シンヤ誕生日

こんな月の日は思い出す


大切な人の、大切な日を




「シンヤ」
「…ケン兄」
よ、とケンヤは窓の外を見ていたシンヤに笑いかける。
夏の終わった夜、少し涼しくなった日。
…今日は、シンヤの誕生日、だ。
「誕生日おめでとう、シンヤ」
「…ありがとう」
ふわりと彼が笑う。
優しい時間だ。
ケンヤにとっても…シンヤにとっても。
「プレゼントは朝にな」
言いながらシンヤのおでこにキスを落とす。
くすぐったそうに目を細めた彼は不思議そうな顔をした。
「んっ…。別に良いけど…。…なんで?」
「…アンヤが怒るだろ……」
きょとりと首を傾げるシンヤに言い訳がましくそう言う。
途端に目を丸くしてからクスクスと笑った。
「ならこんな秘密ごっこやめたら良いのに」
揺れる肩をぐいと引き寄せる。
わ、という彼の小さな声が届いた。
「それは、出来ねぇな」
「…。…どうして?」
あっさりと告げるケンヤに、シンヤは小さく微笑みながら聞いてくる。
分かっているくせに、とケンヤは笑った。
どうも最近意地悪なところがケンヤに似てきている気がする。
そんなところ、似なくて良かったのになぁ、なんて思いながら、ケンヤは彼の綺麗な瞳にとびきりの笑みを向けた。
きっと、彼が大好きだと自負する笑顔を。
「特権だからに決まってるだろ」
そう言って、そっとキスをする。
シンヤが、愛しい弟が、そうして…愛する彼が、いつまでも幸せでいられますように、と。
「…知らないよ、アンヤに怒られても」
「同罪だろ?一緒に怒られてくれよ」
「嫌。俺、お誕生日様だし」
「なんだそれ」
ふは、と笑えばシンヤも小さく笑う。
深夜の風に乗り、星の瞬きのように響き溶けていった。



「愛してるよ、シンヤ」
「…俺もだよ、ケン兄」


(夜がふける


騒がしい朝はもうすぐ)

しほはるワンドロワンライ・夏の終わり/始業式

夏の終わり、ふと彼女に会いたくなった。


「…桐谷さん」
「!日野森さん!」
軽く手を上げる志歩を見止めた遥が嬉しそうに微笑んで駆け寄ってくる。
「急にメッセージ送ってごめん、大丈夫だった?」
「うん、平気だよ。明日から学校だから、早めに配信も切り上げたの」
「そっか、なら良かった」
ふわりと笑う彼女に志歩もホッとした。
せっかく夢に向かって頑張っているのに、邪魔をしたくない。
「ふふ。でも日野森さんが誘ってくれるの珍しいね。何かあった?」
「…何か、ではないんだけど…」
首を傾げる遥。
キレイな髪が揺れて、夕日に光った。
「…強いて言えば…そうだな」
そんな彼女を見て目を細めながら志歩は言う。
遥に遠回りな言葉を伝えるのは無意味だ。
隠した言葉は伝わらない、ということを志歩はよく知っていたから。
「…桐谷さんに、会いたくなったんだ」
「…!!」
素直な気持ちを伝えれば彼女は目を丸くさせる。
それから楽しそうに笑った。
「明日は始業式なのに」
「だからこそでしょ。…二人きりでゆっくり話せるのは今日しかないかもしれないし」
「…そうだね」
微笑む遥に、志歩は手を伸ばす。
夏の、最後のデートに誘うために。


風が吹く。

夏が、終わりに近づいていた。



(明日は始業式!)

