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ワンドロ・打ち上げ/ライブ後
お疲れー、という声が飛び交う。 いつもとは違い、今日はBADDOGSとしてライブステージに立っていたのもあってか珍しく気分が高揚した。 普段なら謙さんやセカイのカフェに行くが、今日はそんな気分ではない。 だからといってどこに行こうというわけではないのだが…。 近くの自販機で買った炭酸水と冬弥用の缶コーヒーを手に彼の元に戻る。 「…ほら」 「…。…ああ」 缶コーヒーを差し出すと冬弥はいつものように受け取った。 だが、普段ならばすぐにプルタブを上げる彼が缶コーヒーを両手で包む。 「?どうした?」 「…いや。…少し、セカイに行かないか」 首を傾げる彰人に冬弥が言った。 やはり冬弥はセカイで飲むコーヒーの方が良いのだろう。 了承し、スマホから音楽を流した。 目の前が真っ白になり、世界がセカイに変わる。 行こうぜ、と言う彰人に、冬弥が少し首を振った。 「冬弥?」 「…実は、KAITOさんから誰も来ない場所、というのを教えてもらったんだ」 「誰も来ない場所…?」 「ああ。みんなが来るカフェも良いんだが、今日は彰人と2人きりになりたくて…」 駄目だったか?と首を傾げる冬弥に、彰人は思わず口角を上げる。 やはり彼は最高の相棒だと。 「奇遇だな、オレもそう思ってた」 手を差し出し、彰人は笑う。
路地裏を抜けて、誰もいない映画館へ行こう
(今日の打ち上げは二人だけの秘密!)
類冬ワンドロ・結婚式/かみきり
彼がいると、日常が特別なものになる
「…神代先輩」 綺麗な声に呼びかけられ、類は振り向く。 相手の姿を認め、ふわりと微笑んだ。 「おや、青柳くんじゃないか。どうしたんだい?」 「先輩に受け取ってもらいたいものがあって来ました」 「…僕に?」 いつもと同じ様子で言う冬弥に、類は首を傾げる。 彼からのプレゼントなんて珍しい。 「ふふっ、嬉しいよ。何を…」 笑顔を向けようとした類ははたと止まった。 差し出されていたのは1枚の紙切れで。 「…これは?」 思わず喜びよりも戸惑いのほうが勝ってしまった。 尋ねる類に冬弥が曖昧な笑みで答える。 「…婚姻届けです」 「…ん???」 少し困ったようなそれが可愛いなぁと見ていた類は一瞬反応が遅れてしまった。 「…婚姻届け、と言ったかな」 「はい。流石に自作ですが」 「…。…何故今日渡そうと?」 「…先輩のお誕生日は6月24日なんですよね。俺の誕生日は5月26日です。…それで、その間の日はハーフバースデーと呼ぶそうです」 「?うん、そうだねぇ…?」 要領を得ない冬弥のそれに首を傾げる。 それが一体この婚姻届けとなんの関係があるのだろうか。 すると彼も何かおかしいと思ったのだろう…元々頭は良い方だ…差し出した紙を引っ込めようとする。 「…ハーフバースデーに婚姻届けを作成すれば、2人は末永く幸せになれると聞いた…のですが」 「…。…誰から聞いたかは聞かないでおくよ。…それで、君は僕と幸せになりたい、と?」 引っ込めようとするその手を握り、類はにこりと笑った。 「…」 冬弥はほんの少し逡巡した後こくりと頷く。 まったく彼は可愛いのだから! 「こんな1枚の紙切りで幸せを確約出来るとは思わないけれどねぇ…」 「…う…」 ふぅん、とそれを見ながら類は言う。 自作という婚姻届けの、妻の欄には彼の名前があった。 それを見ていると確かに口角は自然と上がる。 なるほど、人はこれを幸せと呼ぶのだろう。 けれど。 「僕なら、紙なんか必要ないくらい、君を幸せにしてみせるよ」 「…え?」 「どうだろう、僕に青柳くんの人生を任せてもらえないだろうか」 目を見開く彼の前に類は跪く。 王子様みたいですね、とふわりと笑った彼がその手を取った。
さあ、二人で結婚式をしよう。 見たこともない幸福を。 こんな紙切りではない、幸せを…君に!
