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類冬ワンドロ・フリー
「あ、類!ちょーどいいところに!」 ぱぁっと顔を輝かせる友人に、類はおや、と笑う。 「どうしたんだい、瑞希。…その看板は?」 「ちょっと交代っ!」 「え?」 首を傾げる類に瑞希が持っていたそれを手渡した。 それには「フリーハグ」とある。 「…ずいぶん楽しそうなことをしているねえ?」 「やり出したのはボクじゃないけどね」 押し付けられちゃってさぁ、とケラケラ笑う瑞希に、某イベントの最後尾列看板じゃあるまいし、と思いつつ類はそれを返さなかった。 思ったより自分が暇だったのもある。 どんな人が寄ってくるかも見てみたかったし。 「まあ、押し付けられたからには、職務を全うしようじゃないか」 「たっすかるー!じゃあ、よろしくねー!」 微笑む類に瑞希が笑顔で駆けていく。 楽しそうで何より、と看板を持ち直す類に、「神代先輩?」と声がかかった。 「…おや、青柳くんじゃないか」 「お久しぶりです。ショーの練習中でしたか」 「いいや、今日はフリーハグだよ」 首を傾げる冬弥に、類は腕を広げる。 きょとんとする彼にフリーハグとは、を説明してやった。 「フリーハグとは街頭で見知らぬ人々とハグ をして、素晴らしい何か…例えば、愛・平和・温もりなどを生み出すために行われる活動のことさ」 「なるほど」 類の返答に、しばらく考えていた冬弥があの、と口を開く。 「どうしたんだい?」 「…先輩が、俺以外の人とハグをするのが…少し嫌なので、その看板を貸してもらえませんか?」 「…ん?」 思ってもみない言葉に、類は目をぱちくりとさせた。 「…えっと?」 「俺が代わりにフリーハグをするので、神代先輩はもうしないでいただけませんでしょうか」 可愛いことを言う冬弥に類は笑う。 無自覚の嫉妬とやらが、何とも愉快で心地よかった。 「僕も、青柳くんが他の人とハグをするなんて見たくはないのだけれどな」 「…」 類の言葉に冬弥は困った顔をする。 それを見、ならこうしよう、と類は看板を置き、フリーの文字を黒で塗りつぶした。 その下に「yours」と書き出す。 「…!」 「これで、僕のハグは君だけのものだよ、青柳くん」 にこりと笑い、類は再度腕を広げた。 おずおずと冬弥がそこに収まる。 彼の鼓動を聞きながら、類は優しく、逃げられないように抱きしめたのだった。
僕のハグは、勿論君だけに捧ぐよ。
ねぇ、青柳冬弥くん?
「…うわ、本当にあんな作戦でいいんだ…」 「思ったより神代先輩ってストレートに弱いんだねぇ…」 「ボクは冬弥くんがあんな真っ直ぐストレートなのが意外だけどなー…」 (こそこそ、仲間や幼馴染の影のサポートだったと気付くのは?)
(もちろん、とっくに気づいていたさ!)
司冬ワンライ・手作り/一緒に
「…む」 「?どうかしましたか?先輩」 本屋からの帰り道、とある場所で立ち止まってしまった司を、冬弥が不思議そうに見る。 すまない、と答えた司は、ほら、と指をさした。 「あそこで、ハンドメイドアクセサリーのワークショップをやっているだろう」 「…本当ですね。ええと、ガラスドームネックレス…?」 看板の文字を読み上げ、首を傾げる冬弥に、司は「行ってみないか?」と誘う。 「…え?」 「こんな機会でもなければ、オリジナルアクセサリーなんて作らないだろう?」 「…そう、ですね。ではぜひ」 微笑む冬弥に、司も笑顔で頷いた。 連立って受付に行けば、優しそうなスタッフが机に案内してくれる。 「まずは、好きな色が入ったガラスドームを選んでくださいね!その後で、ビーズやメタルパーツ、ラメなどを選んでいきます。あまり入れる量が多いと液を入れた時に綺麗にならないので、見本を参考に、指定の数を守って世界に一つのネックレスを作ってください!」 てきぱきと説明され、二人してガラスドームの前で固まってしまった。 作り方としては簡単そうだが、如何せん、己のセンスが問われてしまう。 と、冬弥がレモン色のガラスドームを手に取った。 「?黄色か、珍しいな」 「…司先輩をイメージしたガラスドームを作りたいと、思いまして」 「…なるほど」 冬弥のはにかんだそれに、少し考えた司は、彼の明るい髪と似たようなそれを選ぶ。 