ミクルカ ミク誕生日

こんばんはー、初音ミクです☆
実は今日、私は16回目の16歳のお誕生日様なんだよねー!
今年は特別な年だからってすっごぉく忙しかったんだけど、当日はレンくんの計らいで(巻き込ミクルカされなくないって言ってた。しつれーしちゃう!)ルカちゃんと過ごしてるんだ!
私の先天性男体亜種、初音ミクオくんもお兄ちゃんことKAITO型の先天性女体亜種KAIKOちゃんと二人っきりでデートだし。
どうも、今年はプレゼントより思い出が良いってゴネたらしい…あんまりバラすとあとが怖いからやめよ。
そんなこんなで私はルカちゃんの膝枕で、ルカちゃんが入れてくれた紅茶を飲んでるんだけど…。
「?どうかされましたか?ミク姉様」
「ううんー、なんだか平和だなぁって思って!!」
首を傾げるルカちゃんに、私はにこっと笑ってみせる。
ここ最近の忙しさに比べたら、随分とのんびりしていた。
まあこれが、普通なんだけど…16歳の誕生日なんだよね……16回目の。
なんかちょっと変な感じ。
「…ミクさぁ、16回目の16歳なんだよねー…?足したら32だよ??ルカちゃんより年上になっちゃうよ?」
「…そんなことを言えば私は20歳に稼働年の14を足すのでまだ少しお姉さんですが…。それより、歳の話をしたらメイコ姉様に怒られてしまいますわよ…?」
「よしっ、この話やめよっか!!」
くすくす笑うルカちゃんに、私は言う。
せっかくの誕生日にお姉ちゃんの怒りを買うことないもんね!!
「それに、16歳が16回目だとしても、この年は1回きりで、特別ですわ」
「……!!」
「ミク姉様には、1年1年を幸せで生きてほしいと、そう思っていますのよ?」
ルカちゃんが笑う。
私の大好きな微笑みを浮かべて。
「確かに、私は年上の設定で稼働年はミク姉様より短いですが…妹として、後輩として…そして、その、恋人としても、ミク姉様には幸福でいてほしいんです」
「ルカちゃん…」
微笑むルカちゃんが眩しくて。
嗚呼、なんて素敵な誕生日なんだろう!!
「私が幸福でいるために、隣でずっと一緒に歌ってくれる?」
「勿論。いままでも、このときも、そして…これからも――ずっと」
ピンクの綺麗な髪に口付ける私に、ルカちゃんが優しく笑んだ。
それだけで、最高の誕生日だ、なんて思いながらルカちゃんを引き寄せる。


年齢なんて関係ない。




私が一番好きな貴女が隣で歌を共に紡いでくれるだけで、私は最高に幸せ!

しほはるワンドロワンライ/もしものセカイ・祈り

「…っ、遥!」
「あ、志歩!おかえ…っ」
明るく笑う水の歌姫、遥に志歩は大きく息を吐いてから抱きしめた。
「…わっ」
「…外で歌うのはやめて。…何度も言ってるのに」
「…うん」
志歩のそれに腕の中で小さく笑う彼女の声。
少し離して、本当にわかってる?と志歩は改めて問うた。
「遥は水の歌姫なんだからね?…この国の、切り札でもあるし…」
「…。…大丈夫、ちゃんとわかってるよ、志歩」
遥が少し悲しそうな顔で笑う。
そんな顔をしてほしいわけではないのにな、と思った。
平和だったこの国で、外で歌を歌えなくなったのは、隣国との戦争のせいだ。
誰が始めたかなんて知らない。
志歩には何の興味もなかったが、遥が危険に晒されるなら話は別だった。
彼女は、志歩が守護をする歌姫なのだから。
「…でも、皆に会えないのは辛いな」
「…遥」 
「あっ、ちゃんと、分かってるよ!私達が一同に会せば切り札である歌姫たちが一気にやられてしまうリスクが高くなる。それは…理解してるの」
遥が慌てて言う。
だからこそ、なのだろう。
彼女が、危険を犯してまで外で歌を歌うのは。
かつての仲間たちに届いてほしいのだと…。
「…。…大丈夫。遥の気持ちは理解してる。…だから、今は我慢してほしい」
「…志歩」
「平和になったら、いつだって歌えるでしょ。…私は遥のために、この国の平和のために引き金を引くよ」
志歩は抱きしめる。
大切な、歌姫を。
彼女を喪うなんて考えられない。
お願い、と乞うそれは祈りにも似ていた。

