ワンドロ・紅葉/写真

こはねが紅葉の写真を撮ってきた。
上手いもんだな、と眺める彰人を他所に凄い凄い!と杏は盛り上がっている。
「今度みんなで一緒に行こうよ!実際に見た方が綺麗だし」
「いいね!外で歌うのも楽しいし!」
こはねのそれに杏が同意し、彰人が「またお前らは勝手に…」と呆れた。
存外いつもの光景である。
…と、いつも以上に大人しい冬弥が気になった。
「…冬弥?どうかしたか?」
「…え?」
声を掛ければ写真から目を離してきょとんとする。
どうやら、集中して魅入っていたらしい。
「なんかあったのか」
「…いや、上手に撮るにはやはり練習とコツがいるんだろうな、と」
「んだよ、写真撮りてぇのか?」
冬弥のそれに今度は彰人がきょとんとすれば、杏と盛り上がっていたこはねが「私で良ければ教えようか?」と声をかけてきた。
「そうしてもらえると助かる」
「うん!まかせて!」
「冬弥が写真撮りたいなんて珍しいねー。見せたい人でもいるの?」
「…セカイは、季節が変わらないから…写真だけでも、と」
杏の問いに冬弥が微笑みながら答える。
そういえばセカイは季節も変わらないから知らないことがたくさんあるんだとレンが言っていたっけ。
「それ良いね!写真をたくさん撮って壁1面に飾れば紅葉狩りの気分も味わえるし」
「そーかぁ?」
はしゃぐ杏に、彰人は首を傾げる。
そーいうもんなの!と言う杏にこはねと冬弥がくすくすと笑った。
「じゃー予定決めなきゃね!…っと、その前にお店の準備だけしなきゃ」
「あっ、私手伝うよ!」
慌ただしく杏とこはねが去っていく。
騒がしい奴ら、と見送る彰人に、冬弥はまだ写真を見て小さく笑みを浮かべていた。
「…そんなに楽しいかよ、紅葉の写真」
「ああ」
頬杖をつく彰人に、冬弥が頷く。
まさかそうくるとは思わなくて彰人はきょとんとした。
続けてくる冬弥のそれに目を見開く。
まったく、彼ときたら。
「惹かれてしまうのかもしれない。…紅葉は、彰人の色だから、な」
「…お前はー…っ!」
「彰人?…わっ」
照れた顔を見せたくなくて思わず冬弥の頭を撫でちゃくる。
不思議そうな冬弥にそっと囁やけば、彼もほんの少しだけ紅葉色に頬を染めた。
「…。…冬弥を紅葉にやる気はねぇよ」



秋が来る。


綺麗に染まった紅葉を連れて。


紅葉も二人には負けちゃうよねぇ、なんて女子の笑い声が店に響いた。

類冬ワンドロ・おばけ/ハロウィン

さて、もうすぐハロウィンである。
ハロウィンショーをするのだが、ハロウィンにはおばけ、というのは些か安直すぎる気がして、類は悩んでいた。
何かもっと…観客が驚くような……。
「…神代先輩?」
小さな声に振り向けば、後輩であり恋人でもある青柳冬弥がこちらを見ていた。
「やあ、青柳くん。今帰りかい?」
「はい。神代先輩も帰りですか?」
「ああ。…良かったら、一緒に帰らないかい?」
にこ、と笑うと冬弥はすまなそうな顔をする。
不思議に思っていれば、彼は今日買い物に寄るから難しいのだと告げた。
「…せっかく誘ってくださったのに、すみません」
「構わないよ。…ちなみに、何を買いにいくんだい?」
「お化けの、仮装です」
「…ん?」
冬弥の答えに思わず首を傾げてしまう。
彼の口から信じられないそれが飛び出したからだ。
「…もう一度、聞いても?」
「お化けの仮装です。…白石のカフェでハロウィンイベントをやるみたいで…普段からお世話になっているので手伝おう、と」
「…なるほどねぇ」
冬弥のそれにようやっと納得した類は「なら」と提案する。
「もし君が良ければ僕がプロデュースしてあげようか」
「…!でも」
「青柳くんよりは、ハロウィンイベントに詳しいと思うのだけれどね?」
にこ、と笑うと冬弥もそうだ、と思ったのだろうか。
よろしくお願いします、と手を出してきた。
「もちろん。僕が君を素敵なおばけにしてあげよう」
その手を取り、類は笑う。
ハロウィンにおばけ、なんて単純なそれでもありかもなぁ、なんて可愛らしい冬弥を見ながらぼんやりと、思った。




