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司冬ワンライ・ライブの後で/高揚感
珍しく冬弥がライブに誘ってくれた。 今までは司もショーがあるからなかなか行けなかったのだが、今回はばっちり時間を合わせることができたのである。 司も楽しみにしていたし、冬弥も嬉しそうに小さく手を振ってくれた(隣りに居た彰人は嫌そうだったが) そして、端的に、簡素に言おう。 凄いライブだった。 まだ身体が高揚している。 自分も何かやりたいと、歌って踊ってみんなを笑顔にしたいと。 自分がショーをやった後とはまた違う高揚感が身体を包んでいた。 歌がうまいのは知っていたし一緒に歌ったこともあるが、まさかあんなパフォーマンスまで覚えているとは。 見たことがなかった冬弥の一面にゾクゾクした。 一刻も早く冬弥に会いたい。 会って、会って…それから? 「…司先輩!」 「冬弥!」 ぐるぐると考えていればトーンの高い冬弥の声が司の耳に届いた。 振り返れば頬を紅潮させた冬弥がいて。 「来てくださってありがとうこざいま…うわっ?!」 「凄いライブだったな!いつもあんなパフォーマンスをしているのか?!」 ぐいっと手を掴み、人気のないところに引き込む。 感想とは呼べない、熱量だけは篭ったそれをぶつければ驚いた顔をしていた冬弥が、ふは、と笑った。 「…先輩からそう言ってもらえて、良かったです」 「む?」 「俺としても、最高のパフォーマンスが出来たと思っていますので。…それが伝わって、良かった」 「…冬弥」 柔らかく微笑む冬弥は、普段より儚く、可愛らしくて。 彼を引っ張って、キスをした。 生まれた高揚感を分け与えるように。 冬弥が持つ、ライブが終わった後の高揚感を奪い取るように。 「…ん、はぁ、ぅ……」 「…冬弥?」 ぎゅう、と掴まれる服に口を離せば、冬弥は目を潤ませぽやりとこちらを見ていた。 少し向こうでは他の人のライブが始まっていて。 熱気と、背徳感とがごちゃまぜになったそれが司を蝕む。 「流石にこのまま帰すのは不味いな」 言い訳するように小さく呟き、再び口付けた。
ライブの後で、なんて言ってやれない自分もまだまだだな、と自嘲した。
(あんな可愛い顔の冬弥を、放り出せるわけがなかろう!)
ルカ誕生日
あ、どうも、鏡音レンで…。 「あっ、レンくんだぁ!ちょっと来て…」 「ボクハ鏡音レンデハアリマセン」 「さっきまで流暢に喋ってたでしょ?!」 もー!というのは電子の歌姫初音ミクことミク姉ぇだ。 普通にしてりゃ世間一般の初音ミクと変わらないのに、あることが絡むと面倒くせぇんだよな。 「ほらー、早く早く!」 「何、もー…」 引っ張られるままミク姉ぇの部屋に連れて行かれる。 そこには。 「あら?レンじゃない」 「アドバイザーってレンのこと?」 「…お邪魔しました!」 「レンくん待って!!!」 キョトンとしたメイ姉ぇと首を傾げるリンがいて、おれはすぐさま部屋を出ようとした。 ぜぇったい面倒くせぇ気しかしない!!! 「お兄ちゃんの、激レアショットあげるから!」 「はあ?!何勝手に撮ってんのさ何の写真?!」 「レンくんの曲聴きながらもだもだしてるお兄ちゃん」 「あ、あたしもあるよー!最近出たレンのぬいぐるみにキスしてるやつ!」 「あら、私もあるわよ。レンの服抱きしめて寝てるの」 「兄さんガバガバ過ぎないかなぁあもぉお何なりとお申し付けくださいませ!!!」 差し出される賄賂におれは膝をつく。 こうなりゃおれは女性陣の言いなりでしかないもんな。 「そういえばルカたんは?」 「さっき兄さんの誕生日ケーキ作り手伝ってた。なんか、今年はルカ姉ぇの好きなものをアイシングクッキーで飾るらしくて、デザイン一緒に考えてたよ」 きょろきょろと周りを見回すリンに言えばメイ姉ぇが首を傾げた。 「…。…毎年毎回思うけど、カイトもボーカロイドよねぇ…?」 「お姉ちゃん自信持って。お兄ちゃんもちゃんとボーカロイドだよ!」 「ちゃんとって何さ」 グッと拳を握るミク姉ぇに、冷静に突っ込む。 