「ではオレは冬弥をイメージしたガラスドームを作るとしよう!」 「…楽しみです」 司のそれに、くす、と冬弥が笑った。 その後も、司は濃い青を中心にバランス良くビーズを選んでいく。 メタルパーツは3つ、と言われたので雪の結晶とイニシャル、小さな星を入れた。 透明のラメをほんの少しだけ入れた後液を入れ、蓋を付ける。 接着するまで時間がかかる、というから冬弥が作るのを眺めていれば彼も終わったらしく、こちらを見て軽く微笑んだ。 「存外、何かを作るのは楽しいものだなぁ」 「…そうですね。それに…」 「?それに?」 可愛らしく微笑んだ冬弥が囁く。 それに目を見開いた司は、オレもだ!と笑ったのだった。
大好きな貴方のことを考えて、作るガラスドームのネックレス。 キラキラと輝くラメやビーズは、その笑顔によく似ている気がした。
「…先輩と一緒に、先輩のことを想いながら作る事ができて、とても、幸せな時間でした」
ワンドロ・紅葉/写真
こはねが紅葉の写真を撮ってきた。 上手いもんだな、と眺める彰人を他所に凄い凄い!と杏は盛り上がっている。 「今度みんなで一緒に行こうよ!実際に見た方が綺麗だし」 「いいね!外で歌うのも楽しいし!」 こはねのそれに杏が同意し、彰人が「またお前らは勝手に…」と呆れた。 存外いつもの光景である。 …と、いつも以上に大人しい冬弥が気になった。 「…冬弥?どうかしたか?」 「…え?」 声を掛ければ写真から目を離してきょとんとする。 どうやら、集中して魅入っていたらしい。 「なんかあったのか」 「…いや、上手に撮るにはやはり練習とコツがいるんだろうな、と」 「んだよ、写真撮りてぇのか?」 冬弥のそれに今度は彰人がきょとんとすれば、杏と盛り上がっていたこはねが「私で良ければ教えようか?」と声をかけてきた。 「そうしてもらえると助かる」 「うん!まかせて!」 「冬弥が写真撮りたいなんて珍しいねー。見せたい人でもいるの?」 「…セカイは、季節が変わらないから…写真だけでも、と」 杏の問いに冬弥が微笑みながら答える。 そういえばセカイは季節も変わらないから知らないことがたくさんあるんだとレンが言っていたっけ。 「それ良いね!写真をたくさん撮って壁1面に飾れば紅葉狩りの気分も味わえるし」 「そーかぁ?」 はしゃぐ杏に、彰人は首を傾げる。 そーいうもんなの!と言う杏にこはねと冬弥がくすくすと笑った。 「じゃー予定決めなきゃね!…っと、その前にお店の準備だけしなきゃ」 「あっ、私手伝うよ!」 慌ただしく杏とこはねが去っていく。 騒がしい奴ら、と見送る彰人に、冬弥はまだ写真を見て小さく笑みを浮かべていた。 「…そんなに楽しいかよ、紅葉の写真」 「ああ」 頬杖をつく彰人に、冬弥が頷く。 まさかそうくるとは思わなくて彰人はきょとんとした。 続けてくる冬弥のそれに目を見開く。 まったく、彼ときたら。 「惹かれてしまうのかもしれない。…紅葉は、彰人の色だから、な」 「…お前はー…っ!」 「彰人?…わっ」 照れた顔を見せたくなくて思わず冬弥の頭を撫でちゃくる。 不思議そうな冬弥にそっと囁やけば、彼もほんの少しだけ紅葉色に頬を染めた。 「…。…冬弥を紅葉にやる気はねぇよ」
秋が来る。
綺麗に染まった紅葉を連れて。
紅葉も二人には負けちゃうよねぇ、なんて女子の笑い声が店に響いた。
類冬ワンドロ・おばけ/ハロウィン
さて、もうすぐハロウィンである。 ハロウィンショーをするのだが、ハロウィンにはおばけ、というのは些か安直すぎる気がして、類は悩んでいた。 何かもっと…観客が驚くような……。 「…神代先輩?」 小さな声に振り向けば、後輩であり恋人でもある青柳冬弥がこちらを見ていた。 「やあ、青柳くん。今帰りかい?」 「はい。神代先輩も帰りですか?」 「ああ。…良かったら、一緒に帰らないかい?」 にこ、と笑うと冬弥はすまなそうな顔をする。 不思議に思っていれば、彼は今日買い物に寄るから難しいのだと告げた。 「…せっかく誘ってくださったのに、すみません」 「構わないよ。…ちなみに、何を買いにいくんだい?」 「お化けの、仮装です」 「…ん?」 冬弥の答えに思わず首を傾げてしまう。 彼の口から信じられないそれが飛び出したからだ。 