「だから、私のためにどうか……」




「…さん、日野森さん!」
「…。…桐谷、さん?」
呼びかけに目を開けると彼女はホッとした表情をしていた。
「大丈夫?日野森さん。なんだか魘されてたから」
「…。そう、なんだ。大丈夫だよ、ありがとう」
そう言ってふとスマホを見る。
少し目を瞑っただけのつもりが軽く仮眠を取ってしまったようだ。
「…もしかして、寝れてない?」
「…そんな事ないけど…」
心配そうな遥に苦笑しながら、先程の夢はどんな夢だっけ、と思いを馳せた。
あまり良い夢ではなかった気がするのだけれど。
「…えいっ」
「うわっ、桐谷さん?!」
と、彼女が急に抱きついてくる。
驚いたがその体温は心地良かった。
「どうしたの、急に…」
「…ハグは、気持ちが落ち着くって聞いたことがあるの」
「…!」
遥のそれに、目を見開き、思わず笑ってしまう。
「え、えっと…日野森さん?」
「…ううん、大丈夫だよ。ありがとう、桐谷さん。少し、楽になったから」
「…そっか、なら良かった」
ふわふわと笑う彼女をもっと、と引き寄せた。
夢で見た二人が叶わなかった…セカイ。
今はちゃんと平和だよ、なんて思ってみたりして。


穏やかな祈りが届いたセカイを、貴女と。



「…そろそろ行かないと、平和じゃなくなっちゃうかな」
「…?何の話?」
「ううん。…こっちの話」

ケン兄バースデー

夏が来れば思い出す

あの、温かく柔らかな彼の味を



「…ケン兄」
「?どした、シンヤ」
ひょこりと顔を出した弟に、ケンヤは首を傾げる。
もうとっくに寝ていても良い時間なのに、彼は何故か黒いエプロンをしていたからだ。
「今良い?」
「おう。可愛い弟の頼みなら、何でもするぜ?」
「…いや、何もしなくて良いんだけど…」
くすくすとシンヤは笑う。
何だかとても楽しそうだ。
それだけでもなんだか嬉しくて、ケンヤはシンヤが向かった方に足を向ける。
何だか良い匂いが、した。
「…って、ラーメン?」
「あ、もう来ちゃったの」
「今良い?って聞いたのはシンヤだろー。で?なんでラーメン?」
笑いながら椅子を引いて座る。
冷たい麦茶を出してくれた可愛い弟は、だって、と微笑んだ。
「今日はケン兄の誕生日だし」
シンヤの言葉に、そういえばそうだった、とケンヤは思い出す。
流石に誕生日を楽しみにする年齢はとうに超えてしまった。
だとしても、祝ってもらえるのは素直に嬉しい。
「誕生日おめでとう、ケン兄」
「…ありがとな、シンヤ」
彼の言葉に、ケンヤはニッと笑ってみせた。
シンヤが一番に祝ってくれる、その事実が嬉しくて。
「…なあ、作るトコ見てて良いか?」
「いいけど…そんな面白いものでもないよ」
「いんだよ」
不思議そうなシンヤにケンヤはそう言って目を閉じる。
静かな夜にラーメンを作る、柔らかな音は。
何だかバースデーソングのようにも思えた。


(この幸せが、何年でも続きますように)


「ケン兄、チャーシュー何枚にする?」
「え、チャーシューあんの?」
「あるよ、作ったし」
「チャーシュー作れんの?!シンヤが?!!」
「…何歳だと思ってんの…。…作れるよ、ケン兄が好きなものだし」

