑んだ。
大したことはしてないよ、と言う志歩にまた微笑んだ遥は、ほんの少し上を向く。
「でも、アイドルの日野森さんも見てみたかったな」
「…絶対に無理。咲希や鳳さんならともかく、私は向いてない。…お姉ちゃんを傍で見ててそう思うよ」
「…」
「アイドルは全身を使ってファンに希望を届けるでしょう。私は無理。演奏でしか表現できない」
「…それも凄いと思うけどな」
お世辞ではないそれに、志歩も素顔に礼を言った。
遥の言葉は適当に流せなくて何ともむず痒い。
「私は、ショーキャストの桐谷さんの方が気になるけどね」
「そう?…アイドルもショーキャストも根幹は似てるかもしれないけど、やっぱり違うもの」
「…そういうものなんだ?」
「そういうものだよ」
ふふ、と遥が嬉しそうに笑った。
楽しそうだな、と思いながらも志歩は、でも、と言葉を続ける。
「実際にやるやらないは置いといて、ショーキャストの衣装着る桐谷さんは見てみたいかも」
「え?」
きょとんとする遥に、ほら、と以前行った時に撮ったマリンルックのキャストを見せる。
「これとか、桐谷さんに似合いそう」
「あ、私も知ってる!可愛いよね」
「うん、桐谷さんってなんだか海とか水のイメージあるんだよね。だからこういう系統似合いそうだなって」
「そうかな。でもありがとう。今度の配信で似たような服探して着てみようかな?」
「いいんじゃない?」
そう頷いてから、やはり少し違うかも、と思った。
これを着る遥は見てみたいが、みんなに見せるのは違う気がして。
これは、何というか。
「…あ、やっぱり待って」
「え?」
「配信では着ないで欲しい…と、いうか、何というか…」
首を傾げる遥に志歩はゴニョゴニョとそう言う。
暫く首を傾げていた遥はにこ、と笑い「分かった」と言った。
「え」
「その代わり、日野森さんにもアイドルの衣装を着てほしいな。…ほら、これなんだけど、さっきの衣装と合わない?」
「…まあ、合うとは思うけど…」
「じゃあ決まり。今度の配信の時に持っていくね。配信終わったら声かけるから、その時…」
画面を見せられ(割とボーイッシュなそれだった)曖昧に頷けば遥は嬉しそうに計画を話し始める。
慌てて待ったをかけた。
「…?日野森さん、どうしたの?」
「いや、どうしたのって…その服、着るのは良いけどそれだけだよ?着てダンスしたりしないし、出かけるのもしない」
「うん、そのつもりだけど…」
きょとんとする遥に志歩は意外で。
てっきり何処かに出かけたりライブ映像にあわせて踊ったりしてほしいと言うのかと思っていた。
素直に言えば遥は楽しそうに笑う。
「日野森さんに踊ってもらうなら私もショーをやらなきゃ。それにお出かけは楽しそうだけど出来れば最初は着慣れた服が良いかな」
「…そっか、なら良かった」
ホッとして少し空を見上げた。
衣装によく似たマリンブルー。
「じゃあ、夢でみたショーキャストの桐谷さんに逢えるんだ」
「ふふ。私は、アイドルの日野森さんに、だね」
二人して顔を見合わせ、思わず笑い合った。


夢でみた、夢の彼女と現実の彼女が重なる


夢で逢う事はなかったけれど、きっと今みたいに楽しいだろう


今みたいに共通の友人を通して知り合って

好きなものが一緒だからこうやって話したりして


…ねぇ、夢で逢えたら何がしたい?


(夢で逢えたらいつかきっと)





「…桐谷さん、ごめん。衣装について聞いてたらうっかり鳳さんに話しちゃって…。サンプル残ってるから貸してあげるって本物を借りた…」
「日野森さん、私も…その、衣装について聞いてたら愛莉に話さざるを得なくて…。ツテから当時のものを借りちゃった…」

司冬ワンライ・ファッションショー/クローゼット

隣の部屋から己を呼ぶ声がする。
「お兄ちゃーん!」
「どうした、咲希ー!」
「お母さんがね、クローゼットの中片付けてってー!」
「…クローゼット?」
妹のそれに司は首を傾げた。
何か散らかしてしまっていただろうか。
疑問はあるが、言われるがままにクローゼットに向かう。
そこにはぺたんと座った咲希がいた。
「ほら、昔お兄ちゃんがとーやくんとここで遊んだって言ってたでしょ?その時に、そのままにしててーって言われてお母さんもそのままにしてたんだって」
「…母さん、本当にそのままにしていたのか」
笑いながらの言葉に、司はようやっと思い出す。
まさか本当にそのままにしていてくれていたなんて。
「ねぇねぇ!アタシ、クローゼットのある部屋で遊んだことしか知らないんだけど、どんなことをしたの?」
わくわくする咲希に、司はそうだなぁと上を向く。
あれはそう、桜が咲く季節のことだった。


