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ワンドロ/お祭り・浴衣
「…」 「わりぃ、待たせた。…冬弥?」 バイト終わり、ぼんやりとする冬弥に駆け寄り、彰人は声をかける。 「…おい、冬弥!」 「…え?…ああ。バイト終わったのか」 「まーな。んで?どうしたんだよ」 ハッとしたような冬弥に、眉を潜めれば彼は別に、と小さく笑ってみせた。 だが、そうやって笑うときは大抵何かあることを彰人は知っている。 「何かなきゃんな顔はしないだろ」 「…。…そ、れは…」 「で?何があった」 言葉を詰まらせる冬弥に彰人は再度聞いた。 父親との確執は以前より穏やかになったものの、完全に関係が修復したわけではない。 何か音楽に関して言われたのかと…思ったのだけれど。 「…この前、夏祭りに行っただろう」 「あ?ああ、行ったな、そーいや」 唐突に言われたそれを思い出し、彰人は頷いた。 古い友人にイベントに出てくれと頼まれたのだが、その会場が夏祭りだったのだ。 お陰でライブ終わりに祭りを楽しんだのだが…それがどうかしたのだろうか。 「さっき、駅に向かう人たちが浴衣を着ていて…良いな、と思った」 「…は」 「俺も彰人もあの時は普通の服だったから…その、浴衣というのも特別感があるな、と…」 ぽわ、としながら言う冬弥に、そんなこと、と彰人は思わず笑ってしまう。 文化祭のときも思ったが…冬弥はお祭りというのを存外楽しむタイプらしい。 幼い頃行かせてもらえなかった反動、だろうか。 「…来年は着て行けば良いんじゃねぇの?」 「…え」 そうやって言ってやれば冬弥はキョトンとした。 不思議そうなそれに、「だーから」と笑ってやる。 「祭りは来年もあるだろ。この街のじゃなきゃ他にもあるしな」 「…彰人」 「まだやってる祭りを探して、浴衣着て行ってもいいしよ。流石に着付けみたいなのは出来ねぇけど…男の浴衣なんて合わせを間違えなきゃどうにかなんだろ」 「…一緒に行ってくれるのか」 首を傾げる冬弥に、当たり前だろ、と彰人は笑った。 「可愛い恋人のお誘いを無下に出来るわけないだろ、オレが」 「…彰人」 ふわ、と笑う冬弥の手を取る。 行こうぜ、と白いそれを引っ張った。
行こう、今度は2人きりのお祭りに。
冬弥には何色の浴衣が似合うだろうか、と彰人は考え始めた。
「…なぁ、浴衣ってエロく見えねぇ?」 「…。…彰人…?」
類冬ワンドロ/遠足・虫刺され
「えっ、その話本当かい?!」 びっくりする類に、冬弥はきょとんとしながらも、はい、と頷いた。 「…まさか遠足に一度も行ったことがないなんて、ねぇ…」 「ずっと幼少期からピアノやバイオリンで忙しくて」 「その話は前に司くんからも聞いていたけれど。でも、触れない日が出来てしまう修学旅行なんかとは違って1日だけの運動会や遠足もだろう?」 尋ねる類に、冬弥は困ったように笑む。 「運動系は、手を怪我してはいけない、という理由だと思います。遠足も同じ理由かと」 「…なるほど。まあ転ぶ可能性もあるからねぇ」 ふむ、と頷き、冬弥のきれいな手を取った。 そうやって守られてきたのは有り難いことだな、とそれだけは感謝する。 「…いつか、遠足にも行ってみたいです」 「遠足、か。秋の山にお弁当を持って行くのは良いかもしれないね」 「神代先輩は、山は得意なんですよね。