プロポーズの日
「…好きだ!…いや、違うな……俺は好きなんだが貴様はどうだ……これも違う…」 「…何やってんでぇ、忍霧」 ブツブツと呟いていたザクロに声をかけたのはカイコクだった。 彼女のさらりとした長い髪が揺れる。 「…!鬼ヶ崎?!…今の、聞いて…?」 「いや。壁に向かって何か言ってんな、とは思ったけど…?」 「…そうか、良かった」 ビクッとしたザクロにカイコクが不思議そうに言った。 その答えを聞いてほっとする。 「んで?何やってたんでぇ」 「…。…なあ、鬼ヶ崎。今日が何の日か知っているか?」 「ん?今日?」 質問を質問で返すザクロに、カイコクは素直に考えだした。 今日はとことん付き合ってくれる気らしい。 …普段はムッとするのに。 「6月6日…んん??」 「日付は関係なく、第一日曜日、というのがミソらしい」 「…父の日…かい?」 「…あれは第3日曜じゃなかったか?」 カイコクの答えに、ザクロは首を傾げる。 あ、そうか、という表情の彼女の手を引いた。 「…?忍霧?」 「今日はプロポーズの日、だ」 少し驚くカイコクに、フッと笑いながら言うザクロに、彼女は綺麗な瞳が零れそうなくらい見開く。 「それで、その練習を?」 「そうだ。いざプロポーズをする時にまごついたら格好悪いだろう」 カイコクの問いにあっさり言えば、彼女はふは、と笑った。 「おまえさんにもプロポーズをしたい相手がいたんだねぇ…」 可愛らしく笑う彼女に、ザクロは首を傾げる。 「何を言う。俺がプロポーズしたいのは鬼ヶ崎以外にいるわけないだろう」 「…へ、ぇ…?」 「好きだ、鬼ヶ崎。俺と結婚してほしい」 ぽかんとするカイコクの手を握った。 「…ストレートで来やがって」 「貴様には回りくどいよりその方が効くだろう?…それで?」 口元を抑える彼女に笑いかける。 返事は、と急かすザクロに、カイコクは、馬鹿、と小さく言った。
貴女に毎年ストレートな愛の言葉を。
さて、返事はいつまで待ってやろうか?
(純情少年からのプロポーズからは逃げられない!!)
司冬ワンライ・相合傘/雨宿り
雨、雨雨、梅雨の季節。
「げっ…降ってきてしまったか…」 学校から出ようとした瞬間、ぽつぽつと水滴が体に当たり、思わずしかめ面をしてしまった。 天気予報では曇りのはずだったのに、と息を吐く。 まあ天気予報士に文句を言っても仕方がない、と一応持ってきていた折りたたみ傘を開いた。 歩を進める度に水滴の量が増え、雨に変わる。 今日はバンド練習で妹である咲希にも持たせていて正解だった、と思っていた…その時。 「…む?」 この雨の中、傘も刺さずに走る人物を見かけて司は一瞬止まった。 律儀に予報を信じてしまったらしいその人は司もよく知る人で。 「冬弥?!」 「っ、司せんぱ…?!」 「何をやっている!風邪を引いたらどうするんだ!」 綺麗な髪を雨に濡らし、驚いたようにこちらを見る冬弥を傘の中に引っ張りこむ。 「…すみません」 「降り出した時点で雨宿りすれば良かったものを。…この後、予定は?」 「…え?」 しゅんとする冬弥にタオルを渡しながら司は聞く。 きょとん、とする冬弥に、「可愛い恋人を濡れて帰らせるわけにも行かないだろう」と言った。 「…で、でも、ご迷惑では」 「迷惑なものか。今日は咲希もいない。両親も仕事だ。…好きに雨宿りしていくと良いぞ?」 「…ありがとう、ございます」 くしゃりと濡れた髪を撫でてやれば冬弥は柔らかく笑う。 年相応で可愛らしいな、と、そう思った。 「それに、雨の日デートも悪くない、そう思わないか?」 「そう、ですね」 司のそれに冬弥が微笑む、まるでハイドライジアのように。 「…?司、先輩?」 首を傾げる冬弥の髪からぽたりと雫が落ちた。 濡れた服が肌に張り付いていて艶めかしい。 「…。…冬弥。もっとオレにくっついていいんだぞ?濡れてしまうからな!」 「いえ、でも、あの」 「気にするな!…オレが冬弥と相合傘をしたいのだからな」 そう言いながら、なるべく近くに寄せ、冬弥を誰の目にも触れさせないようにした。 冬弥のこの姿は誰にも……そう、今降り注ぐ雨にだって。 彼は可愛い、司の恋人なのだから!!
