誕生日

「最近、音ゲー増えましたよねぇ」
俺のそんな言葉に、カイコクさんが胡乱げな目を向けた。
「…。…なんでェ、急に」
「いや、前々から思ってたんですよ。最近音ゲー増えたなって!」
ずい、と顔を近付けて力説すればカイコクさんはほんの少しだけ迷惑そうな顔をする。
露骨に嫌な顔をしないだけ優しいですよね、カイコクさんは!
「つぅか、前からあったろ」
「最近頓に増えた気がしません?」
「増えたっつぅか、ジャンルの母体がでかいやつが出てきただけだな」
俺のそれにカイコクさんはふむ、と真剣に考えてくれた。
意外とそういうトコ真面目なんですよねぇ。
「…それは…否定しませんね……」
「しねェのかい」
くすくすとカイコクさんが笑う。
ふわふわと綺麗な黒髪が揺れた。
こうやって笑うと少し幼く見えるのが不思議だ。
「カイコクさんもアイドルやってましたもんね、中の人が」
「そりゃあお前さんもだろ」
「ナカノヒトゲノムだけにですか?!」
「上手くねェし、メタ発言は嫌われんぜ」
わくわくする俺の言葉ににやりと笑う。
あ、いつものカイコクさんに戻りましたね。
でも俺はいつものカイコクさんも好きです!
「それは、カイコクさんに、ですか?」
首を傾げればカイコクさんも少しだけ首を傾けた。
「…。…さぁなァ?」
ちょっと考えてからカイコクさんは笑ってみせる。
自分の気持ちを隠してしまうのはカイコクさんの悪いところですよね、本当に!
「じゃあ好きですか?」
「まあ、好きか嫌いかで言やぁ前者だろうが…」
「えー。言葉で言ってくれないんですか?」
頬を膨らませる俺にもカイコクさんは素知らぬ顔だ。
まあそんな簡単だとは思わなかったですけどね!
「俺にも愛してるって言ってくださいよぉ」
「なんでそうなる…っていうか勝手にグレードが上がって……」
「歌ではあんなに言ってくれるじゃないですか!」
「そりゃあ歌詞の話だ。しかも歌ってるのは俺じゃねェし」
ぷい、とカイコクさんがそっぽを向いた。
…ありゃ、ご機嫌損ねちゃいましたかね?
いや、あれは…。
「…。…ま、バースデーソングなら、歌ってやっても、いいぜ?」
何か企んでると思ったら、そんなことを言う。
楽しそうなんですから、もう!
って、あれ?
「バースデーソング…?」
「?お前さん、誕生日だろう?」
首を傾げる俺に、カイコクさんはきょとんとする。
…あ。
「…。…本当に忘れてたな?」
「えへへ…」 
呆れたようなカイコクさんに、俺は笑ってみせた。
いやぁ、忘れがちですよねぇ、自分の誕生日!
「じゃあ、カイコクさんが忘れられない誕生日にしてください!」
「…ったく。調子良いなァ、入出は」
楽しそうに笑ったカイコクさんが可愛い。
俺は、カイコクさんのこういうところが…。


「…好き、なんですよねぇ」
「…はぁ?」
カイコクさんが嫌そうな顔をする。
あんなに優しかった人はどこに行ってしまったんだか。
「俺、カイコクさんのこと好きですよ」
「…。…俺ァ嫌いだがな」
ふい、と目線を逸らそうとするカイコクさんを、俺は許さない。
「好きか嫌いかで言えば好きだって言ってくれたのに?」
「…そりゃあ【入出】の話だろ、ぅ…」
「俺だって入出ですよ」
「…はっ、何馬鹿な事言ってやがる」
カイコクさんが挑発するように笑った。
それしか出来ないカイコクさんの、精一杯の強がり。
…こんな所に縛り付けられるくらいなら俺を殺したって良いはずなのにこうして誕生日を一緒に迎えてくれる辺り、きっとカイコクさんは優しいんでしょうね。
優しくて…そして残酷だ。
「…なら、目の前の【これ】を【入出アカツキ】じゃないって証明してみせなよ」
「…っ」 
カイコクさんが綺麗な目を見開いた。
それからすい、と僅かに目をそらす。
きっと何か考えてるに違いない、から。
思考が纏まらない内に口唇を奪った。
「?!!ん、ぐ…んんぅ、んー!!」
苦しいと言わんばかりにバンバンと背を叩いてくる。
それでも離さなかった。
力が弱まってくるのを待って、待って、待ち続ける。
なぁ、カイコクさん。

愛したって言うのですか、なんて。


(愚問にも程があるよ)



カイコクさんの漆黒の瞳から流れる涙を、アイなんて形容してみたりして。


…先人は悲鳴を歌だと評したけれど、それは間違いではないんだな、と思う。

美しい彼から漏れる息、短く噛み殺した悲鳴、その全てが…。

世界から望まれない俺へのバースデーソング。


(ねぇ、今日は何の日?)

