マキノ誕生日

そういえば今日は誕生日だ。
誰の?
もちろん、自分の。
いつもは忘れがちだし、そも、自分のことにあまり興味はないマキノだが、このゲノムタワーに来てから毎年きちんと思い出すのはこの男のお陰だった。
「…逢河ァ」
ふわ、と笑って部屋にやってきたのはその男、鬼ヶ崎カイコクだ。
美味しいというお茶と茶菓子…彼が苦手だから甘いものはほぼないが…を持参して部屋にやってくる彼は、部屋では特に何もしない。
マキノの部屋にある本を読んだり、少し話したり、いろいろだ。
日付が変わる少し前にやってきて、日付が変わった少し後に「おめっとさん」と笑みを見せ頭をなでてくれる。
誕生日プレゼントと呼ばれるだろうものはそれくらいで、朝になれば彼は自室に帰ってしまうのだ。
なんだか猫みたいだなぁ、と思う。
朝が来ればいつも通りで、マキノの誕生日を一番に祝ってくれたなんてお首にも出さないのだ。
「…ねぇ、カイコッくん」
「んー?なんでェ」
「好きだよ」
「…っ、そりゃ、どうも」
今日もお茶を淹れてくれてからマキノの部屋にある本を読もうとしていた彼にそう言えば、一瞬固まったがすぐにへらりと笑った。
カイコクはそういうところがある。
本心を見せないというかなんというか。
そういう所も猫らしいと、マキノは思う。
「カイコッくんは?」
「んー?」
「カイコッくんは、僕の事、好き?」
彼のことを見て、こてりと首を傾げた。
マキノは言葉より目で語る方が得意だ…あまり自覚はないけれど。
カイコクの方は目で訴えられるのが苦手なようで、ふいとすぐ目をそらす。
今日は本で顔を隠してしまった。
いつもならばそれで諦めてしまうが今日はカイコクの口から聞きたかったのだ。
じぃっと見つめていれば、彼は小さく息を吐いた。
「…嫌いなら、こんな風に一緒にいたりはしねぇだろ」
珍しくごにょごにょと口篭るが、今日はそれで終わらせたくない。
言葉を待っていればふっとカイコクが近づいてきた。
頬に軽く触れるそれ。
「…とりあえず勘弁してくんなァ」
許してくれ、と言わんばかりの言葉にマキノは頷いた。
望んだ言葉は聞けなかったが、それでも嬉しかったのだ。
それに。
「…お祝い、してくれるだけで嬉しいよ」
「…おう」
目を細めるマキノに、カイコクも笑った。

いつもの言葉がマキノに囁かれる。
「おめっとさん」なんて、素っ気ない彼の、優しい言葉が。

マキノにとってそれは…最高の…プレゼント。


(素直でない彼からの、愛のメッセージ!)