(落ちる雨粒にだって、見せてやりはしないさ)
「あの、先輩。俺持ちましょうか?」 「気にするな、冬弥!!傘くらい、華麗に持ってみせるぞ!!なにせオレはスターであり!冬弥の恋人なのだからな!」
ワンドロ・歌/プロポーズ
冬弥が司の代役で結婚式のエキストラをすることになった。
やる気である冬弥とは違い、彰人はかなり心配していた。 歌なら何も心配しないのに、と彰人はため息を吐く。 何だってこんなことを。 「…彰人?」 綺麗な声に呼ばれてふり仰ぐ。 そこにはスーツ姿の冬弥が首を傾げていた。 「おぅ。…練習は?終わったのかよ」 「ああ。演技プランは理解したからな。後は反復するだけだ」 小さく笑む冬弥に、そーかよ、と返す。 すると冬弥は少し俯き、意を決したようにこちらを見た。 「…彰人」 「あ?」 「彰人なら、プロポーズする時どんな曲を歌う?」 真剣なそれに思わずぽかんとしてしまったが、すぐ思考を戻す。 きっと演技プランの一部なんだろうその質問に、疑問は浮かぶが頭を振った。 「…そりゃあまあ、定番の恋の歌とかじゃねぇの?」 「…。俺はあまり詳しくないのだが…」 「オレも詳しくねぇよ。…ま、相手に気持ちが伝わるなら、何でもいいんじゃねぇか」 困惑した様子の冬弥に彰人は笑う。 「…。…彰人なら、俺よりもプロポーズする相手役に向いていそうだな」 ふわ、と微笑む冬弥の、綺麗な髪をくしゃりと撫でた。 「ばぁか、オレはお前に捧げる用の歌しか用意してねぇっつぅの」 「…!彰人」 「さっさと振られて帰って来い」 彰人なりのプロポーズを込めて彼に言う。 意地悪く笑う彰人に、冬弥は幸せそうに微笑んだ。
Je n'ai pas de regrets Et je n'ai qu'une envie Près de toi là tout près Vivre toute ma vie
綺麗な歌声が式場に響く。 周りが感嘆を漏らすのを、流石はオレの冬弥、と聴いていた…意味はよく分からなかったが。 「おや」 傍に来ていた、今回のショープランナーである類がくすくす笑う。 いつも通りではあるが、何となく気に入らなかった。 「…なんスか」 「いやぁ、東雲くんは愛されているんだなぁと思ってね」 不機嫌な様子を隠そうともしない彰人に、類は笑う。 冬弥が歌うそれ。 出番の前、類に「花嫁ではなく、彰人に向けて歌いたいです」と小さく微笑んで言っていた曲。 そのタイトルは。
(Je te veux)
類冬ワンドロ・鈴/お守り
「…鈴の音?」 久しぶりに図書室に来ていた類は、図書委員の当番である冬弥から言われた何気ないそれに首を傾げる。 「はい。学校の近くにある神社の前を通ると聞こえるんです。彰人も司先輩も聞こえないらしいので俺の気のせいかもしれないんですが…」 「…ふむ」 少し眉を下げて言う冬弥は心なしか不安そうだった。 他人には聞こえないものが聞こえてしまう、というのはやはり恐怖でしかないだろう。 普段はあまり変わらないそれで、どうしよう、と言外に伝える冬弥に類は小さく微笑んだ。 「…僕は詳しくわからないけれど…もし良ければ、その場所に一緒に行っても良いかな?」 「!はい、よろしくお願いします!」 途端、表情を明るくさせて冬弥が礼を言う。 純粋に、素直だな、と、そう思った。
