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ひな祭り
今日は何の日かと問えば彼女はとたんに嫌そうな顔をした。 同じ行事でも節分はあんなに楽しそうなのに何が違うのだろう。 「…ひな祭り、だろ?…七夕とやるこたぁ変わらねぇじゃねぇか」 「内容が全然違うだろう」 「着物着てワイワイ騒ぐって点じゃ、同じだろ」 「…元も子もないことを言うな、鬼ヶ崎…!」 ブスくれる彼女に、ザクロはそう息を吐きつつ言った。 確かに似たようなもの、かもしれないが…それはそれ、これはこれ、である。 大体、うちに秘められた願いが全く違うではないか。 「俺ァお人形になるのはごめんなんだよ」 ツン、とカイコクがそっぽを向く。 こんなにもお人形さん然としている割に、彼女は着せ替え人形になるのは嫌がった。 自由奔放な彼女らしいといえばらしいのだが。 「そう言うな。更屋敷も伊奈葉も、路々森も楽しみにしているんだぞ」 「…そうかも、しんねぇけど」 他の女性陣の名前を出せば彼女はブスくれたまま黙ってしまった。 楽しみにされているのは肌で感じるらしい。 だからこそ嫌なのだろう。 「ひな祭りはまあともかく。…今日はひな祭りだけではないのだぞ、鬼ヶ崎」 「…あ?」 ザクロのそれにカイコクがきょとんとする。 何を急に、と言った顔だ。 そんな彼女の頭上にあるものを乗せる。 「まて、お前さん今何を…!」 「三月三日、耳の日でありうさぎの日でもある」 座っていた彼女はいとも簡単にザクロのベッドの上に倒れ込んだ。 げ、という顔をするカイコクにザクロは微笑んで見せる。 悪ぃ顔、と小さな声の彼女のそれを塞ぐように、ザクロはそっと口付けた。
うさ耳が揺れる。
今日はなんの日?
(日本人は、語呂合わせが大好きで、便乗商法も大好き、なんて言い訳を!)
司冬ワンライ・ハンドクリーム/大切
「司先輩」 「む。おお、冬弥!」 息を切らせて走ってきた可愛い恋人に、こちらもぶんぶんと手を振った。 久しぶりにお互い放課後何もなかったので一緒に帰ろうということになったのである。 気になっていた新刊があったので、一緒に本屋に行くのも良いなぁというのもあった。 所謂、放課後デート、だ。 「お待たせしてすみません」 「なぁに、構わないぞ!それに、待つのもデートの内、だろう」 はっはっは!と笑えば冬弥も小さく肩を揺らした。 本当に楽しそうな表情をするようになったな、と思う。 「では、帰るか!…そうだ、今度ある舞台の原作小説が…」 「…あの」 冬弥がおずおずと何かを言いたそうにこちらを見た。 どうかしたのかと聞けば、ハンドクリームが、と言う。 「ハンドクリーム?」 「はい。普段から使っているハンドクリームがそろそろ無くなりそうで…。買いにいこうかと思っていたんです」 「おお、そうか!ならば、一緒に買いにいこう」 「ありがとうございます。…楽器を触らなくなって久しいのですが、小さい頃からしていた習慣はなかなか抜けなくて…」 申し訳なさそうに言う冬弥に、司は「何を言っているんだ!」と笑った。 綺麗な手をそっと握る。 幼い頃から変わらない、綺麗な手だ。 音を紡ぐ、冬弥にとって大切な手。 「冬弥が大切にしてきた手だ。それに、今は夢を掴む為の手だろう。オレは、そんな冬弥の手を愛おしく思うよ」 握った手に口付ける。 綺麗で、彼自身が嫌いになったかもしれなくても、司はこの手が好きだ。 大切な、音楽を求める手だから。 「…司先輩」 「さあ、冬弥の大切な手を守る、ハンドクリームを買いに行くぞ!」 「はい」 冬弥の手を握る。 司の手で守るように。
(大切な人の、大切なものを守りたいのは、恋人として当然だろう!)