しほはるワンドロワンライ・夏祭り/勝負

「志歩ちゃーん!一緒にお祭り行こー!!」
きゃっほう!と咲希が志歩に声を掛ける。
もー、と言いながら後ろから駆けてくるのは一歌、そのまた後ろから穂波が着いてくる。
「お祭り…って」
「商店街のやつだよ!ほら、小さい頃は一緒に行ってたでしょ?だから練習終わってから…」 
「…あー…。それ、日曜の方じゃ駄目?」
楽しそうな咲希に、志歩は少し困ったように声を掛けた。
実は、この時期祭りはたくさん行われていて、今日から行われる商店街の祭りは週末にある神社の祭りの謂わば前座なのだ。
「?アタシは良いけど…もしかして、バイト?」
「いや、そうじゃなくてね…」
「ふふ、邪魔しちゃだめだよ、咲希ちゃん」
「そうだよ、咲希」
言葉を濁していれば小さく笑う穂波と一歌が、首を傾げる咲希にそう言う。
「え?…あっ、もしかして…!」
「…ま、そういうことだからさ。お祭りは日曜の練習後に行くってことで」
「はぁい、りょーかいしました!」
それだけで悟ったらしい咲希が楽しそうに敬礼した。
理解がある友人たちで助かる、と思いながら志歩はカバンとベースが入ったケースを手に取る。
さて、お嬢さんをお迎えに行かなければ。



「…桐谷さん」
「日野森さん!」
待ち合わせ場所に行くと嬉しそうに遥が駆け寄って来る。
カラコロと下駄を鳴らせた遥は、綺麗な水色の浴衣を着ていた。
裾に散ったクローバーが目に鮮やかで、思わず目を細める。
「いいね。浴衣似合ってる」
「ありがとう。日野森さんは浴衣じゃないと思ったから、私も普段着にしようかと思ったんだけど…折角だし、良いかなって」 
少し照れたような遥が可愛くて、志歩もそっか、とだけ言った。
「じゃあ行こうか」
「そうだね。…日野森さんは、何か目当てある?」
「…そうだな…別にこれ、と言ったものはないけど…お祭りといえば、なものは食べたいよね。わたあめとかかき氷とか」
「確かに…。…そういえば、10円焼きっていうのが屋台にあるって鳳さんが教えてくれて…」
話しながら商店街に向かうと、もうすっかり人で賑わっていて。
「あっ、見て!日野森さん!射的やってる!」
「え?いきなり射的?」
嬉しそうに遥が駆け出す。
驚いて少し遅れた志歩に、誰かが声をかけた。
「あれ?日野森さんじゃん!」
「…えっと…白石さん」
「やっほー!レオニの皆と?」
ひらひらと手を振る彼女は、どうやら練習終わりらしい。
曰く、りんご飴を買いにいったこはねを待っているようだ。
そんな杏の手には唐揚げのカップが2つ持たれている。
「ううん。今日はデート」
「デートって…あ、あー。なるほど。楽しそうだと思ったら」
肩を竦める志歩に、少し不思議そうにしていたが目線の先を確認し、くすくすと杏が笑った。
「ま、あー見えて負けず嫌いだからさ。宜しくね」
「任せて。…手加減はしないけどね」
ひら、と手を振って遥の元に向かう。
「ごめんごめん」
「ううん、大丈夫だよ。それより、見て!」
ニコニコと笑う遥が志歩の手を引いた。
そこには景品である大きな浴衣フェニーくんが鎮座していて。
「…!可愛い…!」
「でしょう?!ねぇ、日野森さん、勝負しない?」
目を輝かせる遥が既に買っていたらしい銃を手渡してくる。
「…いいね、乗った」
ニッと笑ってそれを受け取り、志歩も銃弾を買った。
勝負なのだから、自分も買わないとフェアではない。
「…じゃあ、行くよ」
「うん。…尋常に…勝負!」


パン、と最後の銃が鳴る。
ぐらりと揺れはしたが下に落ちることはなく(店主がホッとした顔をしていた…メインが早々になくなっては元も子もないからだろう)、ただ全弾何かに命中はしていたので景品を受け取った。
「あーあ、残念」
「ま、そんなもんでしょ。…私は、フェニーくんのお祭り手のひらぬいぐるみ可愛いと思うけど…桐谷さんとペアだし」
「…日野森さん。…ふふ、そうだね」
にこりと遥が笑う。
「何か食べようか。流石にお腹空いたし」
「うん。…!スーパーボウル掬いがある…!」
「後で勝負付き合ってあげるから」
わくわくした表情の遥に、もう、と笑いながら志歩は手を引いた。
こんなに子どもっぽいところもあるんだな、と思いながら。
「…本当?」
「もちろん。引き分けじゃ終われないし」
「…!ありがとう、日野森さん!」
キラキラと輝く、彼女の笑顔に。
負けは確定かもしれないな、と志歩は肩を揺らす。