司冬ワンライ/バレンタイン前夜・好きな人

明日はバレンタインだ。
つまりは本日バレンタイン前夜。
まあ司にとってはあまり関係のない日ではあるのだが。
確かに去年は咲希が家族に、と作ってくれた。
学校でも義理チョコだといってもらうにはもらうけれどそんな大層気持ちを込めた、所謂本命チョコ、はもらったことがない。
…と、咲希に言えば「…お兄ちゃん、案外鈍感だもんねー」と笑われてしまったが。
「?そんな、気合いが入ったチョコもらったか?」
「気付いてなかったの?もう付き合ってるから教えてあげるけど、とーやくんのは多分本命チョコだったよ??」
きょとん、とする咲希に司は目を丸くする。
昔からの付き合いで、最近になってようやっと恋人同士になった冬弥は、たしかに毎年お世話になっているから、とチョコレートをくれていた。
言葉の意味そのままを捉えていたのだが…まさか。
「とーやくん、ピアノとバイオリンの練習で忙しかったんだけど、お兄ちゃんに渡すチョコだけは自分で買いに行かせて貰っていたんだって」
「…しかし、咲希も貰っていただろう?」
「あれはしょーしんしょーめーの義理チョコだよ!前に、病院にチョコを届けに来てくれた時あったでしょ?」
「ああ、あったな!」
咲希のそれに、司は大きく頷いた。
自宅にチョコレートを届けに来てくれた冬弥が咲希の分も持ってきてくれ、渡しておいてください、なんて言うものだから「直接渡してやってくれ!その方が喜ぶ!」と病院に連れて行ったのだ。
「お兄ちゃんは自分の分のチョコ忘れちゃって取りに戻ったじゃない?その日ね、とーやくん、チョコを渡すだけですぐ帰るつもりだったんだって」
「む、そうだったのか」
笑う妹のそれに司は初めて知った、と小さく声を出す。
もし早く帰る用事があったなら悪いことをしてしまった。
「ちょっと時間もらってたから大丈夫、だって言ってたよ。で、ね。その時、お兄ちゃん宛のチョコも持ってたから預かろうかって言ったら、自分で渡したいって」
ふふ、と楽しそうに咲希が笑う。
その時のことを思い出しているようだ。
随分幸せな記憶らしい。
「咲希?」
「うーうん!お兄ちゃんは愛されてるなぁって思っただけだよ!」
にこっと笑った咲希に疑問をぶつけようとしたその時、電話が鳴った。
「?すまん、…冬弥?」
「ふふー、愛されてるね、お兄ちゃん!」
電話主は話題に出していた冬弥で。
明るく笑った咲希が、そう言って階段を上がっていく。
「…もしもし?」
それを見送り、電話に出た。
『もしもし。司先輩、今少し宜しいですか?』
「ああ、大丈夫だ!どうかしたのか?」
『いえ。先輩はビターチョコレートとミルクチョコレートだったらどちらがお好きかと思いまして…』
「?オレはどちらも好きだぞ!強いて言うならミルクの方が好みだろうか。何故そんなことを?」
『…好きな人の、好きな味のチョコレートを、作りたいですから』
冬弥の小さな声は、耳にダイレクトに届く。
聞き返そうとする司に、冬弥はありがとうございます、と電話を切ってしまった。
残されたのは彼の言葉と妹の言葉を重ね合わせてようやっと理解した司で。


本日、バレンタイン前夜。
こんなにそわそわするのは…生まれて初めてだ、と空を仰いだ。



「とーやくんがあんな可愛い顔するなんて、まだしばらくアタシだけのヒミツでいいよね!!」

司冬ワンライ・お土産/待ち時間

先日アメリカに行ったからお土産を、と冬弥に電話すると「丁度練習が終わったので取りに伺いますね」と嬉しそうな声に、司も思わず笑顔になった。
冬弥が嬉しそうなのはお土産をもらえるから、ではない。
本人が「久し振りに司先輩にお会い出来るのが嬉しいです」と言っていたのだ。
「先輩、アメリカのお話、たくさん聞かせてくださいね」とも。
だから、外にいる冬弥に司が届けに行くのではなく、冬弥から来てもらうことにしたのだ。
家の中なら、気兼ねなくたくさん話ができるから。
何の話をしよう、と司はわくわくする。
やはり、本場のショーを見た話だろうか。
それとも迷子の少女を助けた話か、ライリー氏の話か。
彼の遊園地が本物志向で素晴らしかった話もしたい。
飛行機に乗った話はあまりしないでおこう…冬弥は高所恐怖症なのだし。
代わりに、類の英語が堪能で驚いた話をしよう、と決めたところで時計を見上げる。
司が冬弥に電話してからまだ5分と経っていなかった。
まだ来ないのだろうか。
早く会いたい。
早く会って話がしたい。
そういえば最後に会ったのはいつだったか。
「咲希!少し冬弥を迎えに行ってくる!」
「あれ?とーやくん、来てくれるんじゃなかったの?」
「いや、やはり来てくれるのを待つばかりでは、スターとしてのメンツが立たんというものだろう!」
「そっか、幸せは歩いてこない、だから歩いて行くんだねっていうもんね!」
「うむ、その通り!」
楽しそうな妹に頷き、司は外に出た。
待ち時間は苦手だ。
そわそわして、早く行動したいと思ってしまうから。

(愛しい人に早く会いたいのは、当然のことだろう?!)