おばけなんてないさ、おばけなんて嘘さ


(だって、ハロウィンに託つけて出てきたおばけなんて、それより怖い魔に食べられてしまうからね)

ミニスカートの日

「なぁ、カイさん」
「…んー、なんでェ」
新聞を読むカイコクを、ひょいとユズが覗き込む。
「カイさんは、着るならミニスカートとロングスカートどっちが良い?」
「…着るなら、まあ…ミニかねェ…スリットが入ってるなら別だが」
「じゃあタイトかフレアだったら?」
「…フレアじゃねぇかい?動きやすいし」
新聞を読みつつも割と真面目に答えてくれる彼女に、ユズは存外律儀だなぁと笑った。
まあそこがカイコクの良い所なのだろうけど。
「カイさんはミニのフレアね…了解」
「…って、ちょっと待ちねェ、路々さん。そりゃあどういう…」
ユズの言葉に疑問が出たのだろう、新聞から顔を上げるカイコクに、ユズはある包みを差し出した。
「…嵌めたな?」
「やだなぁ、戦略が上手いって言ってくれないと♡」
じっとりと睨むカイコクに、にゃは、と明るく笑う。
「いいじゃないか、ザッくんでも誘惑しに行きたまえよ」
「誘惑、ねぇ」
ユズのそれに、彼女は上を向いた。
だが、すぐに首を振る。
「…いや、諸刃の剣になりかねねぇ」
「そこを上手くやるのがカイさんだろ?」
ほら、と包みを押し付けた。
渋々、といった様子で受け取り、カイコクはそれをひっくり返す。
ひらり、と出てきたのは赤いチェックのミニスカート。
「…なぁ、流石にこりゃあ…」
「着てみなきゃわからないじゃないか!な、カリリン、ひーみん!」
にっこにことユズが言う。
え、と目を見開くカイコクを少女が2人、取り囲んでいた。
いつの間に、と言うカイコクに、カリンとヒミコが可愛らしく笑む。
「私達が可愛くしてあげますから」
「頑張りますねっ、鬼ヶ崎さん!」
無邪気な2人にカイコクが助けを求める目をした。
だが勿論それを助ける人はいない。
彼女は大人しくモルモットに成り下がるしかなかったのだった。



「あ、おーい、ザッくん!」
ユズに呼びかけられ、ザクロは少し嫌そうな顔をする。
彼女が上機嫌な時は大抵嫌な予感しかしなかった。
「…。…何か用か、路々森」
「つれないにゃあ!ザッくんは、今日は何の日か知っているかと思ってさ」
警戒するザクロにユズが軽く笑う。
彼女の急なそれにザクロは目を丸くした。
「今日…?何か特別な日だったか?」
「勿論。毎日が何かの記念日なんだぜ?」
にこにこと笑うユズに、それもそうか、なんて思いながら、ザクロは考え始める。
ハロウィンはもっと先だし…そういえば十三夜が今日だったような。
「ちなみに十三夜は今日だが、そっちじゃないぜ」
「む」
先を越され、ザクロは口を噤む。
考えたところでさっぱり分からなかった。
「分からないザッくんに、ヒントをあげようー!」
ザクロの様子にユズがにまりと笑ってドアを開く。
そこに、居たのは。
「は、え、忍霧?!」
「?!鬼ヶ崎、貴様、なんでっ、そん、ハレンチな!」
「は、はぁ?!ミニスカのどこがハレンチなんでぇ!!」
売り言葉に買い言葉、目を逸らしながら真っ赤になるザクロに、カイコクが声を荒げフレアスカートを閃かせながらズカズカとやってくる。
短いチェックのフレアスカートに、可愛らしいシャツ、という普段とは違う格好が恥ずかしいのだろう、彼女は珍しく顔を赤くしていた。
おやおや、と笑いながらユズはそっと部屋を出る。