「ファッションショー、ですか」
「ああ!!みらいのスターたるもの、きらびやかでなくても、かんきゃくをみりょうせねばならない!そうだろう?!」
自信たっぷりに司が言う。
首を傾げていた冬弥も小さく頷いた。
「…司、さんなら、できるとおもいます」
「はーっはっはっはっは!そうだろうとも!…たとえば…そうだな、この白のスカーフを…こうして…」
少し大きいスカーフを首に巻き、マントのようにする。
ブローチを付け、髪をサイドに分けておもちゃの剣を持てば、騎士の完成だ。
「どうだ?!かっこうよいだろう!」
「…!はい、かっこうよいです!ほんもののきしさんみたいですね」
「そうだろうとも!…さて、冬弥にはなにがにあうか…」
キラキラと目を輝かせる冬弥に、司は当然とばかりに頷いた後、ふむ、と考える。
冬弥は騎士というより王子の方が似合うのではないだろうか、なんて思いながらクローゼットを探った。
いや、王子ともまた違うかもしれない。
彼は、そう…。
「…あっ、あの!僕は、その…」
「?なぁに、えんりょすることはないぞ!」
慌てる冬弥に司は笑い、引っ張り出してきたレースのハンカチーフを、広げた。
髪を左右に分け、それを被せる。
咲希が持っていた小さな髪飾りで留めた。
「おお、にあっているぞ、冬弥!」
「え?え??」
「さぁ、ファッションショーのはじまりだ!」
困惑する冬弥の手を掴む。
先に歩いていってターンし、ニッと笑った。
「いまのオレはきしだからな、冬弥のことをまもってやる」
「…!司、さん」
「だが、冬弥もおとこだ、まもられたくはないかもしれん。…だからな」
掴んだ手をぎゅっと握り直して司ははっきり宣言する。
ふわりと冬弥のレースが、揺れた。
「オレは、このランウェイで冬弥としあわせをつかむぞ!」




「…そんなことしてたんだぁ」
「……していたんだなぁ、これが」
咲希のそれに、司は息を吐きながらハンカチーフを畳む。
次に来たときにまたやりたいから、と置いていてもらったのだが、それ以来やった記憶がないから、他に夢中になっていたのか、来なくなっていたのか。
「そういえば、とーやくんはなんて返事したの?」
「ん?」
咲希の疑問に司も首を傾げた。
何故返事が重要なのだろう。
「だって…」
彼女が笑う。
その言葉に、司は大きな過ちを、知った。



それはファッションショーというより、結婚式。



クローゼットに仕舞いこまれた思い出は、ひらめくレースのハンカチーフと共に蘇った。



「…あ、その時の写真ないか、お母さんに聞いてみよーっと!お母さーん!」
「待て待て待て、咲希!!」

アキカイバースデー

「…ぅ……」
隣で気を失っていたカイコクが苦しそうに手を伸ばす。
「?カイコクさん?」
「…ぁ…?」
伸ばされたそれを握って声を掛ければ、彼は綺麗な瞳を開いた。
涙に濡れた瞳がこちらを映す。
「…っ、離せ」
姿を捉え、認識した瞬間、カイコクは顔を顰め、その手を振り払った。
釣れないなぁと笑う。
「カイコクさんが手を伸ばしてきたから握ってあげたのに」
「…。…頼んでねぇんだが」
「はは、まだ救いを求めてるんだ?」
睨むカイコクに、思わず笑ってみせた。
顰めた眉間のそれがより一層深くなる。
カイコクを閉じ込めて何日が経っただろう。
別にどうでも良いことなのだが。
「別に救いなんか求めてねぇんだがな。…求めたところで裏切られるのがオチでェ」
「ふぅん?」
「それに、救われるのを待つだけの、大人しいお姫様じゃねェんで」
「ふふ。カイコクさんはそうだよね」
強気な発言に肩を揺らす。
煽っても得策はないと思うのだが…確かに大人しいカイコクはつまらないし。
「じゃあ、何で手を伸ばしてたの?」
「…。…夢をみた」
「?夢?」
ひと呼吸置いて、カイコクが言う。
素直に教えてくれたことに驚きつつ、首を傾げた。
「誰か、大切な人を祝う日だった。だから、おめっとさん、って言って、頭を…」
ぼんやりとした言葉に、少し眉を寄せる。
すぐに、そう、と笑ってまたその手のひらを掴んで口付けた。
「っ!何しやが…!!」
「…別に、何も」
怒鳴ろうとするカイコクが、押し黙る。
何かを察したらしい彼に向かって、アキラ、は目を細めた。

おめでとうは誰に向けて言う言葉だった??


(祝ってほしいのに、忘れていて欲しかったなんて、我侭を通り越したエゴイズム)



(本日、    の誕生日)