ワンドロ・パーカー/試着

彰人に私服を見繕ってほしい。
冬弥からそう言われて馴染みの店ではなく大型のショッピングモールにしたのはあまりに己の好みに全振りするのはどうかと思ったからだ。
着て欲しい服と好みのファッションはまた別だ、というのもある。
…冬弥の好みもあるだろうし。
「んで?どんなんをご所望なんだよ」
「…今あるジーンズと合わせやすいものが良い。後は夏でも無理なく着こなせるもの、だな」
「んじゃま、トップスと…薄手のパーカーとか良いんじゃねぇの?」
少し考えて言う冬弥に彰人は言う。
色や形など細かく聞き、いくつか見繕った。
そのまま購入はせず、試着室に向かう。
「着替えたら呼べよ」
「ああ、分かった」
カーテンが閉じられ、小さく息を吐いた。
ライブに出る時の服は彰人が選ぶ事が多い。
舞台上で冬弥をより良く魅せるためだ。
冬弥の、歌やパフォーマンスを輝かせるように。
だがこれは私服だ。
彼が普段遣いで着るための。
「…彰人」
「…ん、着替え終わったか?」
と、カーテンが開けられ、冬弥が顔を出した。
ワンポイントが入った白いTシャツと7部袖の落ち着いた色をしたパーカー。
Tシャツの襟が少し大きめに開いているのは…冬弥が無意識に選んだものだった。
息苦しさから逃げたい表れなのだろうか。
「?何かおかしいか」
「んや。よく似合ってるぜ。着づらい感じとかはねぇ?」
「ああ。大丈夫だ」
頷いた冬弥がくすりと笑う。
なんだろうかと思えば彼はパーカーを少し肌けさせた。
「…裏地、彰人の色なんだ」
「…はっ?!」
「なんだか彰人に包まれているみたいだろう?」
綺麗な笑みで言う彼が試着室に引っ込む。
その場にはぽかんとした彰人だけが残された。



揺れる、試着室のカーテン。

開けた後の冬弥の表情は…。


(彰人だけは、知っている)

類冬ワンドロ・カレー/短冊

さて、突然だが、神山高校で校内キャンプが行われることになった。
スポーツでも有名な神山高校では宿泊施設が併設されている。
そこを特別に借りることが出来たのだ…理由は後ほど語るとして。
「ねー!お肉まだ切れないのー?」
「あー??今やってるっつーの!!」
「おぅい!笹を貰ってきたぞ!!」
ぎゃーぎゃーと言い合いながら調理をする1年生組のところに来たのは司と類だ。
肩には巨大な笹が抱えられている。
「うわぁ、凄いですねこれ!!」
「よくこんなおっきい笹あったよねぇ」
「…ちょっと二人とも、笹持ったまま入ってこないでよね」
持ってきた笹を目の前に楽しそうなのは杏と瑞希、少し眉を顰めるのは寧々だ。
「わかっている!彰人!冬弥!少し手伝ってくれ!」
「あぁ?なんでオレが」
「…彰人。わかりました、すぐに行きます」
嫌そうな彰人を窘めた冬弥が頷き、駆け寄った。
「ふふ。手伝ってくれたお礼に、君には最初に短冊を書く権利を与えてあげようかな」
にこにこと笑うのは類である。
「お、いいな、それ。冬弥!好きなものを書いて良いぞ!」
「あぁ??冬弥をそっちに引き込むんじゃねぇっつー…」
それに司が便乗し彰人が嫌そうな顔をした。
冬弥が楽しそうに肩を揺らす。
エントランスホールの柱に笹を括り付け根本に水を含ませたティッシュを巻いて口を切ったペットボトルに刺した。
字で書けば簡単だがこれがなかなか難しい。
この作業をするから、と彼らは宿泊施設の利用が許可されたのである。
もちろんこの後の飾り付けも込みだ。
「いよっし!設置はできたな。短冊はどうする?見られたくないなら今書くのも有りだが」
「…オレはみんなと一緒でいいッスよ。今書いてもうるせーし」
「確かにな。類と冬弥はどうする?」
「僕も後で良いよ。青柳くんは?」
「俺も、みんなと一緒に書きます」
「なら調理室に戻るとするか!」
「そうですね。彰人、この後の工程だが…」
司の言葉に頷いた冬弥が彰人に何か確認し、また類の傍に戻ってくる。
「どうしたんだい?青柳くん」
首を傾げると冬弥はほんの少し声を潜めてみせた。
「いえ。先輩がどんなお願いをするのか…気になりまして」
「そうだねぇ。まだ考えられてはいないけれど…。そういう青柳くんは何か決まっているのかな」
にこっと笑うと冬弥は少し上を向く。
それから僅かに微笑んだ。
「今の俺は色々恵まれているし、これ以上は特にないんですが…強いて言えば」
そう言った冬弥が綺麗な笑みを浮かべる。
それを見て、嗚呼やはり彼には敵わないと…そう、思った。

