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しほはるワンライ
「おまたせ、咲希。行こ……」 「今日はたくさん、楽しんで行ってもほしいにゃん♡」 放課後、先生から頼まれた用事を終わらせ、ガラリと幼馴染でありバンド仲間が待つ自分の教室の扉を開けた…はずだった。 なのに何故。 彼女からファンサを受けているのだろう。 「…って、日野森さん?!」 「……何やってるの、桐谷さん」 入ってきた相手が志歩だと分かり、遥は目を丸くした。 対して志歩は呆れ顔だ。 「あっ、しほちゃんだぁ!」 「咲希。また桐谷さんを変なことに巻き込んで…」 嬉しそうな声の咲希に、志歩はその顔をそのまま彼女に向ける。 「えー、変なことじゃないよ!アタシたちも、バンドしててファンサすることもあるかもしれないでしょ?だから、今をトキメクアイドルのはるかちゃんにレクチャーしてもらおうと思って!」 「私達はそんなファンサはしたことないでしょ。…一歌や穂波が戸惑うよ」 キラキラした目の咲希に言えば、彼女はそっかぁ、と少し残念そうな顔をした。 「似合うのに…」 「私はやらないからね」 「えー?!!」 不満声の幼馴染に、遥がくすくすと肩を揺らす。 「ほら、だから言ったでしょう?咲希たちのバンドの方向性は違うって」 「うぅ〜そうだけどぉ…!」 悔しそうな咲希は頬を膨らませていたが、窓の外に知っている顔を見つけたらしく、「あ!いっちゃん!ほなちゃん!」と声を上げ慌ただしく教室を出ていった。 志歩は、「ねぇねえ!今、はるかちゃんがファンサのやり方教えてくれて…!」という咲希の声を聞きながら息を吐く。 「…なんか、ごめん」 「ううん。…喜んでくれたし、私は嬉しいよ」 微笑む遥に、なら良いけど、と志歩は表情を緩め…ふとある事が気になった。 「そういえば…私にファンサはしてくれないの?」 「え?」
ルカ誕
「お兄ちゃん!協力してほしいことがあるんだけど!!」 「…うん?」 私の名前は初音ミク。 恋する乙女、正真正銘16歳の、ボーカロイドです。
「…じゃあ、ルカの誕生日にするデートを一緒に考えてほしい、で良いかい?」 「さっすがぁ!話が早い!」 首を傾げるお兄ちゃんに、私は指を鳴らす。 明日は愛しのルカちゃんの誕生日。 だから、スマートなデートがしたいんだけど…。 「…それは良いけど…なんで俺?」 「お兄ちゃんがルカちゃんに一番近いから」 不思議そうなお兄ちゃんが淹れてくれたココアを飲みながら私は答える。 この癒し系お兄ちゃんことKAITOとルカちゃんは雰囲気がとってもよく似てるんだよねぇ。 双子設定(うちでは、だけど)のリンちゃんとレンくんより似てるかも。 ちなみにルカちゃんはレンくんに連れ出してもらってる。 大切なルカちゃんの誕生日デートだもん! しっかり考えなきゃ! 「お兄ちゃんなら、誕生日に何処連れて行ってもらったら嬉しい?」 「そうだなぁ。…相手がたくさん俺のことを考えて決めてくれたなら、どこでも嬉しいよ?」 「…それが最終ホテルでも?」 「…それは聞かなかったことにするね」 にこっとお兄ちゃんが笑う。 ちぇっ。 隙がないんだからー。 「逆にミクはルカから何を貰ったら嬉しいんだい?」 「え?ルカちゃん」 「…そっかぁ……」 即答する私にお兄ちゃんの表情が引き攣った。 …世界広しといえど、あのKAITOにこんな表情をさせる初音ミクは私だけだろうな…ちょっとテンション上がってきたよ? 「でもさぁ、私も16周年を迎えた16歳じゃない?スマートでゴージャスなデートがしたいんだよね!」 フンス、と気合を入れれば、お兄ちゃんは困った顔をする。 「気合を入れすぎるとから回っちゃうよ?背伸びしないで、今のミクがルカの為を思ってデートをする方が良いと思うな」 「…一理あるけど…。せっかくの15周年だし…」 「せっかくの15周年だからだよ。緊張しながらより、お互いが楽しめる方が俺は良いと思う」 「…そっか!!」 