いつも男勝りな彼女が可愛くなるなら、こんなのも良いじゃないか。
だって、今日は

(ミニスカートの日!)


「あ、カイさん!ミニスカートどう……」
「…諸刃の剣でェ!!」

司冬ワンライ・秋の夜長/占い

「ねぇ、お兄ちゃん!赤いハンカチ持ってない?」
ひょこりと顔を出した妹に一瞬きょとんとしてから、司は「あるぞ!」と答える。
「確かこの引き出しに…あった」
「さっすがお兄ちゃん!ちょっと借りても良い?」
「構わんが…何に使うんだ?」
手渡すと嬉しそうに受け取る咲希に聞いてみれば、ああ、と笑った。
「今日の星座占いで出たラッキーアイテムが赤いハンカチなんだぁ。持ってれば良いことあるかなーって!」
「なるほどな」
「あっ、お兄ちゃんも使う?!」
笑う司に、咲希がハッとしたように言う。
司も咲希も同じ五月生まれ、同じ星座だ。
ラッキーアイテムも同じだと気づいたらしい咲希が返してこようとするのを司は止める。
「オレより咲希が持っていると良い!なんと言ってもオレはスターだからな!幸運は自分で引き寄せてみせる!」
「流石はお兄ちゃん!!じゃあ、ハンカチ、借りるね!!お兄ちゃんと同じくらい、幸運を掴んじゃうんだから!」
司のそれに咲希が明るく笑った。
と、そういえば、と少し上を向く。
「とーやくんも五月生まれだけど、星座は違うよね。ちょっと不思議な感じ」
「そういえばそうだなぁ」
後輩であり幼馴染、そして恋人でもある冬弥は司たちと同じ五月生まれだが、星座は違っていた。
ちなみに、司は牡牛座、冬弥は双子座だ。
「…なあ、咲希」
「なあに、お兄ちゃん!」
朝の用意に戻っていこうとする咲希に声を掛ける。
不思議そうな顔で振り向いた咲希に司は口を開いた。
「…双子座の今日のラッキーアイテムはなんなんだ?」




その日の夜。
司は冬弥に電話をかけていた。
今日は休日、加えて司もショーがありどうやら冬弥の方もイベントだったようで、会おうにも会えなかったのである。
「もしもし?冬弥か?すまんな、夜遅くに」
『…いえ、寝る前に先輩の声が聞けるのは嬉しいです』
柔らかい彼の声が嬉しいことを言ってくれた。
自然と顔がニヤける。
『ところで、どうかしたんですか?』
「いや、用はないのだが…」
『…だが?』
見えてなくても不思議そうな冬弥のそれに司は笑った。
「…なぁに、今日の占いで双子座のラッキーアイテムが好きな人の声、だったからな」
『…そう、でしたか』
嬉しそうな冬弥の声音に司も小さく笑い、ベッドに寝転ぶ。
「秋の夜は長い。たまにはこうやって話しながら眠るのも良いものだと思ってなぁ」
『…先輩の声を聞きながらだと、とても良い夢が魅れそうです』
「そうだな、オレもだ」
くすくすと司は笑いながらスマホを持ち替えた。
他愛の無い話を、さてどれからしようか考えながら。



たまには占いの、ラッキーアイテムを提供するのも良いじゃないか。

好きな人には幸せになってほしいものだろう?