(いい加減そろそろ覚えたろう?今日は……)

司冬ワンライ・おやつ/たくさん

「…ふむ」
司は机の上の惨状を見て少し考える。
流石に持ってきすぎたか。
小さく呟いて宙を仰ぐ。
これからとあるショー劇団と合同練習なのだ。
それ故途中の休憩用に、と買い込んだが…買い込みすぎたらしい。
パーティーでもするのかと笑われてしまい、我に返ったのである。
まあ、菓子は腐らないし、最悪セカイに持って行っても、と宙を仰ぎ過ぎて若干逆さになった視界の先に愛しの人を見つけた。
すぐさま姿勢を戻して教室を出、大きな声を出す。
「おーい、冬弥!」
「…!司先輩!」
パッと頬を緩めた冬弥が駆け寄ってきた。
今からまたイベントだろうか、大きな袋を持っている。
「お久しぶりです」
「ああ、久しぶりだなぁ!今からまたイベントか?」
「はい。司先輩は…えっと……?」
冬弥が僅かに首を傾げた。
視線の先には大量のお菓子が乗っている。
「随分たくさんですね…?」
「ああ。今日の練習後に、と思ったのだが、買い過ぎてしまった」
「…司先輩らしいです」
柔らかく微笑む冬弥に、司も目を細め、そうだ!と声を上げた。
「冬弥、この菓子好きだったろう?良ければ持っていかないか」
「…!良いんですか?」
「ああ。冬弥が喜んでくれるのなら、オレも嬉しい」 
目を見開いた冬弥が司の言葉にややあってから微笑む。
「…ありがとうございます。…では、俺からも…」
がさり、と冬弥が袋の中をまさぐった。
どうやらたくさんある中から出てきたのは司が好きな菓子で。
「…先輩もたくさん持っておられるのでもしいらなければ…」
「いや、これはオレ個人のおやつにしよう。大切に頂く。ありがとうな、冬弥」
「…はい!」
ふわ、と彼が微笑む。
「しかし、冬弥も菓子をたくさん買っていたのだな」
「イベントの後は体力を消耗するので…。あまり食べすぎてもいけないのですが、その…皆のことを考えると、つい」
「…なるほど」
冬弥も同じことを考えていたらしいと知り、司は笑んだ。
「それと、そのお菓子は司先輩がよく食べておられたので、思い出して買ってみたんです。まさか先輩の手に渡るとは思いませんでしたが」
冬弥が嬉しそうに言う。
そんな彼の頭を、司は思い切り撫でた。
ありがとうな、と告げる彼の顔は、とても幸せそうなそれをしていて。
この後も頑張れるな、と司は満面の笑みを、浮かべた。


優しい彼から手渡される、有り触れた菓子。
(司にとっては、愛がこもった特別な)

