ミクの日

どうも今晩は、初音ミクです☆

ところで私は今非常に困っている状況にあるわけで…

「ルカちゃん?ルカちゃぁあん!!」
部屋に私の声が響く。
只今3月8日午後11時30分、お風呂から上がったルカちゃんが「出来上がったPVを見ましょう!」っていうからいそいそとお菓子やらジュースやら持ってTVの前に陣取った、それまでは良かったの。
マスターは今までの睡眠不足を取り返すように寝てるし優亜さんとリンちゃん、お姉ちゃんは次の衣装合わせって言ってたし、レンくんとお兄ちゃんは…うん、考えないでおこう…ホワイトデー直前だしね。
兎に角この場には私とルカちゃんの二人きり。
せっかくだからイチャイチャ出来るーなんて喜んでいたのに!それなのに!!
「ん…」
肩越しに伝わる重み、耳にダイレクトに入ってくる静かな寝息…そう、今ルカちゃんは私の肩に寄っかかって寝てるの。
…こんな拷問初音さん知りませんけどもね?!!
「…相変わらずエロいなあ……」
思わずごくりと喉が鳴る。
開いたパジャマからチラチラ覗く白い鎖骨とか、私にはない豊満な谷間とか、微妙に紅い顔とか、そりゃまあ反応するよね!みたいな…私たちがプログラムだからどうこうの話でもなく…なんというか…マスターの言葉を借りるなら『シチュエーション萌え』…?
あ、言っときますけども女子だって反応するんだよ? 
性欲が男の子だけのものなんて思わないでほしいなっ!
「…ん、ぅ…」
「…って、そんな事はどうでも良くて!ルカちゃんってば!」
頭を振って、私はルカちゃんを起こす作業に戻った。
「ルカさーん、起きてくださーい!」
「…んぁ…ミク、ねぇさま…?」
必死の揺さぶりでルカちゃんは漸く目を開けた。
ぽやんとした顔で見上げるルカちゃんはめっっっちゃ可愛い…っていうか顔近い顔近いっ!!
もーホント無防備なんだから!
襲われても知らないからね、私に!
「…?ミク姉様?」
「あ、いや、こんなトコで寝てたら風邪引くよ、ルカちゃん」
「…そうですわね。何だか安心してしまって……」
私のそれに、にこっと笑うルカちゃん…。
それって私の横が安心するって捉えて良い?!
「今回の曲、揺籃歌ですものね」
「…ソウダネー」
ルカちゃんの答えに私は思わず棒読みになった。
今回の楽曲のテーマが揺籃歌…つまるところ子守唄で(癒やしが欲しかったってマスター言ってた)今画面に映ってるのはパジャマ姿のお兄ちゃんだ。
レンくんが「うちの兄さんがマジ女神」って崇めたっけ。
ちぇ、どうせ私はお兄ちゃんみたいに癒やしもない、油断ならない狼ですよー。
まあ勝とうとも思わないけどね?
「…ミク姉様の声、安心しますし」
「…んっ?!!」
小さな声で言うルカちゃんをばっと見上げると、照れたように笑った。
そういえばルカちゃんが寝始めた頃流れてたのって私の曲だっけ…。
もー、相変わらずほんと可愛いなぁあ!
「…ありがと、ルカちゃん」
素直にお礼を言うとルカちゃんもにこって笑った。
…あー、ホントルカちゃん癒し系。
「…あ」
「?どうしたの?ルカちゃん」
時計を見上げたルカちゃんが小さな声を上げるから私は首を傾げた。
何かあったのかな?
「…あの、ミク姉様?」
「ん?何?ルカちゃん」
改まったように正座するルカちゃんに私は聞く。
「あの…」
珍しく歯切れが悪かったルカちゃんが思い切ったように顔を上げた。
え、と思う私の頬にルカちゃんの唇が触れる。
「…記念日おめでとう御座います、ミク姉様」
耳元で囁かれて、思わず頭が混乱した。
記念日?
誰の??
もしかして…私?
バッと電子時計を見れば指していたのは3月9日。
って、もしかして!
「…ミクの日?!」
「…はい」
ルカちゃんのはにかんだ笑顔に私は色んなものが湧き上がるのを感じる。
もーー可愛いんだからこの天使はー!
「…ありがと、ルカちゃん!」
思わず抱きつく私に、ルカちゃんは、はい、と笑ってくれた。