ここです、と連れて来られたのは何の変哲もない神社だった。 極端にオンボロだったりするのかと思えばそうでもないようだし、参拝者もそれなりにいる気配がする。 「…音、聞こえるかい?」 「…。…微かに、聞こえます。リリン、と…鈴虫のような……」 隣にいる彼に聞けば少し眉を顰めながら言った。 残念ながら類には何も聞こえない。 クラシックをやっていたと聞いたからその弊害かと思ったのだけれど。 ふいに鳥居の方からぶわりと風が吹く。 「青柳くん!」 「…っえ?」 ぼぅっとしている冬弥の腕を慌てて引くと彼は驚いたようにこちらを見た。 「どうしたんだい?ぼぅっとして」 「え、あ、すみません…。一瞬、視界が真っ暗になって…」 「ふぅん?」 曖昧に微笑む冬弥に軽く返し、類は小さな石を握らせる。 「…あの、神代先輩?これは…」 「お守り、とでも言っておこうかな」 首を傾げる冬弥に類はにっこりと笑った。 持たせたそれは決して特別なものではない。 だが、『この神社のものではない』気を持つそれは充分な効果をもたらすに違いなかった。 「さて、帰ろうか、青柳くん」 「え?あ、はい」 「そうそう、あの石はきちんと持っていないといけないよ?」 「…分かりました。では、袋を買いたいので…着いてきていただいても…?」 「勿論だとも!」 可愛らしいデートの誘いに類は頷く。 鳥居を潜りながら…類は内心舌を出した。
(僕の青柳くんに手を出す、なんて許されるわけがないだろう??
例えそれが神様だったとしてもね!)
「神代先輩?あの…」 「ふふ、なんでもないよ、青柳くん」
司冬ワンライ・幼い頃の約束/ジューンブライド
『冬弥!オレと、けっこんしてくれ!!』 小さな司が何かを差し出す。 それを見た、これまた小さな冬弥がきょとんとして戸惑いがちに頷いた。 それを見た司がぱぁあ!と表情を輝かせ、冬弥の手を取り走る。 そして、向かうのはきっと……。
「…また、懐かしい夢を…」 目覚ましの音で目を覚ました司は小さく笑う。 夢で見たのはまだ幼い司と冬弥だった。 思えば司は小さな頃からこうやって冬弥にプロポーズをしていた気がする。 大概親に止められていたのだけれど。 今日見た夢は…確か12回目のプロポーズだったか。 近くの教会で結婚式をやっていて、それに触発された司が、学校帰りの冬弥をつかまえて告白したのだ。 あの後はどうしたのだっけ、と思いながらふとカレンダーを見る。 もうすぐ6月、ジューンブライドと呼ばれる時期か、と思いながら司は制服に着替えた。 そろそろ学校に行かなければ。
その日の放課後。 「おぅい、冬弥!」 前を歩く可愛い後輩を見つけて司は声を張り上げる。 ふわりと髪を舞わせて振り向いた冬弥が目を細めた。 彼は本当に自然に笑えるようになった、と思う。 笑顔が以前よりもきれいになった。 「…司先輩」 「冬弥も今帰りか?」 「はい。今日は練習が少し遅めなので、一度カバンを家に置いてこようかと。司先輩は…」 「オレは今日は練習がないからな!家で台本でも練ろうかと…む?」 話していた司は何かがふわりと降り注いだのを感じ空を見上げる。 「…これは…花?」 「ライスシャワー…でしょうか」 つまみ上げたそれは白い花で、のぞき込んだ冬弥が小さく言う。 わぁあ!という歓声に二人でそちらを向けば、教会が近かったようで、ウェディングドレス姿とタキシード姿のカップルが出てきた。 「…結婚式、ですね」 「ああ。そろそろジューンブライドだものなぁ」 「そうですね。…幸せそうです」 ふわりと微笑む冬弥の前に司は跪く。 「…?司、せんぱ…?」 「オレと共に幸せになってはくれまいか?」 手を差し出し、何度目かのプロポーズをした。 「…。…ふふっ」 「冬弥?」 「幼い頃の約束、覚えていて下さったんですね」 可愛らしく笑う冬弥がそう言い、差し出した手を取る。 「約束…あ、ああぁあ?!!!」 「…俺を、よろしくお願いします」 冬弥の言葉に記憶を手繰り寄せ、叫ぶ司に彼が笑んだ。 あの時と同じように。