ちゃんとも何も兄さんはボーカロイドだろ。 「まあ、カイ兄ぃのパティシエぷりは置いといて」 「置いとくなよ」 「置いとかないと先に進まないのよ?レン」 「わぁ、正論ありがとうメイ姉ぇ」 そんなド正論におれは棒読みの感謝を述べる。 ま、今日の議題はそれじゃないだろうし。 「で?何アドバイスすりゃいいわけ。今年はサプライズしないんだろ?」 とりあえずぐるりと三人を見回した。 そう、今日はルカ姉ぇの誕生日。 毎年毎年サプライズを決行してきたけどそろそろネタがなくなってきたのと確実にバレるからってんので、なしになったんだよな。 まあ、ひとつ屋根の下でバレない方がおかしいけどさ(ミク姉ぇみたいに忘れてるのは置いといて) 「ええ、サプライズはしないわ」 「んじゃあ何…」 「スケジュールを立てたから見てほしいんだよねー!」 「ねー!」 頷くメイ姉ぇに嫌な顔をして見せれば、リンとミク姉ぇが楽しそうに言った。 はぁ、スケジュールねぇ? 受け取った髪を広げてみる。 なになに?えぇと…。 「『日付が変わった瞬間、三人で部屋に入ってバースデーソングを歌う、その後はプレゼントタイム』。まあいいんじゃね?後は『仮眠を取ってから朝ごはん兼昼ごはん』。兄さんはどうか分からないけどおれは許容範囲だな。『食事が済んだらデート、1時間につき1人、計3ヶ所を巡る』。うん、良いんじゃね?1時間って割と短いけどな。『最後に家に帰ってみんなでお祝い、ケーキを食べる』。悪くないと思うけど」 「でっしょー!じゃあこれで…」 「待て待て待て、おかしいところが一つある」 ひゃっほう!とテンションが上がるリンをおれは止める。 なぁに?と首を傾げるリンに、おれは紙の一番上を指差した。 「ここ、『1人2時間のいちゃいちゃタイム』って何」 「え、そりゃあいちゃいちゃタイムだけど」 「めくるめくオトナの時間ってやつだよね」 「愛を語り合う夜時間、とも言うかしら?」 「仮にも青少年設定のボーカロイド相手に何言ってんの?!」 不思議そうな三人におれはツッコむ。 まあ直球で来られるよりマシだけどさぁ?!! 「レンくんだってお兄ちゃんとするのに?」 「それとこれとは話が別だし一対一じゃん。一対三とは訳が違うじゃん」 「一緒だよぅ」 「ルカ姉ぇが可哀想だろ!!」 「三人同時ってわけじゃないんだし…待って、それも有りね…」 「メイ姉ぇは自重して?!」 ふむ、と考えるメイ姉ぇ。 そこが暴走されたら困るんだけど! 「あら、冗談よぉ」 「ったく…。…つーか、ルカ姉ぇに聞いたら良いじゃん」 カラカラと笑ったメイ姉ぇに、息を吐きだしてからそう言う。 これ以上巻き込まれるのはごめんだし。 「何聞くの?三人でやって良いか?」 「なんでだよ。このスケジュールで良いか聞くの。どうせサプライズじゃないんだろ」 「まあそうだけど」 首を傾げるミク姉ぇに言えばちょっと悩み出した。 え、そこ悩む? …と。 「失礼します。ミク姉様、カイト兄様が…あら、全員いらしたんですのね」 コンコン、と響くノックの後ほんの少し開かれた扉の先には本日の主役、ルカ姉ぇがいた。 「ちょうど良かった。ルカ姉ぇ、これ見て」 「…?はい」 「あぁあ?!待って待って!」 「まだ良いとは言ってないわよ?!」 「ルカちゃんもストーップ!」 紙を受け取るルカ姉ぇと、響く三人の声。 あら、とルカ姉ぇが笑う。 「ふふ、素敵なバースデーにしてくださってありがとうございます。けれど、カイト兄様の朝ごはんと昼ごはんはしっかり食べたいですわ。それに、デートも1人につき2時間は一緒にいたいですし、余韻にも浸りたいです。ですから…」 キュ、キュ、と赤いペンで訂正を入れていたルカ姉ぇが何かを書き足した。 にこりと笑うルカ姉ぇに、あー、あの三人に愛されてるだけあるなぁ、と思う。 「最初に3時間、夜にまた3時間で…どうでしょうか?」
本日、ルカ姉ぇの誕生日。 存外愛されたがりだよなぁ、なんて思いながらおれはそっと部屋を出る。
ま、メイ姉ぇもミク姉ぇもリンも、愛したがりだから丁度良いと思うけどな!