「お、冬弥!久し振りだな!!」
「司先輩?!迎えに来てくださったんですか?」
「ああ!スターとして、お土産を早く渡したいのは当然…いや、違うな。オレが、愛している冬弥に早く会いたかったから迎えに来た!…会いたかったぞ、冬弥」
「…!俺も、早く会いたかった、です」

バースデーザクカイ

ゲノムタワーの上の方で音がする。
日付を超えた合図だろう、とザクロは身を起こした。
「…鬼ヶ崎」
「…。…ん」
「鬼ヶ崎」
「…なんで、ぇ…」
隣でうとうとと微睡んでいたカイコクを揺り起こす。
少々迷惑そうな顔でこちらを向いた彼の唇に、軽く口付けた。
「…誕生日、おめでとう」
「…。…ああ」
ザクロのそれにカイコクはややあってからふにゃりと笑う。
彼の誕生日にこうして祝うことは、もはや当たり前になりつつあった。
「お前さんも、毎年律儀だねぇ」
「貴様が言うのか、それを」
くすくすと笑いながら互いに言う。
確かに毎年祝っているが、それはカイコクが先に祝ってくれるからだ。
「クリスマスは盛大に祝っといて、お前さんの誕生日はやらねぇってわけにゃいかねぇだろ」
彼がそう言って軽く笑う。
そういう、何でもないことを当たり前にしてくれるカイコクが好きなのだ。
…本人には伝える気は毛頭ないが。
それを隠してザクロも笑みを浮かべてみせる。
「それは俺も同じだな。…節分は行うのに貴様の誕生日を祝うことはしないのもおかしな話だろう」
「…。…今年の節分何すんだ?」
「知らん…が、パカが手巻き寿司砲を作ると張り切ってはいたな」
「…なん、なんでぇそりゃ」
ザクロのそれにカイコクは怪訝な顔をした。
それに首を振って、知らないことを伝える。
「それは明日になれば分かるだろう。…で?」
「ん?」
「貴様はプレゼント、何が欲しいんだ」
首を傾げるカイコクにそっと囁いた。
目を見開いた彼はふは、と笑う。
「去年までとは違うじゃねぇか」
「まあな。貴様はサプライズは嫌いだろう。ならば、直接聞いたほうが早いからな」
「違いねェ」
くすくすと肩を揺らすカイコク。
別に贈ってきた物を喜ばなかったわけではない。
だが、どうせなら彼が一番欲しいものを贈りたくなったのだ。
さんざ迷ってはいたが、そういうものは聞いてみたほうが早いと開き直った。
「それで、何が良いんだ?何でも、とはいかないがそれなりに…鬼ヶ崎?」
「…ん」
聞くザクロに、カイコクが両手を広げる。
不思議に思いながらその腕の中に体を沈めれば彼は満足そうに微笑んだ。
「は?え?おい、鬼ヶ崎?!」
「…」
焦るのはザクロだけで、カイコクはそのまま眠ってしまう。
体の良いだきまくらが欲しかったのかそれとも。
「…勘弁してくれ」
可愛らしい寝顔をザクロに見せるカイコクに、思わずそう呟く。
彼の安眠と引き換えに、今日は眠れそうもないな、と思った。


(警戒心の強い猫みたいなカイコクに


誕生日くらい、穏やかな安眠を)




「…ぅ、ん…ん?は、え?忍霧??」
「おはよう、鬼ヶ崎。…プレゼントは気に入ったようだな」

司冬ワンライ・ライブの後で/高揚感

珍しく冬弥がライブに誘ってくれた。
今までは司もショーがあるからなかなか行けなかったのだが、今回はばっちり時間を合わせることができたのである。
司も楽しみにしていたし、冬弥も嬉しそうに小さく手を振ってくれた(隣りに居た彰人は嫌そうだったが)
そして、端的に、簡素に言おう。
凄いライブだった。
まだ身体が高揚している。
自分も何かやりたいと、歌って踊ってみんなを笑顔にしたいと。
自分がショーをやった後とはまた違う高揚感が身体を包んでいた。
歌がうまいのは知っていたし一緒に歌ったこともあるが、まさかあんなパフォーマンスまで覚えているとは。
見たことがなかった冬弥の一面にゾクゾクした。
一刻も早く冬弥に会いたい。
会って、会って…それから?
「…司先輩!」
「冬弥!」
ぐるぐると考えていればトーンの高い冬弥の声が司の耳に届いた。
振り返れば頬を紅潮させた冬弥がいて。
「来てくださってありがとうこざいま…うわっ?!」
「凄いライブだったな!いつもあんなパフォーマンスをしているのか?!」
ぐいっと手を掴み、人気のないところに引き込む。
感想とは呼べない、熱量だけは篭ったそれをぶつければ驚いた顔をしていた冬弥が、ふは、と笑った。
「…先輩からそう言ってもらえて、良かったです」
「む?」
「俺としても、最高のパフォーマンスが出来たと思っていますので。…それが伝わって、良かった」
「…冬弥」
柔らかく微笑む冬弥は、普段より儚く、可愛らしくて。
彼を引っ張って、キスをした。
生まれた高揚感を分け与えるように。
冬弥が持つ、ライブが終わった後の高揚感を奪い取るように。
「…ん、はぁ、ぅ……」
「…冬弥?」
ぎゅう、と掴まれる服に口を離せば、冬弥は目を潤ませぽやりとこちらを見ていた。
少し向こうでは他の人のライブが始まっていて。
熱気と、背徳感とがごちゃまぜになったそれが司を蝕む。
「流石にこのまま帰すのは不味いな」
言い訳するように小さく呟き、再び口付けた。