ミクの日

本日3月9日。

そう、ミクの日であります。


「…レンくん。ちょっとご相談がありまして…」
「…あ、見て、ミク姉ぇ、誰もいないセカイの兄さんがガチャで来た」
「それ、マスターの前で言わない方が良いよ、仮天井だって発狂してたから…。…って、そうじゃなくて!!」
無邪気なレンくんにノリツッコミをしてしまう。
いや、電子の歌姫に何やらせんの。
「…だってどうせあれだろ、巻き込ミクルカだろ」
「話が早いじゃん」
あまり聞く気がないレンくんに指パッチンをしてみせる。
途端にご迷惑そうな顔をした…ごめんってば。
「ちょっとで良いから聞いてよー!お兄ちゃんの激カワショットあげるからさぁ!」
「…聞きましょう?」
スッとスマホを出せばレンくんは居住まいを正した。
話が早くて助かっちゃうな!!
「明日、ミクの日じゃない?」
「ん、ああ、そうだな」
「ルカちゃん今年15周年じゃない?」
「企業もマスターも盛り上がってるな」
「マジミラの情報もう出たじゃない?」
「今年のテーマ旅行だっけか」
「…ルカちゃんと新婚旅行するの、今年が最適解だと思うんだけど」
真剣な顔の私にレンくんがふっと優しい顔をして…。
「…兄さぁああん!!!ミク姉ぇが疲れてるー!」
「お兄ちゃんに告げ口するのは違うじゃん!!!!!」
台所に向かって叫ぶ弟機を必死で止める。
洒落にならないってば!
本気で心配されちゃうでしょーが!
「…で?プロポーズも成功してない姉機がなんだって?」
「成功してますぅー!毎回大成功ですぅー!!」
「プロポーズ何回もしてんじゃねぇわ!!」
「レンくんだってお兄ちゃんに何回もプロポーズしてるくせに!」
「おれのはプロポーズじゃなくて愛の告白ですぅー!」
「似たようなもんじゃん!」
「全然違うだろ?!!」
「…二人とも」
ギャーギャー言い争いしてると後ろから呆れたような困ったような声が聞こえてくる。
「…お兄ちゃん」
「兄さん!!」
「…仲良いのは良いけど、程々にね?…MEIKOが限界迎えそうになってたよ」
くすくす笑うお兄ちゃんに、二人でゲッと顔をしかめた。
確かお姉ちゃん、収録が続いてたっけ…。
「…一回停戦しよう」
「賛成」
二人して停戦協定を結ぶ。
キレたお姉ちゃんほど敵にしたくはないもんね!
「で?新婚旅行だっけ?」
「そう!!新婚旅行!」
「…ミク、結婚してないのに新婚旅行行くの?」
「……察してやってくれよ…」
お兄ちゃんが首を傾げて、レンくんがぽん、と肩を叩く。
「お兄ちゃん、世界には踏み込んじゃいけない領域があるんだよ?」
「うん??」
私のそれに、お兄ちゃんはハテナを浮かべながらも頷いた。
あんまり深く突っ込んでくれないから助かるなー!
「新婚旅行行くなら、相手の意向はちゃんと聞いた?」
「え?」
「…俺は良いと思うんだけど、相手にも確認を取らなきゃ。…ね、ルカ」
にこ、とお兄ちゃんが後ろを振り向いた。
……え??
「…ええ、そうですわね」
「ルカちゃん?!!!!」
微笑みを称えたルカちゃんが入ってくる。
え、いや、ルカちゃんはリンちゃんと収録のはずでは…?!
「今日は収録が早く終わりまして…。…それで、新婚旅行ですか?」
私のそれに答えたルカちゃんがこてりと首を傾げる。
綺麗な髪がふわりと揺れた。
嗚呼、私の歌姫が今日も超絶可愛い!!
「えぇえと、あの…!」
「私、ミク姉様と結婚式を済ませていない気がするのですが……?」
「そ、そうですね?!」
「では、新婚旅行の前に結婚式旅行ですわね」
にっこりとルカちゃんが微笑む。
設定年齢と同じ数だけミクの日を歩んで来た初音さんでも、ルカちゃんには敵わない!!


(多分、未来永劫ずっと!)


「…ルカ姉ぇ、段々兄さんに煮てきたな…」
「…ふふ、褒め言葉として受け取っておくね?」

KAITO誕生日

どうも、こんばんは。
鏡音レン、14回目の誕生日を去年迎えた14歳の青少年です。
…そう、青少年、なんですよ!!!