「もしかしてそれを言いたくてこれ見てたの?」
「え?」
TVのスイッチを切ってDVDを定位置に戻してるルカちゃんに聞けばキョトンとした後ふにゃりと笑う。
「…ええ、そうですわ」
「別に朝起きた時で良かったのに」
「…誰よりも早くミク姉様を祝いたくって」
ルカちゃんの返答に一瞬理解が遅れた。
…ほっんとに可愛いんだから…。
「ねぇ、記念日のミクさんに何かプレゼントないの?」
「え、えぇ…?」
ずい、と迫れば困った顔のルカちゃんがぎゅっと抱きついてくる。
えー待って可愛すぎて困るんだけどどうしたら良い?
頂いちゃえば、良い?
「…私からのハグ、というのは…きゃっ?!」
「いやいやいや、セカイの歌姫がハグなんかで許すと思うのが間違いですよねー巡音さんはねー」
「み、ミク姉様?!あ、あのそれ確かお誕生日にやった気が、というかテンプレ化している気が…!」
「細かいこと気にしない☆」
「気にしますぅう…!ん、んぅ…!」
往生際の悪いルカちゃんを黙らせるようにキスをする。
そういうメタいこと言うのは嫌われるんだぜ、なーんてね!
(たまの記念日くらいいちゃいちゃしたいんですー!)

隔週ワンドロ・春/キャンディ

「わりぃ冬弥、遅くなった」
「…彰人」
少しホームルームが長引いたのもあり、慌てて彼の教室に向かう。
ドアから声を掛ければ、読んでいた本から冬弥がふ、と顔を上げた。
柔らかい微笑みにほっとする。
「そんなに待ってはいない。…気にするな」
「んなら良かった。…なんか甘い匂いしねぇ?」
冬弥のそれに笑みを向けつつ近付けば微かに甘い匂いがして首を傾げた。
目の前の彼は香水を付けるような質ではない。
ならば何故?
「…。…ああ。暁山と昼食を取った時にキャンディを貰ったんだ。パッケージが可愛かったから買ったが、味が思っていたのと違ったらしい」
「あぁ…それでか」
冬弥が喋る度にコロコロと音がし、なるほど、と思う。
瑞希とは文化祭で仲良くなったのだが、その人懐っこい性格に冬弥も安心しているようで瑞希が学校に来ている時は昼食を共にしたり放課後に話をしたりしていた。
まあ冬弥は誰にでもこの距離感だが…それは置いておいて。
「何の味だよ?」
「…。…彰人が好きな味だ」
「…はぁ…?」
単なる疑問を含み笑いで返され、彰人は眉を寄せる。
待たせた仕返しのつもりだろうか。
「…ヒントは?色とか」
「…茶色…だろうか」
「あ?」
沸切らない答えに首を傾げると冬弥は「口に入れた時は茶色だったが今は分からない」と言った。
「んじゃあ見せてみろよ」
「ああ」
彰人のそれに、冬弥は素直にかぱりと口を開く。
キラキラした黄土色のそれに思わず喉が鳴る。
「んんぅ?!」
無意識に吸い寄せられ、無防備に開いたそれを塞いだ。
甘い口内を舐め回し弱いところを擽り飴を自分の元に絡めとる。
「…っ、ふ…」
「…甘ぇ…」
呟いたそれに冬弥がムスッとした顔をする。
ころりと口内で転がしたそれは、確かに彰人が好きなそれだった。


だってねぇ
甘い甘い冬弥は、彰人の大好物なのだから!