「神代先輩が俺の作ったカレーを食べてくれますように、でしょうか」



笹の葉さらさら、揺れる願いは類の努力で叶うそれ。

可愛い可愛い恋人のお願いを、聴いてあげられる彦星になるべく類は覚悟を決めたのだった。


「…東雲くん、今日の夕飯なのだけれどね…」
「今日の野菜は冬弥がサラダ分含めて全部切ってましたよ、覚悟決めてください」
「…そうだそ、類。冬弥を悲しませるわけにはいかないからな………」

七夕ザクカイ♀️

「じゃー、今年の織姫はカイさんってことで!」
ユズのそれに、はぁい!と元気に手を上げるのはカリンとヒミコである。
当の本人はなんだか渋い顔だ。
「…なぁ、やっぱ嬢ちゃん方がやるべきなんじゃ…」
「だ、ダメですよぅ!」
「そうですよ!!だってじゃんけんで決まったでしょう?」
おずおずと言うカイコクに不満の声を上げるヒミコとカリン。
どこか楽しそうなのはいつもは猫のように逃げてしまう彼女を合法的に着飾れるからだろう。
「どんな柄がいいかしら」
「色も…少し明るめの方が良いですよねっ!」
「…」
きゃいきゃいと話すカリンとヒミコを横目にカイコクは小さく息を吐いた。
「なんだぁい、カイさん!織姫より憂鬱そうな顔して!」
「…ったく、他人事だと思って」
にこにこと肩を叩くユズに、カイコクはブスくれた表情をする。
「おや、そんなに織姫になるのが嫌なのかい?そんな変わった衣装でもないし、変わったことをするわけでもないのに」
カイコクの表情に、ユズは意外そうにしてみせた。
ゲノムタワーの七夕まつりは至ってシンプル、じゃんけんにて選出された織姫と彦星に自分の書いた短冊をつけてもらうのだ。
短冊は自分で付けなければ意味がないような気もするのだが…そこはそれ、何かしらのイベントが無ければつまらない。
「べぇつに織姫になるのは問題無いぜ?格好だっていつもと変わんねぇし。ただなぁ…相手が……」
「相手ぇ?…あー、なるほどにゃ」
少しどもるカイコクに素っ頓狂な声を上げながらもすぐに理由に思い当たったのだろう、悪い顔をした。
「ザッくんが彦星じゃないか心配してるんだろー!ニ人は仲良しだからにゃー!」
「あぁ?…寧ろ逆だ」
「ん?」
ふわ、と髪を揺らして言うカイコクにユズは首を傾げる。
「忍霧が彦星なんてたまったもんじゃねぇ。織姫なのだから真面目にしろ、とか言われかねねぇからな」
「そりゃあ…」
「残念だったな、鬼ヶ崎。俺はその役目にはなれなかったようだ」
はぁ、と息を吐くカイコクに何か返そうとしたユズを遮ったのは当の本人であるザクロだ。
「…忍霧」
「おや、そっちも彦星が決まったのかにゃ?」
「ああ。うちはマキノくんが彦星になった」
「…あー…一番マシなトコだな」
ザクロのそれにカイコクは少し上を向き苦笑いを浮かべる。
アカツキやアンヤに比べ、マキノはカイコクのいつもと違う格好を見てもやいのやいの言わないし、きちんと彦星の役目を果たすに違いなかった。
その辺りはユズも同意見だったのだろう。
「あはは。あっきーはグイグイくるし、アン坊はカイさんをイジり倒すだろうから、ま、無難ちゃあ無難かな。マキマキはストレート褒め殺しだけど、それだけだし」
「それも問題ではあるんだけどな…」
笑うユズにカイコクはそう言う。
ただ、すぐ気持ちを切り替えたようでザクロに対して首を傾げた。
「んで?お前さんは何しにここへ?」
「彦星の役を伝えに。後は、仕事を果たして貰いに、な」
綺麗な髪を揺らすカイコクに、ザクロは何かを押し付け、元来たところに足を向ける。
意外そうにユズが立ち去るザクロを見送った。
「へぇ、ザッくんのことだから、カイさんの相手役は譲らないと…おりょ?カイさん?」
笑いながら言うユズは彼女を見上げ、返事がないことに疑問符を浮かべる。
…だが。
耳を紅く染めるカイコクに、小さく笑い、行こうぜ!と今宵の織姫の腕を引っ張った。


笹の葉に吊るされない、誰かの願いは織姫にしか届かない。

織姫を奪いたいのは、彦星だけじゃあなかったってね!!!