ライブの後で、なんて言ってやれない自分もまだまだだな、と自嘲した。


(あんな可愛い顔の冬弥を、放り出せるわけがなかろう!)

ルカ誕生日

あ、どうも、鏡音レンで…。
「あっ、レンくんだぁ!ちょっと来て…」
「ボクハ鏡音レンデハアリマセン」
「さっきまで流暢に喋ってたでしょ?!」
もー!というのは電子の歌姫初音ミクことミク姉ぇだ。
普通にしてりゃ世間一般の初音ミクと変わらないのに、あることが絡むと面倒くせぇんだよな。
「ほらー、早く早く!」
「何、もー…」
引っ張られるままミク姉ぇの部屋に連れて行かれる。
そこには。
「あら?レンじゃない」
「アドバイザーってレンのこと?」
「…お邪魔しました!」
「レンくん待って!!!」
キョトンとしたメイ姉ぇと首を傾げるリンがいて、おれはすぐさま部屋を出ようとした。
ぜぇったい面倒くせぇ気しかしない!!!
「お兄ちゃんの、激レアショットあげるから!」
「はあ?!何勝手に撮ってんのさ何の写真?!」
「レンくんの曲聴きながらもだもだしてるお兄ちゃん」
「あ、あたしもあるよー!最近出たレンのぬいぐるみにキスしてるやつ!」
「あら、私もあるわよ。レンの服抱きしめて寝てるの」
「兄さんガバガバ過ぎないかなぁあもぉお何なりとお申し付けくださいませ!!!」
差し出される賄賂におれは膝をつく。
こうなりゃおれは女性陣の言いなりでしかないもんな。
「そういえばルカたんは?」
「さっき兄さんの誕生日ケーキ作り手伝ってた。なんか、今年はルカ姉ぇの好きなものをアイシングクッキーで飾るらしくて、デザイン一緒に考えてたよ」
きょろきょろと周りを見回すリンに言えばメイ姉ぇが首を傾げた。
「…。…毎年毎回思うけど、カイトもボーカロイドよねぇ…?」
「お姉ちゃん自信持って。お兄ちゃんもちゃんとボーカロイドだよ!」
「ちゃんとって何さ」
グッと拳を握るミク姉ぇに、冷静に突っ込む。
ちゃんとも何も兄さんはボーカロイドだろ。
「まあ、カイ兄ぃのパティシエぷりは置いといて」
「置いとくなよ」
「置いとかないと先に進まないのよ?レン」
「わぁ、正論ありがとうメイ姉ぇ」
そんなド正論におれは棒読みの感謝を述べる。
ま、今日の議題はそれじゃないだろうし。
「で?何アドバイスすりゃいいわけ。今年はサプライズしないんだろ?」
とりあえずぐるりと三人を見回した。
そう、今日はルカ姉ぇの誕生日。
毎年毎年サプライズを決行してきたけどそろそろネタがなくなってきたのと確実にバレるからってんので、なしになったんだよな。
まあ、ひとつ屋根の下でバレない方がおかしいけどさ(ミク姉ぇみたいに忘れてるのは置いといて)
「ええ、サプライズはしないわ」
「んじゃあ何…」
「スケジュールを立てたから見てほしいんだよねー!」
「ねー!」
頷くメイ姉ぇに嫌な顔をして見せれば、リンとミク姉ぇが楽しそうに言った。
はぁ、スケジュールねぇ?
受け取った髪を広げてみる。
なになに?えぇと…。