草薙や暁山が言ってました」 にこりと笑う類に、冬弥がキラキラした目を向けてきた。 この純粋な目には敵わない。 「別に得意なわけではないけれど…。もう少し涼しくなったら行ってみようか」 「…!はい、是非」 嬉しそうな冬弥に類はくすくすと笑った。 純粋無垢な性格も、ピアノやバイオリンばかりやらされてきた故、だろうか。 「夏の山はあまり、なんですか?」 「まあね。夏は虫が多いから…。青柳くん、虫に刺されたら赤くなるタイプだろう?」 「…あ…確かにそうかもしれません」 首を傾げる冬弥に類は言う。 こくりと頷いた彼に類は笑いかけた。 「対策をしていってもどうしたって刺されてしまうからね。あとは、山に登るのは結構な重労働だったりするから、熱中症の危険性がある時に行くのはあまり良くないかな」 「なるほど。勉強になります」 真剣な顔で頷いた冬弥の手を引く。 わ、と小さな声を上げる冬弥が己の胸に飛び込んできた。 「…あの、神代先輩…?んっ」 「それに、虫とはいえ、君の肌を許したくないからね」 ちゅ、と白い首筋に吸い付く。 くっきりと浮かぶ紅い痕に類は口角を上げたのだった。
それからしばらく類が冬弥に口を聞いてもらえなくなる未来の訪れまで…あと数分。
「わっ、青柳くんどうしたの?首のところ、すごく紅くなってるけど…」 「…っ!少し、悪い虫がな…」 「(神代先輩…かな~…)」 「(神代センパイ、だな)」
司冬ワンライ・夏祭り/浴衣
風車を片手に誰かの呼ぶ声がする。 それに答えようとして…目が覚めた。
「…夏祭り?」 司のそれに、目の前にいた冬弥がこくりと頷いた。 「この前、初めて彰人と行ったんです。実際は夏祭りの特設ステージに歌いに行ったのですが、その帰りに少し」 「ほう、それは良かったな!楽しかったか?」 「はい。輪投げの景品が見たこともないものばかりで…」 頷いた冬弥はその時のことを思い出しているのか、表情が緩んでいる。 楽しそうな冬弥を見るのは司も嬉しかった。 「…ですので、司先輩と一緒に行けるともっと楽しいと思ったのですが…」 しばらく冬弥の思い出話を聞いていた司は、その言葉に、ん?と首を傾げる。 そうして。 「…それは…デートの誘いと取っても…良いのか?」 冬弥に近づき、彼の耳元にそっと囁く。 ほんの少し頬を染めた冬弥がこくりと頷いた。
少し困った顔の冬弥が、あの、と声を出す。 「どうした?冬弥」 「…えっと、何故ショッピングモールに…」 首を傾げる冬弥に、司は何を言う!とビシリと指を差した。 「冬弥からのデートの誘いだぞ?!正装で行かなければ失礼というものだろう!」 「…正装、ですか?」 色々言いたいことはあったろうがそれを飲み込んだような顔をした彼がそれだけを聞いてくる。 「ああ、夏祭りの正装といえば浴衣だろう?」 「…浴衣…」 「そうだ!今まで行ったことがなかったのならば浴衣は着たことがないだろう?先日はステージメインだというし」 「…そう、ですね。浴衣は今まで一度も…」 司の言葉に冬弥が俯きかけ、それをさせまいとニッと笑いかけた。 「ならば話は早い!実は浴衣をレンタル出来るショップがオープンしたらしくてな。買うと高いがレンタルなら気軽に出来るだろう?」 「…汚すと思うとそれはそれで緊張しそうですが…」 「慣れない服は緊張するものだ。