「…もう一度、聞いても?」 「お化けの仮装です。…白石のカフェでハロウィンイベントをやるみたいで…普段からお世話になっているので手伝おう、と」 「…なるほどねぇ」 冬弥のそれにようやっと納得した類は「なら」と提案する。 「もし君が良ければ僕がプロデュースしてあげようか」 「…!でも」 「青柳くんよりは、ハロウィンイベントに詳しいと思うのだけれどね?」 にこ、と笑うと冬弥もそうだ、と思ったのだろうか。 よろしくお願いします、と手を出してきた。 「もちろん。僕が君を素敵なおばけにしてあげよう」 その手を取り、類は笑う。 ハロウィンにおばけ、なんて単純なそれでもありかもなぁ、なんて可愛らしい冬弥を見ながらぼんやりと、思った。
おばけなんてないさ、おばけなんて嘘さ
(だって、ハロウィンに託つけて出てきたおばけなんて、それより怖い魔に食べられてしまうからね)
ミニスカートの日
「なぁ、カイさん」 「…んー、なんでェ」 新聞を読むカイコクを、ひょいとユズが覗き込む。 「カイさんは、着るならミニスカートとロングスカートどっちが良い?」 「…着るなら、まあ…ミニかねェ…スリットが入ってるなら別だが」 「じゃあタイトかフレアだったら?」 「…フレアじゃねぇかい?動きやすいし」 新聞を読みつつも割と真面目に答えてくれる彼女に、ユズは存外律儀だなぁと笑った。 まあそこがカイコクの良い所なのだろうけど。 「カイさんはミニのフレアね…了解」 「…って、ちょっと待ちねェ、路々さん。そりゃあどういう…」 ユズの言葉に疑問が出たのだろう、新聞から顔を上げるカイコクに、ユズはある包みを差し出した。 「…嵌めたな?」 「やだなぁ、戦略が上手いって言ってくれないと♡」 じっとりと睨むカイコクに、にゃは、と明るく笑う。 「いいじゃないか、ザッくんでも誘惑しに行きたまえよ」 「誘惑、ねぇ」 ユズのそれに、彼女は上を向いた。 だが、すぐに首を振る。 「…いや、諸刃の剣になりかねねぇ」 「そこを上手くやるのがカイさんだろ?」 ほら、と包みを押し付けた。 渋々、といった様子で受け取り、カイコクはそれをひっくり返す。 ひらり、と出てきたのは赤いチェックのミニスカート。 「…なぁ、流石にこりゃあ…」 「着てみなきゃわからないじゃないか!な、カリリン、ひーみん!」 にっこにことユズが言う。 え、と目を見開くカイコクを少女が2人、取り囲んでいた。 いつの間に、と言うカイコクに、カリンとヒミコが可愛らしく笑む。 「私達が可愛くしてあげますから」 「頑張りますねっ、鬼ヶ崎さん!」 無邪気な2人にカイコクが助けを求める目をした。 だが勿論それを助ける人はいない。 彼女は大人しくモルモットに成り下がるしかなかったのだった。
「あ、おーい、ザッくん!」 ユズに呼びかけられ、ザクロは少し嫌そうな顔をする。 彼女が上機嫌な時は大抵嫌な予感しかしなかった。 「…。…何か用か、路々森」 「つれないにゃあ!ザッくんは、今日は何の日か知っているかと思ってさ」 警戒するザクロにユズが軽く笑う。 彼女の急なそれにザクロは目を丸くした。 「今日…?何か特別な日だったか?」 「勿論。毎日が何かの記念日なんだぜ?」 にこにこと笑うユズに、それもそうか、なんて思いながら、ザクロは考え始める。 ハロウィンはもっと先だし…そういえば十三夜が今日だったような。 「ちなみに十三夜は今日だが、そっちじゃないぜ」 「む」 先を越され、ザクロは口を噤む。 考えたところでさっぱり分からなかった。 「分からないザッくんに、ヒントをあげようー!」 ザクロの様子にユズがにまりと笑ってドアを開く。 そこに、居たのは。 「は、え、忍霧?!」 「?!鬼ヶ崎、貴様、なんでっ、そん、ハレンチな!」 「は、はぁ?!ミニスカのどこがハレンチなんでぇ!!」 売り言葉に買い言葉、目を逸らしながら真っ赤になるザクロに、カイコクが声を荒げフレアスカートを閃かせながらズカズカとやってくる。 短いチェックのフレアスカートに、可愛らしいシャツ、という普段とは違う格好が恥ずかしいのだろう、彼女は珍しく顔を赤くしていた。 おやおや、と笑いながらユズはそっと部屋を出る。
いつも男勝りな彼女が可愛くなるなら、こんなのも良いじゃないか。 だって、今日は
(ミニスカートの日!)