「『日付が変わった瞬間、三人で部屋に入ってバースデーソングを歌う、その後はプレゼントタイム』。まあいいんじゃね?後は『仮眠を取ってから朝ごはん兼昼ごはん』。兄さんはどうか分からないけどおれは許容範囲だな。『食事が済んだらデート、1時間につき1人、計3ヶ所を巡る』。うん、良いんじゃね?1時間って割と短いけどな。『最後に家に帰ってみんなでお祝い、ケーキを食べる』。悪くないと思うけど」
「でっしょー!じゃあこれで…」
「待て待て待て、おかしいところが一つある」
ひゃっほう!とテンションが上がるリンをおれは止める。
なぁに?と首を傾げるリンに、おれは紙の一番上を指差した。
「ここ、『1人2時間のいちゃいちゃタイム』って何」
「え、そりゃあいちゃいちゃタイムだけど」
「めくるめくオトナの時間ってやつだよね」
「愛を語り合う夜時間、とも言うかしら?」
「仮にも青少年設定のボーカロイド相手に何言ってんの?!」
不思議そうな三人におれはツッコむ。
まあ直球で来られるよりマシだけどさぁ?!!
「レンくんだってお兄ちゃんとするのに?」
「それとこれとは話が別だし一対一じゃん。一対三とは訳が違うじゃん」
「一緒だよぅ」
「ルカ姉ぇが可哀想だろ!!」
「三人同時ってわけじゃないんだし…待って、それも有りね…」
「メイ姉ぇは自重して?!」
ふむ、と考えるメイ姉ぇ。
そこが暴走されたら困るんだけど!
「あら、冗談よぉ」
「ったく…。…つーか、ルカ姉ぇに聞いたら良いじゃん」
カラカラと笑ったメイ姉ぇに、息を吐きだしてからそう言う。
これ以上巻き込まれるのはごめんだし。
「何聞くの?三人でやって良いか?」
「なんでだよ。このスケジュールで良いか聞くの。どうせサプライズじゃないんだろ」
「まあそうだけど」
首を傾げるミク姉ぇに言えばちょっと悩み出した。
え、そこ悩む?
…と。
「失礼します。ミク姉様、カイト兄様が…あら、全員いらしたんですのね」
コンコン、と響くノックの後ほんの少し開かれた扉の先には本日の主役、ルカ姉ぇがいた。
「ちょうど良かった。ルカ姉ぇ、これ見て」
「…?はい」 
「あぁあ?!待って待って!」
「まだ良いとは言ってないわよ?!」
「ルカちゃんもストーップ!」
紙を受け取るルカ姉ぇと、響く三人の声。
あら、とルカ姉ぇが笑う。
「ふふ、素敵なバースデーにしてくださってありがとうございます。けれど、カイト兄様の朝ごはんと昼ごはんはしっかり食べたいですわ。それに、デートも1人につき2時間は一緒にいたいですし、余韻にも浸りたいです。ですから…」
キュ、キュ、と赤いペンで訂正を入れていたルカ姉ぇが何かを書き足した。
にこりと笑うルカ姉ぇに、あー、あの三人に愛されてるだけあるなぁ、と思う。
「最初に3時間、夜にまた3時間で…どうでしょうか?」



本日、ルカ姉ぇの誕生日。
存外愛されたがりだよなぁ、なんて思いながらおれはそっと部屋を出る。

ま、メイ姉ぇもミク姉ぇもリンも、愛したがりだから丁度良いと思うけどな!

(所謂、お似合いってやつ!)


