隔週ワンドロ/ウインク・指ハート

「あははは!冬弥くんかわいー!!」
「へぇ、器用そうに見えるけど案外不器用なんだね、冬弥って!」
「…何してんだ?」
楽しそうな声と知っている名前に思わず教室を覗く。
1-Aの教室には杏と瑞希、そして何故だか冬弥がいた。
…彼は隣のクラスだったはずなのだが。
「…彰人」
「あ、彰人だ」
「ねぇねぇ弟くん!ファンサやって、ファンサ!」
「だぁから弟くん呼ぶなっつー…ファンサ?」
瑞希がにこにこと強請ってくるそれに、文句を言おうとし…思わず首を傾げる。
何を唐突に。
「あはは。実は私の友だちがアイドルでね。最近会った時にファンサって奥が深いんだよって言うからさぁ」
「杏たちのグループってパフォーマンスはするけどファンサとかはしないんでしょ?だからやってほしいなって思って!」
「…流石、顔が広いな…。んで?何やりゃいいって?」
杏がけらけらと笑うから、なるほど、と思いつつ聞いた。
やってはくれるんだ、と杏が言い、そうだなーと瑞希が上を向く。
「んじゃー、指ハートとウインク!」
「へーへー」
ありきたりなリクエストに彰人はパチンとウインクをし、人差し指と親指でハートを作った。
別段そこに恥もくそもない。
だが彼女たちは不満だったようだ。
「うわー、期待を裏切らないよねー弟くんは」
「卒無くこなす感じ?なんか腹立つ」
「どうしろってんだよ!!」
瑞希と杏からの散々な言われように彰人は突っ込む。
元より結果は求めていないのかもしれないけれど。
「やっぱりさぁ、冬弥くんみたいなのを期待しちゃうよねぇ」
「はぁ?冬弥ぁ?」
ははん!と何故かドヤ顔の瑞希が冬弥を引き寄せる。
「…暁山」
困惑顔の冬弥に、杏が、やってやってよ!とせっついた。
「…またやるのか?白石」
「いいじゃん!あれ、可愛かったし!」
「そうそう!あれは可愛かった!あざとさが無いのがまた良いよね」
「…俺は、彰人みたいに格好良くは出来ないんだが…」
「だーからぁ、それがいいんだってばー!」
もー!という瑞希と、「格好良いって、良かったね、彰人」とにこにこ…にやにやだろうか…する杏。
何だコレ、と思いつつ二人が言うそれが気になった。
冬弥のファンサとはどんなものだろうか。
彼も、彰人が止めないのが分かったのか小さく息を吐いた。
「…こういうのは苦手なんだが」
そう言いながらも冬弥はずいとこちらが寄ってくる。
そうして。
「…んっ」
「ん?!!」
ウインクが出来ないのだろう、ギュッと両目を瞑り、両指で小さなハートを作った。
「…あ、彰人…?…っ?!!」
「…あー…あれは刺さったみたいね」
「にしても喋らないのはどうなのさぁ弟くん」
「…うるせぇ」
驚く冬弥を抱きしめる彰人に、ニヤニヤと杏と瑞希が言う。


周りがどんな風に言おうが

彰人にとっては最大級のファンサ!


(まあ誰にも見せてはやんねーけどな!)

ワンドロ/涙・告白

ポロポロと冬弥の目から涙が溢れる。
不味い、と思ったかどうかくらいのところで先に体が動いた。
「…冬弥」
引き寄せ、ぎゅっと抱きしめる。
震える華奢な身体を強く、安心させるように。