「あ、カイさん!ミニスカートどう……」 「…諸刃の剣でェ!!」
司冬ワンライ・秋の夜長/占い
「ねぇ、お兄ちゃん!赤いハンカチ持ってない?」 ひょこりと顔を出した妹に一瞬きょとんとしてから、司は「あるぞ!」と答える。 「確かこの引き出しに…あった」 「さっすがお兄ちゃん!ちょっと借りても良い?」 「構わんが…何に使うんだ?」 手渡すと嬉しそうに受け取る咲希に聞いてみれば、ああ、と笑った。 「今日の星座占いで出たラッキーアイテムが赤いハンカチなんだぁ。持ってれば良いことあるかなーって!」 「なるほどな」 「あっ、お兄ちゃんも使う?!」 笑う司に、咲希がハッとしたように言う。 司も咲希も同じ五月生まれ、同じ星座だ。 ラッキーアイテムも同じだと気づいたらしい咲希が返してこようとするのを司は止める。 「オレより咲希が持っていると良い!なんと言ってもオレはスターだからな!幸運は自分で引き寄せてみせる!」 「流石はお兄ちゃん!!じゃあ、ハンカチ、借りるね!!お兄ちゃんと同じくらい、幸運を掴んじゃうんだから!」 司のそれに咲希が明るく笑った。 と、そういえば、と少し上を向く。 「とーやくんも五月生まれだけど、星座は違うよね。ちょっと不思議な感じ」 「そういえばそうだなぁ」 後輩であり幼馴染、そして恋人でもある冬弥は司たちと同じ五月生まれだが、星座は違っていた。 ちなみに、司は牡牛座、冬弥は双子座だ。 「…なあ、咲希」 「なあに、お兄ちゃん!」 朝の用意に戻っていこうとする咲希に声を掛ける。 不思議そうな顔で振り向いた咲希に司は口を開いた。 「…双子座の今日のラッキーアイテムはなんなんだ?」
その日の夜。 司は冬弥に電話をかけていた。 今日は休日、加えて司もショーがありどうやら冬弥の方もイベントだったようで、会おうにも会えなかったのである。 「もしもし?冬弥か?すまんな、夜遅くに」 『…いえ、寝る前に先輩の声が聞けるのは嬉しいです』 柔らかい彼の声が嬉しいことを言ってくれた。 自然と顔がニヤける。 『ところで、どうかしたんですか?』 「いや、用はないのだが…」 『…だが?』 見えてなくても不思議そうな冬弥のそれに司は笑った。 「…なぁに、今日の占いで双子座のラッキーアイテムが好きな人の声、だったからな」 『…そう、でしたか』 嬉しそうな冬弥の声音に司も小さく笑い、ベッドに寝転ぶ。 「秋の夜は長い。たまにはこうやって話しながら眠るのも良いものだと思ってなぁ」 『…先輩の声を聞きながらだと、とても良い夢が魅れそうです』 「そうだな、オレもだ」 くすくすと司は笑いながらスマホを持ち替えた。 他愛の無い話を、さてどれからしようか考えながら。
たまには占いの、ラッキーアイテムを提供するのも良いじゃないか。
好きな人には幸せになってほしいものだろう?