「先輩の手は大きいですね」 「む、そうか?」 「はい。暖かくて大きくて…俺は、好きです」
スーパーネコの日
本日はスーパーネコの日でございますよ、とパカが言った。 もちろん、言われた二人がはぁ?という反応をしたのはいうまでもなく。 ザクロは兎も角、カイコクは本当にそういう行事事、に興味がなかった。 だからそういう反応になるのも仕方がないと言えよう。 しかも、だ。 こちらは進入禁止区域に入ろうとしていた。 見ていただけだとカイコクは言い訳をしたが…そんな子どもじみた言い訳が通ると思うのかと呆れたが…普通ならば何か『以前と同じ』ペナルティを課されても仕方がないといえよう。 だが、パカはそう言ったのだ。 スーパーネコの日、だと。 一体どういう意味なのだろう。 何かの隠語なのか…ふざけているだけなのか。 「…。何なんでェ、その…スーパー?ネコの日、つうのは」 彼女は眉を寄せつつ警戒態勢を崩さなかった。 猫みたいだな、と思いながら、ザクロも彼女を護る様に立ちはだかる。 確かにカイコクは強いけれども、これでも一応彼氏なのだ。 好きな人を守りたいのは当然だろう。 「2022年2月22日」 「…それが…」 「このように2が並ぶのは非常に珍しいことなのでございます」 パカがそう言って近付いてきた。 二人揃って臨戦態勢を取る。 が。 「…鬼ヶ崎様は猫そっくりでございますね」 声が、耳元で聞こえた。 驚いて振り向いたザクロの真後ろで、カイコクが音も無く倒れる。 手を伸ばすザクロの視界も暗転し、そして。 セカイは闇に包まれた。
ザクロのセカイに、光が戻ったのはしばらく経ってからであった。 途端に襲う鈍い痛みに殴られたのか、なんて思いながらぼんやり目を開ける。 「…ぅ、ゃ…だっ…!や、め…!」 「しかし、躰は正直でございましょう?ねぇ、鬼ヶ崎様」 「ゃだ…っつってる…!ふぅ、ぃや…っ!!」 「…は?」 飛び込んできたのは信じられない光景だった。 カイコクが、嬲られている。 誰に? …パカに。 理解するより早く、ザクロは体が動いていた。 ナイフに手をかけ、確実にパカを殺そうとして…止まる。 「…っ!!やめろ!!!」 「…おや、遅いお目覚めでしたねぇ、忍霧様」 鋭いカイコクの声に、パカがぐりんとこちらを向いた。 「…鬼ヶ崎を離せ」 感情を押し殺してザクロは言う。 彼女がやめろと言ったから。 そう言い訳をしなければ殺してしまいそうだった。 「…。…本日はスーパーネコの日でございますよ、忍霧様」 「…。…何の、話だ」 またその話を持ち出したパカにザクロは睨む。 「いえ。…悪い子猫にはお仕置きを、と思いましてね」 「…っ!」 「っぅ、ふ…んぅ…っ!!」 パカが彼女の秘部に手を伸ばした。 必死に声を上げないように堪えているカイコクを、パカは責め立てる。 「進入禁止だと、私は申し上げました。それを何度も何度も破るのは貴方方では?」 「…そ、れは…」 「忍霧様。貴方は鬼ヶ崎様を一度は止めた。その事実はこちらも周知しております。それ故、執行猶予を与えましょう」 何の感情もない声でパカが言った。 執行猶予、と乾いたそれで繰り返す。 「いかにも。鬼ヶ崎様には、今猫耳がついております。この猫耳は脳波を操作して猫の鳴き声しか出せないようになっておりましてね。しかしながらこれだけではまだ作動しないのでございます。…こちらを、装着しなければ」 そう言って、パカが差し出したのは猫の尻尾だった。 先に目を背けたくなるくらいエグい大きさのバイブが着いている。 「それを、俺に付けさせる、と?」 「…選ぶのは忍霧様で御座いますよ。まあ、罰はそれなりに受けて頂くことになるかと存じますが」 「…っ、ふざけ…っ!!」 「…大事な人を見殺しにするほど…貴方は強くはないはずだ」 激昂するザクロにパカが言った。 それに大きく目を見開く。 被り物のせいで表情は見えないが…笑っているように、見えた。 パカはこう言っているのだ。 やらなければ、カイコクを犯し、嬲り殺す、と。 それがザクロにとってどれだけ大きな傷になるか知っていて。 震える手でバイブを掴む。 すまない、と小さな声で謝るザクロに、カイコクは無理矢理笑みを作った。 