(お星様キラキラ、堕ちる相手は誰の元?)

七夕/一番星

笹の葉さらさら、軒端に揺れる
お星さま きらきら
金銀砂子


「…は?」
唐突に言われたそれに、司は目を丸くする。
「だーかーらー、七夕物語だよ、司くん!ほら、もうすぐ七夕でしょ?」
「いや、それは知っているが」
レンが足をバタバタさせながら言うそれに、司はそう答えた。
そう、もうすぐ七夕である。
セカイには笹はなかったから買ってきた笹にみんなで飾り付けをしていた。
高校生にもなって七夕も何もないと思うが…皆が楽しそうだからまあ良いか、と思っていたところに飾り付けが一段落したレンが来て…これだ。
元々行事事は好きな部類だったし。
七夕物語、そう言われてどんな話だったかと思い出す。
確か、真面目な彦星と織姫が結婚したものの、遊び呆けていた為に人々が困り、遂には神から天罰を食らって天の川を挟んで引き離される話と記憶しているが。
あまりに二人が嘆き悲しむから7/7の夜だけ鵲が橋をかけてやり邂逅を赦すのだ。
下らない、と思う。
川なんぞ飛び越えて会いにいけば良いのに、と。
「オレならば、まず悲しむ前に会いに行くがな」
「あははっ、司くんらしいや」
持論まで展開すればレンが楽しそうに笑う。
「じゃあさじゃあさ、もう一つの七夕物語は知ってる?」
「…もう…一つ?」
レンから予想外のことを言われ、司は呆けてしまった。
七夕の話はこれだけだと思っていたが、違うのだろうか。
「やっぱり司くんも知らないんだ!じゃあ教えてあげる!」
何故だか得意げにレンが言う。
そうして話してくれたそれはなかなか信じがたいものだった。
「…それは…本当に七夕物語、か?」
「あれ?信じてないの?まあ、ボクも類くんから教えてもらったんだけどね…」
「情報源は類か!」
小首を傾げるレンに司は思わずツッコむ。
まあ類は無闇矢鱈に嘘をついたりはしないのだけれども。
「おや、僕をお呼びかな?」
「呼んどらん」
ひょこりと顔を出した類に司は言う。
ぱあ、とレンが表情を輝かせた。
「あ、類くん!この間の七夕物語、本当だよね?!」
「本当だとも!まあ、一般的には羽衣伝説、の方が名としては通っているかも知れないけれどね」
にこ、と類が笑う。
名としてはどちらでも良いのでは、と突っ込みたくなった。
「その…何というか……、最低ではないか…?」
色々オブラートに包んだ感想を、類が笑い飛ばす。
「昔話なんてそんなもんだよ、司くん。つるの恩返しだって、ひいては天岩戸隠れの話だって、最低といえば最低だろう?」
「それはそうかもしれないが」
「流石に、ショーには使えないけれどねぇ」
「やるなら一般的な方だな!」
くすくす笑う類に司は言った。
「そう言えば、カイトさんが呼んでいたよ、司くん」
「む、そうか」
類のそれに司は立ち上がる。
目線の先で笹に飾られた短冊が、揺れた。