「なぁ、ルカ姉ぇ」
「?はい。如何されましたか?レン兄様」
呼びかけるとルカ姉ぇが小さく首を傾げながら振り向いた。
桃色のきれいな髪が揺れる。
「…うちの兄さんどこ行った?」
「カイト兄様なら、カイコさんとお出かけに行かれましたよ」
「相変わらず仲良しだよな。…元が同個体だからかな」
微笑むルカ姉ぇに、思わず考え込んでしまった。
まあ兄さんたちの場合、あんまり問題視してないんだろうけど。
ちなみに兄さんこと始音KAITOの先天性女性型亜種、始音KAIKOさんとは亜種ってだけで特に何の関係もないんだよな。
ま、そんなことはどーでも良いんだよ。
「なあ、ルカ姉ぇはプレゼントで何貰ったら嬉しい?」
「…。…以前相談に乗ってくださったのに」
真剣なおれに、ルカ姉ぇはくすくす笑う。
いやいや、それとこれとはさぁ…?
「大切なのは物ではなく気持ち、でしょう?」
ルカ姉ぇが誕生日の時の相談内容を持ち出してきてパチンとウインクする。
うわもうそれやられたら勝てないんだけど!
「レン兄様は何を貰ったら嬉しいんですの?」
「え、兄さんだけど…」
「…。…ミク姉様にそっくりですわね、レン兄様…」
ルカ姉ぇの質問にあっさり答えれば、年上のこの妹機は失礼なことを言った。
リンに似てるならともかく、ミク姉ぇは失礼すぎじゃね?
「おれ、ミク姉ぇみたいにがっついてないし」
「…ええと……」
「…何か言った?レンくん…?」
「おわ?!ミク姉ぇ?!」 
ズモモ、と効果音が付きそうなくらい殺気立ったミク姉ぇが背後にいた。
マジでやめろよな…ビビるから……!!
「ミク、バレンタイン直後で限界なんだよね……」
「…悪かったって……」
うふふ、と笑うミク姉ぇから目をそらす。
バレンタインライブで忙しいミク姉ぇは鬼気迫る感じがあるんだよなぁ。
「ミク姉様、その辺りで」
「まあ、ルカちゃんが言うなら…」
くすくすと止めてくれるルカ姉ぇにミク姉ぇが息を吐く。
ナイス、ルカ姉ぇ!
「…そういえば、レンくんってお兄ちゃんにちゃんと好きって言ってる?」
「は?なんだよ、急に」
ミク姉ぇが突然そんな質問をしてきた。
それに思わずムッとしてしまう。
おれだってちゃんと…。
「…」
「ちなみに、初音さんは言ってますよ!ね、ルカちゃん!」
「そうですね、毎日言ってくださっていますわね」
にこにことミク姉ぇとルカ姉ぇがそう言った。
「ちゃんと言葉にしなきゃ駄目だよ?初音さん見習って?」
「いや、見習いたくは…」
首を振りかけて少し考える。
確かに最近言葉にしてなかったしな。
「…おれは兄さんが好き。歌はもちろんだけど、優しいところも、ちょっと小悪魔なところも、おれを子ども扱いするところも、子ども扱いするくせにおれが推すとたじたじになるところも、可愛くて好き。後は…」
「…ふふ、愛されてるね」
指折り好きなところを数えていれば楽しそうな声が聞こえた。
振り返ればご機嫌なカイコさんと…。
「兄さん?!」
「…レン」
曖昧な表情の兄さんが笑みを浮かべる。
「もう、恥ずかしいなぁ…」
「だって、好きなんだから仕方ないだろ」
駆け寄ってその手を引いた。
わ、と驚いた兄さんにおれは囁く。
「…愛してるよ!兄さん」



貴方の誕生日に、両手溢れんばかりの愛を、言葉に!!!


(返事はその頬の紅さが語って)



「いいなぁ。…愛されてるね、カイトさん」
「いやぁ、カイコちゃんも存分に愛されてると思うなぁ」
「…私も、それには同意いたしますわ」

しほはるワンライ/逆転・鬼役

「…節分の鬼役?」
「そう。…ちょっと本気出しすぎって言われちゃって」
聞き返す志歩に遥がしょんと落ち込んだように言う。
彼女が言うのは以前の配信で豆まきをやった時のそれだろう。
確かに姉に見せてもらった遥は本気だったが…。
「…でも、本気じゃないと面白くないと思う」
「!日野森さんもそう思う?!」
ぱあっと遥が表情を耀かせた。
どうやら共感が得られたことが嬉しかったらしい。
「やっぱり、何事も本気で行かないとね」
「それは分かるけど…。それに、本気の桐谷さんでも好評だったんでしょ?」
「それは、勿論」
首を傾げる志歩に、遥は迷い無く頷いた。
彼女たちのグループが炎上したとは聞いたことないし、寧ろ好意的に受け止められている。
今回も、「遥ちゃんは何事にもストイックだなぁ」とか、「本気の遥ちゃん素敵!」とかいうコメントが並んでいた気がしたが…間違いではなかったようだ。
「なら良いんじゃない?みんな楽しかったようでみたいだし」 
笑いながら志歩はそれとも、と言葉を紡ぐ。
彼女の綺麗な目が大きく見開かれた。
「逆転されたかった、とか?」
「…まさか」
ふふ、と彼女が強気に笑う。
「負けるのが必須な鬼だからって手加減はしないよ?」
「…流石桐谷さん」
存外負けず嫌いな遥に、志歩も笑みを返した。
綺麗な彼女はそれだけではないことを、知っている!