さて、事の起こりは10分ほど前。


「…。…これはまたすげぇな」
彰人は呆然と指定されたそれを見上げた。
最近になって新しく出来たというミュージックカフェのクーポンが配られていたから、どうせ暇だし行ってみようと言う事になった…そこまでは良い。
BADDOGSも結成したばかり、どんどん現場を積んで行かなければという焦りもあり、様々な場所で歌っていた。
今回も上手く行けば飛び入りで参加できるかもしれない。
しかしまあその場所が最近出来た15階ビルの最上階らしいのだ。
珍しい場所に建てたな、とぼんやり思う。
「…っし、行くか」
「…」
「?どした、冬弥」
いつもなら何かしら返事があるのに、何も言わない冬弥に首を傾げた。
何でもない、と言う声が普段より固く聞こえたが本人がそう言うなら、と彰人は歩き出す。
ビルに入り、エレベーターのボタンを呼んだ。
程なくして来たそれに乗り込めば全面ガラス張り、外が丸見えというよくあるものであった。
「へぇ、中もすげぇな」
「…そう、だな」
「…って、大丈夫か、お前。顔色悪い……」
カタカタと震える冬弥に手を伸ばした、その瞬間。
「…え?」
目の前の光景を思わず疑った。
ボロボロと涙を流す相棒を見て、思わずぎょっとする。
頭が真っ白になりながらどうにか身体を動かし、冬弥を引き寄せた。
すまない、と彼は涙ながらに高いところがどうしても苦手なこと、伝えたかったが言い出せなかったことを告白してくる。
そんな涙の告白を聞きながら、彰人はただただ抱きしめるしかできなかった。





「…そんな事もあったな」 
懐かしそうに目を細める冬弥。
今でも高いところは苦手らしいが…あの時よりは素直に、早めに感情や自分の思いを伝えてくれるようになった。
良い事だ、と彰人は思う。
ただでさえ分かりにくいのだから、きちんと伝えてほしいのだ。
「…彰人」
「ん」
名前を呼ばれ、手を差し出す。
するりと握られるそれに思わず口角を上げた。
もうあの時のミュージックカフェに行くことはなくなったが…たまに高いところに行くとこうやって手を繋ぐようになったのである。
まるで、心をつなぐように。
「…ま、泣いて告白されちゃ、な」
「?何か言ったか?」
こてりと首を傾げる冬弥に、何も、と言ってやる。

二度と泣かせないと誓ったことは、暫く教えてやらないつもりだ。
(例えそれがどんな内容だったとて!

彼の涙はもう、見たくはないから!)

KAITO誕生日

どうもこんにちは、鏡音レンです。
今日はうちの兄の誕生日です。
…誕生日の、はずだった…んだけどなぁ…。


「…えと、カイコちゃん?」
「…珍しいね、カイコさんがうちに来んの」
「突然すみません、カイトさん、レンくん」
玄関先に立っていたカイコさん…兄さんの先天性女体亜種だ…が、ぺこりと頭を下げる。
それは良い、カイコさんが礼儀正しいのなんて割といつもだし。
…じゃなくて、大きなリュックを持ってるのが問題で…。
「…あらぁ、どうしたの?カイコちゃん」
「えっ、カイコたん?!ひっさしぶりー!」
「こんにちは、メイコさん、リンちゃん」
にこ、と微笑むカイコさんがすぅと息を吸った。
そして。
「少しの間この家に置いていただけませんか?!」