「…兄さん、んな所でしゃがみこんで何やってんの?」
「…ううん、なんでも。レンが何を持ってるのかちょっと気になっただけだよ?」

司冬ワンライ/ゲーム・お菓子

お菓子を作るゲームがあるんだよ!と言ったのは咲希だったかえむだったか。
もしかしたら両方だったかもしれない。
楽しそうだな、と言う司に、「じゃあアプリ入れてあげる!」と入れてくれたのだ。
最初は暇つぶしに、と思っていたのだが、なかなかどうして難しいのである。
本当のお菓子作りと引けを取らないくらいには様々なバランスが必要だ。
少しでも材料が多かったり少なかったりすればすぐに失敗してしまう。
「…司先輩?」
「ん、おお、冬弥か!」
疑問符を含んだ声が振ってきて見上げれば、可愛い恋人である冬弥がこちらを見ていた。
どうやら委員会が終わったらしい。
「お待たせしました。…ゲーム、ですか?」
「ああ。咲希たちが薦めてくれたんだがなかなか難しくてなぁ。…そういえば冬弥はゲームが得意だったか」
「クレーンゲームは得意ですが、こういったゲームは…」
少し眉を下げるが、そわそわしていた。
やってみたいのだろう。
とてもわかりやすくなったな、と笑顔になった。
「どうだ、時間があるならやってみないか?」
「…!良いんですか?」
「ああ。ここからレシピを選んでだな…」
隣に座った冬弥に画面を見せ、操作方法を説明する。
一度説明をしただけでコツを掴んだのか、完璧なお菓子を作り上げた。
「流石は冬弥だなぁ!完璧だ!」
「ありがとうございます」
頭を撫でてやれば少し嬉しそうにしている。
こういう顔はやはり年下なのだなぁと、そう思った。
「ゲームでは簡単ですが本当は難しいですよね…」
「なら、今度一緒に作ってみるか?」
「…え?」
「オレも、冬弥が作ったお菓子を食べてみたい」
目を細めると、冬弥は逆に目を見開く。
…そうして。
「…是非、一緒に作ってみたいです」
「ああ!では、冬弥が好きなクッキーでも作るか?」
「そうですね…。…せっかくなので、司先輩が好きなものを、作りたいです」
そう言って、冬弥が微笑んだ。
随分と可愛らしいことを言ってくれるなと、そう思った。
「大好きな先輩と一緒に作るものですので…司先輩の好きなものを作りたいんです。駄目でしょうか?」


ゲームと同じようにはいかないかもしれない。
それでも。

「駄目なわけがないだろう!愛しの冬弥がオレの好きなものを作ってくれるんだ、そんな幸せ、他にはないからな!」

司冬ワンライ/ふわふわもこもこ・雪遊び

寒い。
毎週、いや、毎日言っている気がするが寒いものは寒いのだ。
特に寒いと言っていた次の日に寒さを更新している気がしてたまらない。
「…あ、天馬先輩おはよう御座いまーす!風紀委員でーす」
「…おお、白石か。寒いのに朝早くからご苦労なことだな!」
明るい声にそちらを向けば、寒さで鼻を赤くしながらバインダー片手にこちらに来る杏がいた。
本当ですよー!とブスくれながらも彼女は司を頭のてっぺんからつま先までじっくりと見る。
それから可愛らしく笑みを浮かべた。
「はいっ、オッケーです!…天馬先輩、ほーんと校則だけはきっちりしてますよねー」
「待て待て待て、校則だけとはなんだ、校則だけとは!」
「あはは!寧々ちゃんから聞きましたよ?良く爆破されてるーって」
「あれは爆破してくるやつがいるから結果としてそうなっているんだがな?」
けらけら笑いながら言う杏に司はほんの少しだけ嫌そうな顔をする。
安全ではあるし、スターになるためならば、と司自身が了承しているのもあるのだけれど。
「…まー、そんな天馬先輩だからこそ、うちの子を任せられるのはあるんですけどねー」
「む?何か言ったか?」
「いえ、別に。…あ、そうだ!」
小さな杏の声に司は首を傾げる。
へら、と笑った彼女が、何かを思いついたように声を上げた。
パチン、とウインクをした杏は少し向こうを指差して。
「うちの可愛い雪だるまがあっちにいると思うんで、そろそろ連れてってくれません?」