(所謂、お似合いってやつ!)
「…兄さん、んな所でしゃがみこんで何やってんの?」 「…ううん、なんでも。レンが何を持ってるのかちょっと気になっただけだよ?」
司冬ワンライ/ゲーム・お菓子
お菓子を作るゲームがあるんだよ!と言ったのは咲希だったかえむだったか。 もしかしたら両方だったかもしれない。 楽しそうだな、と言う司に、「じゃあアプリ入れてあげる!」と入れてくれたのだ。 最初は暇つぶしに、と思っていたのだが、なかなかどうして難しいのである。 本当のお菓子作りと引けを取らないくらいには様々なバランスが必要だ。 少しでも材料が多かったり少なかったりすればすぐに失敗してしまう。 「…司先輩?」 「ん、おお、冬弥か!」 疑問符を含んだ声が振ってきて見上げれば、可愛い恋人である冬弥がこちらを見ていた。 どうやら委員会が終わったらしい。 「お待たせしました。…ゲーム、ですか?」 「ああ。咲希たちが薦めてくれたんだがなかなか難しくてなぁ。…そういえば冬弥はゲームが得意だったか」 「クレーンゲームは得意ですが、こういったゲームは…」 少し眉を下げるが、そわそわしていた。 やってみたいのだろう。 とてもわかりやすくなったな、と笑顔になった。 「どうだ、時間があるならやってみないか?」 「…!良いんですか?」 「ああ。ここからレシピを選んでだな…」 隣に座った冬弥に画面を見せ、操作方法を説明する。 一度説明をしただけでコツを掴んだのか、完璧なお菓子を作り上げた。 「流石は冬弥だなぁ!完璧だ!」 「ありがとうございます」 頭を撫でてやれば少し嬉しそうにしている。 こういう顔はやはり年下なのだなぁと、そう思った。 「ゲームでは簡単ですが本当は難しいですよね…」 「なら、今度一緒に作ってみるか?」 「…え?」 「オレも、冬弥が作ったお菓子を食べてみたい」 目を細めると、冬弥は逆に目を見開く。 …そうして。 「…是非、一緒に作ってみたいです」 「ああ!では、冬弥が好きなクッキーでも作るか?」 「そうですね…。…せっかくなので、司先輩が好きなものを、作りたいです」 そう言って、冬弥が微笑んだ。 随分と可愛らしいことを言ってくれるなと、そう思った。 「大好きな先輩と一緒に作るものですので…司先輩の好きなものを作りたいんです。駄目でしょうか?」
ゲームと同じようにはいかないかもしれない。 それでも。
「駄目なわけがないだろう!愛しの冬弥がオレの好きなものを作ってくれるんだ、そんな幸せ、他にはないからな!」
司冬ワンライ/ふわふわもこもこ・雪遊び
寒い。 毎週、いや、毎日言っている気がするが寒いものは寒いのだ。 特に寒いと言っていた次の日に寒さを更新している気がしてたまらない。 「…あ、天馬先輩おはよう御座いまーす!風紀委員でーす」 「…おお、白石か。寒いのに朝早くからご苦労なことだな!」 明るい声にそちらを向けば、寒さで鼻を赤くしながらバインダー片手にこちらに来る杏がいた。 本当ですよー!とブスくれながらも彼女は司を頭のてっぺんからつま先までじっくりと見る。 それから可愛らしく笑みを浮かべた。 「はいっ、オッケーです!…天馬先輩、ほーんと校則だけはきっちりしてますよねー」 「待て待て待て、校則だけとはなんだ、校則だけとは!」 「あはは!寧々ちゃんから聞きましたよ?良く爆破されてるーって」 「あれは爆破してくるやつがいるから結果としてそうなっているんだがな?」 けらけら笑いながら言う杏に司はほんの少しだけ嫌そうな顔をする。 安全ではあるし、スターになるためならば、と司自身が了承しているのもあるのだけれど。 「…まー、そんな天馬先輩だからこそ、うちの子を任せられるのはあるんですけどねー」 「む?何か言ったか?」 「いえ、別に。…あ、そうだ!」 小さな杏の声に司は首を傾げる。 へら、と笑った彼女が、何かを思いついたように声を上げた。 パチン、とウインクをした杏は少し向こうを指差して。 「うちの可愛い雪だるまがあっちにいると思うんで、そろそろ連れてってくれません?」