ライスシャワーが降り注ぐ。 ジューンブライドの鐘が、二人の間に鳴り響いた。
『いまはむずかしくとも、オレはまたここで冬弥にプロポーズするぞ!だから、まっていてくれないか!!』
ワンドロ・罰ゲーム/女装
「ねーねー、彰人くん!羽つきしよう?!」 唐突にリンが目をキラキラさせながら言った。 それに、何言っているんだという目をしたのはおねだりされた彰人の方で。 「…いや、今何月か分かってるか?リン」 「え、もうすぐ6月でしょ?」 何言ってるの、とリンはキョトン顔だ。 分かっててそれかと彰人は嘆息した。 「あれは正月の遊び。だからやんねぇ」 「えー?!じゃあ杏ちゃんやろー!」 「うん、いいよー!」 リンが矛先を向けた先の杏があっさりと承諾する。 いいのかよ、と小さく彰人が突っ込んだ。 「KAITOもいるし、負けないと思うんだよね!」 「いや、だから」 「負けたら女装するよ、KAITOが!」 「待って、リン?KAITO巻き込むのは駄目じゃない?!」 「じゃー、うちが負けたら冬弥が女装するね!私も、負けない自信あるし!!」 「待て待て待て冬弥を巻き込んでんじゃねぇ!」 勝手な約束をするリンと杏に思わず突っ込んだのはレンと彰人だ。 「ちょっと、KAITO!」 「冬弥もなんか言えよ!」 ぐるりと振り返って話題に出された2人を見る。 この際6月に羽つきをするのは良い。 だが、罰ゲーム付、しかも女装となれば話は別だ。 「別にボクはどっちでも良いよ?なんだか涼しそうだし」 「俺も別に支障はないな。歌えなくなるわけでなし」 当の本人は別に気にしていないようであっさりそう言う。 「衣装何が良いかなー。冬弥もKAITOさんも何でも似合いそうだもんね」 「メイドさんと制服はバグで着たし、いっそドレスみたいなのはどうかな?!ウェディングドレス!」 「え、セカイにあるの?」 こちらの都合は気にしない杏とリンが話はどう考えても不穏だった。 「多分あるよぉ。まあ踊りにくそうだけど」 「まあねー。普通のパーティードレスならまだしもウェディングドレスは…彰人?」 ウェディングドレス、と聞いて彰人は思わず固まる。 脳内で広がる、純白のドレス。 ふわりとひらめくヴェールに、細身の体を包んだAライン型のそれ。 罰ゲームで冬弥がウェディングドレスを着る…想像しただけで『嫌』だった。 「行くぞ、冬弥!」 「え、あ、彰人?!」 「あ、逃げたぁあ!!」 何か言われる前に冬弥の手を引きセカイを走る。 杏やリンから逃げるように。 「彰人…?どう、したんだ」 「…お前の……ウェディングドレス姿なんて見せられるかよ」 息を切らしながら問いかけてくる冬弥に彰人は息を吐き言う。 途端、冬弥は目を丸くした。 「それは…似合わないから、か?」 「逆。似合いすぎるから、だ」 首を傾げる冬弥に彰人はさらりとした髪を触りながら言う。 想像しただけで、…例え女装だとしても…美しく、誰にも見せたくないと…そう思った。
「つか、似合わねぇわけないだろ、お前の女装」 「…それは、褒められているのか…??」
類冬ワンドロ・爪/我慢