微笑むお兄ちゃんに私は納得した。 やっぱり流石はお兄ちゃん! 「ありがとう!…流石、大人のデートをプレゼントされ損ねた側は言う事が違う!」 「あはは……」 「…ミク姉ぇ……??」 笑うお兄ちゃんよりも、低い声が私の名前を呼ぶ。 んげ。 「レンくん?!」 「協力者にんな悪口言って良いんですかねー?」 「わー!ごめんごめん!」 慌てて謝る私に、お兄ちゃんとルカちゃんがくすくす笑う。 笑ってないで助けてよー! 「あーあ、おれ、良いアシストしたのになぁ。…なぁ、ルカ姉ぇ?」 「…ええ」 わざとらしくレンくんがルカちゃんを振り返る。 え?何?何?? 「…ミク姉様。こちらを受け取っていただけますか?」 「え?私??」 きょとんとしながらそれを受け取る。 手のひらに乗るほど小箱。 …中身は。 「…これ!」 「ロケットですの。…ミク姉様に感謝を伝えたくて」 ルカちゃんが微笑む。 エメラルドグリーンとピンクローズがあしらわれたシンプルなデザインのそれ。 「…15年前、ミク姉様の妹として生まれた私を受け入れて、好きだと言ってくれてありがとうございます」 「…ルカちゃん」 「私、少し経ってから生まれた妹機でしょう?だから、受け入れられるか少し不安でしたの。でもミク姉様は惜しみない愛を私にくれました。だから…」 「そんなの、当たり前じゃん!!」 ルカちゃんの言葉を遮って私はルカちゃんを抱きしめる。 「ルカちゃんは私の大好きで大切な可愛い妹で、どんなに愛しても足りないくらい愛してる世界一の恋人なんだから!!!」 「…ふふ」 抱きしめた私の耳元で嬉しそうなルカちゃんの声が聞こえた。
ルカちゃんが不安なら、私が全部吹き飛ばしてあげる。
だってルカちゃんは、この電子の歌姫である私の愛しい愛しい恋人なんだからね!
「…私が20周年の20歳を迎えるまでに私もミク姉様にお返しできるように頑張りますわ」 「もうたくさん返してもらってるし、年齢の話したらお姉ちゃんブチ切れるよ」 「…ミク…」 「いやでもそれはおれもそう思う」 「……レンまで…」
しほはるワンライ/和装・1年越しの邂逅
新年の過ぎたとある神社。 長い青髪を舞わせる少女を見つけ、榛色の上の少女は笑みを浮かべる。 「やっと会えたね」 そう呟いて少女はぴょん、と鳥居から飛び降りた。 「…?!!」 「こんにちは、久しぶりだね。…カンナギ」 「え、あ、和風ロック?!」 驚いた表情の手を握る。 一年越しの邂逅。 …ずっと、彼女に会いたかった。 「会えなかった一年、カンナギのことを想ってた」 「…うん、私も会いたかったよ」 カンナギが優しく微笑む。 嗚呼、この笑顔がずっと……。
「…っていうのはどうかな?!」 「…何それ……」 わくわくしながらこちらを見る咲希に志歩は飽きれたように見つめた。 「めちゃくちゃ良いね、それー!」 「でしょでしょー!!」 きゃっきゃしているのは志歩ではなく、服を見繕ってくれた瑞希だ。 テンションが似た知り合いが増えてしまったな、と思う。 「はぁ……」 「あっ、みずきちゃん!しほちゃんのテンションが低いよ?!」 「えー?!なんでー?!…遥ちゃんは、良いと思うよね?!」 瑞希がくるんと振り向いた。 それを見ていた遥はくすくすと笑う。 「…桐谷さんも笑ってる場合じゃないと思うけど」 「そう?…私は楽しいと思うよ」 「でしょでしょー?!」 「ほらぁ!しほちゃんももっと楽しまなきゃだよー!」 「…なんで私が少数派なの……」 テンションが高い二人に同意する遥に、志歩は息を吐いた。 少し裏切られた気分だ。 「…でも、嬉しいのは本当なんだよ?」 「…え?」 ひそ、と遥が声を顰めて志歩に言う。 きょとんとしていれば彼女はにこりと笑った。 「私も日野森さんの和風コーデ、見てみたかったから」
笑う遥に、志歩は目を見開く。
私も、と囁き、二人で微笑みあった。
お互い待っていた、1年。
待ちに待った、邂逅の日!