杏に言われた場所では見慣れたツートンカラーの髪をした可愛い恋人が、その髪に雪を乗せていた。 「…何をやっているんだ?冬弥」 「…!司先輩!おはよう御座います」 「ああ、おはよう」 髪に付いていた雪を払ってやりながら聞いてみれば彼はびっくりした顔をする。 それでも挨拶を忘れない辺り真面目だな、と思いつつ小さく笑った。 「…お、雪だるまか」 「はい。雪が降ったので…つい」 冬弥の足元には小さな雪だるまがある。 そういえば昔に雪だるまの作り方を教えたことがあったっけか。 「上手く作れるようになったなぁ、冬弥!」 「ありがとうございます。…先輩?」 「だが、このままでは冬弥が風邪を引いてしまうぞ?」 可愛らしく作られた雪だるまを褒め、彼の首に持っていたマフラーを巻いてやる。 ありがとうございます、と言った冬弥がもふ、とそれに顔を埋めた。 「…先輩の匂いがします」 「む、そうか、すまん」 「いえ。…安心、するんです」 嬉しそうな冬弥に、驚いて目を見開き、それから、ふは、と笑う。 まったく、なんて可愛らしいのだろう! 「わっ、司先輩?」 「そうかそうか、可愛いなぁ、冬弥は!」 くしゃり、と頭を撫でる。
雪がチラつく校庭で。
二人の周りだけが暖かかった。
「あ、天馬先輩、ありがとうござ…うわっ、冬弥ふわもこじゃん!!」 「…俺は、良いと言ったんだが…」 「何を言う!寒さは怖いんだぞ?!マフラーだけで乗り切れるわけがなかろう!」 「…あははっ、愛されてるねー!」
司冬ワンライ・幼少の夢/大人になったら
大人になったら何になりたい?
大人になったらね…
「オレは大人になったら皆を笑顔にするスターになるぞ!」 えへん!と胸を張る司に冬弥がぱちぱちと拍手する。 割といつもの光景だが、今日はその後が違っていた。 今日は何せ成人式なのである。 「冬弥はどうだ?」 「え?」 わくわくしながら問いかける司に冬弥がきょとんとした。 「大人になったら何になりたい?」 「…。…分かりません」 司のそれに冬弥は少しだけ悩んでからそう答える。 まさか、分からない、が返ってくるとは思わなくて今度は司がきょとんとしてしまった。 「分からない?」 「はい。父さんや兄さんたちと同じようにクラシックの道に進むと思ってはいるのですが…」 「ふぅん。真面目だなぁ、冬弥は」 「…え?」 思わず呟いてしまったそれに、冬弥が首を傾げる。 彼は真面目だ。 親や兄と同じ道に進まなければ、と思っている。 …別にそんなことはないのに。 「冬弥自身がクラシックをやりたいと思うならそうすれば良い。だが、可能性は自分で狭めてはいけないぞ!」 「…!」 お手製の小さな舞台に登り、冬弥に向かって笑いながら手を伸ばす。 「夢は諦めるものではなく叶えるものだ。やりたいなら挑戦すれば良い。それに、オレはいつだって、冬弥に笑っていてほしいと思っているんだぞ?なにせ、オレは冬弥が大好きだからな!!」
「…あったなぁ……」 「…ありましたね」 何故だが母親に「ハーフ成人式の動画がある」と家に遊びに来ていた冬弥と共に見せられた司は少し遠い目をした。 またこれは熱烈な愛の告白だと笑ってしまう。 幼少期から自分はちっとも変わらなかったようだ。 「まあ、今も幼少よりその夢は変わらないがな」 「皆を笑顔にするスターになりたい、ですか?」 「もちろんそれもだが…」 こてりと首を傾げる冬弥の手を持ち上げる。 その手にキスを落とし司は笑った。 「オレは冬弥に笑っていてほしいと思っている。なぜなら」 珍しく顔が赤い可愛らしい恋人に、司は囁く。
幼少から変わらない、…いや、もっと大きくなった愛の言葉を。
「お前を、愛しているからな。…なぁ、オレの可愛らしいお嫁さん?」
大人になったら何になりたい?