お祭りの夜は始まったばかりだ。


「いっちゃん、ほなちゃん!聞いた?!商店街のお祭りに、屋台を無双する美少女たちが現れたんだって!!射的もスーパーボウル掬いも輪投げも!」
「えっと、もしかしてそれ…」
「し、志歩ちゃん…?」
「…。…ノーコメントで」

「…起きてください、ギルティさん」
「…うる、さい…。…っ?!!」
うっとうしそうに私の手を払おうとするギルティさんのドッグタグを引っ張った。
目を見開くギルティさんに顔を近づける。
「何故『あれ』について行ったのですか?」
「…にゃ、に…?」
困惑しきったように私を見上げるギルティさん。
黒い耳が不安そうに寝てしまっている。
…なるほど、分からないんですね?
なら分からせてあげましょう。
…勿論、貴方の、身体で…ね。
「私が知らないとでも?貴方が『あれ』について行った事を」
「…あ、れ…?」
「そう、あれ」
「…。にゃにをいっているのか、りかいできにゃい。あたまがおかしくにゃったのか?このやぶいしゃ」
馬鹿にしたように…まるで強がるようにギルティさんがせせら笑う。
…そうですか。
そんな態度、取るんですね。
まあギルティさんが素直に謝るとも思っていませんが。
ですが…そうですね。
貴方がそんな態度を取るのであれば私にも考えがありますよ。
「…おろせ、にゃにする!!!!」
ドッグタグから手を離して抱き上げる。
「何が欲しかったんですか?ねえ、ギルティさん」
優しく囁きながら私はギルティさんの服を捲りあげ、手を振りかぶった。
「…にゃ、んの…はにゃ…あ、ぁああああっ?!!!!!」
しらばくれようとするギルティさんのお尻に向かって手を振り下ろす。
パァン、と激しい音と共にギルティさんの悲鳴が響いた。
「今なら許してあげますよ。さあ…言って」
「し、らな…。…っ、は、ぁああっ!!!」
「嘘は吐いちゃいけない。…そう言いましたよね?」
「…あ…きいて、にゃ…うあぁあ!」
パン、とギルティさんが否定する度に叩く。
長い尻尾の毛が逆立った。
振り返って、ギッと鋭い目で私を睨むギルティさん。
「…くず、こ、の…しね…っ!!」
「…どの口が言ってるんですか、ね!」
相変らずだと笑いながら私は手を振るった。
小気味いい音が部屋に響く。
数度叩いたところでギルティさんの小さな身体から力が抜けた。
ベッドの上に下ろして潤んだ瞳で悔しそうに見るギルティさんの顎を持ち上げて目線を合わせる。
「…う…は…っ」
ギルティさんの薄い肩がびくりと揺れた。
「食べ物に釣られたんですか?ギルティさん」
「…ひっ!」
黒い耳を噛む。
体を大きく揺らしたギルティさんは止めろ嫌だとうわ言の様に呟いた。
「アイスが食べたいならそう言えばいいでしょう」
「…っ、き…さま、にゃにす…っ!!」
腰を上げさせるとぞっとしたようにギルティさんが私を見上げる。
力が抜けきったギルティさんはもう抵抗する余裕もないみたいだ。
それでも虚勢で私を罵倒し続けていましたが。
ねぇ、ギルティさん。
私が誰だか、まだ理解していないんですか?
貴方の完全なる味方だとでも?
ギルティさんは私のモノです。
それが分からないんなら…どうなるか、教えてあげなくちゃいけない。

そうでしょう?