「実際舐めても味分かんねぇんだけど…なんだ?これ」
「…春限定パンケーキ…」

ワンドロ・ストレス/補給

その日、彰人はイライラしていた。
大した出来事があったわけではない。
姉である絵名と喧嘩しただとか、仲間と揉めただとか、そんな事ではなかった。
何の事はなく…水たまりに足を突っ込んだとかテストの点が芳しくなかったとか新商品であるコンビニのチーズケーキが売り切れていたとか、そういう小さなストレスの積み重ねが原因で。
一つ一つは小さいが、彰人にとってはイライラがピークになっていた。
舌打ちしてコンビニを出る。
糖分補給でもしてやり過ごそうかと思っていたのだが…余計にイライラが募る結果になった。
今のまま練習に行っても良い結果は出ない。
そんなことは分かっていた。
分かっていたのだが…どうにもムシャクシャする。
「…彰人?」
ふわ、と声がした。
顔を上げれば委員会で遅くなる、と言っていた冬弥が首を傾げていて。
不思議そうな彼に手を伸ばす。
「…っ、彰人…?」
「…わりぃ、冬弥補給させてくれ……」
「…。…別に、構わない」
抱き着き、彼の肩に顔を埋めればほんの少し嬉しそうな声が降ってくる。
おずおずと撫でられる手は不快ではなく、彰人は寧ろイライラがすぅっと引いていくのを感じた。
流石だな、と思う。
彼の手がこんなにも心地良いなんて。
「…彰人は、凄いな」
「…あ?」
と、不可思議な言葉が降ってきて思わず顔を上げた。
彰人の目に映るは、眩しげに眇められた冬弥の綺麗な目。
それだけで、温かな気持ちが湧いてくる。
「…彰人が触れているだけで…俺は、嬉しくなる」
「…なんだ、それ」
珍しく楽しそうな冬弥にまあ良いか、と彰人はまた彼の肩に顔を埋めた。
ニヤけた顔を隠すように。



ここが外だと彼らが気付くまで…長くは、ない。

ザクカイ♀️ひなまつり

3月3日、ひな祭り。
女子の成長を祝う、そんな日に。
不機嫌な顔の女子が一人。


「…ひな祭りは嫌いだ」
「…そう、なのか」
ぶすっとした顔で、随分頑なに言うからザクロは多少なりとも驚いてしまった。
カイコクがこんなにはっきりと『嫌い』を明言するのは珍しい。
「ちらし寿司が食べられるから好きな部類かと思っていたが」
「…俺は、魚が好きなだけだからねぇ。ちらし寿司よりは普通の握りの方が良い。…それより」
首を傾げるザクロに、少しだけ微笑んでみせたカイコクがまた表情を固くさせた。
「人を着せ替え人形みてぇにした挙句色んな人ンとこ連れ回して、やれお嬢様はお人形みたいですね、だの、やれうちの息子のお雛様に、だの。そういうのが煩わしいっつう方がでかくてな」
「…なるほど」
彼女のそれにザクロは頷く。
家では雛人形を飾り、散らし寿司やケーキを作って食べる、くらいしかしたことがなかったが…良い所のお嬢様であるカイコクにとってはまた違ったものなのだろう。
「…別に、構わないんじゃないか」
「…へ?」
「女子を祝う祭り、というだけで別に無理に祝う必要もない。鬼ヶ崎が嫌いならば嫌い、のままでも構わないと…俺は思うが」
「…!!」
ザクロの言葉にカイコクは綺麗な瞳を見開かせた。
それからややあってくすくすと笑う。
長い髪がさらさらと揺れた。
「…な、なんだ」
「いやぁ。…てっきり、親が祝ってくれる行事は受け止めるべき、くらいは言われるかと思ってたんだがねぇ?」
「…あぁ。…俺は、感情を我慢すべきだとは思わないからな。好意に誠実になるべきだとは思うが」
「…なるほど?忍霧らしいな」
楽しそうに笑う彼女を見て、まあ良いか、と思う。
カイコクが、笑っている…ただそれだけで。
「分かったなら食堂に行くぞ。…伊奈葉がちらし寿司とアサリの吸い物を作ってくれている」
「そりゃあ…行かなきゃ損、ってやつだねぇ」
手を差し出せばカイコクは笑ってそれを取った。