大人になったら…
『…なら、ぼくは、司さんのお嫁さんになりたい』
ミクルカの日
「いぃなぁああ」 ミク姉ぇがスマホを見ながらため息を吐き出している。 そんなミク姉ぇをおれは…スルーした。 「ちょっと待ってちょっと待ってレンくん!」 「うわっ、なに、せっかくスルーしたのに」 「お姉様をスルーしないで?!」 ぐんっと手を引っ張られてよろけそうになるのを必死に堪える。 んなめんどくさいことになってるのに首突っ込むやつなんていないんですよ、初音さん。 「とりあえずこれ見て」 「はぁ…。何……プロセカのミク姉ぇとルカ姉ぇ?」 見せられたスマホの中には制服を着た…Leo/need、だっけ…のミク姉ぇとルカ姉ぇが手を振っていた。 あ、制服の兄さんもいる、可愛い。 「レンくん、ちゃんと見てる?」 「…見てるけど。アフターライブの映像だっけ?それがどうかした?」 ミク姉ぇにジトっと見られて慌てて言った。 何故だか息を吐き出したミク姉ぇがスマホを置く。 「レオニのミクもモモジャンのミクもビビバスのミクもワンダショのミクもニーゴのミクも、ルカちゃんとイチャイチャしててズルい!!!」 渾身の叫びにおれは呆れてしまった。 マジで何言って…。 「…いや、イチャイチャはしてないだろ」 「マジミラのミクもシンフォニーのミクもイチャイチャしてるしさぁ、なんかさぁ」 「なぁ、聞いて??」 ブツブツして言うミク姉ぇに、おれは一応突っ込んでみる。 聞くなら自分の世界に入んなっつーの。 「レオニはともかく、他はイチャイチャはしてないと思うけど」 「二人がセカイにいたらそれはイチャイチャしてるの」 「わぁ、暴論ありがとう」 「どういたしまして」 にこっとミク姉ぇが笑う。 良い意味じゃねぇんだけどな? 「ミク姉ぇもイチャイチャすりゃいいじゃん」 「そのルカちゃんがいないのー」 そう言えばあっさりと返ってきた。 あー…なー…。 「今日はミクルカの日なのに……」 「去年も言ってなかった?」 「言ってた。そしてその時は私が仕事だった」 「お気の毒さまでーす」 悔しそうなミク姉ぇに、軽くそう言う。 だって大分めんどくさいやつじゃん。 「とりあえずダブルラリアットかけて良い?」 「良いって言うと思った??」 ジリジリ距離を詰めてくるミク姉ぇから距離を取りながら逃げ道を探す。 大体、ダブルラリアットってルカ姉ぇの曲じゃんか!! 「ただい…何してるの?ミク、レン」 「あ、お兄ちゃん、お帰りー」 「助けて兄さん!ミク姉ぇが!!」 きょとんとした顔で兄さんがおれたちを見る。 それに、やっほーと手を振るミク姉ぇを振り切っておれは兄さんのもとに逃げた。 「ただいま帰りました。…あら?」 と、ルカ姉ぇの声がする。 振り仰ぐおれが見たルカ姉ぇは、今まで見たことない姿で。 「どうかしましたの?」 「何でもないよ。それより、綺麗だね、ルカ姉ぇ」 「ありがとうございます。プロジェクトセカイのルカの、☆4衣装からインスピレーションをうけたらしいです。服の形はアイドルのルカから、模様は教室のルカから、髪飾りは誰もいないセカイのルカから。ショーキャストとストリートのルカはなかったので、色とアクセサリーをモチーフにしたんだそうですわ」 ふわふわとルカ姉ぇが笑う。 揺れるレースの髪飾りと桃の髪。 「良いよね。俺は軍服着てきたよ。教室のカイトが着てたやつ」 「は?!言ってよ!おれ、郵便屋さんしたのに!!」 「…郵便屋さんなんですのね…?」 おれの言葉にルカ姉ぇが首を傾げた。 その、時。 「…ルカちゃん」 「はい。ミク姉様…きゃっ?!」 ミク姉ぇが突然抱きつく。 驚きながらもルカ姉ぇがそれを抱きとめた。 「ど、どうか…?」 「結婚しよ???」 オロオロするルカ姉ぇに、ミク姉ぇが突然プロポーズ、する。 「け、結婚…?!」 「うん、良い家庭築くよ、約束する。だから、私の嫁に来て?一生私の隣で歌っててくれないかな?」 驚くルカ姉ぇに、真剣なミク姉ぇ。 ったく、よくやるよなぁ。 ミク姉ぇの通算3561回目のプロポーズ。 それにルカ姉ぇがふわりと微笑んで。 「…喜んで」
大体茶番でしかないよな。 毎回オッケー貰うんだから、さ!