(秋の夜長に、優しい声を響かせて


それは司にとっても幸せを運ぶ、音)

ワンドロ・テスト勉強/ご褒美

「あ、弟君!次の英語、抜き打ちテストあるよ!」
通りすがりの瑞希が教えてくれた有益な情報に、ありがとうという類の言葉が出る前に、「何故」が出てきてしまったのは不可抗力ではないはずだ。
何故抜き打ちテストなのに瑞希が知っているのか。
何故彰人に教えてくれたのか。
何故今…冬弥が隣にいる今言ってしまったのか。
「暁山たちのクラスは1週早いから、知っていたのだろう。彰人に教えたのは苦手だとこの間バレてしまったからな」
いつもの定位置である隣を歩いていた冬弥が、淡々と瑞希への疑問を返す。
どうやらバレていたらしい。
「…テスト勉強、頑張ろうな」
柔らかく微笑む割に勉強はスパルタな相棒に、はい、というしかなくて。
彰人は内心ため息を吐いた。
「…頑張るからには何かご褒美とかほしいんだけどな、オレは」
思わず小さな声で言ってしまった彰人に、冬弥がふむ、と考える。
なら、と冬弥が口を開いた。
「俺の時間と自由を1日彰人に与える、というのはどうだろう」
「…は?」
思ってもみない返答に彰人はぽかんとする。
本気で言っているのだろうか。
「オレが言うこと、何でもやってくれるのかよ」
「良い点数が取れたらな」
「…エロいことでも?」
「無論だ」
頷く冬弥に、彰人は悪い顔になる。
二言はなしだぜ、と英語の教科書を取り出した。

好きな人からのご褒美1つでやる気になる。


男ってそんなもんだろ!!


「…冬弥くん、いつも弟君と一緒にいる気もするんだけどなぁ」
「…。…青柳くん、あんまり否定もしないよね」
「瑞希、草薙さん、しーっ」

きのこの日

今日はきのこの日らしい。
そんな大切な日にブスくれている可愛らしい女子とオロオロする男子がいた。
「…なぁ、鬼ヶ崎…?」
「…。なんでェ、忍霧」
腕組みをしながらじっとりと見つめる彼女にザクロは言葉を詰まらせる。
だが、ここで止まっては進まない、と勢い良く頭を下げた。
「急にすまない!!俺と松茸を探してくれないだろうか!!」
ザクロの勢いにカイコクは一瞬たじろいたがすぐに不機嫌な顔をし、息を吐いた。
「…朝早く起こされて?無理やり山に連れて来られたと思ったら松茸だぁ??」
「…う…。…すまないと思っている」
「本当に?」
「勿論だ!」
探るようなそれにザクロは頭を上げ、真剣に言う。
ザクロは嘘がつけない性格だと知っている彼女はまた息を吐いた。
「…分かった。忍霧の誠意は伝わったが、急に松茸狩りに来た理由が分からねぇんだが?」
純粋な疑問にザクロはああ、と言う。
「今日はな、きのこの日なんだ」
「…ほう?」
「それで、前に鬼ヶ崎が松茸を見つけたのを思い出してな。きのこの日に松茸を食べるのも良いかと」
「いや、あれは紛れ…まァいい。つまり、『ザクロくん』は、松茸を俺に探してほしいだけだって訳だな?」
少しブスくれる彼女に、それは違う!と勢い良く言った。
ただ、そんな理由だけでカイコクを呼ぶはずがないだろう、と。
「あの時は、勝負みたいになってしまっただろう。だから、その…ハイキングデートをしたい、と思って、な…」
言い訳じみたザクロのそれにカイコクはきょとんとする。
それからくすくすと肩を揺らした。
可愛らしく笑う彼女に、おい、と言えば機嫌が良くなったらしいカイコクがゲノムタワーの方に足を向ける。
「なら最初からそう言ってくれりゃ、それ相応の用意をして来たってェのに!」
「お、鬼ヶ崎?」
「あのなぁ、山道を歩くにゃ準備がある。…お前さんは女の子にいつもの格好で歩かせる気かい?」
「いや、その」
くす、と笑うカイコクに思わずたじろいだ。
確かにそうだが、彼女は『女の子』なんてか弱い存在だろうか。
「手伝ってくれるんだよな?忍霧??」
だが軽く微笑まれて手を差し伸べられてしまえばザクロは頷くしかなくて。