「あっ、しほちゃんとはるかちゃんがナイショしてるー!」 「ちょっとぉ!コーデしてるのボクたちなんだけどー?!」 「やばっ、バレたよ、桐谷さん」 「ふふ、バレちゃったね、日野森さん」
司冬ワンライ/寒い冬・熱々
「…寒い…」 司ははあ、と白い息を吐きながら、言っても仕方がないことを呟いて空を見上げた。 今日は一段と冷える。 マフラーと手袋、コートを着込んでいるがそれでも寒かった。 早く教室に行こう、と足を速めているとふと後ろから自分を呼ぶ声が聞こえる。 「…先輩、司先輩!」 「…おお、冬弥!」 頬を上気させた冬弥が駆けてきた。 おはようございます、と柔らかく笑う冬弥に司も「おはよう」と挨拶をする。 「今日は寒いな」 「そうですね」 冬弥の隣に並び、当たり障りない会話をしようとした…が。 「…?どうかしましたか?」 首を傾げる冬弥の肩をつかむ。 「?!司先輩?!」 「体を冷やしたらどうする!!!」 「え…?」 驚いた表情の冬弥に司は真剣な表情をし、自分がしていたマフラーを取った。 冬弥はコートくらいで何もつけていなかったのだ。 マフラーも、手袋も、何も。 昔、家族と仲があまり良くなかった時は父親と会いたくないからとコートしか持ってこない時もあったが今はそんなことはないはずである。 …もしや何かあったのだろうか? 「…ありがとうございます」 「まったく…。…で?何故コートだけなんだ?今日は寒いと言っていただろう」 「いえ…。…実は昨日新刊の小説を読んでいて就寝が遅くなってしまって…。母さんからも寒いからと言われたんですがバタバタしたので忘れてしまったようです」 冬弥が照れたように言った。 なんだ、と司も安心する。 「司先輩は寒くありませんか?」 「ん?なあに、冬弥が寒くないことのほうが大事だろう?…それに」 手袋を片方つけさせ、何もつけていない手を握ってから自分のポケットに入れた。 「こうしていれば寒い朝も暖かいからな!」 司は冬弥に笑いかける。 冬弥も頬を染めて、はい、と頷いた。
寒い冬も、二人でいれば暖かい!!!