「…お前さんなら、大丈夫…だから」 へにゃ、と笑うカイコクを抱きしめる。 「ぁうっ、ふ、ぐ、んんぅ!!」 「…すまない、鬼ヶ崎…っ!」 奥に奥に突き刺し、ポロポロと涙を零すカイコクに囁き続けた。 コツン、と結腸に押し当たった所で手を離す。 「…鬼ヶ崎?」 「…にゃ、あ……」 熱い息を吐きながらカイコクが鳴いた。 へたりと今まで動いていなかった猫耳がへたっていて、無事に作動したのだな、とホッとする。 「お疲れ様でした、忍霧様。もう結構でございますよ」 「…は?」 パカのそれにザクロは呆けた顔をした。 だって、ここで彼女を手放すということは、それは。 「…。…鬼ヶ崎は俺のものだ」 「…おや」 ザクロは彼女を抱きしめながらマスクをずらし、口付ける。 「ぁふ、にゃ、ぁん、にぃ、ん、ぅあ…」 「…鬼ヶ崎様」 「…?!にゃ、に"ぁああっ?!!」 パカがバイブのスイッチを作動させた。 キスを止めたカイコクが泣きじゃくり、嫌々と首を振る。 いつの間に付けられたのだろう首輪の鈴がチリチリ鳴った。 喧しくてたまらない。 「…貴様!」 「鬼ヶ崎様へのお仕置きはまだ終わっておりません故」 騒音をかき消すよう怒鳴り睨むザクロにパカがしれっとそう言った。 ふざけるな、と思いながらザクロは自身を取り出す。 にゃあ、とか細い声が彼女の白い喉から震え出た。
今日は猫の日だ。 それも、スーパー猫の日。
おかしな行為をしていると気づかないのはその言葉と強すぎる脳波に充てられているのかそれとも。
可哀想な猫の行く末は、チリンと鳴った鈴だけが知っている。
司冬ワンライ・にゃんにゃんお/語呂合わせ
もう少しで猫の日だね、と最初に言ったのはえむだったか咲希だったか。 語呂合わせだと2人から教えられて、司は単純なものだなぁとそれだけを思った。 …そうだった、はずなのだけれど。 「…何故、こんな所に猫耳が…?」 楽屋に置いてあったそれに司は首を傾げた。 猫の日に因んで猫のショーがしたい!と張り切っていたえむだが、それにしては練習時間もないから、と諦めたのだ、それは覚えている。 じゃあ猫耳付けて子どもたちに風船を配るのはどうかと提案されてまあそれくらいなら、とは思ったが、わざわざ着ぐるみ達の仕事を取ることもあるまい、と猫の日は特別なことをするのはやめたのだ。 えむも咲希も残念がってはいたが、今やっているショーを中途半端にしてまでやることもなかろう。 役者が無理をせずその時できる最大級の力で、人々が笑顔になれるショーを作り上げることが目標なのだから。 そう、だから猫の日は何もしないことになった…はずなのだけれど。 「やあ、司くん」 「おわっ?!類!帰ったんじゃなかったのか?」 と、ひょこりと顔を出したのは類だった。 もう誰もいないと思っていたから思わず驚いてしまう。 「少し忘れ物をね。…それは?」 「見ての通り、猫耳だな。類の発明かと思ったのだが」 「流石の僕でも不用意に自分の発明品を置き忘れたりはしないよ。それに、見た所何の変哲もない猫耳のようだし…」 のぞき込んでいた類が小さく笑った。 あの類が言うなら猫耳は市販のものなのだろう。 「そういえば司くん。青柳くんと待ち合わせだと言っていたけれど、時間は良いのかい?」 「…しまった!!」 類の言葉に司はハッとした。 見れば時間が迫っている。 教えてくれた類に礼を言ってから駆け出した。 手に猫耳を掴んだまま。 「おおい、冬弥!」 「…司先輩」 ぼんやりと立っている冬弥に大声で呼びかける。 ふわ、と微笑んだ冬弥は、ふ、と首を傾げた。 「…。…先輩、それは?」 「え?ああ。…持ってきてしまったのか」 手にしたそれを指差した冬弥に説明をする前に少し好奇心が湧いて出る。 これを着けた冬弥は可愛いだろうな、と。 「…あの?」 「いや、語呂合わせで『猫の日』が近いらしくてな…」 「…ああ。…俺も暁山や白石から聞きました」 司の言い訳じみたそれに冬弥は小さく笑った。 そうして。 「…にゃん?」 手を招き猫の形にして、首を傾げる。 猫耳はついていないのに、頭上で揺れた…気がした。
にゃんにゃんにゃん。 本日、猫の日!