一月三日、今年もいつも通りな、良い年になりそうだ。
(ミクルカの日のプロポーズは、毎年の恒例行事!)
「毎年毎年やってて飽きないのかね…兄さん?どしたの、楽しそうに笑って」 「ふふ、内緒」 (ルカもプロポーズされるように色々画策してるんだよ、なんてまだ知らなくて良いよね?)
司冬ワンライ・初夢/参拝
セカイにも神社ができたんだよ、と言ったのは誰だっけか。 とりあえず足を運んでみるか、と歩いていった所で思いもよらない人物を見かけた。 「…司先輩!」 「…は??」 ふわ、と笑うのは青柳冬弥。 おみくじの箱を携えて立つ冬弥は、巫女…男の場合は禰宜、というのだったか…を着ていた。 「冬弥?!一体ここで何を…」 「手伝いを頼まれましたので」 あんぐりと口を開け、そう尋ねてみれば、彼は楽しそうに笑う。 誰に頼まれたんだ、とか、何故彼が司のセカイに、だとか思うことは沢山あったが、それだけで、なるほどなぁと納得してしまった。 「その格好も似合うな、冬弥!」 「ありがとうございます。なかなか着ないものですので…少し、気恥ずかしさもありますね」 柔らかく目を細める冬弥に、司もにこにこと笑う。 何を着ても似合うのだから、照れることはないのに。 「司先輩、おみくじはいかがですか?」 「うむ、冬弥がそう言うならば一つ」 はい、と箱を差し出され、司は何の迷いもなく箱に手を突っ込んだ。 一つおみくじを取り、手を引き抜く。 「…これは…」 「…空白?」 紙を開き、二人でのぞき込んだ。 その中身は何も書いていない。 「…どういうことでしょうか」 「…そうだなぁ…」 首を傾げる冬弥の手を取った。 え、と目を丸くする冬弥に笑いかける。 「運命は自分で切り開くものだ、なぁ、冬弥!!」
高い電子音が鳴り響く。 お兄ちゃーん!と呼ぶ声が聞こえた。 「…夢、か…」 ぼんやりと呟き、起き上がる。 初夢なのだから、もう少し大胆なことでも魅せてくれたら良いのに、と思わなくはなかったが。 「…夢は現実に、運命は自分で切り開く、だな」 小さく笑い、スマホを開いて文章を打つ。 今行くぞ!と妹に言い、部屋を出た。
ベッドに置き去りにされたスマホに踊る文字。 返信のそれが来るまで…あと数分。
『おはよう、冬弥!初詣は終わってしまったかもしれないが、一緒に神社で参拝をしないか?』
『おはよう御座います。ぜひ、一緒に行かせてください。…先輩に、お会いしたいです』
サプライズプレゼント
「ねぇ、レン!召使のレンくん二人目来たよ!」 「良かったね、兄さん」 「裁判長の俺も二人いるんだよ。仲良しだよね」 「…それ、リンに言うなよ?明日のおはようガチャで仕立て屋のルカ姉ぇが仮天井だって嘆いてんのに」 嬉しそうな兄さんに、おれは呆れつつ言う。 ったく、嬉しそうなんだから。 ちょっと見た目が変わってるだけで、おれはおれなんだけどな。 きょとんとした兄さんは小さく首を傾げた。 「え、でも仮天井まで来なかったらルカに仕立て屋さんのコスしてもらうんだって息巻いてたよ?」 「はぁ?!ルカ姉ぇにんなことお願いしてんのかよ!」 「…え、そんな…??」 兄さんの言葉におれは思わず声を上げた。 目を丸くする兄さんに、謝る。 いや、でも、仕方ないだろ? あのルカ姉ぇに仕立て屋さんのコスしてもらうなんて羨ましいじゃん? うちのルカ姉ぇなんて優しいから仕立て屋さんみたいな表情見たことないし。 いいなぁ、爆速で裁判長の兄さん出しちゃったけどおれも我慢すればよかったなぁ…。 「そんなに羨ましい?」 「普段と違う格好してもらえるのは、正直」 「でも、俺もそこそこ色んな格好してるけど…」 「マスター、結局優しいもん。根本的に優しさが滲んでるんだよなぁ」 「そんなもんかなぁ」 「そんなもんなの」 くすくす笑う兄さんにおれは言う。 兄さんもマスターも優しいから、あの悪い感じはなかなか仕事でも見れないんだよなぁ。 「ふぅん」 楽しそうに笑った兄さんが立ち上がる。 風呂にでも行くんだろうとおれは気にも止めなかった。 兄さんの場合だと、リビングの片付けに行く場合もあるし。 実はクリスマス用の曲が終わったから、さっきまで遅めのクリスマスパーティーやってたんだよな。 おれたちの誕生日も近い割に今年は一緒くたにしなかったらしい。 