杏に言われた場所では見慣れたツートンカラーの髪をした可愛い恋人が、その髪に雪を乗せていた。
「…何をやっているんだ?冬弥」
「…!司先輩!おはよう御座います」
「ああ、おはよう」
髪に付いていた雪を払ってやりながら聞いてみれば彼はびっくりした顔をする。
それでも挨拶を忘れない辺り真面目だな、と思いつつ小さく笑った。
「…お、雪だるまか」
「はい。雪が降ったので…つい」
冬弥の足元には小さな雪だるまがある。
そういえば昔に雪だるまの作り方を教えたことがあったっけか。
「上手く作れるようになったなぁ、冬弥!」
「ありがとうございます。…先輩?」
「だが、このままでは冬弥が風邪を引いてしまうぞ?」
可愛らしく作られた雪だるまを褒め、彼の首に持っていたマフラーを巻いてやる。
ありがとうございます、と言った冬弥がもふ、とそれに顔を埋めた。
「…先輩の匂いがします」
「む、そうか、すまん」
「いえ。…安心、するんです」
嬉しそうな冬弥に、驚いて目を見開き、それから、ふは、と笑う。
まったく、なんて可愛らしいのだろう!
「わっ、司先輩?」
「そうかそうか、可愛いなぁ、冬弥は!」
くしゃり、と頭を撫でる。


雪がチラつく校庭で。


二人の周りだけが暖かかった。



「あ、天馬先輩、ありがとうござ…うわっ、冬弥ふわもこじゃん!!」
「…俺は、良いと言ったんだが…」
「何を言う!寒さは怖いんだぞ?!マフラーだけで乗り切れるわけがなかろう!」
「…あははっ、愛されてるねー!」

司冬ワンライ・幼少の夢/大人になったら

大人になったら何になりたい?

大人になったらね…



「オレは大人になったら皆を笑顔にするスターになるぞ!」
えへん!と胸を張る司に冬弥がぱちぱちと拍手する。
割といつもの光景だが、今日はその後が違っていた。
今日は何せ成人式なのである。
「冬弥はどうだ?」
「え?」
わくわくしながら問いかける司に冬弥がきょとんとした。
「大人になったら何になりたい?」
「…。…分かりません」
司のそれに冬弥は少しだけ悩んでからそう答える。
まさか、分からない、が返ってくるとは思わなくて今度は司がきょとんとしてしまった。
「分からない?」
「はい。父さんや兄さんたちと同じようにクラシックの道に進むと思ってはいるのですが…」
「ふぅん。真面目だなぁ、冬弥は」 
「…え?」
思わず呟いてしまったそれに、冬弥が首を傾げる。
彼は真面目だ。
親や兄と同じ道に進まなければ、と思っている。
…別にそんなことはないのに。
「冬弥自身がクラシックをやりたいと思うならそうすれば良い。だが、可能性は自分で狭めてはいけないぞ!」
「…!」
お手製の小さな舞台に登り、冬弥に向かって笑いながら手を伸ばす。
「夢は諦めるものではなく叶えるものだ。やりたいなら挑戦すれば良い。それに、オレはいつだって、冬弥に笑っていてほしいと思っているんだぞ?なにせ、オレは冬弥が大好きだからな!!」



「…あったなぁ……」
「…ありましたね」
何故だが母親に「ハーフ成人式の動画がある」と家に遊びに来ていた冬弥と共に見せられた司は少し遠い目をした。
またこれは熱烈な愛の告白だと笑ってしまう。
幼少期から自分はちっとも変わらなかったようだ。
「まあ、今も幼少よりその夢は変わらないがな」
「皆を笑顔にするスターになりたい、ですか?」
「もちろんそれもだが…」
こてりと首を傾げる冬弥の手を持ち上げる。
その手にキスを落とし司は笑った。
「オレは冬弥に笑っていてほしいと思っている。なぜなら」
珍しく顔が赤い可愛らしい恋人に、司は囁く。

幼少から変わらない、…いや、もっと大きくなった愛の言葉を。

「お前を、愛しているからな。…なぁ、オレの可愛らしいお嫁さん?」



大人になったら何になりたい?