秋風に彼女のお面についた赤い紐が揺れる。


きのこの日デートはもう少し後になりそうだ。



「しっかし、お前さんのことだから、俺の松茸を食べてくれ、って言うかとおもったが」
「貴様は自分の好物をかけてセクハラしたいと思うのか?」
「…悪かったよ」

アンヤバースデー(アンカイ)

「…っぱ似てねぇよなぁ…」
「…は?…なんでェ」
目の前にいるカイコクを眺めながらアンヤはぽつりと呟く。
小さな声だが聞こえていたのだろう彼がきょとんとしてから首を傾げた。
ゆら、とカイコクのお面の紐が揺れる。
別に何でもねぇよ、と答えながらアンヤはプレゼントだと渡された、チョコミントのカップアイスケーキを口に運んだ。
今日はアンヤの誕生日である。
消灯時間前にこっそり来た彼は「時間ギリギリのが俺らしいだろう?」と笑ったのだ。
まあ確かに日付が変わった途端に来られるよりはよっぽどカイコクらしいけれど。
「気になるじゃねぇか」
「大した事じゃねーよ」
笑う彼にチョコミントアイスを一口突っ込んでやる。
甘いものがあまり得意ではないらしいカイコクは途端に眉を顰め、思わず、ふは、と笑った。
「やっぱ似てねぇな」
「…あ?」
「…。…シン兄は、んな顔しなかったし」
アイスを口に運びながらアンヤは言う。
目をぱちくりと瞬かせ、カイコクが疑問符を浮かべた。
「…オレの兄貴。オメーと同じ大学生」
何も言わなくても分かったのだろうアンヤが口数少なく答える。
それだけで分かったのだろう、彼はああ、と笑った。
「お前さんの兄貴ねぇ。想像出来ねェな」
「そーか?…まー…性格は似てねぇし…。…見た目だけは似てんだけどな」
「ふぅん?」
アンヤのそれにカイコクが楽しそうに笑う。
珍しく機嫌が良いな、なんて思いながらアンヤは兄であるシンヤを思い浮かべた。
シンヤは優しいし、しっかりしている。
困ったことがあればいつも頼りにしていた。
ケンヤが亡くなって、アンヤが睡眠障害を患ってからも距離感の変わらない、優しく自慢の兄だ。
多分、アイスを突然口に入れたって驚きはするが、優しく笑うだろう。
アンヤみたいに無鉄砲でもない、ケンヤみたいにおおらかでもない。
…カイコクみたいに、寂しい人、ではないのだ。
だからこそ。
「シン兄もオメーと同じ黒い髪だし、大学生だけど、オメーみたいに意地悪でもちゃらんぽらんでもなかった」
「…なんでぇ、いきなり」
「…けどな」
急な言葉にカイコクは軽く笑う。
怒ることはしない、目の奥の優しさが少し似ている、気はするけれど。
彼は、兄ではない。
兄では、困るのだ。
だって、アンヤは、そんなカイコクのことが。
「意地悪だろーがちゃらんぽらんだろーが、オレのそーいう『好き』なのはオメーだけだからな」
「…は、え…?」
アイスを口に含み、アンヤはぽかんとするカイコクに口付ける。
割と直球に弱ぇよな、なんて自分のことを棚に上げて、アンヤは彼を押し倒した。



兄とは違う、カイコクだから好きになったのだ。

(せっかくの誕生日、少しくらい自分に正直になるべきだろ?)