1年に1度、女の子のお祭りの日。

お雛様みたいな彼女を嫁に迎えるのは…そう遠くはない未来。



「やはり貴様はきっちり着物を着るほうが似合ってるではないか!美しい!着物女子はこうあるべきだ!このまま俺の元に嫁に来たら良いのに。いや、来ない選択肢はない!なあ、聞いているか?え?カイコクさんよぉ!!」
「…っ!!誰でぇ!忍霧に甘酒飲ませたの!!!」


(頬を桃色に染めたカイコクが、綺麗な着物を脱がされ肌いっぱいに花を咲かせ、やっぱりひな祭りは嫌いだと叫ぶ未来も、また)

類冬 学生恋愛

ふわりと風が吹く。
今までとは違い、少し暖かくなったそれに、類は思わず笑みを浮かべた。
「…神代先輩」
ベンチに座っていた冬弥がこちらを認め、慌てたように立ち上がる。
いいから、と笑みを向けて持っていたそれを手渡した。
「はい、冬弥くんのクレープ。いちごとコーヒークリームで良かったかな?」
「…はい、ありがとうございます」
柔らかく微笑む冬弥と共にベンチに座り直す。
「…あの、本当に……」
「うん、気にしないでくれ。僕が食べたかっただけだからね」
おずおずとこちらを見上げる冬弥に、類は笑って返した。
以前の帰り道、ふと見かけた車内販売のクレープ屋がどんなものか気になって偶然まだ教室に居た冬弥に声をかけたのである。
付いてきてもらったのだから、と代金は類が払ったのだが、冬弥はそれを気にしているようだった。
「言ったろう?君の時間を僕はこのクレープで買ったんだよ」
「…はい」
言いくるめるように笑みを向ければ冬弥もやっと納得したようで。
代わりに小さな笑みを浮かべた。
「…では、今度は俺が神代先輩の時間を買っても良いですか?」
「…!」
こてりと首を傾げる冬弥に思わず目を見張る。
それはつまり、次のデートがある、ということなのだが…期待して良いのだろうか。
「…君さえ良ければ、是非」
「…ありがとうございます」
類の答えにぽわりと冬弥が微笑んだ。
可愛いな、と思いながら類はクレープを一口齧る。
柔らかく口に広がる生クリームの味。
ふと隣を見れば冬弥の口の端にクリームが付いていた。
口が小さいのだろうと思いながら類は手を伸ばす。
「…冬弥くん」
「…?…は…ぃ…」
ふわりと彼の頬に触れた瞬間、手で取るという概念が吹き飛び、そのまま口を寄せた。
舌でクリームを舐め取って離れる。
「…付いてたよ」
「…ぁ、ありがとう…ございます…」
漸く口から出たそれは極々当たり前のそれで。
冬弥の小さな小さなお礼の言葉は、春風に流れて消えた。