「あははっ、相変わらず天馬先輩と冬弥は熱々だなあ!」 「司はともかく青柳君まで…。…あ、白石さん、マフラーずれてるよ」
しほはる
「…はぁ」 その少女は何度目かのため息を吐く。 今日は1月7日。 特に取り立てて重要な日ではない(七草粥を食べる日だよ!と言っていた気もするが)、はずなのだけれど。 「…何かしたかな」 少女、志歩は小さく言葉を零す。 考えるだけ無駄なのだろうかとまた息を吐きかけたその時だった。 「…あの、どうか…したの?」 誰かがおずおずと声をかけてくる。 振り向けば若草色の綺麗な髪を揺らした少女が困ったようにこちらを見つめていた。 「…あ…草薙さん」 「…こっ、こんにちは、日野森さん。何か…悩みごと?」 そこにいたのは寧々だ。 わざわざ声をかけてくれたということは、きっと思っている以上に志歩は深刻そうな顔をしていたのだろう。 「…ああ…。…ちょっと、ね」 「…。…悩みなら、聞くよ…?解決出来なくても、話すだけで気分が変わるかもしれないし」 「…!ありがとう、草薙さん」 あわあわとそう言ってくれる寧々に、志歩はそう礼を述べた。 それから、道の端に彼女を寄せる。 寧々なら大丈夫だろう、という信頼が何故かあった。 「じゃあ、ちょっと…聞いてくれる?」
「…えっ、桐谷さんに避けられてる?」 自販機から出てきたホットミルクティーを手渡しながら言えば、寧々は目を丸くして復唱した。 「…」 「…っ、あ、ごめん」 気まずくなってふいと目線を逸らせば彼女は慌てて謝る。 それから、うーんと上を向いた。 「日野森さんには心当たりないんだよね?なら…」 少し悩んでから彼女は、「サプライズかも」と言う。 「…サプライズ?」 「うん。前に白石さんにサプライズされた時、すっごく避けられたから」 「白石さんに?ちょっと意外かも」 「まあ…。…理由を聞いたらバレたら困るからって。えむも、そういうの計画してるとすぐ顔に出ちゃうからなるべく会わないようになるよ。だから逆にバレるんだけど」 「ああ…。…咲希もそうだな…。…でも、桐谷さんはあんまりそういうの顔に出ない感じあるんだけど…」 くすくす笑いながら、いつも余裕たっぷりな遥を思い浮かべた。 お正月配信の大富豪企画で、涼しい顔をして革命を起こしていたのは記憶に新しい。 「だからこそ、失敗するわけにはいかないって思って、避けてるとか」 「なるほど…?」 「日野森さんも、鋭そうだもんね」 「それは…どうかな…」 くすくす笑う寧々に志歩は曖昧な笑みを浮かべた。 「…ミルクティーありがとう、日野森さん。お礼に、はい」 「いや、話を聞いてもらうお礼だから…えっ、何これ」 何かを取り出した寧々は戸惑う志歩にそれを渡す。 小さな手紙にぽかんとしていれば、「ちゃんと、渡したからね」と彼女は言った。 封を開ければ見慣れた文字が出てくる。 やられた、と頭を掻いた。 恐らく、どこかで待っている遥を、掴まえるべく、志歩は駆け出す。 「…っ、うそ…っ?!」 「つかまえた!」 翻る青い髪の少女の腕を掴み、自分の方に引き込んだ。 「…ひ、日野森さ…っ!」 「逃さないからね、桐谷さん」 驚く彼女に笑いかける。 手紙から滑り落ち、志歩の手に収まっていたフェニーくんの記念日限定アクリルキーホルダーがきらりと光った。 「手紙じゃなくて目を見て言ってほしいんだけど」 「だって、まだ1日早いし…」 「いいじゃん。…何回言われても嬉しいよ」 志歩のそれに遥は目を見張る。 それから。 ふふ、と笑った彼女は、ぎゅっと抱きついてきた。 大切な、言葉を添えて。
「誕生日おめでとう、日野森さん!」
明日は志歩の誕生日!
大好きな人と迎える、素晴らしい日!