(秋の夜長に、優しい声を響かせて
それは司にとっても幸せを運ぶ、音)
ワンドロ・テスト勉強/ご褒美
「あ、弟君!次の英語、抜き打ちテストあるよ!」 通りすがりの瑞希が教えてくれた有益な情報に、ありがとうという類の言葉が出る前に、「何故」が出てきてしまったのは不可抗力ではないはずだ。 何故抜き打ちテストなのに瑞希が知っているのか。 何故彰人に教えてくれたのか。 何故今…冬弥が隣にいる今言ってしまったのか。 「暁山たちのクラスは1週早いから、知っていたのだろう。彰人に教えたのは苦手だとこの間バレてしまったからな」 いつもの定位置である隣を歩いていた冬弥が、淡々と瑞希への疑問を返す。 どうやらバレていたらしい。 「…テスト勉強、頑張ろうな」 柔らかく微笑む割に勉強はスパルタな相棒に、はい、というしかなくて。 彰人は内心ため息を吐いた。 「…頑張るからには何かご褒美とかほしいんだけどな、オレは」 思わず小さな声で言ってしまった彰人に、冬弥がふむ、と考える。 なら、と冬弥が口を開いた。 「俺の時間と自由を1日彰人に与える、というのはどうだろう」 「…は?」 思ってもみない返答に彰人はぽかんとする。 本気で言っているのだろうか。 「オレが言うこと、何でもやってくれるのかよ」 「良い点数が取れたらな」 「…エロいことでも?」 「無論だ」 頷く冬弥に、彰人は悪い顔になる。 二言はなしだぜ、と英語の教科書を取り出した。
好きな人からのご褒美1つでやる気になる。
男ってそんなもんだろ!!
「…冬弥くん、いつも弟君と一緒にいる気もするんだけどなぁ」 「…。…青柳くん、あんまり否定もしないよね」 「瑞希、草薙さん、しーっ」
きのこの日
今日はきのこの日らしい。 そんな大切な日にブスくれている可愛らしい女子とオロオロする男子がいた。 「…なぁ、鬼ヶ崎…?」 「…。なんでェ、忍霧」 腕組みをしながらじっとりと見つめる彼女にザクロは言葉を詰まらせる。 だが、ここで止まっては進まない、と勢い良く頭を下げた。 「急にすまない!!俺と松茸を探してくれないだろうか!!」 ザクロの勢いにカイコクは一瞬たじろいたがすぐに不機嫌な顔をし、息を吐いた。 「…朝早く起こされて?無理やり山に連れて来られたと思ったら松茸だぁ??」 「…う…。…すまないと思っている」 「本当に?」 「勿論だ!」 探るようなそれにザクロは頭を上げ、真剣に言う。 ザクロは嘘がつけない性格だと知っている彼女はまた息を吐いた。 「…分かった。忍霧の誠意は伝わったが、急に松茸狩りに来た理由が分からねぇんだが?」 純粋な疑問にザクロはああ、と言う。 「今日はな、きのこの日なんだ」 「…ほう?」 「それで、前に鬼ヶ崎が松茸を見つけたのを思い出してな。きのこの日に松茸を食べるのも良いかと」 「いや、あれは紛れ…まァいい。つまり、『ザクロくん』は、松茸を俺に探してほしいだけだって訳だな?」 少しブスくれる彼女に、それは違う!と勢い良く言った。 ただ、そんな理由だけでカイコクを呼ぶはずがないだろう、と。 「あの時は、勝負みたいになってしまっただろう。だから、その…ハイキングデートをしたい、と思って、な…」 言い訳じみたザクロのそれにカイコクはきょとんとする。 それからくすくすと肩を揺らした。 可愛らしく笑う彼女に、おい、と言えば機嫌が良くなったらしいカイコクがゲノムタワーの方に足を向ける。 「なら最初からそう言ってくれりゃ、それ相応の用意をして来たってェのに!」 「お、鬼ヶ崎?」 「あのなぁ、山道を歩くにゃ準備がある。…お前さんは女の子にいつもの格好で歩かせる気かい?」 「いや、その」 くす、と笑うカイコクに思わずたじろいだ。 確かにそうだが、彼女は『女の子』なんてか弱い存在だろうか。 「手伝ってくれるんだよな?忍霧??」 だが軽く微笑まれて手を差し伸べられてしまえばザクロは頷くしかなくて。
秋風に彼女のお面についた赤い紐が揺れる。
きのこの日デートはもう少し後になりそうだ。
「しっかし、お前さんのことだから、俺の松茸を食べてくれ、って言うかとおもったが」 「貴様は自分の好物をかけてセクハラしたいと思うのか?」 「…悪かったよ」
アンヤバースデー(アンカイ)