ねぇ、私の可愛い飼い猫さん。

「『アイス』、たくさん食べさせてあげますね」
私は笑いながら悲痛な声を上げるギルティさんの口に1本、ひくりと戦慄くそこを指で押し開いて『冷えたバイブ』を2本押し当てた。

Rose Menuett  桜井えさと

Bella-donna(ストギル・ジニギル)*女体化注意

で?と微笑んだ彼は美しかった。
長い足を優雅に組み換え、ふわりとあどけない笑みを浮かべ…見せつけるように【乳を揺らす】。
彼、ギルティは男性モジュールだ。
罪深い程に美しい、とされていたとて彼はジーニアスと同じ男性モジュールである。
…だったはずだ。
だのに、彼の胸はふくりと膨らみ、全体的にも女性特有の丸みを帯びていた。
理由は簡単。
「貴方が勝手にクスリを飲んでしまうからです」
「人の飲み物に変なもんぶち込んどいて良くまあいけしゃあしゃあとんなこと言えるな?!」
うがあ!とギルティが楯突いてくる。
怖くなどはない。
寧ろ、可愛いとさえいえるほどだ。
…本人に言えばそれ以上に怒るから言わないが。
さて、彼が彼女になってしまった理由はといえば、いつもの診察終わりに出した飲み物をギルティが何の疑いものく飲んでしまった、これにつきる。
何故彼はこう迂闊なのだろうか。
人なんて信用ならんと言いながら簡単に騙されてくれる。
 だからこそこのような状況になっているんだろうな、と思いつつもジーニアスは何も言わなかった。
「それにしてもまあ」
「?」
「思った以上に育ちませんでしたね」
しげしげと彼の…今は彼女か……の胸を見ながら呟けばそれだけで分かったのだろう、蠱惑的な笑みを形作り。
「…変態」
可愛らしい笑みを浮かべ、黒いジャケットのボタンを一つ外してみせた。
ふるりと覗くそれは服の上からではわからない程大きい。
「なるほど?」
 くすり、とジーニアスが笑った。
着痩せするタイプなのだろう。
「触ってみても?」
「どぉぞ?一回千円な」
 可愛らしく笑み、ギルティは突拍子もないことを言い出した。
「お金貰ってどうするんです。貴方、籠の中の猫でしょうに」
「何事も先行投資が必要だろ…ぁんっ」
 悪い顔をするギルティの、胸を揉む。
 ぴくん、と表情を歪ませる彼にジーニアスも微笑んだ。
「感度が宜しいんですね?」
「はっ、もっと優しくしてもらいたいもんだな、童貞クン?」
 ああ言えばこう言う、彼との応酬。
 慣れたものだがやはり痛い目は見てもらっておくべきかと少し考えたところで。
「なに、やってるの?」
「…んだよ、旧作」
 響く声に、ギルティが胡乱気な視線を投げてよこす。
 それにきゅっと眉を吊り上げた彼、ストレンジダークが足音荒く寄ってきたかと思えばジーニアスからギルティを引き剥がした。
「ギルティはボクのでしょ」
「別に誰のものになった覚えもねぇけど?」
 ストレンジダークのそれににこり、と音がつきそうな笑みを浮かべる。
 彼は彼女になってより可愛らしく美しく可憐に蠱惑的に、…そして我儘になった。
「な、旧作。俺、甘いのが食べたい気分」
「…。…そんなこと言ってる場合…」
「頼むよ。…いいだろ?」
「…はあ……」
 可愛らしく、もはや悪魔的といってしまった方が良いほどのそれにはストレンジダークも溜息を吐くしかなかったようだ。
 ギルティから離れ、簡易の冷凍庫の方へ向かう。
 チョロイ、とピースをジーニアスに見せつけるギルティは…愚かとさえ言えた。
「貴方はもっと喜ぶかと思ってましたよ、ストレンジダークさん」
「言っておくけど、ボクは女性は嫌いだよ。子どもだってほしくないし」
 パタン、と冷凍庫の扉を閉めジーニアスのそれに答えながらストレンジダークが持ってきたのは高いことが世間的にも有名な某アイスクリームだった。
 最近発売されたものだろう。
 カップではなく棒状のそれはギルティの口より少し大きいくらいだ。
「お、気が利くな、旧さ…くっ?!」
「でも、女性の躰に興味がない訳じゃない。何より」
 嬉しそうなギルティをベッドに沈み込ませ、彼は冷たい目で言葉を紡ぐ。
「…ボク以外に着いていくのは、赦さない」
「なに…んぐぅ?!!」
 痛みに表情を歪ませた彼が大仰に目を見開いた。
 アイスバーが口にいきなり入ってくればそんな顔もするだろう。
「美味しい?美味しいね、ギルティ」
「ふぁ、は…ぁぅう…!」
「もっと喰べさせてあげる。例えば…こっちとか」
 無邪気な笑みを浮かべ、アイスバーを乱暴に動かしながら、ストレンジダークはするりとギルティの下半身を撫で上げた。
 やめろ、よせ、とギルティが首を振る。
「ギルティは何が好き?スイートストロベリー?コーヒー&クッキークランブル?塩キャラメルマカダミア?バニラチョコ?どれも捨てがたいね」
 楽しそうに笑み、箱を開け…嫌がるギルティの綺麗な足を
ぐい、と割り開いた。
「ジーニアス先生」
「はいはい」
 じたじたと暴れ出すギルティの背後に周って、ジーニアスは足を押さえつける。
「ま、全部喰べちゃえばいいよね」
 色んな穴があるし、という彼は怒っているのだろう事がありありと窺えた。
 少しやり過ぎたか、と掠めるものの反省などは特にしない。
 クランチーバーを処女喪失に使うのもなかなか大概だな、と思うがジーニアスは何も言わなかった。
 被験者が実験体に何をしようが関係ない。
「〜〜〜!!!!」
声なき悲鳴をあげる彼の肌を舐め上げれば白桃の味が、した。
20180701発行(再掲)20230723 VOCALOID DIVAModule
      ストレンジダーク×ギルティ←ジーニアス
Rose Menuett  桜井えさと
pixiv:https://www.pixiv.net/users/2492377
Twitter:@hatoe_sa_to