セカイから戻り、司は息を吐く。
向こうでは気づかなかったが…随分遅くなってしまったようだ。
「…司先輩」
「…?おお、冬弥ではないか!」
後ろから声をかけられ、振り返ればライブ帰りなのであろう冬弥がいた。
「今晩は。今帰りですか?」
「ああ。冬弥も、か?」
「はい。今日は小さな箱だったんですけど…反省会に時間がかかってしまって」
「なるほど」
表情を緩める冬弥に司も頷く。
ふと薄い格好をしている冬弥が気になり、持ってきていたパーカーをかけてやった。
「…あの?」
「夕方は少し冷えるだろう。虫除けにもなるし、な」
「…ありがとう御座います」
冬弥がふわりと笑む。
「…お前は、織姫のようにどこかへ行ったりしないだろうからな」
「…先輩?」
小さな声の司に、冬弥が首を傾げた。
「いや、なんでもない!…見ろ、冬弥!一番星だぞ!!」
それを誤魔化し、漆黒に染まりつつある空に光る星を指差した。
「…本当ですね。…俺にとっての先輩のようです」
「?何か言ったか?」
微笑んだ冬弥の小さな言葉に今度は司が首を傾げる。
冬弥が、いえ、何も、と笑みを浮かべた。
「そうだ、お前にも短冊をやろう!今日ショーの合間に七夕飾りを作ってきてなぁ」
「…!ありがとう御座います。司先輩は、何を願ったんですか?」
短冊を手渡し、さらりと髪を揺らす冬弥に、司はとびきりの笑みを向ける。
一番星が、一層美しく輝いた、気がした。
「愛するものが、笑顔でありますように、だ!!」


…もうひとつの七夕物語。

それは、天女である織姫の羽衣含む衣服を隠し、天界に帰れなくした彦星は途方にくれる織姫をだまくらかしてそのまま結婚する、という話。

嗚呼、なんて下らないんだろう!

笹の葉がさらさら揺れる。

そこまで愛しているのなら、羽衣なんて隠さずに手を伸ばせば良いと、司は笑った。

(お星様キラキラ、二人の行く末、空から見てる?)

ワンドロ・お風呂/泡

「?!!彰人!彰人!!」
「?どうした、冬弥!」
風呂場から聞こえる、珍しく焦った声に彰人は慌ててそちらに向かった。
さて何故こんな事になっているかと言えば、事の起こりは数十分前。
誕生日に入浴剤を貰ったから試してみたい、という冬弥に「セカイに行けば良いんじゃね?」と軽く言ったのが良くなかった。
そもそも入浴剤なんて家で使えば、とも思うが、歩み寄ったとはいえ完全に関係が修復したわけではない家族がいる浴槽で入浴剤も…しかも男子高校生が…使いにくいのだろう。
流石に彰人の家で、ともいえず、ホテルなんて思いもつかなかった二人はセカイにやっていたのだった。
まさかあるとは思わなかったが…路地裏を抜けた先、見たこともない古いホテルに入ってみればお誂え向きのバスルームがあったのである。
水道も通っていたし、もはやそういうものと割り切るしかなかった。
「大変な事になったんだが、来てくれないか…?!」
返される声は切羽詰まっており、ゆっくり考えられないな、と風呂場に向かう。
「一体何があっ…」
「…悪い…」
しゅんとした冬弥は、普段より表情が出ていて可愛らしいな、と思うがそれよりも周りの光景に驚いてしまった。
色付いた水を想像していた浴槽の水が泡だらけだったからである。
「…何を入れたんだ…?」
「…これ、なんだが…」
純粋な疑問に冬弥が手渡してきたそれ。
「…泡風呂の入浴剤じゃないか?これ」
「…へ?」
「泡風呂。知らないか?泡を浮かせた風呂のことでさ…専用の入浴剤があってよ。ちなみに普通の入浴剤と効能に差はない」
きょとんとする冬弥の服を脱がせてやりながら彰人は説明する。
ついでに、自分も服を脱ぎ、シャワーでさっと身を清めた。
「まあ、そうだな。体験してみた方が早いんじゃねぇの」
先に湯船に入り、手招きする。
ぽかんとしていた冬弥がおずおずと立ち上がった。
「…ひっ!」
「うわっ!」
片足を入れたままで躊躇する冬弥を引っ張り込む。
雪崩込んだ冬弥とともにどぷんと湯に浸かった。
思ったよりも浅く湯を張っていたらしい。
「何するん、だ…!」
「お前が遅いのが悪ぃんだろ」
振り仰いでむぅ、という顔をする彼にいけしゃあしゃあとそう言い後ろから抱きしめた。
「…で?どうだ?初の泡風呂は」
「…。…まあ…悪くはない」
「それは良かった」
ブスくれながらも風呂自体は気に入ったようで、次第にその表情が蕩けてくる。
「彰人っ、彰人っ」
「なんだよ、冬弥」
上機嫌で手に掬った泡を見せてくる彼に首を傾げた。
「これ、なんだ」
「…泡にしか見えねぇけど…?」
「…意外と頭が硬いんだな」
へにゃりと笑う、珍しい程に機嫌の良い冬弥に彰人も思わず小さく笑う。
頭が硬いなんて冬弥に言われるなんて思いもしなかったのだけれど。
「で?何なんだよ、それ」
「分からないか?…マイクだ」
「…うん??」
にこにことそう言う冬弥に思わず固まった。
突拍子もない発言は珍しくもないが、今日はいつにも増して上機嫌なのである。
「…そうか。…その…頑張った、な…?」
戸惑いながらもそう言えば、彼は嬉しそうに笑った。
まるで小さな子どものように。
無邪気に、愛らしく。
「次はパンケーキにする。…彰人?」
「あ、あぁ。パンケーキな、パンケーキ」
酔っ払ったとてこうはなるまい、と思いながらふとこの入浴剤の香りは何なのかが気になった。
あまり強い香りではないようだが…と思いながら空袋に手を伸ばす。
…と。
「彰人…?」
「うわっ!…冬弥?!」
くるん、と振り向いた彼がそのまま抱きついてきた。
シャボンがいくらか舞い上がり、消える。
「…なぁ、今日はシないのか?」
「…。…お前、ベッド以外は嫌がるじゃねーか」
こてりと可愛らしく首を傾げる冬弥にそう言ってやれば、彼はムッとした表情になった。
「俺が良いって言っているのに」
「…わーった。後悔しても知らないからな?」
はぁ、と溜息を吐き出し、ゆっくりと口付ける。
パシャリと跳ねた水泡が、溶けて消えた。