(可愛い冬弥が、より可愛くなってしまう日!)
「…あの、司先輩…?」 「…。…あまり可愛いことはしてはいけないぞ?男は狼なのだからな、分かったか、冬弥…!!」
KAITO誕
こんばんはー、初音ミクです! あたしは今何してるかって? えっとねぇ……。 「…ミク姉ぇ、ちょーっと顔貸してほしいんだけど…」 …実の弟機にカツアゲされるところかなっ☆
「えっ、お兄ちゃんの誕生日?」 レンくんのそれにあたしはきょとんとしてから笑ってしまった。 「なんだぁ、カツアゲされるかと思った」 「なんでだよ、しないよ」 「あははっ、だってレンくん必死な顔なんだもーん!」 けらけら笑っているとレンくんがちょっとムッとする。 「笑うなよ、おれは真剣なのに」 「ごめんごめん。っていうか、あたしで良いの?ルカちゃんとかのが確実だよ?」 「自分で言うなよな」 「だって事実だし」 「そうかもしんないけど、それはそれとしてミク姉ぇだって巻き込まレンカイしろよ!」 「巻き込まレンカイってなに?!!」 レンくんのセリフにびっくりしてしまった。 何その悪意しかない行為。 お兄ちゃんはともかくレンくんはなぁ。 「自分ばっか巻き込ミクルカしやがって」 「それは自覚ある」 「あるのかよ」 あたしの言葉にムスッとするレンくん…えへ♡ だって確かにあたしとルカちゃんのいちゃいちゃによく巻き込んでる覚えがあるもんなぁ。 「じゃあ巻き込まレンカイしてあげるけど…。うちじゃ、サプライズなしになったのに何を相談したいの?」 「サプライズじゃなくてプレゼントなんだけどさ、今年はアイスに合うお菓子を作ろうと思ったはいいんだけど…」 「けど?」 「…兄さんがめっちゃ手伝いたそうにそわそわしてる」 「…あー…」 言葉を濁すレンくんにあたしは遠い目をした。 お兄ちゃん、お菓子作りが好き(最早プロレベル)だからなぁ…。 レンくんも別に下手じゃないから、純粋に一緒に作りたいんだろうな。 「いっそ一緒に作れば?」 「おれやることなくなるし」 「じゃあ別の場所で作るしかなくない?」 「別の場所ぉ?」 あたしのそれにレンくんはちょっと意外そうな、また突拍子もない、と思ってるような声を出す。 だからあたしは、えへん!と胸を張った。 「んな場所どこに…」 「初音さんに借りれば良いんだよ!」 「いや、初音さん一緒に住んでるだろ」 「初音さんは初音さんにあらずだよ、レンくん!」 「はぁ…?…あ」 首を傾げたレンくんも正解が分かったようで声を出す。 眉を寄せるレンくんにあたしはピースを出してみせた。
「なんで許されると思った?初音さん」 「そこを何とか!!」 腕を組む相手にあたしは手を合わせる。 嫌そうな顔はあたしの先天性男性型亜種、初音ミクオくん。 亜種なんだけどあたしとは全然似てないから不思議だよね! 「いーじゃん!ミクオくんも、カイコちゃんにプレゼントするでしょ?」 「……。今回だけな」 はぁ、とため息を吐くミクオくん…なんだかんだ優しいよね! 「…何かすまん」 「…ま、姉さんにプレゼントが増えるのは吝かじゃないし」 ヒソヒソと男子が話してるのを流しつつあたしは材料を取り出した。 「つーか何作んの?」 「ブラウニーだよ!ルカちゃんからアイスに合う美味しいブラウニーの作り方教えてもらってきたんだから!」 「マジで?初音さん優秀じゃん」 「でしょ!ちなみに、カイコちゃんとルカちゃんはお兄ちゃんと買い物行ってもらってから3人で来る手筈です!褒めて良いよ!!」 「それはおれも行きたいから褒められないかな」 レンくんがあっさり言う横でミクオくんが激しく頷く。 すーぐ上げて落とすー。 「買い物ってことはすぐ帰ってくるな。何からやるんだ?」 「まずは生クリームとチョコを湯煎で溶かすからー…」 「初音さんを無視しないで?!!」 男子が始めちゃって思わず声を上げた。 レシピ調達は初音さんなんだから! そんなこんなで、ブラウニー作りが始まった。