「…Leo/needとMOREMOREJUMP!との豆まき勝負とか面白いかも…?」
「…面白いかもしれないけどやめてね、うち、そこまでガチ勢いないから」
「?日野森さんがいるでしょう?」
「…勘弁。桐谷さんとはギスギスしたくないからね」

「しっかし、まさか冬弥がフォトコンテストに参加するとはな…」
セカイからの帰り道、彰人がスマホの画面を見ながら呟く。
「…そう、だろうか?」
「ああ。なんつーか…意外だった」
こてりと首を傾げる冬弥に、彰人は頷いた。
こはねに協力する形とはいえ、まさかメイクまでしてフォトコンテストに参加するとは思わなかったのである。
…まあ仲間思いで、最近は色んなことに挑戦したがっている冬弥だから、よく考えれば納得できるのだが。
「メイクもモデル役も、良い経験だった」
「お前がそう言える経験なら良かったよ」
微笑む冬弥に、彰人も息を吐き出す。 
彼が楽しそうにしているのは、チョコレートを貰う、という事実に優って嬉しい事実だ。
それを伝えてやれば、びっくりした顔をしてからふわりと微笑む。 
「…それは…彰人のお陰だ、と思う」
「…オレ?」
「ああ。お前の隣に立つには経験が足りないと常々思っていたからな」

ザクカイ♀️バレンタイン

「…なぁ、忍霧」
「…どうした、鬼ヶ崎」
何かを読んでいた彼女がそれをパタンと閉じてこちらに向き直る。
やっとか、と思いつつザクロも顔を向けた。
「やっぱりどうしても理解出来ねェんだが」
「だから言っただろう」
悔しそうな彼女に、ザクロは小さく息を吐き出す。
女子メンバーから何やら貸し出されたらしいそれはカイコクを(ついでにザクロも)悩ませていた。
「無理なら無理と言えば良かったものを…」
「…。…嬢ちゃんたちの好意は悪意がねェからな…」
珍しく彼女が長い黒髪を振りながら口ごもる。
確かにカリンやヒミコは純粋に応援している気もするが…ユズはどうだろうか。
まあそれに言及すればせっかくのバレンタインが台無しになるから黙るしかないのだが。
代わりにまた息を吐き、ザクロは目線をそらす。
それもそのはず、カイコクが先程から苦戦しているのはネグリジェだった。
どこから調達したんだと頭が痛くなる。
彼女は普段浴衣だからか、こういう下着は慣れていないらしかった。
さっさと着こなしそうなイメージがあったので少し驚きはしたが。
それを知れただけ収穫だろうか。
説明書と散々にらめっこした挙句諦めたらしいカイコクに、自分の上着を投げて寄越す。
「っ!忍霧!」
「着ておけ。…風邪を引く」
キッと睨む彼女にザクロはそう言った。
一応暖房は効かせてあるが肌襦袢1枚では寒かろう。
「…」
「それに、…その、ネグリジェを着たところでどうするつもりだ」
「…は、え?」
「…貴様が簡単に着ることが出来ないものを、俺が脱がせてやる事が出来るとでも?」
「う、え…?」
ザクロの言葉に彼女が目を白黒させた。
いつも飄々としているくせにザクロが少し推すだけで慌て出すのは可愛らしいところだと言えよう。
「…お、忍霧?」
「もう待ちくたびれたのだが」
「バレンタインは始まったばかりだろ、ぅ?!」
後退る彼女を逃げるな、とその腕を引いた。
「始まったばかりだからこそ…無駄にしたくない」
真剣なザクロにたじたじになったカイコクに口付ける。