彼と無自覚の放課後デート。


それを自覚するまで、春も待たないと言う事を…二人はまだ知らない。

類冬 冬の恋人

「知っているかい?冬弥くん。今日は冬の恋人の日、なんだそうだよ」

いつもの時間、いつもの図書室。

いつもの彼と二人きり。


そんな中でこの話題を出したのは単なる暇潰しであった。
「…?何故、冬の恋人なのでしょうか」
「うーん、バレンタインとホワイトデーの間の日だとか、語呂合わせで絆、と読めるからとか、色々説はあるみたいだけれど」
こてりと首を傾げる冬弥にそう答えればますます彼は不思議そうな顔をする。
「…2は『き』とは読まないのでは…」
少し真面目な彼に、類は小さく笑った。
語呂合わせなんて多少は強引なものだろうに。
「ふふ。そんなことを言えば世の中の語呂合わせは皆矛盾だらけになってしまうよ?」
「…それは…」
「多少強引なくらいが楽しいと、そうは思わないかい?」
口ごもる冬弥ににこりと笑って見せれば彼は小さく目を見開いてから、ゆっくりと表情を和らげる。
そう、ですね、なんて笑む冬弥に、類はチョロいなぁとほんの少し失礼なことを思った。
「…あの、神代先輩」
「ん?どうしたんだい?」
と、冬弥が声をかけてくる。
珍しいなと微笑んだ類に、冬弥は少し悩んだ末口を開いた。
「…冬の恋人、とはどんな事をするのでしょうか」
傾げた首と口調は、単なる疑問で。
そこに何らかの意味はあるのだろうか、なんて笑いながら類は小さく上を向く。
「そうだねぇ、一つのマフラーを二人で巻いてみたり、手袋を片方ずつ付けて嵌めていない方の手を繋いでみたり、コンビニのホットスナックを分け合ったり、かな。…後は」
くすりと笑って類は着ていたコートをばさりと広げた。
え、と驚いた表情の冬弥の顔を隠すようにし…軽く口付ける。
「…っ!ふ…」
「…こういう事ができるのも、冬ならでは、かな」
びくっと身体を震わせる冬弥に低く囁いた。
狡いと言わんばかりに見上げる冬弥の頭を撫でる。
彼は普段あまり表情を見せないから、存外楽しくなってしまったのだ。
さらりとした髪を撫でていれば、冬弥がコートの裾をちょいと引っ張る。
「…冬弥くん?」
「…俺は、説明されただけでは冬の恋人、というのが良く分かりません。…なので、実践してもらっても良いですか…?」
少し上目遣いでそう言う冬弥に、思わず目を見開いてしまった。
…本当に、この子は。
ふっと目を細めて類は頷く。
「それは、デートのお誘いととっても?」
「…」
尋ねる類に、冬弥はこくりと首を縦に振った。
そんな彼の手を取り、引き寄せる。
冬の恋人の日に因んだ、デートをするために。


もうすぐ春が来る、その前に。


可愛い君と、君と同じ名前の季節を!

ワンドロ/首輪・依存

『私の恋を 悲劇のジュリエットにしないで』

そんな歌が聞こえて彰人はふと上を見る。
大きなディスプレイからはバーチャルシンガーである初音ミクが歌い上げていて。
ジャンルが違う、と思いながら彰人はスマホに視線を落とした。
すい、と操作し、セカイに行く。
「…冬弥」
一瞬の白い光の後、広がった景色に目を細めながら相棒の名を呼んだ。
彰人、と紡ぐ彼は、今日は随分変わった衣装を着ている。
「…何だ、それ」
「…セカイのお茶会スーツ、というらしい」
「へえ?」
くる、と冬弥が燕尾服が閃かせた。
スペードの模様が入った手袋が彼の綺麗な手を隠していて、勿体無いな、とそれだけを思う。
と、横に何かが置いてあるのが気付いた。
「なあ、これ何?」
「…ああ、それか」
摘み上げると冬弥が何でもないように「チョーカーだ」と言う。
「ああ…」
「一人では着けられなくてな」
「ふぅん。なら、着けてやろうか?」
少し困った顔の冬弥に言えば彼は何の躊躇いもなく頷いた。
「頼む」
「ん」
後ろを向き、少し後ろ髪を上げる冬弥に、無防備なやつ、と彰人は小さく笑う。
つ、と指で項をなぞればぞくりと目の前のそれが戦慄いた。
「…っ!彰人!」
「わりぃ」
珍しく声を荒らげる冬弥に笑いながらチョーカーを着けてやる。
まるで首輪みたいだな、と思った。
冬弥もそう思ったのか、「…首輪…」と小さく呟く。
「お前、そんな簡単に飼いならされないだろ」
「…それは…そうだが」
ムスッとする冬弥に彰人は笑ってしまった。
だって、彼は気がついていないから。
簡単には飼いならされないが…慣れてしまえば水が落ちるより早く『こちらに来る』ということを。
言うなればそれは『依存』。
それも、『共依存』だ。
誰と、誰が?
勿論、冬弥と…彰人が、である。
お互いがお互い、相手がいないと意味がないと思っていた。
それを依存と呼ばずに何と言うだろう?

『私の為と差し出す手に握ってるそれは首輪でしょう?』

初音ミクの声がする。

冬弥の為と差し出した手に握られたものは何だった?