甘い香りが漂う。 無事に完成したブラウニーは味も上々だった。 インスタントコーヒー入れたから多少バニラアイスが甘過ぎても大丈夫そう。 「ただいまぁ、ミクオくん!あ、いらっしゃい、ミクちゃん、レンくん」 「こんにちは、お邪魔いたしますわ、ミクオさん」 「おじゃまします…あれ、レン?それにミクも」 丁度良いタイミングでお兄ちゃん達が帰ってくる。 「おかえり、姉さん。いらっしゃい、ルカさん、カイトさん。買い物ありがとう」 「うん、それは良いけど…どうしてレンとミクが?」 ニコっと笑うミクオくんにお兄ちゃんが首を傾げた。 その手をレンくんが引く。 「兄さんの誕生日プレゼント用意してたの。上手く出来たから食べてみてよ」 「レンが?…ありがとう、嬉しいよ」 ちょっとびっくりしていたお兄ちゃんがへにゃっと笑った。 あんまりあたしたちには見せない顔だなあ、なんて。 あーあ、しっかり巻き込まレンカイしちゃったなぁ! 「姉さんにはオレが作ったから、後で食べような」 「本当?ありがとう、ミクオくん!嬉しいな」 ミクオくんのそれにカイコちゃんも嬉しそうに微笑む。 二組の様子を見ていたルカちゃんがふふっと笑って。 「…大成功ですわね、ミク姉様?」 そう、柔らかくあたしに囁いた。
大好きなお兄ちゃんと、カイコちゃんの16回目の記念の日。 やってることは毎年変わらなくても、幸せそうな顔が見られるだけで良かったなぁって思ったり。 「…ま、巻き込まレンカイもたまには有りだよね」 小さくつぶやいたあたしはルカちゃんににこっと笑いかけたのだった。
あ、この後はもちろん美味しくいただきましたよ、色んな意味でね!
ザクカイ♀️バレンタイン
2月14日。 恋する乙女なら…いや、恋しない男もだろう…そわそわしてしまう日。 だと、ザクロは思っていたのだが…。 「なァ、忍霧ぃ」 「…なんだ?」 「これとこれ、どっちが良いと思う?」 彼女が持っているのは煮干しの袋だった。 どっちでも良くないか、という言葉をザクロは頑張って飲み込む。 今日は煮干しの日だ。 ゲノムタワーに来てから、カイコクに教えてもらった。 …別に知らなくても良かったのだけれど…。 まあ彼女が好きなものを知ることができたのは正直嬉しい。 嬉しいが、今日でなくても良かったのに。 「忍霧ー?」 呼びかけられ、ザクロはハッとする。 それからすぐ、「何が違うんだ?」と聞いてやった。 途端、目を輝かせ、これはな、と教えてくれる。 歳相応な様子の彼女に、まあ良いかとザクロは思った。 朝から一緒に出かけてくれないか、なんて誘われた時にはバレンタインデートかとドキドキしたのだが…そうは上手く行かないらしい。 思っていたのとは違うが、カイコクが楽しそうならばそれはそれでありなのでは、と思うようにした。 彼女が好きなものを一緒に選ぶ、なんてデート以外の何物でもない…中身はチョコではなく煮干しだが。 つれて来られたのはゲノムタワーの1階、お土産フロア、なんて書かれた場所で何でもあるな、とザクロはそんな場合でもないのに感心してしまった。 「好きならばどちらも買えば良いのではないか?」 「…いや、せっかくの煮干しの日なんだ。一番良いものを食いてぇだろ?」 へにゃ、と笑うカイコクにそういうものか、と思う。 ならば、とザクロは1つを指差した。 「俺は、こちらのほうが良いと思う。値段の割にたくさん入っているし、あっさりしているとたくさん食べてしまうだろう。…長く楽しみたいなら味が濃いほうが良いのではないか?貴様が好きな緑茶とも合いそうだ」 「…なるほど、一理あるな」 ザクロのそれにふむ、と考えた彼女が笑い、指差した方ではないものを棚に戻す。 買ってくる、と笑うカイコクを見送り、ザクロは「プレゼントした方が良かったのでは」とふと思いついてしまった。 否定した方をプレゼントするのもどうかとは思うが…と悩んでいれば、すぐに戻ってきた彼女が首を傾げる。 「待たせー…何やってんだ?」 「いや、別に」 「はっはーん、忍霧も食いてぇんだろ!」 さら、と長い髪を靡かせ、カイコクがザクロの手を握った。 「え、いや、ちが」 「遠慮すんな!…しゃーなし、一緒に食わせてやる」 イタズラっぽい顔で笑う彼女は、それとも、と何かを差し出す。 ザクロの目の前にあるのは紫色の可愛らしい箱。 …まさか、と目を丸くすればカイコクは勝ったとばかりに笑った。 …嗚呼、今年もやられてしまったなんて。 「こっちがお目当てかい?…なぁ、ザクロくん」
素直じゃないカイコクがくれる、チョコレート。 煮干しの日に、隠れた…
本日、バレンタインデー!!