司冬ワンライ・○○欲/○○の秋

秋だ。

スポーツの秋、芸術の秋、食欲の秋…。
様々な【秋】がある中で。
司が見つけた秋は…。



「冬弥ー?すまない、遅くー…」
彼の待つ図書室にひょこりと顔を出す。
一緒に帰ろうと誘ったは良いが、委員会が遅くなってしまったのだ。
図書委員でもある冬弥は、本が好きだった。
そういえば、読書の秋は新刊が増えるんです、と非常に喜んでいたっけ。
だから、図書室から声がしなくても司は別に何とも思わなかった。
本に集中して周りの声や音が聞こえていない、なんてことは良くあるからである。
寧ろ、本の世界に引き込まれるほど集中できた、のなら少し遅くなってしまって良かったかもしれない。
…だが。
「…む」
カウンターにいた冬弥は珍しく眠っていた。
壁に頭を傾け、少しうつむき加減ですやすやと寝息を立てている。
読書家の冬弥も睡眠欲には勝てなかったようだ。
「…待たせてしまったようだな」
すまない、と小さく謝罪し、司は彼の足元に片膝を付く。
もう一度、すまない、と言ってから司は小さく微笑んだ。
開け放した窓から金木犀の香りが司の鼻孔を擽る。
遠くに聞こえるチャイムの音と、秋の夕暮れの日が冬弥の綺麗な肌を照らした。
柔らかい空気に、眠たくなるのも仕方がないな、と肩を揺らす。
彼の珍しいそれに、誰にも見せたくはないな、なんて想いながら、天使のような冬弥の寝顔に司はそっと手を伸ばした。


読書の秋に勝ってしまったのは睡眠の秋。


では、睡眠欲に勝ってしまったのは?


(それは、秋の冷たい風のような独占欲)

ワンドロ・球技大会/サッカーor野球

「…」
冬弥が悩んでいる。
珍しいな、と思いながら、あまり悲観的になっていないのは、音楽に影響が出ていないからだ。
父親と揉めた時ほど深刻な悩みではないのだろう。
…本人にとってはどうだか分からないが。
「…彰人」
「どうした?」
休憩中、小さな声で名を呼ぶ冬弥に、彰人は振り向いた。
ふぅ、と息を吐いた彼がおずおずと口を開く。
「…彰人は、球技大会…いや、やはり良い」
「…は?」
口に出してから止める冬弥に、彰人はムッとした。
途中でやめられれば気になるだろうに。
「んだよ、言えよ」
「…いや、聞くまでもなかったな、と」
「はぁあ?」
曖昧な笑みの冬弥に疑問符を浮かべる。
実は、と語り出したのは意外な話題だった。
「今度球技大会があるだろう?サッカーと野球、まだどちらに出場するか迷っているんだ」
「…ああ……。オレは確実にサッカーだからな」
「ああ。サッカーなら彰人のクラスと当たることもあるだろうが、野球は当たったとしても彰人はいないだろう?練習もセカイで彰人と出来る。だが、野球を選択した場合は競技時間がズレるから彰人のサッカーを観客という立場から応援出来るからな。どちらも苦手だが…彰人の事を考えると迷ってしまって…」
困ったように眉を下げる冬弥に、彰人は目を見開いてから息を吐く。
何故この相棒はこんなにも可愛いのだろう。
「…どっちでも良いんじゃねぇの」
「…彰人」
適当な返事に冬弥は更に困った顔になった。
そんな顔もかわいいな、と思いつつ彰人は笑う。
「野球も出来るから教えてやるよ」
「…え?」
「だから、好きな方にしろって。野球でもサッカーでも、オレが冬弥といる時間は変わんねぇんだからさ」




秋はスポーツの季節。


2人の距離は変わらず、近くに!!

(クラスが違うのに、常に2人が一緒にいるなんて、球技大会関係なく、いつものことじゃあないか!)