「行こうぜ、冬弥」
「ああ」
笑う、彰人に冬弥が頷いた。


7階から見える灯の先、二人で共に行こう。

なあ、『俺の     』。


(その先は彼の過去と決別する、共依存)

にゃんにゃんにゃん

セカイには衣装バグがあるらしい。

そうして今回のバグは、現実にも影響を及ぼすものだそうだ。


…だからって。


「なんっで冬弥だけなんだよ…!」
はぁあ、と彰人はため息を吐き出した。
まあまあ、とにこにことするのはスマホから出たバーチャルシンガーの鏡音レンである。
『今原因を調べてるからさ!ちょっと待っててよ!』
「原因ってな…」
「…まあ、焦っても仕方がにゃい。よろしく頼む、レン」
『まっかせて!』
呆れる彰人と柔らかく微笑む冬弥にレンが敬礼し、スマホの中に帰っていった。
「…なんでお前はそんな動揺しないんだか」
「?動揺したところでどうにもにゃらないだろう?」
「いやまあそうだけどな…?」
ピコピコと三角耳を揺らし、長い尻尾を揺らめかせる冬弥…そう、彼には猫耳と猫尻尾が付いてしまったのである。
前もそんなことがあったが、今回が前と違うのはセカイの中だけでなく、この現実世界にも影響しているようなのだ。
「誰かに見つかったらどうす…」
「おっ、冬弥に彰人じゃあないか!」
「奇遇だねぇ、何をしているんだい?」
ひそひそと声を顰める彰人に降り注ぐのは神山高校の変人ワンツーフィニッシュこと、司と類のそれで。
思わずげぇっという顔を晒してしまった。
「…司先輩、神代先輩」
「おや?随分可愛い格好だね、冬弥くん」
「おお!ライブで使うのか?可愛らしいな、冬弥!」
にこにこと先輩二人が冬弥の頭を撫でる。
どうやらあまり疑問を持たなかったようだ。
それに少しホッとしつつも冬弥の体をこちらに引き寄せる。
「冬弥はオレの相棒なんスけど。触んないでもらえますぅ?」
「…彰人」
「なんだ?少しくらい良いではないか!」
「そうだよ。冬弥くんは君だけのものではないんだし」
ムッとする司とにこにこする類に、べ、と舌を出した。
「センパイ方だけのもんでもないっしょ」
「…彰人」
「…へーへー」
窘めるような冬弥の声に、小さく舌打ちをする。
冬弥が困るのは吝かではなかった。
「…しかし凄いなこれ。本物か?」
「んっ…ええと、俺にも良く分からなくて…」
司が、ふに、と冬弥の耳を指で触った。
小さく声を上げながらも冬弥が真面目に答える。
「ふぅん?じゃあこの尻尾もそうなのかな?」
「…ふっ…ええと、はい」
すり、と類が冬弥の尻尾を擦り、聞いた。
少し頬を染めながら冬弥が頷く。
「…あ、あの…?わっ?!」
「可愛らしいな、冬弥!」
「うんうん、猫というのがまた君らしくて良いね」
「だーから、触んなっつってんだろーが!」
ギュッと冬弥に抱きつき頭を撫でる司と類に彰人はぎゃあっ!と声を上げた。
「冬弥も!かんたんに触らせてんな!」
「…だが」
冬弥にもそう言えば彼はむう、と唇を尖らせる。
「…気持ち良いんだ、触られるの」
「…は?」
「なるほど。冬弥くんがそう感じるのは、今が猫だからかもしれないね」
「あぁ、撫でられるのが好きな猫もいるものな!」
彼の言葉にぽかんとしていれば、類がそう言い、司が納得したように頷いた。
いや、納得してたまるか、と彰人が脳内で突っ込む。
「彰人」
「…なんだよ」
二人の先輩に囲まれた冬弥がくい、と彰人の服を引っ張った。
少し疲れながら彰人は返事をする。 
もうこうなったらどうにでもなれといった気持ちだった。
「…彰人も、撫でてくれ」
「あーはいは…は?!」
柔らかいそれに適当に返事をしかけ、素頓狂な声を上げる。
おや、と類が笑った。
「猫になった冬弥くんは少し欲張りで我儘だねぇ」
「良いことなんじゃないか?それくらいは可愛らしいものだろう。なぁ、彰人」
軽く言う司をぐぬ、と睨む。
彰人、と首を傾ける冬弥の頭を、ああもう!と撫でてやった。
嬉しそうにゴロゴロと喉を鳴らす冬弥に、猫みてぇ、とぼんやり思う。
「…首輪」
ほのぼのした空間に小さく呟かれる不穏な声。
それにまたひと波乱あったのは、また別の話である。


彼のバグには理由があるんだよ?