「…遅くなってごめんね」
「すみません、お忙しいのに」
「ううん、大丈夫だよ。ルカ、ありがとう」
「いえ、カイコさんとのお話、とても楽しかったので…」
そんな会話が聞こえて立ち止まった先では客間に通されたカイコさんと、ふわふわ笑うルカ姉ぇと兄さんの癒やし空間が広がっていた。
…すげぇ…お邪魔してぇ……。
「あら、レン兄様」
「レン!用意終わったんだ?」
「レンくんも良ければこちらにどうぞ。…お土産、持ってきたんですよ?」
そんな3人から手招きされたらおれはもう行くしかなくて。
つか、当たり前だよなぁ?!
行くに決まってるよなぁ?!
「お邪魔しまーす!」
ウキウキとそっちに行きかけたおれのポニーテールを誰かがぎゅっと引っ張った。
毛根が逝きかけるからやめろよな、Vocaloidだからんなこたぁないけど!
「いってぇな!何す…ミク姉ぇ」
「…あたしも同席して良いかな??」
にっこりと笑うミク姉ぇ……目がマジなんですけどねぇ、電子の歌姫さん!!
「もちろん!」
「えへへー、ありがと、カイコちゃん!…ところで、マスターと何かあった?」
いそいそとルカ姉ぇの隣を陣取ったミク姉ぇがさっくりとそう聞いた。
何だってそんな切り込みにくいとこ普通に聞いちゃうかな、この歌姫は。
ちなみにカイコさんのマスターはうちのマスターの先生だ(大学教授って言ってたから、偉いんだろう)
割と穏やかな紳士タイプだから、あんま、喧嘩するとかは考えられないんだけどなぁ…と、思いきや。
「…マスターとは、何もないのだけれど…」
そう、困ったように言った。
え、マジか。
マジか?!
マスターとは何もない。
ってことは。
「…あの、今日は私達の誕生日でしょう?」
「うん、そうだね」
首を傾げたカイコさんに兄さんが頷く。
今日は兄さんの誕生日だ。
…まー兄さんの場合ちょっと特殊で、記念日がいくつかあるんだけど、うちではバレンタインも被らない今日が誕生日なんだよな。
「お兄ちゃん、今年のケーキなにー?」
「今年は無難にロールケーキだよ。さっき、後は飾り付けするだけのケーキを托してきた」
「…相変わらずプロですわね…」
「無難とは何だったのか……」
にこりと笑う兄さんに、ルカ姉ぇと二人で曖昧な笑みを向けた。
いや違う違う、カイコさんの話!
「ごめん、続けて」
「いえ。…カイトさんは、自分のお誕生日の用意を手伝ってるんですか?」
こてりと首を傾げたカイコさんに、兄さんが笑う。
「手伝ってるっていうか…サプライズがどうしてもサプライズじゃなくなってるっていうか」
「察しが良すぎるんだよなぁ、兄さんは」
「もうどうしたって隠すの無理だから、パーティーの中身で勝負することにしたんだよねー」
「それにカイト兄様のケーキが一番美味しいですから…。毎年、ケーキの準備だけは手伝って頂いてるんです」 
口々に言うとカイコさんは小さく息を吐いた。
いいなぁ、なんて言葉が漏れる。
「…な、何が…」
「…ミクオくんが、私を避けるんです」
おずおずと聞けばカイコさんはぽつりと言った。
…あー……。
ミクオこと初音ミクオ、ミク姉ぇの先天性男体亜種で、カイコさんと暮らすVocaloid。
紛れもないシスコンでなんだったらそれ以上だと思ってんだけど…。
何したんだか。
「ミクオくん、私のサプライズパーティーをやるって思ってくれてるのは良いんですけど、露骨に避けていて…。ちょっと話しかけただけで『姉さんはあっち行ってて!』って…」
「…で、出てきちゃった、と」
「…はい」
しゅん、とするカイコさん。
わぁ、兄さんとおんなじ顔してるー、当たり前だけどさ。
「心配してるでしょうか……」
落ち込むカイコさんにミク姉ぇが身を乗り出した。
「え、じゃあ初音さんが代わりに行こっか?!」
「初音さん出てきたらややこしくなるからすっ込んでて」
「…ルカちゃん聞いて?!弟がお姉様をいじめる!!」
「ミク姉様、レン兄様の邪魔をしてはいけませんわ。私とこちらで今日の用意をしましょう?」
「はぁい!…あれ?」
首を傾げるミク姉ぇがルカ姉ぇに連れられて出ていく。
…つか何しに来たんだよ……。
くすくすと笑う兄さんが「…まあ、ミクなりの心配だから、気にしないで」と言った。
「カイコちゃんも、怒ってはいないんだろう?」
「ええ、少し…悲しかったんです。あんな言い方…初めてだったし。でも今更…」
「…カイコ姉さん!」
うだうだ言ってるカイコさん、珍しいなぁなんて眺めてたら誰かが飛び込んできた。
うるっせぇな、もう。
「ミクオくん?!!」
「王子様のお迎えだね」
「…つーか人んちなんですけどねぇ、初音さんねぇ」
「ごめん、カイコ姉さん!!おれ…っ!」
入ってくるなり慌てるカイコさんを抱きしめるミクオにため息を吐き出せばにいさんがちょいちょいとおれの服を引っ張った。
そっと部屋を出ると兄さんが楽しそうに笑う。
「…いーの、あれ」
「…まあ、うちもミクの誕生日の時お世話になったからね」
「おれら関係ねぇじゃん。…ったく」
お人好しな兄さんに背伸びをして軽いキスをした。
「…プレゼント。予約しとくから」
「…ふふっ。じゃあパジャマはレンの誕生日に貰ったやつ着とくね?」
小悪魔っぽく笑う兄さん…くそぅ、反則だろ、今のは!