…おっ、ここだな」 くすくす笑う冬弥にそう言い、司は店に入る。 中には色とりどりの浴衣が並んでいた。 女子のものとは違い、男性のものは数こそ少なかったが、色味や模様が違うものがいくつも見受けられる。 「…風車」 「え?」 ふと、一着の浴衣に目が止まった。 決して派手ではない藍鼠色と、裾の方に散られた芥子色の風車が目を引く浴衣。 まるで夢に出てきた風車のようで司はふっと笑う。 冬弥に似合うだろうな、と…思った。 「…いや。この浴衣を着た冬弥と、祭りに行きたい、と…思っただけだ」 笑う司に、冬弥は目を見開く。 そうして。 「…では、その想い、叶えますね」 浴衣を手に取り、冬弥が優しく微笑む。 まだ昼間なのに、花火が挙がる音が…聞こえた、気がした。
司が選んだ浴衣を着た冬弥と、冬弥が選んだ浴衣を着た司との夏祭りデートまで、あと数日の話である。
ワンドロ/海・水着
こはねが臨海学校に行くことになった。 「…臨海学校……」 その話を聞き、羨ましそうな声を出した冬弥に彰人はまさか、と眉を顰めた。 「…行ったことねぇのか」 「…ああ。ピアノやバイオリンの練習ができなくなる、と参加は許されていなかった。だから、臨海学校も林間学校も、体験したことはないな」 少し、ほんの少し寂しそうな顔をする冬弥に彰人ははぁあとため息を吐く。 そうして。 「これから一緒に体験すりゃいいだろ」 ぼそりと言った言葉は冬弥にも届いたらしかった。 ふわり、と冬弥が笑う。 「…ありがとう、彰人」 「…おう」 礼を言ってくる冬弥に彰人は目線を逸らした。 何だか少し照れくさい。 「つか、お前、泳げるのかよ」 それを隠すように彰人は笑ってみせた。 きょとりとした冬弥が口を開く。 「親に言われてプールは見学ばかりだったが泳げる。…多分」 「なんだよ、それ」 小さく付け足された言葉に、思わず吹き出した。 彼のこういうところが可愛らしいと思うのだ…口には出さないが。 「…なあ、海行ったことって…」 「…。流石に海には行ったことある。昔、海が見えるコンサートホールに…」 「いやそれ海メインじゃねぇだろ」 その言葉に呆れつつ、小さく息を吐く。 冬弥の天然発言は慣れっこだ。 「んじゃあ、まずは水着を買いに行くところからだな」 「…一緒に行ってくれるのか?」 彰人の提案に冬弥が首を傾げる。 当たり前だろ、とさも当然のように言えば冬弥は柔らかな顔をして、「…そうか」と言ったのだった。
海へ行こう
彼のイメージカラーに似た、海へ
「…冬弥、お前はラッシュガード買えよ。上着のと、足首まであるスパッツタイプのやつ」 「…??海には必需品なのか」 「当たり前だろ。…虫は端から排除するに限るからな」
とうかのえん
「…夏だなぁ」 「…夏だねぇ」 長谷部のそれにくすくすと笑いながら光忠がからん、と、氷の入った麦茶を差し出してくる。 礼を言って受取り、一気に煽った。 遠くの空で花火が上がる。 光忠の、品の良い軽装の、裾が夜風にはためいた。 「…お前の軽装、良いな」 「本当かい?ありがとう。長谷部くんの軽装も格好良いよ」 素直な長谷部の言葉に光忠がにこりと笑う。 どちらともなく口を寄せた。 花火の音だけが響く、世界。 僅かに離れ、ふは、と笑い合う。
夏だなぁ、と…そう、思った。
愛し刀と夕涼み
夏といえば水着か浴衣かどちらだと思う?