冬弥の日

「やあ、青柳くん!これから僕と一緒に図書館へ…」
「冬弥!オレと共に新しく出来た大型書店に行かないか?!」
ホームルームが終わってすぐ飛び込んで来る変人ワンツーに、名前を呼ばれた冬弥がきょとんとする。
ちなみに、クラスメイトはまたか、といった顔だ。
「…司くん、少しは僕に遠慮しても良いのではないかな?」
「何を言う。類こそ、オレに譲ろうとは思わんのか?」
教室に入ってきながらもバチバチと火花を散らす2人に、冬弥は困惑しきりで。
「…あの、司先輩、神代先輩…」
呼びかけようとする冬弥を誰かがスッと遮る。
…いや、遮る、というより分かりやすく、何かが冬弥の肩にのしかかった。
「すみませんねー、センパイ方。冬弥はこれから『オレと』練習があるんでー」
「…彰人?!」
見せつけるように抱き寄せ、彰人はべ、と舌を出す。
ムッとしたのは言われた方だ。
「ねぇ、東雲くん。僕たちは先輩なんだけどな?」
「オレに至っては冬弥の幼馴染なのだが?」
「いや、関係ないッスね。冬弥の相棒はオレなんで」
類と司のそれに彰人はきっぱりと言った。
だが、それで諦める2人ではない。
「彰人はそれで構わんだろう。だが冬弥の気持ちがあるだろう」
「そうとも。青柳くんだってしたいことがあるはずだよ」
「少なくともセンパイ方に決められるようなことじゃあないとオレは思いますけどー?」
「…青柳くん」
何とも子どもっぽい言い争いにオロオロしていた冬弥を、誰かが呼んだ。
こっち、と手招きするのは寧々である。
「…草薙?」
「適当に放置しないと。どうせ暫くはあのままなんだから」
とてとてと抜け出した冬弥に、寧々は呆れたように息を吐いた。
すまない、と冬弥が曖昧な笑みで微笑む。
「…そうだ、これ」
はい、と手渡されるそれに冬弥は首を傾げた。
小さな袋にはクッキーが大量に入っていたからだ。
「…ありがとう。これは?」
「えむ…うちのショーキャストが、天馬さんたちから預かったんだって。調理実習で作ったらしいんだけど、星乃さんとか花里さん、小豆沢さんたちも1枚ずつ入れてるから当ててみてねって」
「そうか。後でお礼を言わなければいけないな」
嬉しそうな冬弥に、寧々は首を傾げる。
「ねぇ。…今日、誕生日か何かなの?」
「あー、違う違う」
冬弥より早く答えたのはひょこりと隣のクラスから顔を出した杏だった。
「…白石さん」
「やっほー、草薙さん、冬弥!」
「ボクもいるよ!」
「暁山。…来ていたんだな」
ひらひらと手を振る瑞希に冬弥が微笑む。
「ほら、今日は10月8日じゃない?だから語呂合わせで…」
「ああ、なるほど」
「え?」
杏の説明に寧々は納得したらしいが冬弥はまだ分かっていないようだ。
だが、杏も瑞希もにこにこして何かを差し出す。
「これ、うちの珈琲割引券!いつでもサービスするからね」
「ボクからは本屋のオフチケットだよ。絵名からも預っててさ、2枚あるから好きに使って!」
「じゃあ、わたしも。…これ、コーヒー味ののど飴。司と類がいつもお世話になってるし」
「ありがとう…??」
首を傾げながらお礼を言う冬弥の背を、楽しそうに瑞希が押した。
「お礼は良いからさ!早く弟君たち止めておいでよ!」
「…あ、ああ」
疑問符を浮かべながら、また冬弥は争いの渦中に戻っていく。
「いやぁ、愛されてるねぇ」
「本当に。あの三人見てると羨ましくはないけどね」
「あははっ。でも、まあ良いじゃん?」
感心する瑞希、少し嫌そうな寧々に杏が笑った。


だって今日は10月8日。


本人も気がついていない、彼を甘やかして良い日。



(本日、10月8日とうやの日!!)