マキノ誕生日
そういえば今日は誕生日だ。 誰の? もちろん、自分の。 いつもは忘れがちだし、そも、自分のことにあまり興味はないマキノだが、このゲノムタワーに来てから毎年きちんと思い出すのはこの男のお陰だった。 「…逢河ァ」 ふわ、と笑って部屋にやってきたのはその男、鬼ヶ崎カイコクだ。 美味しいというお茶と茶菓子…彼が苦手だから甘いものはほぼないが…を持参して部屋にやってくる彼は、部屋では特に何もしない。 マキノの部屋にある本を読んだり、少し話したり、いろいろだ。 日付が変わる少し前にやってきて、日付が変わった少し後に「おめっとさん」と笑みを見せ頭をなでてくれる。 誕生日プレゼントと呼ばれるだろうものはそれくらいで、朝になれば彼は自室に帰ってしまうのだ。 なんだか猫みたいだなぁ、と思う。 朝が来ればいつも通りで、マキノの誕生日を一番に祝ってくれたなんてお首にも出さないのだ。 「…ねぇ、カイコッくん」 「んー?なんでェ」 「好きだよ」 「…っ、そりゃ、どうも」 今日もお茶を淹れてくれてからマキノの部屋にある本を読もうとしていた彼にそう言えば、一瞬固まったがすぐにへらりと笑った。 カイコクはそういうところがある。 本心を見せないというかなんというか。 そういう所も猫らしいと、マキノは思う。 「カイコッくんは?」 「んー?」 「カイコッくんは、僕の事、好き?」 彼のことを見て、こてりと首を傾げた。 マキノは言葉より目で語る方が得意だ…あまり自覚はないけれど。 カイコクの方は目で訴えられるのが苦手なようで、ふいとすぐ目をそらす。 今日は本で顔を隠してしまった。 いつもならばそれで諦めてしまうが今日はカイコクの口から聞きたかったのだ。 じぃっと見つめていれば、彼は小さく息を吐いた。 「…嫌いなら、こんな風に一緒にいたりはしねぇだろ」 珍しくごにょごにょと口篭るが、今日はそれで終わらせたくない。 言葉を待っていればふっとカイコクが近づいてきた。 頬に軽く触れるそれ。 「…とりあえず勘弁してくんなァ」 許してくれ、と言わんばかりの言葉にマキノは頷いた。 望んだ言葉は聞けなかったが、それでも嬉しかったのだ。 それに。 「…お祝い、してくれるだけで嬉しいよ」 「…おう」 目を細めるマキノに、カイコクも笑った。
いつもの言葉がマキノに囁かれる。 「おめっとさん」なんて、素っ気ない彼の、優しい言葉が。
マキノにとってそれは…最高の…プレゼント。
(素直でない彼からの、愛のメッセージ!)