今日は可愛い兄さんの誕生日。



いくら歳を重ねても、おれは兄さんに勝てないらしい!

(そんなことないらしい、と気づくのはもう少し後の話)


「仲直りしたのかよ、ミクオ」
「お陰様で。…レンは?仲良ししたのかよ」
「…お陰様で」

ニキ誕生日(ニキシン)

外でタバコを吸っていると誰かの視線を感じた。
何となく覚えがあって、はぁ、なんてため息を吐き出しつつケータイ灰皿にタバコを押し付ける。
「…そこのお前、こっち来い。見られてたら気になるだろ」
「…!…すみません」
ぶっきらぼうなそれに、ひょこ、と顔を出したのは駆堂シンヤ。
俺を共犯者に引きずり込んだ探偵の…、【とある事件】への依頼者だ。
弟を探してる、なんて言ってたっけか。
どこにでもいそうな大学生だが、家族想いで芯は強いらしい。
申し訳なさそうにしながらこちらにきた彼はそっと俺を見上げた。
「…何だ」
「いえ。…仁木さん、今日がお誕生日と聞いたので。その…おめでとう御座います」
ストレートな言葉に俺は目を見開く。
まさかこんな身も知らずの坊主に誕生日を祝われるなんてな…。
「…ったく、誰に聞いたんだよ」
「えっと…ヒノキさんから」
「…あのメガネ……」
言われた名前に俺は頭を抱えた。
人のプライバシーなんだと思ってんだ、探偵め。
「……すみません」
「謝ることはない。…まあ、どうもな」
「…はい」
とりあえず礼を言えば彼はホッとしたように微笑んだ。
そういえばここ最近こうやってマトモに祝われたことがなかった気がするな。

ザクカイ♀バレンタイン

「なぁ、鬼ヶ崎」
ザクロの声にカイコクがきょとりとこちらを向いた。
ふわりと揺れる彼女の長い髪にザクロはドギマギしながら「今日は何の日か知っているか?」と問う。
「今日?ってぇと…」
「…今日は2月14日だ」
首を傾げるカイコクにそう言えば、彼女は、ああ!と嬉しそうに手を叩いた。
甘いものが苦手な割にバレンタインは知っていたか、とホッとした…のも刹那。
「今日は煮干しの日、だろう?」
「…は?」
「単なる語呂合わせだが…この日は煮干しをたくさん食べても怒られねぇ…忍霧?」
的外れなそれに目を丸くしていれば嬉しそうに話していた彼女が不思議そうにザクロの名を呼んだ。
まさか煮干しの日とくるとは思わず固まっていたザクロは、目をぱちくりとさせるカイコクに慌てて返事をする。
それだけで良かったのだろう、彼女はにこりと笑ってみせた。
「そうだ!俺がお気に入りの店の煮干しがあってなぁ。ちと待っててくんな、すぐ戻る」
「あ、あぁ」
嬉しそうに立ち上がり、パタパタと出ていく彼女に頷くのがやっとで。
ザクロは小さくため息をついた。
…カイコクからチョコが欲しかっただけなのに。
流石に自分からチョコをくれ、なんて格好の悪いことも言えず、回りくどくなった結果が…これだ。
まあ、彼女が好きだと言うものを貰えるだけ良しとするか、とザクロは諦める。
あまり好きを共有しないカイコクから貰えるだけ十分だ、と。
「忍霧」
ひょこりと戻ってきたカイコクが髪を揺らし、楽しそうに何かを差し出した。
煮干し、にしては随分小さくて可愛らしい箱に入っているな、と思いながら受け取る。
「…ありがとう、鬼ヶ崎」
「ふふ。味わって食べてくれよ?」
礼を言うザクロに、上機嫌に笑いながらカイコクはとん、と指でザクロのマスク越し、唇に触れた。
そんな事を言うなんて珍しい、と箱を開けたザクロの目に飛び込んだのは、少し歪な形のチョコレート。
「…は……?」
あまりの事に呆けていれば、カイコクがへにゃりと笑って言葉を紡ぐ。
ああ、やられた、と頭を抱えるまで後数秒。
…今年も無自覚小悪魔な彼女に敵いそうにない。