夜は、まだ始まったばかり。


…ネグリジェの陰に隠されたチョコレートに気づくまで…後、数時間。

マキノ誕

今日は自分の誕生日だ。
それを思い出したのは奇しくもそれがバレンタインと同日だったからである。
愛を知らないマキノの誕生日が愛を伝える日と同じなのは何の皮肉だろうか。
「…逢河?」
「…。…カイコッくん?」
ひょいと姿を見せて不思議そうに首を傾げたのは鬼ヶ崎カイコク…愛を蹴散らす人だ。
そんな彼の隣はとても心地よく感じる。
…無理に愛を押し付けて来ないから。
「…隣、良いかい?」
ややあってそう聞く彼にこくんと頷いた。
彼がマキノの隣に収まる。
ふふ、と楽しそうにカイコクが笑った。
何か楽しいことがあったろうか、と思っていれば彼がもたれかかってくる。
「…カイコッくん?」
「…。…誕生日プレゼントでェ」
ふわふわと微笑みながら言う彼にマキノはほんの少し目を見開いた。
カイコクは存外律儀な人だ。
こうやって毎年祝ってくれる。
…それだけで。
「…カイコッくんの、おめでとう…聞きたい」
「…お前さん、ちょっと欲張りになったな」
きれいな瞳を丸くした彼がふは、と笑った。
赤い紐が跳ねるように揺れる。
「…だめ?」
「ったく、しゃあねぇ」
首を傾げれば、カイコクは「お誕生日様だからな、特別でェ」と微笑んだ。
いつもの、仲間たちに見せる顔とは違った優しい…それで。
「誕生日おめっとさん、逢河」