そんなことを聞かれて長谷部はきょとんとしてしまった。 「は…?」 「だーから、夏といえば水着か浴衣か、だよ、長谷部くん!」 ぴっと人差し指を上げるのは燭台切光忠である。 ちなみにこの光忠、他と大きく違うのは女体であった。 「…選べば見せてくれるのか?」 「…?…見たいのかい?」 首を傾げる光忠の、大きな胸がたゆんと揺れる。 そういうところだぞ、なんて思いながら長谷部は「そうだなぁ」と上を向いた。
「へし切は年がら年中ホラーだよね」とはその後の惨状を見た誰かの言葉である。
水着でも浴衣でもお前を食いたい
類冬ワンドロ・カゲロウ/怪談(ホラー)
「…怪談話?」 類の声に冬弥はこくりと頷いた。 図書室での逢瀬も日常になってきた、ある日。 利用する生徒もいない時間、冬弥はそんな話を持ち出した。 「夏だからという理由で先日、ライブの打ち上げ中に話をしていたんですが」 「それは…また打ち上げには盛り上がらない話題だねぇ?」 冬弥のそれに類がクスクスと笑う。 「そんなことないですよ。怪談が苦手なメンバーもいるので…それなりには」 「そうなのかい?ふふ、楽しそうで良いね」 類が楽しそうに笑うから、冬弥も僅かに表情を崩した。 「どんな話をしたんだい?」 「えっと…。俺が怖いと思ったのは陽炎の話ですかね」 「?陽炎?」 話し出した冬弥に、類が首を傾げる。 「陽炎って…春の天気のよい穏やかな日に、地面から炎のような揺らめきが立ちのぼる現象、である陽炎かな?」 「はい。噂話では陽炎はその人の想い人を写し出し、潜んでいた魔が違う世界に連れ去ってしまうとか」 類の言うそれに冬弥が答えた。 なんでも、連れ去りやすくするため、相手の想い人に化けるのだという。 それを聞いた全員が困惑していたのが忘れられない。 そういえばあれを教えてくれたのは誰だったか。 「…けれど、魔はどうやって連れて行くんだい?」 「ああ、それは名前を教えるんだそうです。会話でも何でも、想い人の名を教えてしまうと陽炎がゆらめき、引っ張られてしまうと」 「想い人?自分のではなく、かな」 「はい。想い人の名前を教え、陽炎が化けたその姿を強固なものにしてしまうと魔の方を本物と勘違いしてしまうのだとか。そうすると目の前のものを信じてしまい『こちら側』の姿を保っていられず、『あちら側』に引っ張られてしまうそうです」 類の質問に、冬弥は暑いな、と思いながら応えていく。 …そういえば、クーラーはいつ切ったのだっけ。 ちりん、と音がする。 それはいつか聞いた鈴の音。 不意に、類から貰ったお守りが地に落ちた。 ぼんやりと見れば小さな石が粉々に崩れていて。 …ゾッとしたものが背を駆け抜ける。 この類は…いつ部屋に入ってきた? 「…どうか、したのかな」 「…ぁ……」 柔らかく『類』が微笑んだ。 名前を呼ぼうとして音が出ないこと気付く。 呼んではいけないと警鐘が…なった。 …と。 「うわ、なんだいこの暑さは…青柳くん?」 「…せ、んぱ…?」 ガラ、と図書室の扉が開いて、嫌そうな顔の類が顔を出す。 ふわりと冷たい風が頬をなでた。 「冷房も入れてもらえないなんて、可哀想に!…それとも、今から入れるところかな」 「…ぇ?」 「?だから窓を閉めようとしているんだろう?」 きょとんとする類に、漸く冬弥は自分がどこに行こうとしているかに気づく。 覗き混んだ、その先は。 ひ、と小さな声を出して冬弥は気を失ったのだった。
危ない!と言ったのは…どちらだったのだろうか……。
「…今俺の傍にいるのはどちらですか…」 「うん、そんな抱きついていて分からないものかな?…君の愛しい神代類だよ、青柳冬弥くん」
司冬ワンライ・テスト勉強/頭を撫でる