ま、ただただ騒ぎたかったのもあるだろうけど。 「レン」 「ん?どーしたの、兄さ…」 呼びかけられて、風呂にしては早かったな、と見上げたおれは固まってしまった。 「…どうした?レン…いや、『召使クン』?」 にや、と笑う兄さんに、そんな顔も出来るんじゃん、なんて頭の隅で思う。 いや、なんで、もー…。 「…ガレリアン=マーロンのコスとかズルくね…?」 はぁあ、と息を吐いた。 兄さんが身を包んでいたのはおれのスマホ画面に映るそれと全く同じもので。 「ズルくないよ、レンが見たいって言うから」 「はぁ…?」 いつもの口調に戻った兄さんが笑う。 裁判長も幸せだった頃はこんな顔してたんかな、なんて思ったりして。 「…お誕生日おめでとう、レン」 不意に近づいてくる綺麗な顔。 ちゅ、と軽い音にキスされたのを知った。 …本当に!もう!兄さんは!! 「ありがと、兄さん」 微笑む兄さんを引き寄せて深いキスをする。 やっぱり兄さんは、悪い顔より『こっち』の方が好きだな、と思った。
おれの兄さんは、小悪魔だけど優しくて可愛い、最高の兄さん!!
(そんな兄さんをプレゼントに貰えるって、世界一嬉しいサプライズプレゼントだろ?!)
「ちなみにねぇ、他にも用意してたんだよ。団長さんとか、学校の俺の衣装とかアイドルとか、あとストリートとか」 「マジで?!後で着て?!」 「んー…。アニバーサリーのレンが来てくれたら、ね」
司冬ワンライ/降誕祭・初雪
街が浮かれている。 それは、街だけではなかった。 「…!司先輩!」 「おお、冬弥!」 白い息を吐き、冬弥が嬉しそうにこちらに手を振っているのを見、司も大きく手を振る。 今日は冬弥とのデートの日だ。 本来であればクリスマス・イブ、もしくはクリスマスにデートが出来れば良かったのだが…司も冬弥もイベントで忙しかったのである。 既にクリスマスツリーは撤去されていたが、何となくその余韻は残っていた。 「すまん、待たせたか?」 「いえ。俺も今来たところです」 ほわ、とした表情で笑う冬弥に司も軽く笑いかける。 柔らかなそれは司の心を暖かくさせた。 「では行こう。あまり寒空の下にいてはオレの大切な冬弥に風邪を引かせてしまうからなぁ」 「…先輩も、ですよ」 ふふ、と笑う冬弥の手を握る。 少し驚いたようだったが冬弥も握り返してくれた。 それだけで嬉しくなる。 「さて、まずはどこへ行く?」 「そうですね。本屋が多いので、たまにはあまり行ったことのない店、に…」 ふ、と冬弥の言葉が途切れた。 どうかしたのかと彼を見れば何か一点を見つめていて。 「…ホットワイン…?」 「え、あ、いえ!…どんなものなのだろうと気になってしまって…」 その店の看板を読めば、珍しくも冬弥が慌てたような声を出した。 別に遠慮することなんかないのに。 「ふむ、未成年用にノンアルコールのものもあるようだな。…すまない!未成年用のホットワインを二つ貰えるだろうか?」 店の主人に声をかけ、司はホットワインを注文する。 司自身もどんなものか気になったのだ。 「…ほら」 「…ありがとう、ございます」 ワインを渡すと冬弥が嬉しそうに微笑む。 そんなに飲んでみたかったのかと思えば、「それもありますが…マグカップが、司先輩と俺みたいで、良いな、と」と、柔らかく言われた。 「うん?」 へにゃりと微笑む冬弥に、自分の持つそれを見る。 表が白、裏が赤の陶器のそれには星と雪の結晶が散りばめられていた。 「なるほど、これは良いな」 小さく笑って司は一口ホットワインを飲む。 ノンアルコールなだけあって温かいぶどうジュースにしか思えなかったが、今まで飲んだ中で一番美味しかった。 「…うん、美味い」 「美味しい、ですね」 二人で同時に呟き、顔を見合わせ、ふは、と笑う。 …と。 「…む、これは…」 「…!雪…」 司の持っているマグカップに白いそれが落ちた。 空を見上げれば雪がチラついていて。 「初雪、ですね」 「そうだな」 白い息を吐き、目を細める冬弥に頷く。 雪が降った。 今年最初の雪が。
それは、どんな景色よりも美しく。
「…好きだぞ、冬弥」 「…?!せんぱ、」 「雪が運ぶ幸せに、星も負けるわけには行かないからな」 驚く冬弥に軽く口づけ、司は軽く笑った。
降誕祭の余韻浸る街で
永遠の愛を誓おう!!