司冬ワンライ/バレンタイン前夜・好きな人
明日はバレンタインだ。 つまりは本日バレンタイン前夜。 まあ司にとってはあまり関係のない日ではあるのだが。 確かに去年は咲希が家族に、と作ってくれた。 学校でも義理チョコだといってもらうにはもらうけれどそんな大層気持ちを込めた、所謂本命チョコ、はもらったことがない。 …と、咲希に言えば「…お兄ちゃん、案外鈍感だもんねー」と笑われてしまったが。 「?そんな、気合いが入ったチョコもらったか?」 「気付いてなかったの?もう付き合ってるから教えてあげるけど、とーやくんのは多分本命チョコだったよ??」 きょとん、とする咲希に司は目を丸くする。 昔からの付き合いで、最近になってようやっと恋人同士になった冬弥は、たしかに毎年お世話になっているから、とチョコレートをくれていた。 言葉の意味そのままを捉えていたのだが…まさか。 「とーやくん、ピアノとバイオリンの練習で忙しかったんだけど、お兄ちゃんに渡すチョコだけは自分で買いに行かせて貰っていたんだって」 「…しかし、咲希も貰っていただろう?」 「あれはしょーしんしょーめーの義理チョコだよ!前に、病院にチョコを届けに来てくれた時あったでしょ?」 「ああ、あったな!」 咲希のそれに、司は大きく頷いた。 自宅にチョコレートを届けに来てくれた冬弥が咲希の分も持ってきてくれ、渡しておいてください、なんて言うものだから「直接渡してやってくれ!その方が喜ぶ!」と病院に連れて行ったのだ。 「お兄ちゃんは自分の分のチョコ忘れちゃって取りに戻ったじゃない?その日ね、とーやくん、チョコを渡すだけですぐ帰るつもりだったんだって」 「む、そうだったのか」 笑う妹のそれに司は初めて知った、と小さく声を出す。 もし早く帰る用事があったなら悪いことをしてしまった。 「ちょっと時間もらってたから大丈夫、だって言ってたよ。で、ね。その時、お兄ちゃん宛のチョコも持ってたから預かろうかって言ったら、自分で渡したいって」 ふふ、と楽しそうに咲希が笑う。 その時のことを思い出しているようだ。 随分幸せな記憶らしい。 「咲希?」 「うーうん!お兄ちゃんは愛されてるなぁって思っただけだよ!」 にこっと笑った咲希に疑問をぶつけようとしたその時、電話が鳴った。 「?すまん、…冬弥?」 「ふふー、愛されてるね、お兄ちゃん!」 電話主は話題に出していた冬弥で。 明るく笑った咲希が、そう言って階段を上がっていく。 「…もしもし?」 それを見送り、電話に出た。 『もしもし。司先輩、今少し宜しいですか?』 「ああ、大丈夫だ!どうかしたのか?」 『いえ。先輩はビターチョコレートとミルクチョコレートだったらどちらがお好きかと思いまして…』 「?オレはどちらも好きだぞ!強いて言うならミルクの方が好みだろうか。何故そんなことを?」 『…好きな人の、好きな味のチョコレートを、作りたいですから』 冬弥の小さな声は、耳にダイレクトに届く。 聞き返そうとする司に、冬弥はありがとうございます、と電話を切ってしまった。 残されたのは彼の言葉と妹の言葉を重ね合わせてようやっと理解した司で。
本日、バレンタイン前夜。 こんなにそわそわするのは…生まれて初めてだ、と空を仰いだ。
「とーやくんがあんな可愛い顔するなんて、まだしばらくアタシだけのヒミツでいいよね!!」
司冬ワンライ・お土産/待ち時間
先日アメリカに行ったからお土産を、と冬弥に電話すると「丁度練習が終わったので取りに伺いますね」と嬉しそうな声に、司も思わず笑顔になった。 冬弥が嬉しそうなのはお土産をもらえるから、ではない。 本人が「久し振りに司先輩にお会い出来るのが嬉しいです」と言っていたのだ。 「先輩、アメリカのお話、たくさん聞かせてくださいね」とも。 だから、外にいる冬弥に司が届けに行くのではなく、冬弥から来てもらうことにしたのだ。 家の中なら、気兼ねなくたくさん話ができるから。 何の話をしよう、と司はわくわくする。 やはり、本場のショーを見た話だろうか。 それとも迷子の少女を助けた話か、ライリー氏の話か。 彼の遊園地が本物志向で素晴らしかった話もしたい。 飛行機に乗った話はあまりしないでおこう…冬弥は高所恐怖症なのだし。 代わりに、類の英語が堪能で驚いた話をしよう、と決めたところで時計を見上げる。 司が冬弥に電話してからまだ5分と経っていなかった。 まだ来ないのだろうか。 早く会いたい。 早く会って話がしたい。 そういえば最後に会ったのはいつだったか。 「咲希!少し冬弥を迎えに行ってくる!」 「あれ?とーやくん、来てくれるんじゃなかったの?」 「いや、やはり来てくれるのを待つばかりでは、スターとしてのメンツが立たんというものだろう!」 「そっか、幸せは歩いてこない、だから歩いて行くんだねっていうもんね!」 「うむ、その通り!」 楽しそうな妹に頷き、司は外に出た。 待ち時間は苦手だ。 そわそわして、早く行動したいと思ってしまうから。
(愛しい人に早く会いたいのは、当然のことだろう?!)