「…っぱ似てねぇよなぁ…」 「…は?…なんでェ」 目の前にいるカイコクを眺めながらアンヤはぽつりと呟く。 小さな声だが聞こえていたのだろう彼がきょとんとしてから首を傾げた。 ゆら、とカイコクのお面の紐が揺れる。 別に何でもねぇよ、と答えながらアンヤはプレゼントだと渡された、チョコミントのカップアイスケーキを口に運んだ。 今日はアンヤの誕生日である。 消灯時間前にこっそり来た彼は「時間ギリギリのが俺らしいだろう?」と笑ったのだ。 まあ確かに日付が変わった途端に来られるよりはよっぽどカイコクらしいけれど。 「気になるじゃねぇか」 「大した事じゃねーよ」 笑う彼にチョコミントアイスを一口突っ込んでやる。 甘いものがあまり得意ではないらしいカイコクは途端に眉を顰め、思わず、ふは、と笑った。 「やっぱ似てねぇな」 「…あ?」 「…。…シン兄は、んな顔しなかったし」 アイスを口に運びながらアンヤは言う。 目をぱちくりと瞬かせ、カイコクが疑問符を浮かべた。 「…オレの兄貴。オメーと同じ大学生」 何も言わなくても分かったのだろうアンヤが口数少なく答える。 それだけで分かったのだろう、彼はああ、と笑った。 「お前さんの兄貴ねぇ。想像出来ねェな」 「そーか?…まー…性格は似てねぇし…。…見た目だけは似てんだけどな」 「ふぅん?」 アンヤのそれにカイコクが楽しそうに笑う。 珍しく機嫌が良いな、なんて思いながらアンヤは兄であるシンヤを思い浮かべた。 シンヤは優しいし、しっかりしている。 困ったことがあればいつも頼りにしていた。 ケンヤが亡くなって、アンヤが睡眠障害を患ってからも距離感の変わらない、優しく自慢の兄だ。 多分、アイスを突然口に入れたって驚きはするが、優しく笑うだろう。 アンヤみたいに無鉄砲でもない、ケンヤみたいにおおらかでもない。 …カイコクみたいに、寂しい人、ではないのだ。 だからこそ。 「シン兄もオメーと同じ黒い髪だし、大学生だけど、オメーみたいに意地悪でもちゃらんぽらんでもなかった」 「…なんでぇ、いきなり」 「…けどな」 急な言葉にカイコクは軽く笑う。 怒ることはしない、目の奥の優しさが少し似ている、気はするけれど。 彼は、兄ではない。 兄では、困るのだ。 だって、アンヤは、そんなカイコクのことが。 「意地悪だろーがちゃらんぽらんだろーが、オレのそーいう『好き』なのはオメーだけだからな」 「…は、え…?」 アイスを口に含み、アンヤはぽかんとするカイコクに口付ける。 割と直球に弱ぇよな、なんて自分のことを棚に上げて、アンヤは彼を押し倒した。
兄とは違う、カイコクだから好きになったのだ。
(せっかくの誕生日、少しくらい自分に正直になるべきだろ?)
司冬ワンライ・○○欲/○○の秋
秋だ。
スポーツの秋、芸術の秋、食欲の秋…。 様々な【秋】がある中で。 司が見つけた秋は…。
「冬弥ー?すまない、遅くー…」 彼の待つ図書室にひょこりと顔を出す。 一緒に帰ろうと誘ったは良いが、委員会が遅くなってしまったのだ。 図書委員でもある冬弥は、本が好きだった。 そういえば、読書の秋は新刊が増えるんです、と非常に喜んでいたっけ。 だから、図書室から声がしなくても司は別に何とも思わなかった。 本に集中して周りの声や音が聞こえていない、なんてことは良くあるからである。 寧ろ、本の世界に引き込まれるほど集中できた、のなら少し遅くなってしまって良かったかもしれない。 …だが。 「…む」 カウンターにいた冬弥は珍しく眠っていた。 壁に頭を傾け、少しうつむき加減ですやすやと寝息を立てている。 読書家の冬弥も睡眠欲には勝てなかったようだ。 「…待たせてしまったようだな」 すまない、と小さく謝罪し、司は彼の足元に片膝を付く。 もう一度、すまない、と言ってから司は小さく微笑んだ。 開け放した窓から金木犀の香りが司の鼻孔を擽る。 遠くに聞こえるチャイムの音と、秋の夕暮れの日が冬弥の綺麗な肌を照らした。 柔らかい空気に、眠たくなるのも仕方がないな、と肩を揺らす。 彼の珍しいそれに、誰にも見せたくはないな、なんて想いながら、天使のような冬弥の寝顔に司はそっと手を伸ばした。
読書の秋に勝ってしまったのは睡眠の秋。
では、睡眠欲に勝ってしまったのは?
(それは、秋の冷たい風のような独占欲)
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