美味いコーヒーがあるんだが、と珍しくも部屋にやって来たカイコクに、多少驚きつつザクロはその扉を開けた。 何か裏があるのかと思えばそんなこともないらしい。 ケトル借りるぜ、とひらりと手を振ったカイコクが手慣れたようにお湯を沸かし始めた。 本人はコーヒーよりお茶の方が好きな割に、彼が淹れるそれは美味しいのである。 ザクロの好みを熟知している、といえば良いだろうか。 …恥ずかしいようなむず痒いような。 「…なんでぇ、珍しい顔して」 「…いや、何でもない」 しばらくして両手にマグカップを持ったカイコクが戻ってくるなりきょとんとする。 首を振るとそこまで興味もなかったのだろう、特に言及することなく、それを差し出してきた。 礼を言ってから受け取り、口をつける。 少し甘目に淹れられたコーヒーに、ザクロはほう、と息を吐いた。 「…うん。美味いな」 「そりゃあ良かった」 ほわ、と笑うカイコクはマグカップを持ったまま何やらそわそわしている。 いつもよりほんの少し上の空で、ザクロは気にしながらも特に聞くことはなかった。 …真正面から聞いても答えてはくれないだろうから。 「鬼ヶ崎」 「…ん?どうした?忍霧」 「どうした、は俺の方なのだがな…」 余裕の笑みはいつも通りなのだが…さてどうしたものだろうか。 小さく息を吐き、顔を上げた途端である。 「…忍霧」 「は?…な、に……」 急に悩みを呼ばれたかと思えば、カイコクの綺麗な顔が近付いてきた。 え、と思った瞬間、マスク越しにちゅ、と口付けられる感触がする。 そうして。 「…誕生日おめでとうさん、忍霧」 柔らかい声で囁かれた。 理解が追いつかない頭で彼を見ればザクロが好きな笑みで微笑んでいて。 ああ、自分はまた誕生日を忘れていたのだな、と、そう思った。 あんなに周りはクリスマスと盛り上がっていたのに。 「んじゃ、用はそれだけでぇ。また明日な」 「ま、待て!!」 そそくさと離れ、立ち上がろうとするカイコクの手を握り無意識に引き止める。 日付が変わった途端プレゼントを贈る、なんて可愛いことをするくせに照れ隠しで逃げようとするなんて。 逃したくないと、思った。 ぐらりと蹈鞴を踏んだ彼がこちらに倒れ込んでくる。 「おわっ?!!」 「…まだ、俺から貴様にプレゼントを渡していない」 「俺の誕生日はまだだぜ?忍霧」 「クリスマスもあるだろう?」 「俺ァ、誕生日プレゼントしか渡してないぜ」 「ならクリスマスプレゼントもくれれば良いだろう?」 「…この欲張り」 「知っているくせに」 「ま、違いねぇな」 くすくす笑いながらザクロはカイコクのお面を外し髪を乱した。 カイコクもへにゃ、と笑いザクロのマスクをずらす。 たまにはお互いに素直でも良いだろう。 だって今日は聖なる日。
(未来ある青少年が産まれた日!)
「…なぁ、毎年思うんだが…最終的に俺が甘やかされてねぇか?」 「それがプレゼントなのだが?…たまには素直に甘やかされていろ」
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