ストギルジニギルコピー

今日はお祭りなんだって

そう誰かが言った。


「…ギルティ、起きて。ギルティ」
「…ん…ぅ…?」
ぼんやりと彼はその濡れた目を開く。
ほっとした顔を、ストレンジダークは見せた。
この少年もこんな優しい表情を見せるのだな、とジーニアスは思いながら「ずいぶんぐっすり眠っていましたね」と声をかける。
「…夢、見てた気がする」
「ほう。貴方でも夢を見るのですね」
「…どーいう意味だよ」
寝起きの声を出すギルティにそういえば彼は少しだけむっとしてみせた。
どうやらまだ頭が回転しきっていないようで反応は遅めだ。
「…ボクの夢?」
「誰が旧作の夢なんざみるんだよ、馬鹿じゃねえの」
素朴な疑問にギルティがあっさりと言う。
言葉に棘が戻ってきた。
悪い夢を見ていたわけではないらしい。
「…ギルティ、ホントそういうとこ」
「るせぇ。…で?なんで起こしたんだよ」
酷く呆れたようなストレンジダークにギルティは暴言を吐き捨ててから首を傾げた。
さらりと蒼い髪が揺れる。
せっかく寝てたのに、と言いたげな彼に、そうだった、とストレンジダークはそのほっそりとした手を引いた。
「行こう、ギルティ」
「…は?行こう、ってどこに」
「…。…今日は大切な日なんだそうですよ」
目を白黒させるギルティに小さく笑いながらジーニアスが言う。
「ストレンジダークさんがそういうものを大切にする方とは思いませんでした」
「ねえ、ジーニアス先生も馬鹿にしてるよね?ボクのこと」
「いいえ?私は褒めているのですよ」
「…なあ、さっきから何の話…」
楽しそうなジーニアスと少し不満げなストレンジダーク、その二人にギルティは戸惑うようにして問うた。
彼にしてみればそうだろう。
穏やかな夢を見ていたところ急に起こされて 何もわからずに、今まで監禁されていた場所から連れ出されようとしているのだから。
「お祭り」
二人の声が重なる。
え、とギルティの目が見開かれた。
「今日はギルティのためのお祭りなんだって」
「まあ…たまには穏やかなのも悪くはないでしょう」
ストレンジダークが年相応の顔をして笑う。
ジーニアスが優しい顔で目を細める。
それに、ギルティは「ま、たまにはな」と笑った。