パチン、と爪を切る音が響く。 それに気が付いた冬弥が持っていた洗濯物を置いてちょこんと座った。 「おや?何か珍しいかな、冬弥くん」 「いえ。…類さんはいつも爪を綺麗にしているので、どんな手入れをしているのかと」 「ふふ、大したことはしていないよ」 クスクスと笑い、類は冬弥を呼び寄せる。 素直にやってきた彼を抱き込み、また爪を切る作業に戻った。 「なるべく角を作らず、丸くするのがコツでね」 「…なるほど」 「こうすることでヤスリもかけやすくなるんだよ」 パチリ、と最後の爪を切り終わり、爪切りを置く。 隣に置いてあった爪ヤスリを手に取れば冬弥がきょとりとした。 「…?ヤスリまでかけるんですか?」 「もちろん。君のことを傷つける訳にはいかないだろう?」 「…えっ」 爪を見せつけながらそう言えば冬弥は灰鼠色の瞳を丸くする。 「傷付け…?」 「そうだよ??…僕の指、好きだろう?ねぇ……冬弥」 ぼそり、と彼の耳に囁やけばその途端に全てを理解したらしい、ぶわっと首筋を赤くさせた。 それを、可愛らしい、と思う。 「…あの、類さん……」 「ふふ。逃さないよ」 もぞもぞと身体を動かす冬弥に低く笑い、ヤスリをかけた。 この後この指で如何されるか、想像させながら。 恥ずかしさを我慢しながら自分を乱れさせる指が整っていくのを見て冬弥はどんな顔をしているのだろう。 見てみたいが…今日は我慢、だろうか。 「…はい、終わり」 「わっ。あ、あの、類さん!俺の、爪も…!!」 ヤスリを置いた途端に抱きしめたまま押し倒す。 珍しく慌てる冬弥が、爪切りを所望してきた。 だが、それを類は断る。 「駄目だよ、冬弥くん」 「え、な、なんで…ぁっ」 戸惑う彼の爪先に、ちゅ、とキスをする。 そうして類は小さく彼に笑いかけた。
恋人からの背中の傷は男の勲章と言うだろう?
(それは可愛い彼がくれた、愛の証)
冬弥誕生日
「…うわ、マジか」 「…これは…やらかしたね」 「…いや、やらかしたにも程があるだろ……」 放課後、とある教室で男子3人が頭を突き合わせ悩んでいた。 今日は愛しい人の誕生日。 それなのに何故こんなにも悩んでいるのか…それは少しに遡る。
さて、今ここにいるのは東雲彰人、神代類、天馬司の3人だ。 今日、5月25日は3人の想い人、青柳冬弥の誕生日で。 普段は変人ワンツーフィニッシュと呼ばれる司や類に近付きたがらない彰人から、「冬弥の誕生日をサプライズで祝いたいんスけど」と連絡したのである。 難航するかと思った作戦会議は驚くほどスムーズに進んだ。 当日の教室の手配は学級委員である司が、当日までの準備や冬弥を呼び出すのは彰人が、そしてパーティーの演出は類がやる事になった…それは良い。 買い出しは3人それぞれでやろうとなり、買うものも決まっていた。 後は買うだけ…ただそれだけだったのに。 「…なっんで3人とも同じケーキ買ってんだよ…」 はぁあ、と大きなため息を吐き出したのは彰人である。 その中央には同じ店の箱と、全く同じホールケーキが3つ並んでいて。 そう、何故だか何を買うか、は決めていたのに誰が買うか、を決めていなかったのだ。 それによりケーキが3つもあるのに飲み物やお菓子は1つもない、という状況に陥っていた。 店の人も、さぞかし驚いたことだろう。 同じホールケーキが3つ、しかも男子高校生ばかりが買っていったのだから。 「…まあ、まだ時間はある。ケーキは1つ、うちのチームで食べるから彰人も仲間へ1つ持って帰ると良い。それより、飲み物などの買い物に行かないとな!」 司が気持ちを切り替えるように言う。 