「テスト勉強、か?」 図書室に来ていた司は恋人であり幼馴染、かつ後輩の冬弥から「一緒にテスト勉強をしたいのですが」言われ、司は首を傾げた。 はい、と頷く冬弥に司は少し疑問を擡げたが、まあ良いかと思う。 冬弥からそんなお願いがあるのは珍しいのだし。 「オレは構わないぞ!今日は咲希もバンド練習があるし、両親もいないからうちに来ると良い」 「…!ありがとうございます」 頷く司に冬弥はふにゃりと表情をくずす。 可愛らしいなぁ、と司も笑った。
その数時間後、司と冬弥は机を挟んで向かい合っていた。 「…うん、全問正解だ」 「本当ですか」 問題集を解き終わり、丸つけをしていた司は最後を丸し終わり、そう言う。 ホッとしたような冬弥に問題集を返した。 「流石だなぁ、冬弥は。特別テスト勉強をしなくても良いんじゃないか?」 「…実はそうなんです」 カラカラと笑う司に冬弥は曖昧に微笑む。 うん?と首を傾げれば彼はほんの少し困ったように口を開いた。 「む?」 「普段から復習と予習をしているので特別『テスト勉強』というのをしたことがなくて。少し苦手なところの勉強を増やすくらいなんですが、テストだからといって変わったりは…」 真面目な冬弥らしい悩みに、司は目を見開き、それからふは、と笑う。 「そうかそうか!冬弥は偉いんだな!!」 「わっ」 腕を伸ばし、わしゃわしゃと頭を撫ぜた。 彼は真面目だから、きっと気にしていたのだろう。 クラスの皆がテスト勉強をしている中、そんなことをしたことがない自分に。 テスト勉強をしたい、と思い、その相手に司を選んでくれたことが嬉しく思った。 「っと、すまん!年下扱いをしてしまったな」 「いえ。…先輩の手は大きくて…好きです」 ふわ、と笑う冬弥をちょいちょいと呼び寄せる。 不思議そうに来る冬弥を抱きしめ、それからその髪に指を通した。 頭は良いのに少し不器用な冬弥が愛らしい。 そんな彼が好きだと…そう思った。 「冬弥は冬弥らしくいれば良い。…勉強も、それ以外も、な」 「…はい」 司の囁きに冬弥の柔らかな返事が耳に届く。 夏の風が、司の部屋を吹き抜けた。
二人で共にいる、ただそれだけが嬉しくて
本来の目的を忘れそうになった、なんて
(ただいま『人生』勉強中!)
「しかし、冬弥にはオレから教えられることはないかもしれんなぁ」 「…そんなことは…ないですよ…?」
ワンドロ・放課後/瑞希
「はぁ?放課後デートぉ?」 教室に彰人の素っ頓狂な声が響く。 そう!と力強く言うのは瑞希だ。 「弟くんなら、放課後デートの何たるかを知ってるかと思ってね!」 「…知らねーよ…。放課後に遊びに行くことじゃねぇの?」 「そんなの、友だちとでもできるじゃん!」 わかってないなぁ弟くんは!と言う瑞希に「弟くん言うな」と彰人が突っ込む。 「大体、女子は友だちと遊びに行く場合でもデートとか言うじゃねぇか」 「まあ…。…じゃあどこからどこまで放課後?」 「…あ?」 次なる瑞希の疑問に彰人は首を傾げた。 唐突に何を、といった顔である。 それに、説明しようと瑞希が口を開いた…その時。 「彰人、遅くなっ…暁山?」 カラリと教室の扉が開き、冬弥が顔を出した。 きょとんとした彼はカバンの他に分厚い本を持っている。 「あ、やっほー冬弥くん!委員会早かったね」 「ああ。今日は議題も少なかったからな。…それで…?」 「そうそう!弟くんと、放課後デートについて話してたんだけどさ。はぐらかすばっかりでなかなか教えてくれないんだよー!」 「いや、それはお前が放課後がどこからどこまで、とか良く分かんねぇこと言うから」 「えー?分かるよねぇ?」 文句を言う彰人に瑞希はけらけらと笑った。 「何故そんな話に?」 「実は、絵名から今度放課後デートしよって言われたんだけど二人とも学校終わりって時間がバラバラなんだよね」 「絵名…ああ、彰人のお姉さんか」 「そ。ほら、ボクは学校にたまに来るだけだけど、一応は夕方が放課後じゃん?でも絵名は夜間コースだからさぁ」 あっけらかんと説明する瑞希に、彰人は眉を顰める。 