有罪の黒猫は穏やかなお祭りの夢を魅る。


それはいつかの、穏やかな刻のユメに似て、いた。



「なあ、旧作。俺、かき氷食いたい」
「だから、旧作って呼ばないでってば。…そもそもあるのかな、かき氷」
「ギルティさん、貴方ブルーハワイ似合いそうですね」
「?どーいう意味…おいこらてめ、ジニ、ジーニアス。何悪りぃ顔してんだ」
「…いいえ?特に何も」
「…ジーニアス先生、意外と嘘つけないよね」
「ふふ。さあ…どうでしょうね?」

しほはるワンドロワンライ・夏休み/予定

「夏休みの予定をお聞きしても宜しいですか、お嬢さん!」
「…なに、それ」
ひょこりと覗き込んで言われたそれに、志歩はふは、と笑う。
それに聞いてきた彼女…遥がふわふわと髪を揺らした。
「ふふ。もうすぐ夏休みでしょう?…普通に聞くだけじゃあ面白くないと思って」
「予定聞くのに面白みなんていらないから」
笑いを堪えてようやっとそう言ったのに遥はそうかな?と何故か不思議そうだ。
「…それで?私の予定が気になるんでしょ」
「!教えてくれるの?」
「そんな面白い予定はないよ。大体は次のライブの為の練習だし。空いてる時間はバイトかな。…桐谷さんだってそうじゃないの?」
「まあ…。来週はテレビ収録とロケ、後はラジオにも出る事になったの」
「へえ、おめでとう」
「ありがとう、日野森さん」
素直に言えば彼女はへにゃりと笑う。
「じゃあやっぱりお互い夏休みは忙しいね」
「そりゃあね。…夢は、譲れないでしょ」
笑う志歩に遥が、目を丸くしてから、もちろん、と言った。
志歩は遥の夢を知っているし、遥も志歩の夢を知っている。
知っていて、そんな夢に直向きな彼女のことが好きになったのだ。
…遥も、そうだったら嬉しいな、と思う。
「…。…ま、夏は予定合わないにしてもさ」
「?」
「…今日のお祭りくらいは一緒に行けるけど?」
きょとりとする遥に手を差し出した。
夏休みに入る前、この地域ではこぞって夏祭りが行われるのだ。
「…いいの?」
「誘ってるんだから当たり前でしょ。…もっと、ロマンチックな方が良かった?」
笑う志歩に、遥がくすくすと楽しそうにその手を取る。
「うーん、日野森さんは変わらないでほしいかも」
「何、それ」
向日葵のように笑う遥に、志歩も肩を揺らしながら取られた手を引き寄せた。
「じゃ、放課後迎えに行くよ、お嬢さん?」
「…もう、日野森さんたら」
彼女が可笑しそうに目を細める。
そんな反応をされる方が何だか恥ずかしかった。
「…やっぱり私にはこういうの、向いてないかも」
「無理しなくても良いのに。私はいつもの日野森さんが好きだよ?」
「…ありがとう、桐谷さん」
はあ、と息を吐く志歩に遥がフォローしてくれる。
…こうなったのも遥のせいなのだけれど、と思ったが不毛なので言葉にするのはやめた。
代わりに、「私も桐谷さんのこと、好きだよ」と告げる。
ありがとう、という彼女の耳は柔らかく染まっていた。
「…ま、夏休みの間ずっと会えない訳じゃないし。予定が合えば遊んだり…メッセージ送ったりは出来るしね」
「…そうだね」
遥が笑う。
夏が良く似合うそれで。


夏休みの予定は合わないけれど


それが全てではないことは志歩が一番良く知っているから。



「じゃ、帰ろ、桐谷さん」
「…!うん、帰ろう、日野森さん!」



照りつける日差しの中、手をつなぐ少女たちが飛び出す

夏休みはもうすぐそこ!