「いやぁ、ラブラブだなぁ…」 「!白石さん、いつからそこに……」 「んふふ、まあ親友が悩んでたから、ついねー…」 「もう…。…仲良しって、良いよね」
司冬ワンライ/七草粥・健康
せり、なずな、ごぎょう、はこべら、ほとけのざ、すずな、すずしろ これぞ七草
「…よし、材料は揃ったな!」 「はい!」 「では、飛び切りの七草粥を作ろうではないか!!」 司が指揮を取れば、隣にいた冬弥が嬉しそうに頷いた。 「…粥、ということは水と米を共に炊けば良いと思うのだが…」 「恐らくは、そうですね…?」 「だが、味がせんのはなぁ…。咲希も粥はあまり好きではないし、せめて美味しく食べてほしいだろう?」 うぅん、と悩む司に冬弥が優しく微笑む。 妹である咲希は小さい頃から病弱で、そうなれば食事は粥がほぼだったのだ。 それを思い出すからだろう、あまり粥は好きではないようだった。 「…よし、冬弥は中華系か和風かどちらが良い?」 「…そう、ですね。七草に合うのは和風でしょうか」 「ふむ。では和風にするか」 そう言いながら、顆粒出汁とめんつゆを取り出す。 あまり入れ過ぎるのは失敗の元だが…少しなら良いだろう。 「冬弥、まな板を取ってくれ」 「はい」 粥を作る準備を二人で着々と揃えていく。 冬弥も去年色々とやってきたからだろう、楽しそうに調理を進めていった。 「…ん、冬弥。お前も味見してくれ」 「…!はい」 ほら、と少し掬ってからスプーンを冬弥の方に差し出す。 小さく口を開けた冬弥がそれを口に含もうとし…。 「っ!」 「どうした?!大丈夫か?」 びくっと体を跳ねさせる。 慌ててそう聞いて口を開けさせた。 「少し火傷をしたか…すまん」 「いっ、いえ…」 頬を染める冬弥に謝れば彼はパタパタと手を振る。 どうしたのかと問えば、小さな声で「…キス、されるかと思いました」と告げた。 目を丸くした司はふは、と笑う。 それから。 「流石に不意打ちではしないぞ?」 くしゃりと彼の頭を撫でる。 ますます顔を赤くする冬弥を、可愛いな、と思った。
きっとこの年も、健康で素晴らしい年になるだろう。
(愛おしい彼が、傍にいてくれるから!)
ミクルカの日
「…セェエエフ!!!!」 ドタドタと走り込んできたミク姉ぇがおれ達の前でセーフポーズを作る。 「いや、アウトだろ」 「うーん、セーフ寄りのアウトかなぁ」 「兄さんは甘すぎるって。がっつりアウト」 困ったように笑う兄さんにおれは言う。 つーか巻き込ミクルカすんなっての。 「大丈夫大丈夫、本人がアウトじゃなければセーフセーフ」 「何その理論」 「あはは。なら、セーフかもしれないね」 ミク姉ぇの言葉に嫌な顔すれば兄さんがふわふわと笑った。 二人してきょとんとすれば兄さんはあっけらかんと言う。 「だって…ルカちゃん、今衣装の調整中だからね」
「マスターの嘘つきぃい…!」 ミク姉ぇがじたじたと足をばたつかせる。 それはマスターに言ってほしいし、衣装担当はマスターじゃない…まあ良いか。 おれが何言っても聞かんしな。 「ところで、何の衣装の調整してんの?」 「さぁ?…でも、今年っぽい衣装にしたって言ってたよ」 「今年っぽいって何。料理?」 「それは雪ミクの話じゃないかな…」 兄さんのそれにもミク姉ぇは見向きもしない。 「…カイト兄様、お待たせいたしました」 ふと柔らかな声に振り向けば衣装を着たままのルカ姉ぇが…。 …ルカ姉ぇ、だよな? 「はぁい、すぐ行くね」 「宜しくお願いします、カイト兄様」 「こちらこそ宜しく」 「いやいやいや待ってルカ姉ぇ!!ミク姉ぇもいつまでも拗ねてないでルカ姉ぇ見て!!」 穏やかに進行しそうになってた会話を必死で止める。 つぅか何、それ。 「もー、何レンくん、初音さんはテンションだだ下がり中なんで、す…けど…」 やる気なしモードでおれが指す方を見たミク姉ぇが止まった。 