優しい夜の、年に一回の恒例行事。



今はただそれだけで、と、マキノは目を細めた。

彰冬人狼 白とか黒とかエトセトラ

ある冬の寒い日。
彰人は道を急いでいた。
「…冬弥!」
「…。…彰人!」 
少し遠くから声をかければ読んでいた本から顔を上げた彼が嬉しそうに微笑む。
「悪りぃ、待たせた」 
「どうしても、と頼まれたのだろう?…今日は俺も図書委員の仕事をしてきたから相子だ」
はぁっと息を切らせる彰人に、冬弥は小さく笑んだ。
RADWEEKENDを超える、と宣言してからバイトまで辞めた彰人だが、今日はフリーマーケット前日で、どうしても人が足りなかったらしく無理を承知で頼まれたのである。
彰人としても今日は自主練習の日にしており、お世話になった店長の頼みだったから2時間限り、と制限をつけて出向いた、というわけだ。
その間冬弥も図書委員の仕事をしてきたらしい。
少し早く終わった、と連絡があったのは30分ほど前の話だ。
スマホに入っていたメッセージを見、店長への挨拶もそこそこに慌てて来たのである。
「…っと、ほい」
「…!すまない」
カバンに入れていた、来る前にコンビニで買ってきてほしいと頼まれたそれを冬弥に渡した。
別に、と返して彰人も隣に座る。
「…つーか、お前、市販のやつは苦手っつってなかったか?」
「そうだな。調整されたものはかなり甘く感じて苦手なのだが…今日は少し頭を使ったからな。…糖分補給だ」
「は?」
くす、と冬弥が買ってきたそれを小さく振って笑った。
それに眉を寄せれば温かいペットボトルのそれを開けるために閉じられた本に目を落とす。
同じように目を落とせば『初めての人狼ゲーム』というタイトルが目に入った。
「…彰人は何を飲んでいるんだ?」
「新作のホワイトモカ」
首を傾げる冬弥にあっさり答えてやる。
そうか、と頷く彼が買ってきたそれに口を付けた。
もう少し飲めば困った顔をするだろうから、と買って来た缶コーヒーの準備は出来ていた…それこそ甘い、と笑われそうだが。
甘いのは彼にだけ、なんだけどな、と彰人は1人ごちて同じようにペットボトルの中身を呷った。
「んで?なんだよ、人狼ゲームって」
「ああ。…少し前から様々なメディアミックスに取り上げられる様になっただろう?漫画やアニメ、小説、舞台、ドラマ…」
「…ああ、そーいや、次のショーの題材なんだったか?」
「そうだな。…それだけでなく、今度バラエティ番組の1コーナーになるらしい」
彼が慕うセンパイたちが関わる劇団関係から読んでいるのかと聞けば、他にも色々影響されていたようだ。
彰人も少しは聞いたことがあったが詳しいルールは知らないな、と宙を見上げる。
「確か…市民の中に隠れた人狼を探す、ってやつだろ?」
「そうだ。…昼に狼が誰かを議論して一人を選び処刑する。夜は狼が市民を襲撃する。…人狼が多くなれば人狼の勝ち、人狼を始末出来れば市民の勝ちだな」
「…割と物騒な設定っつうかなんつうか…」
「そうだな。だが、推理物としてみれば面白い。…彰人は得意なんじゃないか?」
言葉を濁す彰人に、冬弥がくすりと笑う。
接客などで猫を被る姿を見ているからだろうか。
「そうか?…頭良いやつのが有利だろ」
「そうとも限らない。…俺なんかは考え過ぎてしまうからな。あと、頭が良いより立ち回りが上手い人の方が有利だろう」
「そんなもんなのか。…そういや、人狼って他にも役職があったような…?」
首を傾げる彰人に冬弥が嬉しそうに頷く。
自分が読んでいる本に興味を持たれる、というのは彼にとって存外嬉しいことらしかった。
「夜の内に誰か1人、人狼かそうでないかを知る事が出来る予言者、処刑者が人狼かそうでないかを知る事が出来る霊能者、人狼から誰か一人を護ることが出来る狩人などが一般的だな。後は、ゲームによっても様々だが…処刑時、または襲撃時に誰かを道連れに出来る役職もあるようだ。人狼の中だと嘘を吐き場を混乱させる狂信者がいるな」
「…オレのが混乱しそうなんだけどな…」
冬弥の説明に眉を顰めながらホワイトモカを口に含む。
冬の寒い日、甘ったるいそれは際立って彰人の喉に落ちた。
「人数が多くなれば役職も多くなるようだ。
毒で道連れにする埋毒者、関わる人は敵味方関係なく殺してしまう殺戮者、人狼陣営だと他にも処刑時に人狼以外を狙って道連れにする黒猫、という役職があるらしい」
「待て待て、なんで人狼の味方が猫なんだよ、おかしいだろ」
「それは作者に言ってもらわないとな」
楽しそうに冬弥が笑う。
綺麗な髪がさらさら揺れた。
「彰人は…狩人は向いてそうだと思うが」
「そうか?誰守るか考えんの面倒だしな…やるなら人狼だな」
「市民ではない辺りが彰人らしいな」
微笑む冬弥がペットボトルを傾ける。
僅かに表情が曇るから買っていた無糖の缶コーヒーを差し出した。
「…!…すまない」
「別に。…飲んでやるから貸せよ」
「ああ。…これに缶コーヒーを入れたら少しは美味しく飲めないだろうか…」
「んな無理することないだろ」
あまりに真剣な顔で言うから思わず吹き出す。
そういう真面目なところが彼らしいと思うのだけれど。
「…冬弥は予言者だな」
「…そう、だろうか?」
「おう。…向いてる」
冬弥から受け取ったそれを飲み干す。
少し冷めた、ホワイトモカとはまた違った甘ったるい味。
「だが、それだと彰人とは敵同士だな」
ふと冬弥が寂しそうに言った。
ただのゲームに感情移入してしまったのだろうか。
…彼らしいと言えばそうなのだが。
「人狼と予言者だけ残った村もありなんじゃねーの」
「あり、だろうか…」
小さく肩を揺らしていた冬弥が、ふと思い出したように本を開いた。
先程とは違い、「あり、だ。彰人」と嬉しそうに言う。
曰く、『恋人』というものがあるようだ。
『恋人』とは、市民や人狼などの元々の役職とは別に与えられる属性で、 村人が16人以上の場合、登場することができるらしい。
『恋人』同士になった二人は、役職に関係なく、ゲーム終了時に二人が生き残っていると勝利なのだそうだ。
『恋人』同士は、お互い相手が誰なのかを知っており、片方が処刑や襲撃などで死亡してしまった場合は、もう片方も後追い自殺をしてしまう、という設定で、片方が市民、片方が人狼だった場合は、人狼の勝利条件を満たしたうえで、二人が生き残っていれば勝利となるーー。
「俺達にぴったりだな」
「そりゃそうだが…後追い自殺って後味が悪いにも程があるだろ」
「そうならない為に立ち回るんじゃないか?」
不思議そうに首を傾げる冬弥に、彰人はへぇ、と悪い顔をした。
「味方も騙して二人生き残るってか」
「…。…彰人はやはり狩人ではなく人狼だな」
意地悪だ、という冬弥に思わず笑う。
「そりゃどーも。…で?予言者サンは人狼のオレと生きてくれんのかよ」
「俺は彰人の隣で歌う事が出来ればそれで良いからな。…役職は関係ない。お前の隣にいる事ができれば、それで」
「…お前なぁ…」
飲んだどの飲み物より甘美それに彰人は呆れた。
グイッと引き寄せて口唇を奪う。
ブラックコーヒーを飲んだ彼に移す甘さ。
それは蜜かそれとも毒か。
人狼でも予言者でもない、ただただ夢に直向きな男子高校生にはまだ知らない。