「…うー…。彰人…水……」
「だから言ったっつー…。…ちょい待ってろ」
案の定逆上せた冬弥をこれまたお誂え向きにベッドに寝かせ、ペットボトルを手に戻ろうとした彰人は…ゴミ箱から入浴剤の入っていた袋を見つけ、香りを確認してからすぐに戻す。
ぐったりした可愛らしい彼に水を持っていってやらねば、と彰人は見えないように笑った。

…猫はマタタビで酔うと言うのは真理だなぁ、等と思いながら。

(風呂好きにゃんこも稀にいるものだ、なんて、言えるはずもないけれど!!)




「へぇ。セカイにはお風呂はないはずなんだけど…随分強い想いだったんだねぇ」
「いや…まあ……な…」

ナナミ誕

「ねえ、鬼ヶ崎クン」
「?なんでェ」
相変わらず情報交換を済ませた後、ナナミが帰り間際にそうだ、と振り向いた。
きょとん、とした彼が小さく首を傾げる。
「アタシ、今日誕生日なのよ」
ウインクして言ってみればカイコクはまだ不思議そうな顔をしていた。
「…カレンダーもねぇのに、よく分かったな…?」
「あら、大体は分かるわ。ヒロやサクラが来た時から計算したりして」
「…ああ、なるほど?」
ふわりと髪を揺らす彼にそう言えば納得したように笑う。
「そりゃあ…おめっとさん」
「ふふ、ありがとう」
柔らかく笑うカイコクに、ナナミも笑みを浮かべて礼を言った。
彼はそういう所は素直なのである。
この、優しい笑みと声をする彼が好きだなと、思った。
「それじゃあ、またね」
「…?そんだけ、かい?」
ひら、と手を振るナナミにカイコクはまた小さく首を傾げる。
今度はナナミもきょとんと目を瞬かせた。
「…?他に何かあるの?」
「いや。…兄さんは欲がないねぇ」
小さく笑ったカイコクはなんだか無邪気に見える。
どこかイタズラっ子のようで、ナナミも笑ってみせた。
「まあ、欲を見せても良いの?」
「さあ?どうだかな」
笑うカイコクは猫のように逃げてしまう。
煽っておいて、それはないと思うのだけれど。
「…?」
と、小さなカードを見つけた。
確かに前に来た時にはなかったから…今カイコクが落としたのだろうか。
呼びかけようとして中を見たナナミは目を丸くした。
それから、あらあら、と表情を緩める。
カードには『鬼ヶ崎カイコク使用券』と綺麗な字で書いてあって。
「使用券、なんて色気がないんだから、鬼ヶ崎クンも」
小さく笑ってナナミはカードにそっと口づけた。
素直じゃない彼からの、素直ではない誕生日プレゼント。
存外律儀な彼に笑い、さてこのカードはいつ使おうかと考え始めた。


(愛しい彼がくれたものだもの、大事に取っておきたいココロもあるのよ?)