だって今日はにゃんにゃんにゃんの猫の日、だからね!

ザクカイ♀️にゃんにゃんにゃん

元々彼は猫みたいな人だった。
それがどうして。

「貴様はほっんとうに面倒事しか起こさないな?!」
あからさまなため息に、カイコクは迷惑そうな顔をする。
別にいいじゃねェか、と言うその声は普段よりも高かった。
「…レディには優しくするもんだぜ?忍霧」
「貴様、自分でそれを言うか」
にこ、と妖艶にカイコクが笑む。
…そう、彼は彼女になってしまったのだ。
猫耳に尻尾までつけて。
普段から無茶ばかりする彼は、お仕置きです、とパカから薬を浴びせられ、その所為で女体化してしまったらしい。
耳と尻尾は副作用のようで、ユズ曰く「一日大人しくしてたら戻るさ」とのことのようだ。
「しかしまあ、俄には信じがたいな」
「…。…触ってみるかい?」
「結構だ!!」
ザクロのそれにカイコクが妖しい笑みを浮かべる。
即座に否定するザクロに彼女は楽しそうに笑った。
「そっちじゃねぇよ、ムッツリスケベ」
「…なっ、誰がムッ…!…は?」
言い返そうとしたザクロはぽかんとカイコクを見る。
ん、と差し出していたのは彼女の頭だったからだ。
「猫耳。自分じゃどうなのかいまいち良く分からなくてねぇ」
「…ああ、そういう」
「どういう意味だと思ったんだい?忍霧」
「…っ」
可愛らしく笑うカイコクに返事を詰まらせながらザクロは手を伸ばす。
ふわ、と触れたそれは確かに猫のそれだった。
「…んっ」
「…存外柔らかいな。少し冷たい。やはり偽物なのか?」
「…忍霧、あの…触られた感覚は、ある…から」
すりすりと指の腹で擦っていれば彼女はふる、と、震え、こちらに訴えてくる。
すまない、と言いながらもザクロは触るのをやめなかった。
「…ぅあ…忍霧…っ!」
「尻尾はどうなっているんだ?」
「ひっ?!」
つい、と引っ張った途端、彼女は小さな悲鳴を上げ、その手を逃れてしまう。
「…も、いいだろぅ?」
「自分から触らせておいて、か?少し卑怯では?」
「…う、るせ…っ」
はぁ、と熱い息を吐き出す彼女の、たわわになった胸が揺れた。
誘っておいて、それはズルくないだろうか。
「…鬼ヶ崎。お前から誘った、そう記憶しているが?」
「…ぅ…。お前さんっ、女子が苦手だろう!」
「それがどうした?」
疑問を返せばカイコクは大きく目を見開く。
どうやら少し怯むと思っていたようだ。
「俺だってこの環境に馴れた。それに、好きなやつの姿に男も女もないだろう?」
「…ぅ、そりゃあ…そうかもしんねぇ、けど」
「ただ、猫耳を触らせてくれるだけで良いんだ。…なぁ、鬼ヶ崎」
たじたじになった彼女の耳に囁く。
どうやら普段以上に敏感らしい…猫耳に。
「…触らせてくれないか?」
「…っ!!わかっ、たから!!その囁くのはやめてくんなぁ!」
可愛らしい声を上げるカイコクにザクロはわかったと距離を取った。
おずおずと傾けられる頭に笑みを漏らす。
「…手加減」
「分かっている」
睨む彼女に短く答えて手を伸ばす。
もちろんそれが守られるはずもなく、くったりした彼女に、『責任』を取らされる事になったのは…また次、だ。


彼は猫に似ていた。

それは彼女になったとて。

…いや、彼女になった方が甘えたがりな猫により近くなった…というのはマスクの下の内緒の話!

にゃんにゃんにゃんラセタバ