「今日が何の日か知ってるぜ?…ザクロくん!」

ザクカイバレンタイン

「待て、鬼ヶ崎!」
「いーやーでぇ!!」
ぎゃーぎゃーと二人の声が響く。
またやってるーとケラケラ笑うのはユズだ。
「…?なんですか、あれ」
「ザッくんがカイさんからチョコ貰おうと追い回してる」
疑問符を浮かべるカリンにユズが簡素な答えを返せば、ああ、と彼女は納得をした顔をした。
「懲りませんねー」
「ん?それは…どっちがだい?」
呟いたそれにユズが首を傾げる。
分かっているだろうに、とカリンは隣に座りながら少し向こうで揉めている彼らを見ながら嘆息した。
「どっちも、ですよ」


その、ほんの少し前。
彼らが揉める…前の話。
「…鬼ヶ崎」
「…んあ?どうした?忍霧」
少し固い声で彼の名を呼べばきょとりとしてカイコクはこちらを向いた。
「今日は何日だ?」
「…急だな。ええと…俺の誕生日から2週間…くらいか?いや、そんな経ってねぇな。10日前後…ってとこか」
突然のそれに眉を寄せながらも彼は律儀に考えてくれる。
口調からして忘れているようだが…態と話をはぐらかしている訳ではなさそうだ。
仕方がないので小さく息を吐き、答えを口にする。
「今日は2月14日だ」
「なんでぇ、知ってんじゃね、ぇ…か……」
ザクロの口振りにカイコクは文句を言おうとし…はたと止まった。
2月14日。
それが意味する日。
…それは勿論。
「…今日が何の日か…知っているよな、鬼ヶ崎?」
ジロリと睨めば彼はじり、と後退った。
この反応は『思い出した』のだろう。
なら。
「…っ、鬼ヶ崎!」
「嫌でぇ!」
「何故だ!去年はくれただろう!」
「去年は去年!今年は今年!!」
詰め寄るザクロに逃げるカイコク。
去年もやったな、なんて思う余裕は双方どこにもなく。
ザクロはカイコクに手を伸ばした。


毎年の恒例行事となりつつあったとしても。

(俺は、お前からのチョコが欲しい!!!)

類冬バレンタイン

「…おや、これは」
自分の下駄箱に入った小さな箱を見つけ、類はくすりと笑う。
「おやおやぁ?随分モテるねぇ」
「…今日はお早い登校じゃないか?瑞希」
ひょこりと覗く昔なじみにそう返せば、つれないなぁ、なんて笑った。
「今日はバレンタインだからねぇ。杏にチョコの交換会やろーって言われて。あ、類もいる?」
「そうだねぇ、僕は遠慮しておこうかな。チョコよりラムネの方がブドウ糖も取れるし、良いからね」
「あははっ、類ってそういうとこあるよねぇ。ま、ボクはそれも含めて類だと思ってるけどさ」
明るく笑う瑞希がひらひらと手を振るからそれに振り返して箱を開ける。
チョコか何かが入っているかと思えばそこには綺麗な字の手紙が入っていた。
「…放課後、図書室で待ってます、か」
それだけで送り主が誰だか分かり、類は肩を揺らす。
今日は素敵な日になりそうだ。