「…ルカ、ちゃん?」 「はい。ルカですわ」 「今年っぽいって言ってたけど、頑張ったんだねぇ」 「ええ。カイト兄様の衣装はまだ迷っておられましたわ」 「そっか、じゃあ早く行かないと…」 固まるミク姉ぇを置いてうちの癒し系たちはそんな話をし出す。 何??兄さんも着るの?? それを?! 「…ねぇ、それ…龍?」 「はい!今年は辰年ですから」 にこにことルカ姉ぇが言う。 ミク姉ぇは大きく息を吐きだしてからルカ姉ぇの肩をがしりと掴んだ。 「私が着る」 「…え?」 「私が、龍着る」 真剣な目をするミク姉ぇ…いや、まあ、気持ちは分かる。 だって、ほぼ肌だもんなぁ…。 角と、尻尾と…ミニ和服(よく分かんねぇけど)で後は何もなし。 何も、なし。 「け、けれど、私用に採寸してしまって…きゃあ?!」 「ルカちゃん、私ねぇ……ちょっとそろそろ限界なんだぁ…」 にっこりとミク姉ぇが笑って慌てるルカ姉ぇを抱き上げる。 やぁ、目が笑ってないですよー、ミク姉ぇ。 「お兄ちゃん、ちょっとルカちゃん借りるね」 「…ほ、程々にね…?」 兄さんが困ったように言う。 これは指図め生贄の人間に一目惚れされた挙句美味しく頂かれる美しい龍、って感じなんだろうか。 「んじゃまあ、おれ達も行くか」 ミク姉ぇとルカ姉ぇが消えた先を見送ってから立ち上がる。 きょとんとする兄さんにおれは笑みを向けた。 「ルカ姉ぇは龍狩りに合ったって、伝えにさ」
美しい龍は狩られる運命に合うのだそうです。
その後どうなったかは、ミクルカの日をとうに過ぎたニ人しか知らぬこと!
「ってかあの衣装、本来はどういうコンセプトなん?」 「龍と人間の曲か、龍騎士と龍の曲か迷ってとりあえず龍を作ってみたんだって」 「…とりあえず作るにしてはおかしいけどな…」
司冬ワンライ/大晦日・来年も笑顔で
今日は大晦日だ。 年末に人々は忙しそうに道を歩いている。 それを見て司は、やはり年末だなぁと思うのだ。 司はと言えばもうショーの稽古も終わり、のんびりと家路についていた。 部屋の掃除は前日までに済ませてあるし、後は年を越すだけである。 「…っと、大事なことを忘れていた」 スマホを取り出し、ある人のアドレスをタップした。 だが、文章よりは電話の方が早いか、と電話帳アプリを開き直す。 『…もしもし?』 少しのコール音の後、聞き慣れた声が耳に入って来た。 「もしもし、忙しい時間にすまん。今少し良いか…?」
「司先輩!」 数分後、息を切らして電話の主、冬弥がやってくる。 「冬弥!…すまん、呼び出してしまって」 「いえ、俺も先輩に会いたかったので…」 「そうか!嬉しいことを言ってくれる」 ふわりと表情を緩める冬弥に、司も笑った。 「…それで、どうしたんですか?」 「いや、何、大晦日だからな。今年の内に直接言葉を交わしたかったんだ」 「…!」 目を見開いた冬弥が嬉しそうに表情を綻ばせた。 とても嬉しいです、と、そう言って。 「今年もありがとう。来年もよろしくな、冬弥」 「こちらこそよろしくお願いします。司先輩」 挨拶を交わす。 いつも通りの、だが特別なそれ。 どちらからともなくキスをする。 触れるだけの軽いものだが、やはり幸せだった。 冬弥もそう思ってくれているだろうか。 「…ふふ」 「冬弥?」 「…いえ。やはり司先輩は俺を笑顔にさせてくれる、と」 彼が目尻を下げる。 それを聞いて嬉しくなった。 ぎゅっと冬弥の手を握る。 「もちろんだ!来年も、再来年も、ずっとずっと冬弥を笑顔にすると約束しよう!!!」
寒空に響く司の声。
もうすぐ、年が変わる…。
レン誕生日