確かにそうこうしていても始まらない、と彰人も立ち上がった。 「どーも。…そうと決まりゃ早く行かねぇと。神代センパイ。冬弥来たら足止めしといて下さい」 「…そうしたいのは山々なんだけどねぇ…」 彰人のそれに類が困った顔をする。 首を傾げる二人は指し示される方を見、ギョッとした顔をした。 そこには、何と冬弥がひょこりと顔を出していて。 「…すまない、彰人。図書委員の仕事を変わってもらったから早く来たんだが…。…司先輩?神代先輩も」 綺麗な灰鼠色の瞳を瞬かせる冬弥から隠すように彰人が走る。 「?彰人?」 「いや、その、なんだ、まだこっちの用事が終わんねぇんだよ。呼びに行くから教室で待っててくんね?」 「構わないが…俺で良ければ手伝うぞ?」 「いーや、いい!!大丈夫だから!な?!」 不思議そうな冬弥に彰人は必死で笑みを浮かべた。 「そうだぞー、冬弥!オレもいるからな!」 「やぁ、青柳くん。僕もいるから心配しないでくれ」 司と類も出てくるが、冬弥はますます訝るばかりだ。 「しかし、先輩方に手伝ってもらうのに、俺が手伝わないのは…」 「…う……」 「…彰人?」 正論も正論、ど正論を叩き込まれ、思わず彰人が黙った。 それをフォローしようと司が口を開いた…その時。 「…え?」 小さなロボットが足の間をすり抜けてこちらにやってくる。 突然のことに目を丸くする3人と対象的に、類がしまった、という顔をした。 『オタンジョウビオメデトウゴザイマス、トウヤサン』 「…え?」 機械音声と共に渡される小さなバルーンアート。 呆気に取られながらもそれを受け取った冬弥の手元でそれがぽんっと弾けた。 ひらひらと舞い落ちるのは3人で描いたメッセージカード。 「…これ、は」 「っ、神代センパイ?!」 「…類ー?!」 「…いやぁ、すまない。予約設定を間違えたらしいねぇ…」 態とらしく笑う類に声を荒げかけた彰人と司は小さくため息を吐き、そして笑う。 「…今日誕生日だろ。おめでとな、冬弥」 「冬弥、誕生日おめでとう!」 「お誕生日おめでとう、青柳くん」 「彰人、司先輩、神代先輩…」 三人のお祝いの言葉に驚いていた冬弥が、ややあって表情を崩した。 想像したものとは違うが、まあ良いかと3人は笑う。 大体会議通りにはいかないものだ。 けれど、でも。 この笑顔が見られただけで…幸せなのだから。
「ありがとうございます、司先輩、神代先輩。それから彰人も。…凄く、嬉しい」
「ところで、彰人は何を隠したんだ?」 改めて冬弥が首を傾げる。 それに彰人がふいと目を逸らした。 「あー…珈琲ケーキだよ。しかも3つ分」 その言葉にああ、と笑った冬弥に司が謝る。 「すまない、冬弥。二人とも、お前にケーキを買いたがったようでな?」 「司くんもね。…そういうわけで、ケーキが3つあるのにお菓子も飲み物もないんだ。どうだろう、今から青柳くんが好きなものを買いに行く、というのは」 にこ、と笑った類に冬弥が少し困った表情を浮かべた。 だが、それにぱあと表情を輝かせたのは司だ。 「え、でも」 「それ良いな!そうと決まれば行くぞ、冬弥!」 「ちょ、司センパイ!ズルいッスよ、冬弥はオレの相棒!!…ほら、冬弥!!」 「ふふ、誘ったのは僕なんだけど。ねぇ、青柳くん?」
わあわあと廊下に声が響く。 差し出される手に小さく、小さく本日の主役が笑みを…浮かべた。
(本日、青柳冬弥の誕生日!)
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