聞けば、「身内のデート事情聞くのは誰だってやだろ」らしかった。 まあ、そうだろうな、と瑞希は軽く謝る。 それだけで、まあ良いけど、と溜飲を下げる彰人は存外優しい男のようだ。 流石は絵名の弟、というべきだろうか。 「つぅか、別に無理に放課後に行かなくたっていいだろ。絵名なんか多分お前が授業終わるまで寝てるぞ」 「まあそれはそうなんだけどさ。放課後、に行くのがいいんじゃん!つっらーい勉強が終わってさ、ちょっとコンビニでお菓子買ったり最近出来たカフェ行こー、とか、カラオケ行ったりとか、ちょっと買うものあったーってアクセ見たり、ほら、今だったら夏祭り用の浴衣見たりとかさぁ!」 「…いやもうそこまで行くなら普通に休みの日に買いに行けよ」 呆れたような彰人に、瑞希はビシッと指を突きつける。 「分かってないなぁ、弟くんは!」 途端、彰人は嫌そうな顔をした。 だが瑞希は気にしない。 「はぁ?」 「放課後はちょっと見て目星をつける、その後改めて約束をして一緒に買いに行くのがいいんじゃん!」 力説すればするほど彰人は冷めるようで、頭を掻いた。 「…分かんねぇよ」 「もー、それでも絵名の弟くんなの?」 「…。…2人が放課後と思えば放課後なんじゃないか」 「おい、冬弥」 「…続けて?」 「例えば暁山の授業終わりも暁山にとっては放課後だろうし、二人の放課後にしても店は開いていないだろうがインターネットカフェで行きたい店を二人で調べる、というのも…デートにはならないのだろうか」 何やら2人に加わらず真剣に悩んでいた冬弥がそう言う。 真面目な放課後デート考察に瑞希も思わず唸ってしまった。 確かにその考えはなかったのだし。 「うん、ありがとね、冬弥くん!なんか分かった気がする」 「そうか、良かった」 礼を言う瑞希に、ふわり、と冬弥が表情を崩す。 「お礼に何か奢るよ!コンビニとかどう?」 「俺は自分の考えを述べただけだ、礼には及ばない。…それに…」 「それに?」 誘う瑞希を断った彼が何か含むように言うから瑞希は首を傾げた。 「これからデートなんだ。…すまない」 申し訳なさそうに冬弥が笑む。 その前では冬弥との『デート』、なわりに嫌そうな彰人がいた。 開かれているのは学期末テスト範囲の教科書と、真っ白なノート。 瞬時に、ああ、なるほど、と理解した。 「んじゃー、また今度、だね。ごゆっくりー」 ならばここにいることもない、と瑞希はひらりと手を振り教室を躍り出る。 …別に馬に蹴られる趣味もないわけだし。 「…まーでも、今度お祭りとかに誘って見よっかな」 くす、と笑い、瑞希は駆け出した。 教室を出る前の、恨めしそうな彰人を思い出しながら。
放課後、二人きりでお勉強デート、なんてボクは羨ましいと思うけどね! (特権を取っちゃう気はないけどさ!)
類冬ワンドロ・水遊び/朝顔
最近特に暑い。 ホースを持ち、緑化委員が世話をする花壇に向かって水を撒きながら、類は息を吐いた。 水滴光る朝顔はキラキラしていてなんだか羨ましいほどだ。 そういえばえむが「ワンダーステージ☆夏のびしょぬれシャワーショーとかどうかな?!」と言っていたっけ。 司や寧々は嫌そうな顔をしていたがこんなに暑ければミストくらいなら何とかならないだろうか。 もう少し、水圧を上げてもっと水流を細かくすれば…あるいは…。 「…神代先輩」 もう少し軌道を柔らかいものにして…そうすれば…。 「神代先輩!!」 「…っ、え」 ぶつぶつ呟きながら考え込んでいた類は急に呼ばれて慌ててそちらを向いた。 …ホースを、持ったまま。 「…っ?!わっ…」 「?!青柳くん!」 案の定というか当然の結果というか類の持ったそれから噴射された水は目の前にいた冬弥を直撃した。 無防備な冬弥に容赦なく降り注ぐ。 すぐにホースを置き、水を止めた。 「すまない。少し考え事をしていてね。…大丈夫かい?」 「…はい。