夢と執着は絡まり合って混ざり合って色を変え溶けていった。

カイコク誕生日

今日はカイコクの誕生日だ。
数日前から色々考えていたが……ザクロはシンプルにするか、と立ち上がる。
元々サプライズは得意ではなかった。
カイコクの方も驚かされるのは好きではないだろうし。
それに、素直に言葉を伝える方が良いときもある。
「…鬼ヶ崎」
「?忍霧?…どうしたんでェ」
先を歩く彼を呼び止めれば、彼は立ち止まり首を軽く傾けた。
ふわりと面の赤い紐が揺れる。
「誕生日、…おめでとう」
「…!…ああ、また律儀な……」
小さな包みを手渡し祝いの言葉を述べた。
綺麗な色の瞳を丸くさせたかと思えば、彼は嬉しそうに笑う。
包みを受け取った彼は、ふわりと笑い「ありがとな」と言った。
いつもは飄々として本心を見せない彼からの素直な言葉に少しだけ面食らってしまうが、何とか、「…あ、ああ」と取り繕う。
「なんでェ、面白い顔して」
「なっ…!!…はぁ」
楽しそうなカイコクに言い返そうとしてザクロは止めた。
一応今日は彼の誕生日である。
「それで?…今年は何をくれたんでェ」
「気になるから開けてみれば良いだろう」
「一応許可は必要かと思ってな」
「鬼ヶ崎への贈り物だ。…貴様の好きにすれば良い」
照れ隠しにそう言えば、ならそうさせてもらうかね、と彼も小さな包みのリボンを解いた。
「…これは、お茶…?」
「ああ。黒豆茶だな」
包みから出てきたのは黒豆茶のティーバックだ。
パックの形がウサギになっており、それが鬼の面を持ったり金棒を持ったりしている。
節分の時期限定の味で、彼は甘いものが苦手だからちょうど良かろうと思ったのだ。
「そりゃあ有り難ェが…ちぃっとばかし可愛すぎやしねェか?」
「そうだろうか?…似合っていると思うが」
「それは…鬼の辺りかい?」
「いや。うさぎの辺りだな」
あっさりと返せばカイコクは少しだけ眉を寄せた。
「…うさぎはねェだろう……」
「似合うぞ?」
「…。…忍霧は変わってるねェ…」
曖昧な笑みを浮かべる彼にザクロは首を傾げる。
何かおかしいことを言ったろうか。
…彼はよくうさぎに似ているのに。
のらりくらりと人を躱す辺りは猫そっくりだが…うさぎにも似ていると思う。
「…まあ良いか。…忍霧。お前さんも飲むだろ?」
「良いのか?」
「俺への誕生日なんだろ?…だから、俺の好きにさせてもらう」
来な、と笑う彼はとても綺麗だ。
それならば、とザクロは素直でない好意を受け取ることにする。
滅多にないことだ、無碍にすることもなかろう。
「…そういえば黒豆にも花言葉がある。…知っているか?鬼ヶ崎」
「へえ?…そりゃ…聞いても?」
カイコクが少しわくわくしたように聞いてきた。
贈り物に秘めておくことも出来たが…ザクロはあえて口にする。
くいっと彼の耳に口を近づけ、マスクを下ろした。
「…必ず来る幸福、だ」
「…!」
零れ落ちそうな程目を見開いた彼にふ、と笑ってみせる。


今日誕生日の彼に、必ず来る幸福を。


(幸せを諦めがちの貴方に、約束しよう



幸せにしてみせるという、遠回しかつ真っ直ぐなプロポーズを!!!)