放課後、書かれていた通りに図書室へと向かう。
カラリと扉を開ければいつものカウンターには彼がいた。
「やあ、冬弥くん」
「…神代先輩」
先程まで仕事をしていたのだろう彼がこちらを見て微笑んだ。
「これを贈ってくれたのは君だね?」
「…はい」
手紙を小さく振れば冬弥はこくりと頷く。
「こんな回りくどいことをしなくても、直接言ってくれたら良かったのに」
「…演出家としては、やはりこの方法はなしでしょうか」
笑う類に冬弥がそう問いかけてきた。
少しだけ目を見開き、そうだねぇ、と上を向く。
「地味な演出だけれども、驚きはあるし…僕は嫌いじゃないよ」
「そうですか」
ホッとしたように笑む冬弥が何か小さな瓶を手渡してきた。
「…これ、は」
差し出された瓶には白いラムネと水色と紫の金平糖が入っていて。
「…神代先輩は、ブドウ糖がお好きだと聞いたので」
「ああ、凄く嬉しいよ。ありがとう、冬弥くん」
微笑むと冬弥も良かった、と笑んだ。
本当に綺麗な笑みを見せる子だと思う。
「…ねぇ、冬弥くん。金平糖には、貴方のことが好き、という意味があるのだけれど、これはそういうことで良いのかな?」
「…。…先輩は、どう思われますか?」
くす、と笑って瓶を振れば彼も小さく笑みを浮かべた。
それは、いつもの笑みとは違う、まるで歌っているときのような蠱惑的なそれで。
「…。…僕も演出家として負けてられない、ということかな」
「?あの…ん?!」
首を傾げる冬弥のちいさな口に類は持ってきたそれを押し込む。
咀嚼して彼の中に消えたそれは類が贈る『永遠の愛を誓う証』。
「僕も君が好きだよ。…冬弥くん」
にこりと笑って冬弥に口付けた。
「ふぁ、ん…せん、ぱ…!」
小さく響く甘い声をそっと塞ぐ。

バレンタインのキスの味は、仄かな甘味のマロングラッセ。

演出家である錬金術師によって、図書室のお人形は永遠の愛の味を…覚え込まされた。

司冬バレンタイン

「司先輩。俺にカップケーキの作り方を教えてもらえないでしょうか」
突然そう言ったのは司にとって可愛い後輩でもある、冬弥だ。
珍しいなぁと思いながら、「勿論だとも!」と笑った。
冬弥とて、好きな人くらいはいるだろう。
…少し胸が痛むのはなぜだろうか。
ふるりと首を振ってからニッと笑いかけた。
「今日はショーもない。咲希はバンドがあると言っていたから…うちでやるか?」
「…ありがとう御座います、助かります」
ふわ、と冬弥が笑む。
彼の好きな人もこの笑顔を見ているのだろうなぁとぼんやり、思った。



カチャカチャと金属音が響き渡る。
「そうそう、上手いぞ、冬弥!!」
「…ありがとう御座います」
粉と溶かしたチョコを混ぜ合わせる冬弥を褒めながら、司はふと思ったことを聞いてみることにした。
「そういえば、何故カップケーキなんだ?冬弥はクッキーが好きなのだから、クッキーにすれば良いものを」
「…クッキーには、友達でいよう、という意味があるそうです。俺は、好意を伝えたいので、カップケーキの方が良いかな、と」
「…。なるほどな。カップケーキにはどんな意味があるんだ?」
「貴方は特別な存在、です」
少しはにかむ冬弥は大変可愛らしい。
と、同時に胸が痛くなった。
だが何でもない振りをし、気持ちが届くと良いな!と笑う。
可愛い後輩の恋路は、きちんと祝ってやらなくては。