…教室に戻れば着替えもありますし…」 タオルを差し出せば冬弥は、すみません、と受け取る。 その姿は何だか嬉しそうだ。 「…水遊びのようで、楽しいです」 「君が楽しいなら良いけどね」 くすくす笑う冬弥の髪を拭いてやる。 「先輩は、緑化委員ですか?」 「ああ。朝顔の水やりをね」 「…朝顔」 冬弥が小さくつぶやき、表情を崩した。 お揃いだな、と呟く冬弥に類も笑う。 「そういえば、七夕近くに開花時期が来る朝顔は牽牛花から転じて織姫花とも呼ばれるらしいよ」 「…なら、神代先輩は彦星ですね」 楽しそうな冬弥に、類は「彦星は嫌だなぁ」と言った。 1年に一回しか冬弥に会えないのはごめんだ。 朝顔の花言葉のように、類は冬弥と共にいたいのだから。
水滴がキラキラと光る。 行こうか、と手を差し出す類に、はい、と冬弥が握り返した。
今日も熱く暑い1日が、始まる。
司冬ワンライ・コンビニ/スマイル
「新装開店しました!クーポンも付いているので良ければ…む、冬弥!」 チラシを配りながら笑顔を振りまいていた司は少し向こうに可愛い恋人の姿を見つけ、ぶんぶんと手を振った。 「司先輩…?!その格好は、一体」 「ああ、これか?」 駆け寄ってきた冬弥は、司の姿を見て驚いたらしい。 それはそうだろう、司は有名コンビニチェーンの制服を着ていたのだから。 だが、司は事も無げに笑う。 「知り合いがな、チラシ配りの人が足りないと言うので急遽手伝う事になったんだ!その分の給料は出ると言うし、何より困っている人は助けなければ、スターの名が廃るというものだろう?!」 「…司先輩らしいです」 どや、とキメ顔で言えば冬弥は小さく笑んだ。 優しい表情に司もふっと顔を緩める。 「そうだ、冬弥も来てみないか?丁度このチラシが最後だ」 「…良いんですか?」 「もちろんだとも!…ほら、コーヒーの割引クーポンも付いてるぞ!」 「ありがとう御座います」 小さく笑った冬弥が司の差し出すチラシを受け取った。 「コンビニコーヒー…初めて飲むかもしれません」 「何?!なら、オレが教えてやろう!」 「助かります」 お礼を言う冬弥はいつもよりも何だか嬉しそうで、司はふと首を傾げる。 「どうした?なにか良いことでも?」 「…いえ。司先輩がいつもと違うので」 「…?それは、良いことなのか?」 「はい。…とても、格好良いです」 ふわ、と笑う冬弥が眩しく、司は思わず目を細めた。 素直な冬弥にこちらの方がドキドキしてしまいそうだ。 「そうか、格好良いか!ありがとうな、冬弥!…そうだ、冬弥も着てみないか?」 「…え?」 笑って見せ、良いことを思い付いた!と司は提案する。 きょとんとする冬弥の手を引き、コンビニまで連れて行った。 仕事が終わったことを伝え、ささっと着替えるから、とバックヤードに冬弥を入れることに成功する。 「さ、オレが着た後だが」 「…ありがとう御座います」 私服に着替えながら制服を冬弥に手渡した。 少し戸惑いがちに受け取った彼は逡巡したものの素直に袖を通す。 「いかがでしょうか?」 こてん、と首を傾げ、聞く冬弥はたいそう可愛らしく、こんな店員なら毎日通ってしまうな、と思う。 だが。 「彰人には、俺はあまり笑わないから接客は向かないと…。…先輩?」 「…まあ、そうだな」 冬弥の言葉に司は頷く。 彼の、極上の『スマイル』を見るのは司だけで良いと。 可愛らしい冬弥の『スマイル』がコンビニ如きで買えるものか、と。 司は笑う。 自分の前で可愛らしく笑う恋人に。 (冬弥の向ける『スマイル』は自分だけのものと知っているのだけれど!) 「こんな可愛らしい店員は、オレが買い取ってやらんとな?」
「先輩、凄いです!コンビニで本格的なコーヒーが!」 「…お前は本当に可愛らしいなぁ……」
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