類冬ワンドロ/時計・パソコン

カタカタとキーボードを叩く音が静かな図書室に響く。
久しぶりに図書室に行った類はパソコンの前に座り、読みたかった本を調べていた。
その本はすぐに見つかったのだが、同じ作者の本や、似た内容の本が見つかりすっかり夢中になってしまったのである。
芋づる式に出てくるのも時に良くないな、と類はホーム画面に戻った。
お陰でふと時計を見た類はすっかり遅くなってしまったことにその時初めて気付いたのだ。
それにしたって図書委員は誰も声をかけてくれなかったな、と類は貸出する本と予約表を持ち、立ち上がる。
カウンターの奥にいる人物に声をかけようとし…やめた。
代わりにスマホの写真機能をタップし、そっと写し撮る。
壁に寄りかかり、すぅすぅと寝息を立てていたのは青柳冬弥、その人であった。
眺めていたい気もするが反対側に置かれた大きな柱時計はそろそろ18時を回ってしまう。
時計が大きな音を立てる前に起こしてやらなければ。
「青柳くん、青柳くん」
「…ぅ…せ、んぱ…?」
「おはよう、青柳くん。待たせてすまなかったね」
「…いえ」
ゆわりと目を開けた冬弥はまだ夢見心地なようで柔らかく笑んだ。
「しかし、遅くなってしまったが…家の方は大丈夫なのかい?」
「いつもライブなどではもっと遅くなるので…」
それと、と冬弥が言う。
「あの柱時計は少し時間が早いんです。実際は…。…」
本来の時間を教えてくれるつもりだったのだろう冬弥が口を噤んだ。
はて、どうしたのだろう。
「?青柳くん?」
「えっ、あっ、すみません」
「一体何を…」
画面を覗き込もうとして、類は目を丸くした。
一瞬見えたそれは。
「…見ましたか?」
「ふふ、それはもう」
少しバツが悪そうな冬弥に類はニッコリ笑う。
「盗撮なんて君も悪いねぇ」
「…う…」
類のそれに彼は言葉を詰まらせて目を逸らした。
つい出来心で、というやつだろうか。
「なぁに、消せ、なんて意地悪は言わないよ。ただ、なぜこの写真を撮ったのかは聞かせてもらいたいね」
「…」
ね、と優しく笑えば冬弥もほっとした表情をする。
そっと口元を隠すスマホには類がパソコンをしている様子が映し出されて、いた。


(その顔に、少し複雑になってみたりして)


「…先輩がいつもと違う表情で…格好良いな、と…思ったんです」

絵本 人柱アリス プロセカパロ

人柱アリスパロをプロセカでやるなら小さな夢が瑞希ちゃで1番目が杏、2番目が冬弥(狂った男は類)、3番目がこはね(従者がみのりと志歩)、4番目が東雲姉弟かな。


助けを求めた遥が「もう遅いよ」って死体に変わって発狂する杏だったり、狂った錬金術師・類の歌唄いの人形に成り果てる冬弥だったり、私がみのりちゃんや志歩ちゃんがいる場所を守らなきゃって必死のこはねだったり、仲の悪い姉弟より仲の良い兄妹の方が理想だろう?って司に言われる彰人だったり。

1番目が3番目を、2番目が4番目を、3番目が1番目を、4番目が2番目をそれぞれ堕とすのが好き。
小さな夢の瑞希ちゃはそれを見るのが楽しい、寂しがり屋。

ボカロ版、口上はルカで小さな夢はショウタ、後はメイコ、カイト、ミク、リンレンだと
ミキ、キヨテル、ユキ、いろはゆかりで口上あかりの小さな夢アイってのが一番しっくり来るよなって思う。
インタネはLily、がくぽ、GUMI、IAONEなのかなぁ。
口上と小さな夢に迷う。
有名ドコだとMAYUとかvflowerとかなのかなぁ。
でも髪短いvflowerくんと髪長いvflowerちゃんの4番目も可愛い。
音街ウナ口上の小さな夢MAYUとかも良いよね。