「…出来た」
最後の飾り付けを終え、冬弥はホッと息を吐く。
デコレーションがなされたカップケーキはとても美味しそうに見えた。
「…上手いな、冬弥。これなんて売っている物のようだ」
「…ありがとう御座います。司先輩が優しく教えてくださったので…」
「ハッハッハ!そうだろうそうだろう!何せ、このスターたるオレが!教えたのだからな!」
ドヤ顔で胸を張れば冬弥も嬉しそうに笑う。
「…司先輩」
「む、どうした、冬弥!」
一つ、司が褒めたそれ…大きな星型のチョコが乗ったものだ…を持ち上げ、冬弥がおずおずと差し出してくる。
「貰っていただけますか?」
「…へ?」
予想外の言葉にポカンとしていれば冬弥が小さく微笑んだ。
「本当は一人で作りたかったのですが…司先輩が作るものに間違いはないですから」
「それはそうだが…。…何故、オレに?残りをくれるならともかく、一番良い出来のものだぞ?」
「…?…今日が、バレンタインだからです」
「ん???」
冬弥の返答に司は首を傾げる。
彼は好意を伝えたい、と言った。
普通なら良い出来の物を伝えたい相手に渡すだろう。
しかし、作るのを手伝ったくらいで一番良い出来のものを渡すだろうか。
まあ冬弥ならやりかねないが…そうでないなら。
「…冬弥…好意を伝えたい相手とは」
「…。…やはり、やめて…」
「待て待て待て!!…ありがとう、冬弥。すごく嬉しい」
しゅんとしてカップケーキを引っ込めようとする彼を引き止める。
両手で冬弥の手を包み、笑って見せれば彼はホッとした顔をした。
「…それで?」
「…え?」
「食べさせてはくれないのか?」
じぃ、と見れば冬弥は少し動揺したようにこちらを見る。
珍しい彼に笑いながら、司は口付けた。

甘い甘いバレンタイン。

カップケーキも作った本人も司に食べられてしまうのは…また別のお話。

マキノ誕生日

「…逢河」
小さな声で誰かに呼ばれた気がしてマキノは振り向いた。
誰だろうかと首を傾げていればしゃがみこんだカイコクがちょいちょいと手招きをしていて。
「…?」
「…こっちだ、こっち」
声を潜めこちらを呼ぶ彼に、首を傾げながらもマキノは足をそちらに向ける。
皆からは見えない部屋の隅、何があるのだろうと思っていると立ち上がっていた彼がぐいと手を引いた。
「…わ」
バランスを崩しかけ、思わず屈んだマキノの頭に彼の手が乗せられる。
「…誕生日おめっとさん」
なでり、と頭を撫でられ、思わず目を見開いた。
誕生日?
誰の??
一瞬分からなくなり、彼の柔らかいそれに、ああ、自分の誕生日だったかと気付く。
「…あり、がと。…覚えていて、くれて」
「…ん、まあな。お前さんは俺とも近いしなァ」
笑みを浮かべるとカイコクもふにゃりと笑った。
存外律儀な彼は「こんな事しか出来ねェけど」と言うが…マキノはこんな事、が嬉しかったのである。
マキノは愛を知らなかったから。
こんな風に与えられるのが嬉しくて。
「…カイコッくん」
「ん?どーした」
「…ぎゅって、して」
思わず口をついて出たそれにカイコクが綺麗な目を見開かせた。
カイコクとて予想外だったのだろう。
駄目だろうかと思っていれば驚いたそれをふわりと和らげた。
「…お前さんも存外欲深いねェ」
くすくすとカイコクが笑う。
「…だめ?」
「そうさなぁ。その聞き方は反則、だわな」
首を傾げて見せれば彼は曖昧な笑みを浮かべ、ん、と手を広げた。
まさか受け入れてもらえるとは思わず固まっていれば今度はカイコクが首を傾げる。
「逢河?」
優しい声にふらりと身体を寄せた。
満足そうに頷いた彼はゆっくりと抱きしめてくれる。
ただ、それだけ。
ケーキもプレゼントも何もないけれど最高のプレゼントだと…マキノは思った。

(君がくれる、優しさという名のプレゼント!)