「…え?大人のデートがしたい?」 きょとりとするカイトにレンはこくこくと頷いた。 今日はレンの誕生日だ。 カイトが何でも叶えてあげる、なんて言うものだから、思わずそう言ったのだ。 「デートじゃなくて?」 「大人の、ってのが大事だろ」 「…うーん、それがよく分からないんだけど…大人のって…?」 「言っとくけど、おれ、大人だからな」 首を傾げる可愛い兄にレンは真面目な顔で告げる。 「設定年齢は14歳でしょう?」 「設定年齢はな。稼働年齢も入れたら大人」 「…それ言っちゃうと俺は…」 「言っちゃわなくて良いから!おれはそういう話をしたい訳じゃないから!」 くすくすと笑うカイトに慌てて遮った。 そうやってはぐらかされるのは分かりきっている。 今年はきちんと約束をしてもらわなければ。 「…分かった分かった。でもすぐは難しいから…うーん、大晦日で良いかな?」 「えっ、逆に良いの?大晦日」 カイトの提案に思わず目を丸くしてしまった。 大晦日といえば家族で過ごすことが定説だ。 レンたちもご他聞にもれず今まではマスターたち家族と過ごしてきた。 「今年最後は女子の曲を録るから年越せるまでに帰れるか分からないって言ってたよ」 「…相変わらずだな」 兄の言葉にレンは呆れる。 ボーカロイドなのだから歌えることは喜びだがこんな年末まで作業していると不満が出そうな気がするが…。 「その分お正月休みが長めなんだって。…あ、三が日終わったら男子の曲録るから準備しとけって言ってたよ」 「…三が日は休みな事に喜ぶべきなのか…?」 引き気味のレンにカイトがくすくすと笑う。 青い髪がさらりと揺れた。 「それで、良いかな?大晦日に大人のデート」 「もちろん!!」 その言葉にレンはすぐに頷く。 こんなチャンスはめったにないのだ。 「約束だからな、大人のデート!!」
そして、当日。
「大人の、デート…?」 カイトが首を傾げる。 しょうがないじゃん!とレンが吠えた。 最初は高級レストランを予約しようと思った…のだけれど。 「めっっちゃ弊害あった」 「ああ…まあ…」 ため息を吐き出して机に突っ伏すレンに苦笑しながらカイトが頭をなでてくれる。 ここはよく行くファミリーレストランだ。 …大晦日でもやっている。 逆に大晦日なのに営業しているんだなぁと感心しきりだ。 …そう、レンの見た目の年齢で拒否される前に大晦日だからどこもそんなに遅くまで営業していないのである。 「高級レストランでご飯食べて観覧車乗って年越しする街を一緒に見ようと思ったのにぃい…!」 「レンの大人のイメージがちょっと分からなくなってきたかも…?」 頭を抱えるレンにカイトが少し首を傾けた。 「…大人とか言うからホテルにでも行くのかと思ったのに」 「……ん?!」 小さな声にレンはがばっと顔を上げる。 今、この兄はなんと?? 「良いの?!」 「まあ、誕生日プレゼントだからねぇ」 勢い良く聞くレンに、へにゃりと笑うカイトの耳が赤い。 まさか、そんな事を許してくれるだなんて。 「…毎日が誕生日なら良いのに…」 「調子乗らないの」 くすくすと笑うカイトの手にキスをする。 いつもならするりと逃げてしまうのに今日は逃げなかった。
期間限定の誕生日プレゼント。
大切に、大切にゆっくり暴いていこうと、思った。
「起きたらそのまま初詣行こうか、レン」 「そうだな…。…兄さんが起きれたら、な」
しほはるワンライ・いたずらっ子/意地悪
思えば遥はサプライズすることが多かった。 そう思ったのは飼育委員での一件の後で。 1年の終わりだって何やら楽しそうに企画していたし、こういうのは好きなのだろう。 …案外いたずら好きと言った時だって否定はしなかったし。 「…まあ、やられてばっかりって訳にもいかないけどね」 志歩は小さく笑みを浮かべる。
「…日野森さんの意地悪」 少し不服そうに彼女が頬を膨らませる。 可愛いな、と思いながら「ごめん」と告げた。 「でも、珍しい桐谷さんが見れて、私は嬉しかったよ」
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