司冬ワンライ・衣替え/肌

今日は暑い。
ダラダラと流れ出る汗を、司はタオルで拭う。
まったく、梅雨はどこに行ったのだろうという思いがこみ上げては、文句を言っても仕方がないか、と諦めの気持ちと共に消えていった。
…それにしても。
「半袖になったはずなんだがなぁ…」
タオルを仕舞いながら司は独りごちる。
制服は長袖から半袖への移行期間になっていた。
所謂、衣替え、というやつだ。
少し涼しさを感じても良いはずなのだが…それでも暑いのは何故だろう。
「…司先輩!」
「ん、おお、冬弥…か…」
後ろから声をかけてきた可愛い恋人に笑顔を向けようとして…司は固まった。
駆け寄り、カバンの中から取り出した薄手のパーカーを着せる。
「?あの、先輩?」
「夕方は冷えてくる。着ていると良い!」
首を傾げる冬弥に司は言った。
白い首筋から流れる汗と、半袖から伸びるほっそりした腕。
目の毒でしかなかった。
「まだ夕方ではないですが…」
「冬弥の肌を晒すわけにはいかんだろう!!」
「…!!」
困惑したような冬弥に、司は真剣に言う。
目を見開いた彼はきゅ、とパーカーの前を握った。
「…それは、その」
「まあ、なんだ。独占欲…だな。格好悪い話ではあるが」
「そんなこと無いです。…ありがとうございます、司先輩」
ふいと目線をそらす司に冬弥は礼を言い、僅かに微笑みを浮かべる。
「…司先輩は、やはり先輩でしたね」
「うん?どういうことだ?」
「いえ。…少し肩幅が余るので…」
ほら、と見せてくる冬弥は、なるほど、着せたパーカーが少し大きかったのだろう、所謂萌え袖になっていた。
「ほう。身長は冬弥の方が高いからサイズ的にはあまり変わらないと思ったが…。これでは余計に暑いな。すまない、冬弥」
「いえ。…司先輩の匂いがして、嬉しいです」
「?!」
表情を緩める彼にどきりと胸が高鳴る。
肌が赤くなるのはきっと暑さのせいではなかった。
「あまり先輩を煽るんじゃあない…!!」
「え?あの…?」
頭を抱える司に冬弥がきょとんとする。
衣替えしたばかりの半袖シャツに、流れた汗が染み込んだ。


(夏はもうすぐそこに!)

ワンドロ・旅行/お揃い

MEIKOのカフェで何やら計画している男子が二人。
「やぁ、何やっているんだい?テスト勉強とか?」
「…こんにちは、KAITOさん。いえ、そうではなく…」
「…。…せっかく終わったのに思い出させるんじゃねぇよ…」
にこにこと話しかけるKAITOを、柔らかく微笑む冬弥と嫌な顔の彰人という両極端な二人が見やる。
「こら、彰人」
「あはは、ごめんごめん。それで何を…」
ムッとする冬弥に、謝ったのはKAITOの方だ。
あっさりと謝罪し、彰人たちの手元を見る。
「…旅行…計画書…?」
「…。…もうすぐ夏休みになるんで。冬弥と日帰り旅行の計画を」
「日帰り旅行!いいねぇ」
首を傾げるKAITOに彰人が観念したように言った。
それに小さく笑った冬弥が、表情を輝かせるKAITOに補足で説明する。
「冬にも同じことをしたんですが、迷ったりもしてしまって。それも楽しかったので今度は別の場所にしようかと」
「前はどこに行ったんだい?」
「隣町のパンケーキが評判の純喫茶に。後は彰人が行きたがっていたミュージックカフェにも行きました」
「冬弥が行きたがってたトコにも行ったろ。ブックカフェ、だっけ?」
「ああ。…それから迷った末に猫喫茶に辿り着いたりとか」
「へぇ、楽しそうだね」
学生らしい日帰り旅行にKAITOは楽しそうに笑った。
それから、そうだ!と声を上げる。
「なら、次はセカイ旅行とかどうだい?」
「世界って…オレらまだ学生…」
「違う違う。この、君たちのセカイだよ。意外と知らないお店があるかも?」
呆れた顔の彰人に、KAITOが笑った。
「最近またお店も入れ替わったみたいだよ。…ほら、このミサンガもレンとお揃いで買ったんだけどね…」
楽しそうなKAITOに二人は顔を見合わせる。
それから、ふは、と笑った。
「冬弥と揃いのものを買うセカイ旅行か、良いな」
「ああ。…彰人が一緒なら楽しそうだ」


穏やかな笑い声が響くセカイのカフェで、


特別楽しみな旅行の話!!


(一ヶ月後、二人の指には揃いのアクセサリーが光っていた)