ワンドロ/結婚・指輪

明日はバレンタインだ。
それに気が付いたのは、絵名と共に来たパンケーキ屋がバレンタインフェアを行っていたからである。
「そういえば、知ってる?」
「あ?何を」
くるくると飲み物に付いていたストローを弄びながら問いかける絵名に、彰人は首を傾げた。
「バウムクーヘンって、幸せを重ねて長く共にいられますように、って意味があるんだって」
「…へぇ。結婚式の引き出物ってイメージあるけど、そーいう意味があるんだな」
特に何の意味もなくそう返す。
それがつい数時間前の話だった。


己の手の先、バウムクーヘンが入った袋が揺れる。
まさかコーヒー味のバウムクーヘンを見つけ、衝動買いする羽目になろうとは。
数時間前の自分は知らないだろうなぁと息を吐く。
存外ロマンチシスト思考だったのだなあとぼんやり思いながら、待ち合わせ場所でもあるベンチに腰掛けた。
杏やこはねは今日は用事だと言っていたから、久々な二人だけの練習に浮かれていたのかもしれない。
「…遅れてすまない」
「…おー」
ひょこりと顔を出した彼にひらりと手を振った。
今来たところだと告げれば冬弥は柔らかく笑む。
「んじゃ、練習行くか」
「ああ。…そうだ」
立ち上がった彰人に、冬弥が何かを思い出したかのように袋を手渡してきた。
「来る途中でドーナッツが売っていたんだ。…彰人はチーズケーキの方が嬉しいだろうが…一緒に食べないか?」
「冬弥がくれるんだったら何でも嬉しいぜ。…ありがとな」
袋を受け取り、今のタイミングか、と彰人も自分が買ってきたバウムクーヘンの袋を持ち上げる。
「オレも、バウムクーヘン買ってきた。練習終わったら飲み物買って一緒に食おうぜ」
「ああ。…ありがとう、彰人」
渡したそれを受け取り、冬弥がふわりと笑んだ。
偶然にも二人揃って輪っか状の物を買ってきたな、と思っていれば隣で冬弥がくすくすと笑う。
珍しいな、と、如何かしたのかと問うた。
「…いや…。…さっき、結婚式場のCMが流れていたのを思い出してな」
「?おう」
「俺達が交換したのも、どちらもリング状だろう?…まるで結婚式のようだな、と」
ふわふわと笑う冬弥に、何を突飛な、と思いながらも、彼もまた存外ロマンチストだなぁと笑う。
「なんだ、それ。…随分でけぇ結婚指輪だな?」
「…そうだな」
楽しそうな冬弥に、まあ良いかと肩を竦めた。
輝く指輪でないかもしれない。
でも、彼が楽しそうに笑っているなら、それで。
「そのCMでも同じ事を言っていた」
「…あ?」
「一方が友だちの結婚式でバウムクーヘンを貰うんだ。そうしたら、もう一方が貰った袋を取り上げて、『バウムクーヘンの代わりに貰ってください』とドーナッツの箱を渡すんだが、その中に指輪の箱が入っていてな。『随分、大きな結婚指輪かと思った』と」
「…。…分かりにくいプロポーズだよな、それ」
「…確かに、そうだな」
ふふ、と冬弥が微笑む。
「CMは、バウムクーヘンとドーナッツに込められた意味を貴方と永遠に共に分かち合いたいのです、と締めくくられていた」
「…ふぅん。…ドーナッツにも何か意味が…?」
はたと気付く彰人に冬弥が楽しそうに笑った。
それだけで、彼がその意味を知っていてドーナッツを買ってきた事を知る。
「おい、冬弥!ドーナッツの意味って…!」
「…さあ、な」
柔らかい笑みを浮かべる冬弥に彰人は言葉を引っ込めた。
ズルい、と思いながら眩しい彼を見つめる。

バウムクーヘンの意味は幸せを重ねて長く共にいられますように
ならドーナッツに込められたその意味は?

(それを知るのはその数時間後!)