大人になったら…




『…なら、ぼくは、司さんのお嫁さんになりたい』

ミクルカの日

「いぃなぁああ」
ミク姉ぇがスマホを見ながらため息を吐き出している。
そんなミク姉ぇをおれは…スルーした。
「ちょっと待ってちょっと待ってレンくん!」
「うわっ、なに、せっかくスルーしたのに」
「お姉様をスルーしないで?!」
ぐんっと手を引っ張られてよろけそうになるのを必死に堪える。
んなめんどくさいことになってるのに首突っ込むやつなんていないんですよ、初音さん。
「とりあえずこれ見て」
「はぁ…。何……プロセカのミク姉ぇとルカ姉ぇ?」
見せられたスマホの中には制服を着た…Leo/need、だっけ…のミク姉ぇとルカ姉ぇが手を振っていた。
あ、制服の兄さんもいる、可愛い。
「レンくん、ちゃんと見てる?」
「…見てるけど。アフターライブの映像だっけ?それがどうかした?」
ミク姉ぇにジトっと見られて慌てて言った。
何故だか息を吐き出したミク姉ぇがスマホを置く。
「レオニのミクもモモジャンのミクもビビバスのミクもワンダショのミクもニーゴのミクも、ルカちゃんとイチャイチャしててズルい!!!」
渾身の叫びにおれは呆れてしまった。
マジで何言って…。
「…いや、イチャイチャはしてないだろ」
「マジミラのミクもシンフォニーのミクもイチャイチャしてるしさぁ、なんかさぁ」
「なぁ、聞いて??」
ブツブツして言うミク姉ぇに、おれは一応突っ込んでみる。
聞くなら自分の世界に入んなっつーの。
「レオニはともかく、他はイチャイチャはしてないと思うけど」
「二人がセカイにいたらそれはイチャイチャしてるの」
「わぁ、暴論ありがとう」
「どういたしまして」
にこっとミク姉ぇが笑う。
良い意味じゃねぇんだけどな?
「ミク姉ぇもイチャイチャすりゃいいじゃん」
「そのルカちゃんがいないのー」
そう言えばあっさりと返ってきた。
あー…なー…。
「今日はミクルカの日なのに……」
「去年も言ってなかった?」
「言ってた。そしてその時は私が仕事だった」
「お気の毒さまでーす」
悔しそうなミク姉ぇに、軽くそう言う。
だって大分めんどくさいやつじゃん。
「とりあえずダブルラリアットかけて良い?」
「良いって言うと思った??」
ジリジリ距離を詰めてくるミク姉ぇから距離を取りながら逃げ道を探す。
大体、ダブルラリアットってルカ姉ぇの曲じゃんか!!
「ただい…何してるの?ミク、レン」
「あ、お兄ちゃん、お帰りー」
「助けて兄さん!ミク姉ぇが!!」
きょとんとした顔で兄さんがおれたちを見る。
それに、やっほーと手を振るミク姉ぇを振り切っておれは兄さんのもとに逃げた。
「ただいま帰りました。…あら?」
と、ルカ姉ぇの声がする。
振り仰ぐおれが見たルカ姉ぇは、今まで見たことない姿で。
「どうかしましたの?」
「何でもないよ。それより、綺麗だね、ルカ姉ぇ」
「ありがとうございます。プロジェクトセカイのルカの、☆4衣装からインスピレーションをうけたらしいです。服の形はアイドルのルカから、模様は教室のルカから、髪飾りは誰もいないセカイのルカから。ショーキャストとストリートのルカはなかったので、色とアクセサリーをモチーフにしたんだそうですわ」
ふわふわとルカ姉ぇが笑う。
揺れるレースの髪飾りと桃の髪。
「良いよね。俺は軍服着てきたよ。教室のカイトが着てたやつ」
「は?!言ってよ!おれ、郵便屋さんしたのに!!」
「…郵便屋さんなんですのね…?」
おれの言葉にルカ姉ぇが首を傾げた。
その、時。
「…ルカちゃん」
「はい。ミク姉様…きゃっ?!」
ミク姉ぇが突然抱きつく。
驚きながらもルカ姉ぇがそれを抱きとめた。
「ど、どうか…?」
「結婚しよ???」
オロオロするルカ姉ぇに、ミク姉ぇが突然プロポーズ、する。 
「け、結婚…?!」
「うん、良い家庭築くよ、約束する。だから、私の嫁に来て?一生私の隣で歌っててくれないかな?」
驚くルカ姉ぇに、真剣なミク姉ぇ。
ったく、よくやるよなぁ。
ミク姉ぇの通算3561回目のプロポーズ。
それにルカ姉ぇがふわりと微笑んで。
「…喜んで」

大体茶番でしかないよな。
毎回オッケー貰うんだから、さ!


一月三日、今年もいつも通りな、良い年になりそうだ。

(ミクルカの日のプロポーズは、毎年の恒例行事!)


「毎年毎年やってて飽きないのかね…兄さん?どしたの、楽しそうに笑って」
「ふふ、内緒」
(ルカもプロポーズされるように色々画策してるんだよ、なんてまだ知らなくて良いよね?)