「お、冬弥!久し振りだな!!」 「司先輩?!迎えに来てくださったんですか?」 「ああ!スターとして、お土産を早く渡したいのは当然…いや、違うな。オレが、愛している冬弥に早く会いたかったから迎えに来た!…会いたかったぞ、冬弥」 「…!俺も、早く会いたかった、です」
バースデーザクカイ
ゲノムタワーの上の方で音がする。 日付を超えた合図だろう、とザクロは身を起こした。 「…鬼ヶ崎」 「…。…ん」 「鬼ヶ崎」 「…なんで、ぇ…」 隣でうとうとと微睡んでいたカイコクを揺り起こす。 少々迷惑そうな顔でこちらを向いた彼の唇に、軽く口付けた。 「…誕生日、おめでとう」 「…。…ああ」 ザクロのそれにカイコクはややあってからふにゃりと笑う。 彼の誕生日にこうして祝うことは、もはや当たり前になりつつあった。 「お前さんも、毎年律儀だねぇ」 「貴様が言うのか、それを」 くすくすと笑いながら互いに言う。 確かに毎年祝っているが、それはカイコクが先に祝ってくれるからだ。 「クリスマスは盛大に祝っといて、お前さんの誕生日はやらねぇってわけにゃいかねぇだろ」 彼がそう言って軽く笑う。 そういう、何でもないことを当たり前にしてくれるカイコクが好きなのだ。 …本人には伝える気は毛頭ないが。 それを隠してザクロも笑みを浮かべてみせる。 「それは俺も同じだな。…節分は行うのに貴様の誕生日を祝うことはしないのもおかしな話だろう」 「…。…今年の節分何すんだ?」 「知らん…が、パカが手巻き寿司砲を作ると張り切ってはいたな」 「…なん、なんでぇそりゃ」 ザクロのそれにカイコクは怪訝な顔をした。 それに首を振って、知らないことを伝える。 「それは明日になれば分かるだろう。…で?」 「ん?」 「貴様はプレゼント、何が欲しいんだ」 首を傾げるカイコクにそっと囁いた。 目を見開いた彼はふは、と笑う。 「去年までとは違うじゃねぇか」 「まあな。貴様はサプライズは嫌いだろう。ならば、直接聞いたほうが早いからな」 「違いねェ」 くすくすと肩を揺らすカイコク。 別に贈ってきた物を喜ばなかったわけではない。 だが、どうせなら彼が一番欲しいものを贈りたくなったのだ。 さんざ迷ってはいたが、そういうものは聞いてみたほうが早いと開き直った。 「それで、何が良いんだ?何でも、とはいかないがそれなりに…鬼ヶ崎?」 「…ん」 聞くザクロに、カイコクが両手を広げる。 不思議に思いながらその腕の中に体を沈めれば彼は満足そうに微笑んだ。 「は?え?おい、鬼ヶ崎?!」 「…」 焦るのはザクロだけで、カイコクはそのまま眠ってしまう。 体の良いだきまくらが欲しかったのかそれとも。 「…勘弁してくれ」 可愛らしい寝顔をザクロに見せるカイコクに、思わずそう呟く。 彼の安眠と引き換えに、今日は眠れそうもないな、と思った。
(警戒心の強い猫みたいなカイコクに
誕生日くらい、穏やかな安眠を)
「…ぅ、ん…ん?は、え?忍霧??」 「おはよう、鬼ヶ崎。…プレゼントは気に入ったようだな」
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